チラシ配りの翌日、新入生歓迎会が開催された。
そして放課後には部活動紹介も控えている。
μ'sのファーストライブは放課後に行われる。
僕は生徒会補佐として、備品の運び出しや各部活動紹介の準備などの作業に駆り出される予定だ。
生徒会長や副会長の考えとしては、僕が様々な部活動の手伝いをしていくことで生徒から、
僕に対する警戒心を減らしていこうというものだ。
僕もこれから音ノ木坂の生徒として過ごしていくのだから、
いつまでも女子達に警戒されたままでは流石に居心地が悪い。
だから、僕はその提案を引き受けた。
幸い、僕に対する女子生徒の反応は思いの外、悪くは無かった。
僕が警戒されていない理由として考えられること。
それは、大多数の生徒から支持されている絢瀬会長や東條副会長の依頼で僕が動いていることにある。
彼女達の下で働くからこそ、僕のような得体のしれない存在を皆、受け入れてくれたのだろう。
それだけ、生徒達の会長達に対する信頼は厚い。
また、東條先輩が言うには僕は美形という部類に入るらしい。
それで警戒している生徒があまりいないのだと言っていた。
しかし、僕はその考えに対しては疑問があった。
美形というだけで、ここの生徒がそう簡単に警戒を解くとは、あまり思えなかったからだ。
そして話は変わるが、美形というのなら僕よりも、もっとそう呼ばれるに相応しい人間がいるはずだ。
例えばそう……
最近よく見る夢に出てくる2人の少年。
彼らこそが、その部類に入るだろう。
ここの生徒達が彼らと出会ったら、僕と同じことを思うことに違いない。
それにしてもやはり、よく憶えている。
所詮、夢で見た光景なので、名前までは分からないのだが……
・・・・・・
僕は手伝いの途中で、チラシ配りをしている穂乃果達に会った。
彼女たちの様子が気になり、声をかけた。
「穂乃果、調子はどうだい?」
「あっ!ライくん。こっちは大丈夫だよ」
僕はその様子に安心しつつ、つい海未の方が心配になり様子を見てみる。
「よろしくお願いしまーす! ありがとうございます!」
しかし、僕が心配する必要もなく、彼女のチラシ配りは順調そうだった。
「これもライくんのおかげよ」
南さんはそう言うが、僕は特に何もしていない。
「南さん、僕は……」
「ことり」
「え?」
「穂乃果ちゃんや海未ちゃんには名前で呼んでいるのに、私だけ苗字はちょっと……」
なるほど。今のところ3人の中で唯一、名前で呼んでいないのは南さんだけだ。
別に気にするほどでもないのでは?
一瞬そう思ったが、他の2人と違って自分だけ苗字呼びなのが妙な疎外感を感じてしまうのかも知れない。
「分かった。次からは、『ことり』って呼ばせてもらうよ」
「うん♪」
ただ名前を呼ぶだけの行為なのに、少し恥ずかしい……
僕は誤魔化しの目的も兼ねて、穂乃果にあることを尋ねた。
「そう言えば、ライブは歓迎会の後にやるんだったな。準備は万全かい?」
僕がそう尋ねると、穂乃果が自信満々に答える。
「うん。バッチリだよ♪ この日のために頑張ってきたし」
穂乃果の自信満々の答えたが、僕はどこか不安だった。
不安の原因、それは……
穂乃果たちが行うライブは、歓迎会が終了した後……
そして各部活動が勧誘を開始するのも丁度その時間だ。
ライブと部活動勧誘の時間が被ってしまう……
多くの生徒がそれぞれ興味のある部活動を見学するだろう。
そして既に部活動に所属している先輩方はその対応をしなければならない。
それぞれの部活動勧誘、それによって生徒達が賑わう中……
果たして、ライブを観に訪れる生徒がどれだけ残るのだろうか?
