「と、言うわけだよ分かったかな?」
「はいまぁ」
「よしならおけだ」
今は改めて立香くんにこの場所の全てを一から説明し、何故ここに運ばれて来たのかを説明した。
よこで泣きそうな顔で見つめてくるロマンに見せつけるにケーキを食べながら。
「あの」
「ロマンなら大丈夫だよ、基本的にこんな扱いだからね」
「あ゛ぁ゛ぅぅぅぅ゛ぅぅ」
バーサーカークラスの適性があるんじゃないかと少し思ってしまう。
ちょっとやり過ぎたかな。機嫌取りも兼ねてこれでも渡しておかなくちゃ。
懐に手を入れ無数にある物の中から四角い箱を掴み取り出す。赤い正方形の箱の正面には白い文字で『サルでもできるケーキの元』と書かれている。
「はいロマン、これあげる」
「いい...のかい?」
「うんまぁね日頃の感謝的な」
「いよっしゃぁぁぁ!!!」
うん。聞いてないねこの甘党。ここまで殴りたいと思った笑顔は初めてかもしれない。
赤い箱を天井に掲げながら喜んでいるロマンをよそに、立香くんの方へ視線を移す。
「そう言えばなんでここにいるの?今の時間確か研修でしょ?」
「その、実は居眠りしてたら追い出されちゃっいまして」
「あーオルガ所長ならやりかねないわ」
ある意味納得する。オルガ所長はここのトップではあるのだが、いささかプライドが高すぎてしっかりと指揮することが出来ていない。
そのため、裏では『親の七光り』とまで言われている。
けど、俺的にはオルガ所長よりレフの方が嫌いなんだよな。なんか、勘だけど気に入らない。
かなりフワッフワッしているが、これでも過去ではこの感で生きてきたので何かあるだろうと踏んでいる。
ピピピピピ。
近くにあるデジタル時計からアラーム音がなる。
「ロマンそろそろ時間ぽいよ、いかなくていいの?」
「げっ、忘れてた。はぁ......行ってくるよ」
明らかに落ち込んでいる。どんだけ仕事したくないんだよ。
肩をすぼませトボトボ歩きながらドアを開けた瞬間だった、揺れるはずのないカルデアが巨大な爆発音と共に揺れたのは。
「うわっ!」
「姿勢を低くして立香くん!」
ロマンはこのような非常事態にも驚きつつも冷静に思考し、その場でうずくまってできる限りの安全体制をとっている。
しかし、彼は違う。突然色々なことが重なっていたので頭がしっかり回っていない。
姿勢をいち早く低くした俺は立香の右足を強引に引き、体制が崩れ床に倒れたと同時にその上に重なる。
自身の体を身体強化で強度を上げ、落下物から完全に守る。
「うぷっ」
「大丈夫だ安心して」
「がっ」
「どうしてそんなじたばた...あっごめん」
咄嗟だったので気づいていなかったが、胸に顔を沈めて窒息死しそうになっていた。
胸を揉みしだく事はあっても沈めたのは初めてだったようで、耳まで真っ赤にしながら顔を両手で覆っている。
まさかこの子童貞か?最近の子供はませてるってよく聞くから、彼ぐらい顔がいいともう卒業してると思ってたけど......この反応後で確かめよう。
と、変な事を考えている内に揺れは収まり、すぐさま非常事態を告げる館内放送が流れる。
「ロマン発生源はまさか」
「ハリーくんの思ってる通り。十中八九中央管制室だろうね」
立香くんは何を言ってるのか分からず首を傾げているが、かなりまずい事態になった。
今中央管制室では、過去へ飛ぶレイシフトの実験が行われていて、全マスターがコフィンの中に入っている。
そんな所で爆発が起こったのであればマスターの何人かが瀕死の可能性がある。
だけど、本来爆発なんて起こらないはずだったのだが...未だ可能性ではあるが故意の可能性が浮上する。
「急いで向かおう」
「それしかないね立香くん行けるかい?」
「はい大丈夫です。それに、そこにはマシュも」
「いるさ彼女はAチーム所属だからね」
彼の握る拳の力がさらに強くなる。
さて、このまま行ってもいいが非常時の事を考えアレを持っていこう。
二人は先に駆け出し向かうさなか、ハリーだけはその場に留まり引き出しからとある物を取り出して腰に付ける。
久々に付けるので少し戸惑いながらも急いでつけ、すぐさま中央管制室へと駆ける。
二人より少し遅れ完全に姿を見失ってしまい、遅れて中央管制室と到着する。その直後目を疑う光景が広がっていた。
辺り一面焼け野原で、肉の焦げる独特の匂いや血の生臭、床に転がる肉片とまさに地獄と呼べる状況だった。
酷すぎる。こんな事普通じゃありえない。となれば、やっぱり故意の事故だな。誰がやったんだ?
入口で立ち止まり長考しそうになったところで、慌てて首を横に振って意識を戻す。今すべきはそんなことでは無いと。
「立香くん!どこだぁ!!」
燃えさかる部屋中をハリーの叫び声がこだまする。遅れて数秒返事が返ってくる。
「こっちです!助けてください!」
「今行く待ってて!」
声のした方を向くと瓦礫が自分の身長を遥かに超える高さで積み上がり、立香の具体的な位置は分からない。
だったら、身体強化!
足に魔力が行き渡るのが伝わる。魔術回路が活性化し足に青い紋様が浮かび上がると、その場で軽くしゃがみ縮めた筋肉を一気に引き伸ばす。
数十メートルはあろう瓦礫をたったの一度の跳躍だけで飛び越える。空中で体制が崩れ着地が失敗しそうになるが、体を捻って立て直し両手と両膝をつけて着地する。
「茜沢さん、マシュが」
「これはまずいな...下がってくれ立香くん!」
「はい」
立香を見つけたのは良かったのだが、そこには巨大な瓦礫に下半身を挟まれているマシュがいた。
今回は先程のように力任せで瓦礫をどうにかする訳にもいかないので、数少ない魔術回路を全て起動させ全身を強化する。
「うがぁぁぁぁぁ!!」
推定数トンはある瓦礫を上に持ち上げ、マシュと引きはがす。
「立香くん、ひっぱりだせぇぇ!!」
「は、はい!」
「すみません先輩」
瓦礫と離れた事で簡単に救出ができ、ゆっくりと瓦礫を戻して魔術回路を閉じる。
ふぅ...なんとかなったな、やれやれだぜ。しっかしどうしたもんかな......
ひとまずマシュを救出した事で安心しきっている二人に視線を向ける。
「二人とも聞いてくれ。今カルデアは殆ど壊滅的だ、もしこの先何かあった際は自己の判断で生き残れ。生き残れさえいればここの医療施設で治せるからね」
「何かってまだ何かあるんですか?」
「そうだね、アレを見てみて」
二人は小首を傾げながら見た方には、本来青く世界を映し出しているはずの近未来観測レンズ『シバ』が赤く染まって閉まっていた。
それが意味をするのは
「世界が消滅したってところだね」
「そんな!」
「う...そ...だろ...」
「これは現実だ。そして、ここでは過去に飛ぶ実験をしていた、そうなると多分強制的に飛ばさ」
最後まで言葉を綴らせること無く三人の姿はその場から消える。
これが、人類最初の人理修復であり、長きに渡る旅の始まりでもあった。