と言っても、台詞文を詰めたぐらいですが……
「部活動紹介……ですか?」
「ええ、そうよ。希が担当するのだけど、もし良ければ皇くんもどうかしら?」
早朝……
学院に登校すると絢瀬会長から依頼を受けた。
内容は部活動紹介のビデオ作成をする為、各部へ取材をすること。
おそらく、それを学院のHPに掲載して、入学希望者を増やす狙いがあるのだろう。
音ノ木坂は現在、廃校の危機に瀕している。
僕としても、居心地の良いこの学院が無くなってしまうのは本意ではない。
生徒会補佐という立場もあるのだし、ここは引き受けるべきだろう。
「分かりました、やってみます」
「ありがとう。担当は希だから、詳しくは彼女に聞いてちょうだい」
「了解です」
そして東條副会長を見つけて詳細を確認した。
日時は翌日から数日間……撮影は僕が担当し、副会長はナレーションをする予定だ。
撮影の特徴としては、部員のありのままの姿を撮影したいそうだ。
そして翌日……
「今日はよろしくね。ライ君」
「よろしくお願いします。副会長」
「うーん、硬い! 硬いなぁ……これから取材にいくんやから、もっと明るくいかないと……ほら、笑って笑って」
そう言って僕に笑いかける副会長を真似して、僕は笑顔らしき表情を作ってみた。
笑顔……こんな感じか?
「ご、ごめん……マイペースでいこっか? 特に笑顔は要練習やね」
「……努力、してみます」
どうやら彼女が望んだ表情は出せなかったようだ。
「取り敢えず馴染まないとやね。それじゃ、そろそろ行こっか?」
「分かりました」
僕はその後、副会長と共に撮影の仕事を行った。
彼女の言う通り、今は少しずつ馴染んでいこう。
◇
いくつかの部活の撮影が終了した後、最後はμ'sの番になった。
彼女たちの中には恥ずかしさから撮影を戸惑う者もいたが、μ'sの宣伝と新曲のPV撮影に使用するカメラを貸し出すこと……これらを条件に撮影に協力してもらえることになった。
そして数時間後……
μ'sの部室で穂乃果、海未、ことり、星空さん、副会長、僕の六人でここまでの映像を確認しているのだが、その内容の一つが……
スクールアイドルとはいえ、彼女たちは学生である。
プロのように時間外で授業を受けたり、早退が許されるようなことはない。
朝練をしているためか、授業中は熟睡。
その後、昼食をしっかり摂ってから再び熟睡……それを先生に発見されるという一日であった。
これがアイドルとはいえ、まだ高校生である高坂穂乃果のありのままの姿であった。
……というものだった。
「ありのまま過ぎるよ!!」
部室内に穂乃果の声がこだまする。
宣伝というには、些か残念な内容になっていた。
「って、いつの間に撮ってたの!?」
穂乃果はそう言って僕を見るが、この映像を撮影したのは僕ではない。
では、誰が撮影したのかというと……
「うまく撮れてたよー、ことり先輩」
「ありがとうー。こっそり撮るのドキドキしちゃった♪」
授業中は僕がカメラを構えるのも不自然なので、隠し撮りをことりに依頼した。
「こっ、ことりちゃん!? ひどいよぉ」
「普段からだらけているから、こんな事になるのですよ」
次は海未の映像をチェックする。
その映像には、弓道部で練習をしている彼女の姿が映っている。
弓を一本放って一息ついた後、周囲を確認……その後鏡へ向かって笑顔の練習をしていた。
「プライバシーの侵害ですっ!」
映像の途中で、海未は素早い動作でカメラの映像を切った。
「よーし、こうなったらことりちゃんのプライバシーも……」
次に何を思い付いたのか、穂乃果がクルクルと回りながらことりの鞄の前まで近付き、その鞄の中身を確認しようとする。
しかし、素早い動作でことりに回収されてしまう。
「ことりちゃん、どうしたの?」
「何でもないのよ?」
「で、でも……」
「ナンデモナイノヨ」
「う、うん……」