杞憂だといいのだが……
もちろん、穂乃果達のライブを他の部活動よりも優先する生徒もいる筈だ。
僕はその可能性を信じることにした。
「ライも来ていたのですね」
僕が物思いに耽っていると、不意に海未から話しかけられた。
「ああ。海未の方は順調そうだね」
「はい。昨日のライの様子からヒントを得て、
私なりに動いてみたら思いの外、出来るようになりました」
そう言って、自然な笑顔を僕に向けてくれた。
僕は昨日、何度か心配したが、今の彼女なら特に問題は無いだろう。
僕は、海未の笑顔を見てそう思った。
・・・・・・
新入生歓迎会は終了した。
そして部活動勧誘も順調に進んでいる中、僕も仕事を終えたところだ。
さて、ライブまでにはまだ時間があるので、部活動の様子でも見てみようか。
先ずは中庭あたりまで行ってみようと足を動かした直後、絢瀬会長を見かけたので声をかけてみた。
「会長。どうかしたんですか?」
「皇くん? ごめんなさい。今ちょっと忙しくて……」
会長は何やら重そうな機材を運んでいる途中だった。
「もし良ければ、僕が運びますよ」
僕がそう提案すると、会長は少し考えた後、僕に機材を預けてくれた。
「ありがとう。正直これちょっと重くて……
放送室まで運んでくれると助かるわ」
「分かりました」
そして僕と会長は目的地である放送室に到着した。
「助かったわ。ありがとう」
「いえ、これくらいでしたら。それにしても、この機材は何に使うんですか?」
「それは……」
何気ない疑問を口にしただけだったが、会長は返答に困っていた。
会長の目が『聞かないで欲しい』と語っていたよう気がした。
「話しづらい事でしたら、話さなくて大丈夫ですよ。少し気になっただけですから」
「ごめんなさいね……ここまで手伝わせておいて、何も言わないなんて」
「いえ、僕が勝手にやった事ですから」
僕としても、ただの好奇心で聞いた事だったから、無理に事情を聞く必要もない。
それに彼女が言い渋る原因はある程度は予測できた。
原因はおそらく、μ's絡みなのだろう。
μ'sの話をする時、会長は不機嫌になることが多い。
僕が色々と考えていると、会長が話しかけてきた。
「皇くんはこの後、どうするの?」
「僕は講堂へ行ってみようと思います。穂乃果たちがライブをするらしいので。
会長はこの後、どうしますか?」
『もし良ければ一緒に講堂まで行きませんか?』とは言えなかった。
別に誘うのが恥ずかしかった訳ではない。
μ'sの話題を会長の前で出すと、彼女はどこか不機嫌で、
あるいは少し寂しそうな……
そんな表情になったりした。
なるべくなら彼女にそんな表情はさせたく無い。
理由はよく分からなかったが、自然とそんな風に考えていた。
「私は一旦、生徒会室に戻るわ。希もそこにいると思うから」
僕は副会長の名前が出た時、ふと考えた。
彼女はμ'sのことを、どう思っているのだろうか?
彼女達のグループに『μ's』という名前をつけたのは副会長だ。
このことや普段の態度から分かるように、少なくともμ'sに敵意は持っていない。
しかし、表立って穂乃果達に協力している訳では無いようだ。
おそらく会長を気遣っているから、あまり表立っての行動は出来ないのだろう。
僕は長考していると、会長が時計の方に視線を向けた後、今度はその視線を僕に向けて話した。
「考え事の邪魔をして悪いのだけど……
そろそろ行かないとライブ、間に合わなくなっちゃうわよ?」
「それもそうですね。それでは僕は行きます」
「ええ。楽しんでいらっしゃい」
「はい」
絢瀬会長……
とても優しい人だが、μ'sや廃校関連の話になると
まるで人が変わったように、厳しい表情を見せる。
しかし、学院に対する想いは誰よりも強く感じた。
それは、まるで何かを背負っているかのようにも感じていた……
・・・・・・
生徒会室を後にして講堂に向かう途中、
なにやら慌てている様子の小泉さんとその傍に活発そうな短髪の少女を見かけた。
「どうしたんだい? 2人とも」
「あっ、皇先輩」
「かよちん。この先輩と知り合いにゃ?」
……にゃ?
いや、それはともかく、小泉さんはライブを観にいくとこのあいだ言っていたが、
ここで何をしているのだろう?
もしかすると講堂に向かう間に、道に迷ったのだろうか?
