この鎮守府、駆逐艦しかいねえ!   作:ジャスSS

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あいつ、今なにしてる?

「不知火さん!」

 

秘書艦の名を呼ぶ艦娘。

 

随分と威勢の良い声――しかしその声には心に訴えるかのような性質も混じっていた。

 

「そんな大声出さなくても……不知火の耳は脆いのですよ。 暁、間近で大声出すのは止めてください」

 

「……ごめんなさい不知火さん。 でも! 私は! これくらい大声出さないといけないぐらい! 心配で――!」

 

ちびっ子艦娘、暁の大声を鬱陶しく感じる不知火。

 

そりゃまあ、止めてと言ったのに止めなかったら鬱陶しく感じるはずだ。

 

仕方なく、遮って話を始める。

 

「暁、あなたが心配になるのは分かります。 ですが司令は私たちの上官……そう易々とプライベート空間に入るのは――」

 

「その言い分、一年前から聞いてるわ」

 

「……」

 

反論もできない。

 

「……もういい! 暁一人で行くわ!」

 

「! 待ちなさい暁! いい案を――」

 

”いい案”という言葉を聞いた瞬間、暁の進行方向は急に180度回転する。

 

あまりにキレイだった為か、不知火は一瞬笑いそうになったが――さすがに笑いを堪えることができた。

 

「いい案って何!? 不知火さん!」

 

「……ええとですね……」

 

 

 

 

 

――春のある日、彼女たちの指揮官、海城星斗(うなしろせいと)が忽然と姿を消した。

 

というのはさすがにやや誇張しているが、ともかく彼はその日以来、艦娘の前に姿を現す機会がとんでもなく減ったという。

 

関係筋の話によると、彼は自室に籠ってはゲームに勤しんでるという――

 

 

 

 

 

――そんな現状を変えようと、多くの艦娘が彼の自室への侵入を試みた。

 

がしかし、その全てが失敗に終わったという。 一体どういうセキュリティを施してるのだろうか――

 

そうして、おおくの艦娘がやる気を無くし、今この日この時に至るというわけだ。

 

 

 

 

 

「司令官の部屋のドアに小型マイクを仕込んだ!?」

 

「はい。 これであの人が何をやってるか、一目瞭然です」

 

「正確には一目もしてないけど……でもそれはいい案だね、不知火」

 

ニヤリとする不知火の近くには、先日不知火に訴えた暁、そしてひょっこり出てきた時雨。

 

そして――この三人の会話に釣られ、一人、また一人と不知火達に寄ってくる。

 

やがてそれは、一種の大きな輪となった。

 

「でもさ、ご主人様の生活をくまなく録音してるってことは、何かこう、イヤらしい音とかが発せられるんじゃ……」

 

漣の一言にゾッとする一同。

 

「そうかもしれません……しかし、それも覚悟しなくてはいけません。 あの人を――引きずり出す為には」

 

不知火の悲痛なのか暴力的なのか分からない言葉に、一同は気を取り直す。

 

「というか、さっさと聞こうぜ! きっと何か手がかりが……」

 

「それもそうですね……それでは――」

 

 

 

 

 

――不知火がスイッチを押した直後、いきなり音楽が流れる。 それも何か、少し音質が悪いような――

 

「……ねえ、このマイク安物?」

 

鋭く、朧が聞く。

 

「いえ、鎮守府の金を掛けまくって、調達したマイクです。 掛かった金でこの鎮守府を買い取れるぐらいの金です」

 

「……一体どこからその金は……まあそれはともかく、この音楽は……」

 

不思議に思う朧とその他の面々。

 

すると輪の外側の方から、初雪と思しき声が聞こえる。

 

「多分それ……”ファイアーエムブレム”のテーマ曲……しかも昔のゲーム機の……」

 

”ファイアーエムブレム”なんて言われてもここにいる普通の人達はなんのことだか分かるわけもない。

 

「……昔のゲームをやってるの。 司令官」

 

「なるほど……”ふぁいやーえんぶれむ”というのはよく分かりませんが、昔のゲームをしてるのですね……」

 

「そういうこと。 あ、それと”ふぁいやーえんぶれむ”じゃなくて、”ファイアーエムブレ――」

 

訂正しようとするが、その声は残念ながらも届かない。

 

初雪が必死に伝えようとする中、録音データは次の場面へと移っていた。

 

「む、この曲は……」

 

世俗には疎い不知火とはいえ、この曲、そして文化を知っていたようだ。

 

「”スマブラ”、ってやつですね」

 

さすがにスマブラは有名だからか、数多くの艦娘が理解を示した。

 

艦娘達が想像するスマブラ――きっとそれはアイテムありの4人乱闘。 簡単に言えば、なんでもありのはちゃめちゃなゲームをするもの。

 

がしかし、この録音データから示されたものは――それとは大きくかけ離れたものであった。

 

「なんか色々と違くない? アイテムないっぽいし、スティックの音がヤバいことになってるし、緊張感も……」

 

「いわゆるガチ対戦ですな。 まあご主人様のことですから、アイテムありの乱闘も好きでしょうケド……」

 

まるで研究者みたいな口調で話す漣。

 

なにかオタクっぽさも感じるが――それは気にしないでおこう。

 

「そんなものがあるのですね……ガチ、つまり本気……司令はいつでも、ゲームにおいても本気で――」

 

「いやいや、ゲームだよ、これ? というか本気になってほしいのは提督としての執務なんだけど……」

 

漣のツッコミを無視しつつ、不知火は録音データの時間を進めていく。

 

と、ある程度進めた所で時間の針を止める。

 

「これは……可愛い声……」

 