穂乃果はことりの焦りようが気になったようだが、ことりから謎の圧力を感じ、それ以上は聞かないことにしていた。
鞄の奥から少しだけ見えたが、そこには『ミナリンスキー』としてアルバイトしていたことりの写真が入っていた。
この慌てようからして穂乃果たちにも、この件は秘密にしているのだろう。
「完成したら各部へチェックしてもらうようにするから、問題があればその時に言ってくれれば修正を……」
「で、でも! この映像を生徒会長が観たら……」
副会長の言葉を遮るように、穂乃果がそう言った。
確かに今の映像を会長が観れば、μ'sへの印象が更に悪くなってしまうだろう。
それを想像したのか、穂乃果が涙ぐんだ表情で副会長を見つめる。
「まあ、そこは頑張ってもらうとして……」
「そ、そんなぁー……希先輩何とかしてくれないんですか?」
「残念やけどウチに出来ることは、誰かを支えてあげることだけ」
「支える……?」
東條先輩は副会長という立場もあるため、μ'sのことを全面的に支援することは出来ない。
おそらく、生徒会長である絢瀬先輩に配慮しているからなのだろう。
会長は今の所、μ'sを快く思ってはいない。
アイドルという存在が、彼女には軽いものとして見えているのだろうか?
それとも、ただの嫌がらせだろうか?
前者は兎も角、後者は考えづらい。
会長は僕が音ノ木坂で学院生活が送れるよう、色々と配慮してくれた人だ。
そんな人が、ただの嫌がらせでμ'sを陥れようとしている……なんて、少なくとも僕には考えられない。
「凛もやってみたいにゃ」
僕が会長について考察していると、星空さんが机に置いていあるカメラを見てそう言った。
それを合図に、僕の思考も切り替わる。
確かに僕よりも星空さんの方が、部員の緊張を解すという意味で適任だろう。
今回の撮影は、部員の自然な表情を撮ることを目的としているのだから。
それに、先程まで様々な部活の撮影をしていたのだが、部員の人たちは動きが少しぎこちなかった。
そういう訳で、ここは僕よりも同じ部員の星空さんの方が適任かもしれない。
「副会長、良いですか?」
「ウチは構わんよ。でも凛ちゃんってカメラ使えるの?」
「あまり使ったことないです」
「なら僕が教えるよ」
「先輩ありがとうー」
そして、星空さんにカメラの使い方を教えている途中、勢いよくドアが開きそして……
「取材が来るって本当!?」
矢澤先輩が慌てた様子で部室に入ってきた。
「もう来てますよ」
ことりがそう答えた瞬間、彼女は一瞬で表情を切り替え……
「にっこにっこにー! みんなの元気に、にこにこにーの矢澤にこでーす!」
「ごめん、そういうのいらないから」
副会長がそう言い、皆もそれに同調した。何気に容赦が無い。
しかし今回の取材内容は、生徒たちの素顔に迫るというものだ。
それを彼女に説明すると……
「す、素顔……あぁそっちのパターンね? OK、ちょっと待ってねー」
先輩は髪に結んであるリボンを解き……
「いつもはこんな感じにしてるんです。アイドルの時の私はもう1人の私……髪をキュッととめた時にスイッチが入る感じで……あっ、そうです。普段は自分のことを『にこ』なんて呼ばないんです」
と、キャラを装うが……
「……って、みんなは!?」
「穂乃果たちなら、中庭に……」
彼女の健闘も虚しく皆にはスルーされていた。
「えっと先輩、今回の取材なんですが……」
「わ、分かったわよ。普段通りにやるわよ……」
彼女のキャラ作りは見事なものだとは思うが、今回の撮影の趣旨とはずれている。
申し訳ないが、ここは納得してもらおう。
「僕たちも中庭に向かいましょう」
「そ、そうね……」
自分の演技がスルーされた為か中庭へ向かうまでの間、彼女は少し落ち込んでいた。
◇
「先ずは、アイドルの魅力について聞いてみたいと思います」
