アゼットは見覚えのない部屋で目を覚ます。半分、目を覚ますと言ったほうが正確かもしれない。身を包むふかふかの心地よさに蕩ける思いの彼女は、今にも寝てしまいそうである。起きるべきか、もう一度寝てしまおうか、贅沢な悩みに心身を悶えさせる。
ふと、聞き覚えのある笑い声が聞こえてくる。目を開けて横を見ると、ベッドに腰掛けたシックスがこちらを見つめながらニヤけ笑いを浮かべていた。恥ずかしさから目を逸らすアゼットに対して、無慈悲にも上機嫌で話しかける。
「おはようアゼット。よく眠れたか? ……寝足りないなら、まだ寝ててもいいぞ」
「……いいわよっ」
勢いよく掛け布団をめくり上げ、ベッドから降りる。しかしそこで気付いてしまう、自分が下着をつけただけの状態であることに。パニックを起こして悲鳴を上げるアゼット。彼女は驚くべき速さで掛け布団を掴み、身体を包み隠した。
シックスが余計に大きな声で笑いながら言う。
「全く可愛い奴だな。昨日の疲れ切った姿も色っぽくて素敵だったが、今日の元気な姿も少女のようで可愛らしいぞ」
自分よりもずっと年下に見える幼女に子ども扱いされて少しムッとする。しかしすぐに別のことが気にかかってくる。
昨日のこと。昨日の自分は何をしていただろうかと思い返してみる。順を追って逃避行や少女を救出したことなどが掘り起こされる。そこまでは受け入れられる。問題はそのあと、キスされたことやだらしなく寝顔を晒したこと、それとキスされたことが思い返され、彼女は恥ずかしさとやるせなさから、ため息を吐くしかなかった。
背中を小さくしてうずくまるアゼットに笑いを抑えて話しかける。
「とりあえずカクテルちゃんの服を着るしかないな。それから朝食をとって、お前の下着と服と、適当に欲しいものを買いに行こう……下で待っているぞ」
ペタペタと軽い足音が遠ざかっていく。見知らぬ部屋で1人きりになる。
1人でしゃがみこんでいると様々な不安が噴出してくる。言葉にできる不安も、できない不安も。1つだけ確かなことは、あの幼女と一緒にいれば天使に殺される心配はないということだ。
最大級の不安が解消されていることに気付いたアゼットは少し気楽になる。面倒なことになると予感しながらも、少しは楽しみにするだけの余裕も生まれる。
思い切って立ち上がり、用意された服を見てみる。セーターにスカート、どちらも少し丈が足りないが、贅沢は言っていられない。さっさと袖を通して下に降りることにした。