変な時期にスランプに陥ってしまい、続きを書くことが出来ませんでした……
まだ本調子ではありませんが、頑張って書いていきますので、お読みくださると嬉しいです。
あと『オリ主』タグを今まで付けていたのですが、紛らわしいのでタグから外しました。
「そう……にこっちは話したんやね」
アイドル研究部の活動が終了した後、僕は生徒会室へ訪れた。
既に放課後になっていたので、誰もいないだろうと思っていた。
しかし、そこには東條副会長が窓越しに外を眺めながらその場に立っていた。
ちなみに絢瀬会長の姿は見当たらない。
おそらく先に帰宅したのだろう。
そして生徒会室に戻った途端、彼女は僕に師匠のことについて聞いてきた。
副会長に事の経緯を説明してしばらく経った後、彼女はある問いかけをしてきた。
「ライ君はにこっちのこと、このままで良いと思ってるん?」
「え?」
副会長は少し微笑みつつ問いかける。
「ライ君はどうしたいん?」
「それは……」
副会長は先ほどと同じように微笑み、そして真剣な眼差しで僕を見た。
現在の僕が優先すべきこと……
それは自分の記憶を取り戻すことだ。
それを優先するなら、これ以上この問題に深入りしないほうがいいかもしれない。
だが師匠は僕に、スクールアイドルについて色々と教えてくれた。
彼女の元で記憶とは全く関係のない知識に触れているうちは、不思議と記憶のことは気にならなくなっていた。
今まで記憶のことで悩み、精神的に疲れていた僕に、彼女のお陰でひととき休む機会を得た。
もっとも、このことは彼女に話していないので、彼女の知る余地は無いだろうけど……
とにかく、僕はそのことで師匠に感謝している。
そんな師匠もまた、自身の過去に悩んでいる。
部員が立て続けに抜けていった頃から、そんな苦しみをたった1人で、ずっと抱えてきたのだろう。
僕を記憶の悩みから一時的に救ってくれた彼女に、自身の過去のことで苦しんでほしくは無い。
彼女に対し、僕に何か出来ることがあるのなら……
その時、制服の内ポケットから携帯の着信音が鳴り響いた。
副会長に断りを入れつつ電話を取る。
「ライ、少し相談したいことがあるのですが……」
着信の相手は海未だった。
「相談?」
「はい。にこ先輩のことで少し……」
「分かった、後で向かうよ。場所は?」
「私は校内にいますけど、ライは?」
「こちらも校内にいる」
「分かりました。それでは校門で待ち合わせしませんか?」
「そうしよう。それじゃあ、また」
偶然とはいえ、丁度良い機会だ。
彼女たちにも、師匠のことについて相談してみよう。
「決まったようやね?」
通話が終了した後、副会長がそう尋ねた。
「はい。僕は記憶のことで、一時的に師匠に救われました。だから、今度は僕が師匠を助けたい」
僕がそう言うと、副会長は上着のポケットから鍵を取り出し、それを僕に差し出した。
「ライ君……にこっちをお願い」
「分かりました」
このタイミングで渡されたこの鍵はおそらく、アイドル研究部の鍵だろう。
なぜ副会長が持っているのかと一瞬思ったが、今はそのことを気にすることよりも他に優先すべき事がある。
その後、僕は師匠のことを相談するため、途中で合流した海未と共に穂乃果の自宅へと向かった。
◇
穂乃果の自宅へ到着した後、僕は師匠のことを穂乃果たちに相談した。
3人とも既に、師匠の過去のことは知っているようだ。
どうやら副会長から事前に聞いていたらしい。
「やはり、にこ先輩を説得するのは難しいのではないですか?」
「私もそう思う」
「先輩の理想は高いですから……私たちのパフォーマンスに納得してくれそうにもありません。説得に耳を貸してる感じも無いですし」
海未、ことりの2人が難色を示す。
「うーん、そうかなぁ?」
しかし、穂乃果の考えは違ったようだ。
「にこ先輩って、私たちにもちょっとは興味あるんだよね?」
穂乃果の疑問を聞き、先ほどの部室の一件を思い出した。
師匠が本当にμ'sに興味すら無ければ、部室に入れたり、自身のキャラクターを見せることは決してしなかっただろう。
「ほんのちょっと何かあれば、上手くいきそうな気がするけど」
「具体性が乏しいですね」
「それはそうだけど……あっ!」
困惑の表情をしていた穂乃果であったが、それが突然何かを思いついたように顔色を変え声を上げた。
「穂乃果、何か思いついたのかい?」
「うん! これってね、海未ちゃんの時と一緒なんだよ!」
「私……ですか?」
海未は心当たりが無い様子だが……
「そう言えば、ライ君には話して無かったよね?」
僕は穂乃果の問いに頷いた。
おそらく海未の過去に何らかのヒントを得たんだろうけど、それが何のことかは分からない。
彼女もまた、過去に何かあったのだろうか?