次は中庭で花陽、西木野さん、そして星空さんへの取材が始まった。
「それでは、花陽さんから」
「えっ!? えーと、その……」
「かよちんは昔からアイドル好きだったんだよねー」
「あ、はい!」
緊張して言い淀んでいた花陽に星空さんがフォローを入れる。
この調子なら、問題なく取材は進むだろう。
そう思っていたのだが……
「えっと……ぷっ、ふふっ」
「ち、ちょっとカメラ止めて!」
次の瞬間、三人が吹き出しそうになったため一度カメラを止める。
まあ、彼女たちが笑うのも無理はない。
何故なら……
「いやー……緊張してるみたいだから、解そうかなって思って」
「頑張っているかね?」
穂乃果は変顔を、ことりは妙なお面を着けて、それぞれ笑わせてきたからだ。
確かに緊張は解れたみたいだが……
余りのグダグダっぷりに、思わず僕も苦笑した。
「これじゃあ、μ'sがどんどん誤解されるわよ!」
「おー! 真姫ちゃんがμ'sの心配してくれた!」
「べ、別に、私は……」
それから一旦撮影を切り上げ、ここまでの映像を確認した。
今までの取材部分だと、μ'sの魅力が今一つ伝わらない。
人によってはふざけていると捉えられかねない。
しかし、次のシーンでその評価は覆ることになるだろう。
それは、屋上での彼女たちの練習だ。
◇
「花陽、ちょっと遅いです。凛はちょっと早いです。真姫、もっと大きく動いてください」
「「「はい!」」」
「にこ先輩! 昨日言ったところのステップ、また間違ってますよ。ことりは、今の動きを忘れずに」
「うん、分かった!」
「う……分かってるわよぉ」
指揮は海未が執り、みんなは指示通りに動いている。
「穂乃果、疲れてきた?」
「まだまだー!」
練習を続けてそろそろ一時間が経過する。
そして……
「ラストぉー!」
彼女たちはぶっ通しでダンスを続けた後、ようやく休憩を取る。
みんな息が上がっているようだが、そこに文句を言う者はいない。
今日撮影した限りでは、何処かふざけているような印象があったものの、メンバー間の仲の良さ、そして練習を通して伝わってくるアイドルに対する熱意。
宣伝としての素材は十分に揃えることが出来たと思う。
彼女たちの努力を無駄にしないよう、上手く編集していこう。
◇
そして放課後……
僕と副会長は生徒会室で、今まで撮影したビデオの編集作業を行なっていた。
その途中で副会長が不意に尋ねてきた。
「μ'sのリーダーって穂乃果ちゃんだよね?」
「はい」
「うーん。どうして穂乃果ちゃんなんだろう? 練習の時だって、海未ちゃんが中心になってたみたいやし」
「それは……」
副会長にそう言われ、改めて考えてみる。
確かにあの時、周りの指揮を執っていたのは海未であり、彼女は練習のメニューも組み立てている。
そういう面だけ見ると、穂乃果よりも海未の方がリーダー適正があるのかもしれない。
では、穂乃果がリーダーである理由とは何だろう?
漠然とはしないが、いくつか思いつく理由ならある。
それを副会長に話してみた。
「穂乃果にはスクールアイドルを通して、学院を廃校から救いたいという熱意があります。皆もそれに引っ張られてきたのではないかと……僕も彼女と接していく中でそれを感じました」
「ふーん、ライ君にはそう見えるんやね」
もっとも、副会長はあまり納得していない様子だ。
「そこまで気になるのでしたら、穂乃果たちに直接聞いてみてはどうですか?」
「そうやね……ちょうどこの後、穂乃果ちゃんのご家族にも取材するつもりやし」
「了解です。僕はこのまま編集作業を続けます」
「うん。お願いね〜ライ君」
そう言って副会長は部室を後にした。
最近、アニメを観たりゲームをしていたりすると『この作品にライがいたら……』なんて、つい考えちゃったりします。
これが職業病というやつなのでしょうか?
まあ、これは仕事じゃなくて趣味なんですけどね……