《魔導剣士》の日常譚。   作:ありぺい

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サンドレス王国

郊外からおよそ半日程歩き通し、ようやく見えてきた王都。

 

宮殿だろうか。

民家の頭を超えた向こう側に、高く聳え立つ塔が見える。

塔は先端に近づくにつれて段々太く、逆三角形の様な形をしている。

よくあれで倒れないものだ。

 

「それにしても、でっけぇ国だな」

「そりゃそうよ。なんたって二大国家の内の一つ『サンドレス王国』なんだから」

「二大国家って事はこんなにでかい国が他にもあるのか?」

「うん…『帝国』って呼ばれてる国があるんだけど、サンドレス王国と違って、悪い噂が絶えない国よ」

「ふーん」

 

俺の少し後ろを歩くエナが教えてくれる。

先程、俺は道を知らないからエナに前を歩くように言ったのだが、「もう王国見えてるんだからいいでしょ」と言って頑なに後ろを歩いている。

まぁそんな事はどうでもよくて、この口ぶりだとサンドレス王国は『帝国』という国よりは平和な様で安心した。

良かった、面倒ごとに巻き込まれるのは勘弁願いたいからな。

 

俺がホッとしながら歩いていると、早速面倒な事が起きた。

 

「痛ってぇ!なんだこれ!」

 

街のすぐ側まで近づくと、目の前は普通に道が続いてるのにも関わらず、体の前面に謎の衝撃を受けて後ろに弾き飛ばされた。

 

…そう。まるで壁に当たったみたいに。

 

訳が分からない。

衝撃を受けた場所に恐る恐る指先を伸ばすと、パチンと弾かれる。

例えるなら静電気を強くしたような感じだ。

 

「あはははっ!引っかかった!」

 

エナは俺の後ろで腹を抱えて笑っている。

この野郎。なんで俺の後ろを歩いてるのかと思ったらこういう事か。

 

「ふざけんなよお前?!というか、なんだよこれ!」

「それは人間用の結界よ。

ほら、ゴブリンに襲われた時に私が使った術式あったでしょ?あれは魔物用の術式なんだけど、今ここに張られてるのは人間と魔物両用の術式なの。

これがサンドレス王国を丸々覆ってるって訳。

にしても見事に吹き飛んだわね〜」

 

俺が問い詰めると、エナは悪びれる様子もなく笑いながら言った。

悪い子はお仕置きされる、これは世の鉄則だ。

俺は笑顔でエナと肩を組んだ。

 

「え、何?急に肩なんか組んできて。プロポーズでもするつもり?」

 

阿呆な言葉は無視し、方を掴んだまま見えない壁に歩み寄る。

 

「待って待って!ちょっと何するつもり?!そこ結界あるから危ないわよ?!」

 

そのまま、結界の境界面にエナを押し付けた。

 

「いやぁぁぁぁぁああああ!!!!」

 

柔軟の時に限界っぽいところのもう少し奥に押すような感じで背中を押してやると、エナは悶えながら手足を震わせた。

 

俺が手を離すと、その場にストンと座り込み、惚けた様な顔でこちらを見てくる。

 

「はぁ…はぁ……ロ、ロガー…?あんた本物のド阿呆なの?普通の人間ならし、死ぬわよ…?」

 

お前は普通の人間じゃないのかよ?!

ってツッコミを入れたくなるが、エナが尋常ならざる様子だったので、呼吸が整うのを待って、黙って肩を貸した。

 

「いや、その。こんなに強力な結界だとは思わなくて……ほんとごめん」

「もういいわよ。今回のは私も悪いし。でも王都って、案外コロッと死んじゃうような危険がゴロゴロしてるから本当に気をつけてよね」

 

俺が謝ると、エナは思ったよりあっさり許してくれた。

 

そういえば、さっき『帝国』はサンドレス王国とは「違って」悪い噂が絶えない……とか言ってなかったっけ。

「違って」ないのではないか…?

むしろ今のところサンドレス王国の悪い噂しか聞いてないんだけど。

なんて事を言うと怒られそうなので、黙っておく。今はタイミングが悪い。

 

「結界を迂回しながら関所まで行くわよ。誰かさんのせいで腰が抜けたからこのまま肩を貸し続けてちょうだい」

 

そうエナが言ってくる。

別に肩を貸すのはいいのだが、支えても尚足を引きずって歩いているのを見ると、恐らくまだ辛いのだろう。

エナの悪戯がトリガーとはいえ、今回の件は俺も悪いので、背に乗せておんぶの格好で進んだ。

 

「乗せてくれるの?ありがと。でもいいの?重いかもよ?」

「別に重くねぇよ、むしろ羽根みたいに軽いだろ……って痛い痛い!」

 

俺がそう言うと、エナはおんぶされた状態で太ももをゲシゲシ蹴ってきた。しかも踵でだ。

 

なんで?!軽いって言われるの嫌なの?