「小泉さん。μ'sなら講堂でライブをしているはずだ。急げば、まだ間に合うよ」
「ほ、本当ですか?……良かったぁ」
「かよちん。ライブを観に行きたいならもっと早く言ってくれれば良かったのに」
どうやらこの2人は仲が良さそうだった。
見た所、2人ともこれからライブを観に行くようだ。
僕と目的は同じなので、ここは一つ提案してみる。
「僕も今から講堂に向かうところなんだ。
もし迷惑でなければ、案内するから一緒に行かないか?」
「は、はい。よろしくお願いします」
「かよちんが行くなら、凛も行くにゃ」
そして僕たちは、講堂へ向かった。
・・・・・・
「着いた……時間は?」
廊下だと言うのに全力疾走して何とか講堂までたどり着いた。
時間は……少し過ぎてしまったか。
とはいえ、まだタッチの差だから今からでも大丈夫な筈だ。
扉を開け、僕たちは中に入った。
しかし、何か様子がおかしい。
「あれ? ライブは?」
小泉さんが不思議そうに周りを見渡す。
そこには、ライブの宣伝をしていたヒデコ達3人はいたが、
観客は僕たち以外誰もいなかった。
穂乃果達の方を見てみると、立ちすくんでいた。
無理もない……
今まであれだけ頑張ってきてその結果、僕たち以外、誰も来なかったのだから。
僕はそんな彼女の姿を見ていられなくなり、思わず声をかけた。
「穂乃果!」
「ライ、くん?……それに花陽ちゃんと凛ちゃんも」
どうやら、僕たちに気付いたようだ。
そして穂乃果は僕たちに語りかけるように呟いた。
「私たち、今まで頑張ってきたつもりだった。
だけどそんなに甘くはないってことを知った……だから」
穂乃果は先ほどの悲しみの表情から一変して、
「ライブ……しよう! そのために今まで頑張ってきたんだから!」
穂乃果はそう決意する。
「歌おう。全力で! 今までを無駄にしないために!!」
そして、穂乃果の決意を聴き、海未とことりも覚悟を決める。
「穂乃果。私も歌います……全力で!」
「私も同じ気持ちよ。穂乃果ちゃん」
彼女達は、僕たちの姿を確認し、改めてライブをすることを決意した。
そして……
観客が少ない中、3人は歌う……
彼女たちの歌う姿には、儚さが現れた。
しかし、それと同時に、その姿には熱い想いと力強い情熱を感じた。
僕は暫しの間、そんな彼女たちの姿勢に見惚れていた。
そしてライブの最中、2人の少女の姿を確認した。
1人は講堂に遅れて入って来た西木野さん。
そして2人目は、先ほどは気づかなかったが、椅子の近くで蹲み込んでいる少女……
恐らく、ライブが始まる前からずっといたのだろう。
彼女達もまた、μ'sのライブに惹かれて集まって来たのだ。
もしかすると、会長と副会長もどこかで、この光景を見ているのかも知れない。
・・・・・・
ライブも終わり、会場にいた者は皆、穂乃果たちに拍手を捧げた。
僕もみんなに合わせて拍手を重ねる。
講堂の席に隠れている少女は、拍手こそはしていないが、感動している様子ではあった。
そして講堂の扉が開き、そこから会長が入って来た。
会長は真剣な眼差しで穂乃果たちに問いかける。
「貴女たちはこれから、どうするつもり?」
会長が穂乃果たちの今後の行動を確認する。
「続けます!」
「何故? これ以上続けても意味は無いかも知れないわよ。 それでも、続けるつもり?」
「はい!だって、もっとライブをやりたいから!!」
穂乃果は真剣な眼差しを会長に向けて告げる。
これからもたくさん歌いたいと告げる。
そして海未とことりも同じ気持ちであると。
3人は今回のライブで芽生えた気持ちを信じている。
例え誰からも応援されなくても、見向きすらされないとしても……
それでも、頑張って自分達の想いを届けたいと。
このライブを行ってあらためてそのことに気づけたこと……
会長だけでなく、この場にいる全ての者にそう告げた。
「そしていつか必ず、この会場を満員にしてみせます!!」
穂乃果は高らかに宣言する。
会長はその宣言を、先ほど変わらない表情で、
そして真剣な表情で聞いていた……
オリジナルのセリフとか、地の文などをグダグダ書いてしまっています。
「この文章おかしいだろ!」
など、何か思うことがありましたら、遠慮なく指摘してくださると嬉しいです。