「えっと昔、海未ちゃんが……」
そして穂乃果が海未の昔について話し始める。
◇
小さい頃の海未は今以上の恥ずかしがり屋だったらしく、当時は穂乃果とことり……それから数名の友達と遊んでいたのを側から眺めていたそうだ。
1人でいる海未を穂乃果が遊びに誘い、それから3人は友達になり、一緒に遊ぶことになった……ということだった。
「そんなことありましたっけ?」
しかし、当の本人は覚えていないようだけど。
つまり穂乃果が思いついたこととは、海未を遊びに誘った時と同じように、師匠をμ'sのメンバーとして勧誘しようという考えなのだろう。
「にこ先輩って昔、スクールアイドルやってたんでしょ? だったら、もう一度しようって誘うべきだよ!」
「だけど穂乃果ちゃん、にこ先輩にはどうやって話をするつもりなの?」
「今日のあの様子を見る限りでは、部室にすら入れてくれそうにもありませんし……」
そこまで意見が出たところで、僕は一度考えをまとめる。
僕にアイドルのことを教えてくれた時の師匠の表情は輝いて見えた。
おそらくあれが、当時アイドルを続けていた師匠の本来の姿なのだろう。
彼女がμ'sに加われば、もう一度彼女の輝きを取り戻すことが出来るかもしれない。
穂乃果たちに協力し、師匠をもう一度アイドルとしての再スタートさせることが、僕に出来る恩返しになるかもしれない。
ならば、ここは……
「いや、それなら大丈夫だ」
「ライ君、何か考えがあるの?」
ことりの問いに答える代わりに先程、副会長から受け取った鍵をポケットから取り出し、それを穂乃果たちへ差し出した。
「鍵……ですか?」
「アイドル研究部の鍵だ」
「どうして、ライが持っているのです?」
「副会長が貸してくれた……この鍵を持って明日、μ'sのメンバー全員で部室に来てほしい。そして……」
そこまで言いうと僕は一度、言葉を切った。
「矢澤先輩の……師匠の理想に応えてあげてほしい」
「うん……任せて、ライ君!」
穂乃果の頼もしい返事を聞き、後は彼女たちに託すことにした。
しかしこれはある意味、師匠に対する裏切りだ。
おそらく今後、僕は彼女に嫌われる事になるだろう。
それでも、彼女が過去に囚われず前へ進む事が出来るなら、僕はそれでも構わない。
◇
翌日、僕はアイドル研究部の部室まで足を運んだ。
穂乃果たちに託したとはいえ、少しだけ不安もあったからだ。
部室前まで近づくと、中から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「アイドルっていうのは笑顔を見せる仕事じゃ無い……笑顔にさせる仕事なの! それをよーく自覚しなさい!」
声の正体はやはり、師匠だった。
扉越しに聞こえるほどの大声だった。
その彼女の声には先日のような拒絶の態度は感じられない。
暫くして、穂乃果たちの声も聞こえてきた。
この様子なら、もう大丈夫だろう。
不安が杞憂に終わったことに安心し、僕は気付かれないようにそっと踵を返した……
◇
その後、僕は生徒会補佐としての業務が残っていたので、生徒会室へ向かった。
そこに入ると先日とは違い、副会長の他に絢瀬会長もいた。
「お疲れ様です。会長、副会長」
「皇くん。お疲れ様」
「お疲れー♪ どうやら上手くいったみたいやね?」
「はい。おかげさまで」