というか、怒ってるの?

確認するために軽く振り返ってみたが、俺の首に顔を埋めていて表情が分からない。

ただ、真っ赤な耳だけがチラリと見えた。

 

もしかしてエナは自分の体重にコンプレックスでもあるのかもしれない。

 

確かに軽すぎると戦闘能力は落ちる。

《魔導師》はそこまでフィジカルを必要としてなさそうなイメージがあったけど、戦闘となったら高いに越したことはない。

そう考えれば軽いと言われたら気分が悪くなるのも頷ける。

熊や猪に比べたらよっぽど軽いと思うけど、人間の中で比較したら充分体重はあると思うんだけどな……

一応フォローしておくか。

 

「体重の事なら気にしないでいいと思うぞ。やっぱりお前、全然重かったから」

「死ねっ!」

 

また耳を真っ赤にして太ももゲシゲシを繰り返してきたが、今度はどこか蹴り方が優しくない。

蹴ってる時点で充分優しくないのだが、なんというか、明確に怒気が伝わってくる蹴り方なのだ。

 

その後は口も聞いてもらえず、そのまま関所に辿り着いた。

大国の関所というから、もっと大きいものを想像していたが、思ったよりこじんまりした関所で驚く。

レンガ造りの一戸建てをくり抜いたような構造になっていて、中を除くとぽつりと受付があるばかりだった。

 

「もう下ろしていいわよ。私みたいな重いのが乗ってたら辛いでしょうしね!」

 

エナは頬を膨らませてそんな言葉を吐いて背中から降りていった。

足もふらついてないし、見た感じもう大丈夫そうだ。

 

「入国の方ですか?」

 

関所の窓口から、軽く髭を伸ばしたお兄さんが聞いてきた。

 

「はい、特別入国のエナ・ミラックとロガー・スラッシュです」

 

俺がなんて答えたらいいか分からずオドオドしていると、エナが手際良く手続きを進めてくれた。

 

「滞在でしょうか?」

「いえ、私は王国暮らしです。ロガーの方は住民票を王都に移すので滞在証はいりません」

「分かりました、それでは情報カードだけご提示ください」

 

窓口のお兄さんは右手をエナに、そして左手を俺に向けて出してくる。

 

……えっ、情報カードって何?

 

そんなもの持ってないし、そもそも初めて聞いた。

まぁ、なんとなく察していたが、エナがお兄さんの右手に2枚のカードを置いた。

 

あまりの手際の良さに俺が目を丸くしていると、窓口のお兄さんから意外な言葉が出てきた。

 

「スラッシュ様。良かったら私が王都を案内いたしましょうか?スラッシュ様は入国回数が0回となっている様なのでまだ慣れてない事も多いでしょうし、私なら王都を詳しく案内出来ますからーーーーーー」

「結構です、私が直接教えますので。行くわよ、ロガー」

 

お兄さんの提案を遮り、エナは俺の手を掴んで関所を抜けていった。

 

「何すんだよ、せっかくお兄さんが好意で言ってくれてるのに、なんであんな素っ気ない態度なんだよ」

 

失礼なんじゃないのか? と、エナに注意しようとするが、エナは不機嫌そうな顔で言った。

 

「好意?馬鹿な事いってんじゃないわよ。あんな露骨にすり寄ってくる奴は全員疑ってかかるべきなの。

私達が《王国魔導師》《王国剣士》になる事はこの国では結構話題になってるんだけど、私達が子供だから今のうちに取り入っておこうって考える奴がこの国には山ほどいるわ」

「ひとついいか?《王国剣士》ってさ、そんなに偉い立場なのか?俺はてっきり強者の称号だと思ってたんだけど」

「強者の称号……それはそんなに間違ってはないわよ。聖剣を扱えれば強さで右に出る者はそうそういないはずだから。

問題はそこじゃなくて、持ってる権力の方よ。国王に次ぐ立場になんだから、はっきり言えば貴族より偉いし、私はそんな事するつもりはないけど町民が無礼を働いたらその場で見せしめで殺しても罪に問われないのよ」

 

なんて物騒な話だ。

つまり俺達は、特に俺なんかは騙し易そうなカモが知識無しで歩いてるようなものじゃないか。

エナがそばに居てくれるうちはいいが、俺一人ならあっさり騙される自信がある。

 