データから聞こえる癒し音声。

 

艦娘の多くが聞いた事がある声だ。

 

「カービィのゲームやってますね……意外と可愛いとこある……」

 

「意外だね。 もっとこう、銃撃ち合って兵士を殲滅したり、手に汗握るドックファイトで敵機を地獄へと誘ったり、ゾンビをはっ倒したりするものをやったりしてそうだけど……」

 

「はわわわわ、響ちゃんは司令官にどんなイメージを持ってるのですか……」

 

子供だけあってか、響の口調はややおとなしい感じだったが、その実、彼女がイメージしてるものはもっともっと激しいものだろう。

 

それをイメージしてる響も響だが、なんとなく理解している電も、それなりに子供の常軌を逸してるような。

 

 

 

 

 

――暫くして。

 

「……と、ここで音声データが終了したようですね。 とりあえず、これを聞いて分かったことはと言えば……」

 

「ゲームしかしてない!!!」

 

「その通り。 まあ四六時中してるわけではないでしょうが、司令が顔見せなくなった原因の大元はこれでしょうね。 恐らく」

 

よし、と決意を固め立ち上がる不知火。

 

「仕方ありません。 ここは私が行って引っ張り出しましょう」

 

「不知火さん! 遂に動く気になったのね! これ司令官もきっと……!」

 

「ええ。 ここからは私に任せてください。 無理矢理にでも、引っ張り出しますから」

 

自信満々の笑み。 だが何か、ドス黒いものが見え隠れしてる感じのように見える――

 

「う、うん。 よろしくお願い……するわ……」

 

なんとも不吉な予感がする――それは暁らにも伝わっていたようだ。

 

「では行ってきます。 吉報をお待ちください」

 

「い、いってら〜……」

 

不知火の姿が見えなくなるまで暫し待つ。

 

「……ねえ響、これ追いかけた方がいいのかな?」

 

「間違いないね。 不知火さんのことだし、何かしでかしてもおかしくない。 いざと言う時に止められる人がほしいけど……」

 

ふと見つめる先。

 

やれやれと、茶髪の艦娘が立ち上がる。

 

「優しい……はずのあの子が司令に傷を付けることはないだろうけど……まあ不安ならついてくよ」

 

「ありがとう陽炎さん……でも不知火さんが優しいってのは……」

 

暁の脳裏に浮かぶ、冷たく見つめて人々に恐怖を与える不知火の図――

 

「絶対に想像できない……」

 

 

 

 

 

――「ほんっっとうに! 申し訳ありませんでした!」

 

「司令? この一年、一体何をしていたのですか?」

 

「はい!? え、えーと……」

 

「ふふ……さて、それで何人の艦娘が悲しんだと思いますか? 司令?」

 

「……この鎮守府に住まう艦娘全員です……」

 

「ご名答。 さて……では司令はこれから何をすべきなのでしょうか?」

 

「それは勿論……勿論……ひっ」

 

「勿論……?」

 

海城が見上げると、不知火は虫を見るかのような目で彼を見つめていた――

 

「あらあら、声も出せませんの? まったく……お可愛いこと……」

 

心配になって見に来た暁達だが、その結果がこれである。

 

「なんというか……主従関係が逆転してて、その……」

 

「不知火さん、まるでお嬢様みたいな感じだね……」

 

苦笑する彼女達だが、決してその現場に出向くことはしない。

 

彼女達自身が提督に迷惑をとてもかけられた、というのもあるが、何よりの理由は”この光景”自体に惹き付けられたからである。

 

「さて、司令。 とりあえず執務室に向かいましょうか。 今までの罪滅ぼしを、二年分やっていただきますね」

 

「えぇ!? 一年休んでたのに二年分!?」

 

「はい。 あ、それともここにいる艦娘全員分を背負って、100年間ここで働きますか?」

 

「100年って最終的には遺体となって発見されるだろそれ……じゃなくて! なんで二年分か――」

 

「さあ、戯言はそこまでにして、早速執務室に向かいましょう」

 

「だから話を……って、なんだよその紐!」

 

「そりゃもう、貴方を縛って永遠に離さないようにですよ?」

 

「ちょっ、待っ――」

 

情けない悲鳴が、長い廊下に響き渡る。

 

その声に、ぞろぞろと艦娘が現れる。

 

「うわあ、なんか大名行列みたいになってる……」

 

不知火は廊下の真ん中を、堂々たる格好で歩いていた。

 

――キツく縛り付けた縄を片手で持ちながら。

 

それを野次馬と言えよう艦娘達は、両脇に密集した状態で眺める。

 

現代版・大名行列の完成が成された瞬間である。

 

「司令官……とんでもなく情けない……」

 

「いいんですか陽炎さん? 止めなくて」

 

「うーん、ホントは止めるべきなのかもだけど……」

 

にやけ顔を堪えながら言い放つ。

 

「面白いし、このまま放置しておきましょ」

 

非情な一言が、彼に突き刺さった。




後書きにてご挨拶を。

お久しぶりです。 ジャスです。
およそ一年、艦これもせずにダラダラとテレビゲームしてました。
ファイアーエムブレムもスマブラもカービィもやってますし、他にも沢山ゲームをやってました。
ゼノブレイド2、セレステ、ウイニングポスト、アトリエシリーズ、Undertale……etc
とまあ、色々やってたのであります。

私は飽き性ですので、このまま書き続けるか分かりませんが、まあ頑張って継続できたら。
本音はファイアーエムブレムの二次小説を書きたいけど、全然アイデアもないし、まあ艦これに落ち着くかと。

とまあこんなところですかね今のところは。
ご精読ありがとうございました。

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