もっとも今回の件で僕がしたことといえば、穂乃果たちに部室の鍵を渡したぐらいだが。
「何の話?」
会長がそう尋ねるが……
「ヒ・ミ・ツ♪」
茶化すような態度で副会長は答えた。
「何よそれ……まあ良いわ。それよりも皇くん、早速で悪いけれどこっちの資料作成、頼んでも良いかしら?」
「はい。大丈夫ですよ」
会長は少し不機嫌になっていたが、僕たちがμ'sに手を貸したことを知れば、今以上に機嫌が悪くなることだろう。
会長には申し訳ないが、この話題はここまでにしておこう。
僕は取り敢えず、頼まれた資料を順番に処理し始めた……
◇
そして翌日、僕は師匠に呼び出された。
今日の彼女は少しばかり機嫌が悪いようだ。
「ライ……呼ばれた理由は分かっているわよね?」
「はい」
おそらく穂乃果たちが部室にいた件だろう。
「穂乃果たちに鍵を渡したのは、あんたね?」
「はい」
「……」
僕がそう答えると、彼女の機嫌が益々悪くなっていく。
彼女からしてみれば、信頼していた弟子にいきなり裏切られた様なものだから、怒るのも無理はないだろう。
「大変だったんだからね! いつも通りに部室に来てみれば、そこにはあの子たちがいるし、部室を片付けたり、私のことを部長とか言って、いきなりもてはやすし……」
「すみません。出過ぎた真似をしました」
「まったくよ……良い? 一度しか言わないから、よく聞きなさい!」
「はい」
理由はどうあれ、勝手なことをして師匠を困らせたことは事実だ。
嫌われてしまっても仕方ない。
ここは素直に怒られておこう。
そう思っていたのだが、次の瞬間、聞こえてきた言葉は……
「あ、ありがとねっ……」
「え?」
不機嫌な表情の彼女から出てきたのは、感謝の言葉だった。
「アンタのお陰で、私はもう一度スクールアイドルを目指すことが出来たわ……だから、そのお礼」
なるほど。しかし、そう言われても僕は大したことはしていない。
僕はただ、穂乃果たちに部室の鍵を渡しただけだ。
その鍵も元を辿れば、副会長から借りたものだし……
「私、ずっと1人で部活やってたから。そんな中、あんたにアイドルについて話してた時は、その……た、楽しかったのよ」
彼女は一度言葉を切り、そして続けた。
「私をμ'sに誘ってくれた穂乃果たちにも感謝してるけど……あ、あんたにも感謝してるってこと!」
「師匠……」
やや照れた表情で話す師匠の様子、そしてその言葉は、少なくとも僕を嫌っているという訳では無さそうだ。
◇
「これから、私はアイドル研究部の部長、そしてμ'sとしてもっと忙しくなるわ。だから、今までみたいにあんたにスクールアイドルについて教えることも、難しくなるわね」
「そうなりますね」
これで彼女はスクールアイドルへの道をもう一度歩み始める。
師弟関係が解消されたことに、僅かな寂しさを覚えるが、ここは彼女の門出を祝おう。
「まあ、あんたは覚えが良かったし、私がこれ以上教えることも特に無いんだけどね」
師匠……先輩はそう言うが、それは些か買い被りすぎな気がした。
「それに、あんたにはこれから私のファンになってもらうんだから、いつまでも弟子のままでは困るのよね」
「えっ……?」
ファンという意味は複数あるがこの場合、特定の人物に対する支持者のこと指すのだろう。
つまりは僕が先輩の支持者、ファンになるということだが……
一体、いつからそんな話になっていたんだ?