それに、俺を傀儡にした者は確固たる地位を手に入れる事が出来るというわけだ。

魔法とやらがどれ位便利なものかは知らないが、人を操る魔法なんかもあるかもしれない。

 

警戒しなければならないことは決して少なくない。

 

「どうしたの?そんな険しい顔して。

みんながみんなそういう下衆って訳じゃないからそんなに気負う必要は無いわよ?」

「あ、あぁ…」

 

そうはいっても不安なものは不安なのだ。

 

「ほら、そんな顔しないの。

はいこれ、あんたの情報カード。魔力で個人情報を書き込んであるカードだから、なくしたりするんじゃないわよ?」

 

渡されたカードを見ると、筆記体で『ロガー・スラッシュ』とだけ書かれていて、他には何も書かれていない。

魔法ってこんな事も出来るのか。

俺の住んでた村では、記録なんてものは岩を削って文字を掘ったりするのが普通なので、こういうのは見たことがない。

 

「すごいなぁ」

「情報カード位でいちいち驚いてたらきりないわよ?今から王都に入るんだから、そんな田舎者丸出しで歩いてたらこっちまで恥ずかしいんだけど」

 

怒られてしまった。

どうやらこれは王国住まいの人達からすれば常識の範疇らしい。

 

「もうそろそろ宮殿ね」

「宮殿かぁ、王様ってどんな人なんだ?」

「凄い人よ。小さな小国だったサンドレス国をたったの五代で『王国』と言われるまでに成長させたカリスマで、今は少し前まで皇太子だったルーマント・ルールが継いだはずよ。年齢は私達と大差ないわ」

「ルーマント・ルールか…

その人に今から俺達は会いに行くんだよな」

「そうよ。お願いだから失言とか零すのはやめてよね、斬首の刑に処されたくなかったら」

「流石にそれ位分かってるよ」

 

王都の中心に向かって歩いているので当然だが、すれ違う人が増えていく。

凄まじい活気だ。

狂気じみていると言ってもいい。

逆三角の巨大な塔もだんだん近づい来る。

俺が塔の方に向かってる道を進もうとすると、エナに腕を掴んで止められる。

 

「一体どこに行こうとしているの?」

「えっ、あの塔が宮殿じゃないのか?」

「違うわよ。あれは王国図書館で、宮殿はこっち」

「図書館とは思えない存在感だな」

「ふふっ、図書館はすごいわよ。今度連れてって上げるから楽しみにしときなさい」

 

あの大きな塔は図書館だったのか。

堂々と間違えたので少し恥ずかしい。

 

図書館に行くという楽しみが一つ増えたが、その前に宮殿に辿り着いた。

宮殿は思ったより質素だったが、白を基調とした威厳のある外装につい目を奪われる。

 

馬車でエナに聞いた話だが、宮殿は王の住処になっている場所と、貴族による議会などが行われる場所に分かれているという。

故に、その規模はなかなかのものだった。

 

俺とエナが宮殿に近づくと、中から知らない女性が駆け寄ってきた。

誰だろうと思って見ていると、その人は勢いよくすっ転んだ。しかも、何もないところでだ。

 

「だ、大丈夫ですか?!」

 

逆に俺達が駆け寄って声をかけると、その女性はヒョイとはね起き、服に付いた砂を払った。

 

「エナ様にロガー様ですね?長旅お疲れ様でした!」

 

女性は何事もなかったかのように笑顔で答える。

あんなに思い切り転んだというのに、実にしたたかなものだ。

 

「私は国王の護衛兼、補佐をしておりますセーラ・ディアと申します。今後もお会いすることになると思うので、以後お見知り置きを。では、国王が中で待っております。どうぞこちらへ」

 

セーラと名乗った女性は一方的に名乗った後、俺とエナの背中を押しながら「さぁさぁ中へどうぞ」と言ってくる。

 

俺達はそのまま宮殿の中に押し込まれた。




はいっ!王都回ですっ!

本格的に王都を探索するのは別でやるので、今回はこの辺でご勘弁を。今は王に会いにいくのが先なので。


ところで、今朝PVを見ようとハーメルンを開いたら、しおりとお気に入りが付いていました。
マジでありがとマジ泣きそう(語彙力の喪失)

ここまで読んでくれた方も本当にありがとうございます!
こんな稚拙な文章に5話も付き合って下さるとは……
期待を裏切らないようこれからも頑張ります!


次の更新は明日になります。
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