小さな手が差し伸べられる。エリエルは引き攣った表情でシックスの目を見る。彼女は穏やかな微笑みで見返してきた。
少女は自分の手に視線を移す。僅かに震える手は、差し伸ばされた手よりもよほど小さく見える。
それでも彼女は手を伸ばした。
シックスは当然のように恋人繋ぎをして相方を引き寄せる。
「それじゃあ、ちょっと外に出てくる。アップル劇場第二弾を用意しておいてくれよ」
「え、そんな大層なものだったのアレ」
「もっとカスみたいなもんでしたよね」
「そーれーは、ちょっと言い過ぎじゃなーい?」
漫才を繰り広げる2人の様子は、良くも悪くもいつもと変わらない。シックスも同様だ。愉快そうな微笑みを浮かべて外に出る。
外に出てもとぼとぼと歩いていたらしい。アゼットはそう遠くない場所にいた。項垂れた背中には哀愁が漂っている。シックスはそれを趣深く鑑賞しているが、エリエルの興味は別の方向に注がれていた。
バーから一歩踏み出して街に出ると、人通りの少ない路地から賑わうメインストリートが見えた。そこには多様な人種が歩いているという次元ではない、角が生えていたり、尻尾が生えていたり、羽根が生えていたり、明らかに人間ではないものまでが堂々と歩いていた。
エリエルには自分の内で揺れた、チリチリと燻るものが何か分からなった。分からなかったが、爛々と輝く瞳でしっかりとこの光景を目に焼き付けようとしていた。
シックスはそれを穏やかな目で見つめながら言う。
「天使に殺される人間というのは、みなマイノリティだ。男性に対する女性、健常者に対する身障者、若者に対する高齢者、大人に対する子ども、白人に対する有色人種……マイノリティと括られようが、実態は多様なものだな。それが1つに纏まるために異常を旗に掲げるのは面白い。異常というのはつまり何かを正常とみなす規範から逃れていないということだ。……ここを、理想郷か何かと勘違いしてくれるなよ」
エリエルはゆっくりと頷く。冷やかすような言葉を受けて尚、その目には希望の色が濃い。微笑みをより深めてシックスは語り掛ける。
「……それでも、向こうの奴らが一定の規範から外れないことを強く要請する分だけ、こちらは逸脱に対して寛容だ。それほど異常である必要はないということだな。公園に行ってみよう。素晴らしく自由だぞ、あそこは」
幼女が少女の手を引っ張ってずんずん進んでいく。傍から見たらお転婆な妹に手を焼かされる姉に見えることだろう。実際にはエリエルが未知の世界を旅するアリス、シックスがからかうように導き、導くようにからかうチェシャ猫だろう。
道行く人それぞれに視線をめまぐるしく移すエリエルは興奮から抜け出せずにいたが、ふとあることを思い出し、困り顔で尋ねる。
「あの、アゼットさんのことはいいんでしょうか?」
「ああ、それは気にしなくていい」
「なんでです?」
シックスは意地の悪い笑みを浮かべて言う。
「お前のほうが重症だと分かったからだ」
目をぱちくりさせるエリエル。シックスは益々唇を歪めて彼女を人通りから連れ去っていった。