「この私、矢澤にこのスクールアイドル復帰に貢献したあんたには……特別にこの私、矢澤にこのファン第一号にしてあげるって言ってるの。喜びなさい!」
何というか、僕は最後まで先輩に振り回されっぱなしだな……
「言っておくけど、拒否権なんて無いわよ! 分かった?」
だけど、不思議と気分は悪くない。
だから……
「イエス・マイロード」
僕は了解の意を込めて、そう返答した。
こうして……
ひょんなことから始まった、矢澤にこ先輩と僕の師弟関係は、先輩がμ'sに加わることで終わりを迎えた。
こうして、μ'sは7人となった……
◆
ライとの話が終わり帰宅した後、疲れていた私は直ぐにベットへ横になり、そのまま眠りについた。
そしてその夜、私は妙な夢を見た。
その夢には、ライにそっくりな男子が映っていた。
そのライの服は学校の制服ではなく、黒を基調とした見慣れない服だった。
「すまない、ちょっといいかな?」
彼はドア越しに誰かに声をかけた。
「どうしたライ?」
ドアが開いて現れたのは、妙な仮面をつけた謎の人物だった。
声は機械を通しているみたいで、男か女かハッキリとは分からないけど、どちらかと言うと男寄りの声をしていた。
そしてその男はハッキリと『ライ』という名前を口にした。
ということは、このライに似ている男子は本人?
「実は、伝えることがあってきた。僕は……騎士団を脱退する」
「……なに!?」
仮面の男は表情こそは見えなかったけど、声は動揺していた。
っていうか、騎士団って何よ? どっかの劇団の名前?
「理由は何だ? 答えによっては……」
それからライは、話し始める。
自分が記憶を思い出したこと……その内容までは詳しくは話さなかったけど。
「なるほど、理由は分かった……しかし、だからといって突然消えられても困る。お前は私たちにとって掛け替えのない人間だ」
「ありがとう。でも、ダメなんだ。僕は此処にはいられない」
その言葉を聞いてもなお、ライの意思は変わらない。
「記憶が戻ったことは分かった。では、ここを去らねばならない理由を聞かせてくれないか? お前が無責任に役割を放棄するとは、私には思えない」
「思い出してしまっただけだ。……僕は、長く生きられないことを」
「長く……生きられない? 」
その言葉を聞いた瞬間、仮面の男は言葉を失っていた。
そしてライも何も言えず、2人の間にしばらく沈黙が流れた。
その沈黙はいつまでも続くと思ったけど、やがて仮面の男が先に話し始める。
「……そう結論を急ぐな。ただお前が去るという以外に、何か方法は必ずある筈だ」
その男の言葉は仮面越しで分かりにくいけど、その言葉は心からライを気遣っているものだと感じた。
「ここには優秀な技術者もいる。彼女の医療技術なら、お前を救えるかもしれない」
「ああ、そうだな。考えておこう」
ライはそれだけ言ってその部屋を出た。
(ありがとう。さよならだ)
ライは閉じた扉に向かって、心の中でそんな言葉を投げていた。
ライが記憶喪失だということは、希から聞いていた。
あいつにどこか暗い影を感じたのは、記憶が無いからだと思っていた。
だけど、記憶を取り戻したこのライの姿を見ても、どこか寂しそうで、そして悲しそうな姿をしていた。
少なくとも、私にはそう見えた。
ただの夢だと分かってはいるけど、私にはこのライが全くの別人だとは思えなかった。
ライ、あんた一体何者なの?
次の朝、目が覚めたときには、私はこの夢の内容を綺麗さっぱり忘れていた……
そういえば最近、DMM GAMESの新作ソーシャルゲーム『コードギアス反逆のルルーシュ Lost Stories』の制作が発表されましたね。
ソシャゲとのことですが、タイトルに『LOST』が付くってことは……もしかして、期待しちゃっても良いのでしょうか?