この鎮守府、駆逐艦しかいねえ!   作:ジャスSS

6 / 11
世間知らず?(綾波 敷波)

――「司令、お手紙が届いてます」

 

とある昼下がりの執務室。 すっかりこの鎮守府に慣れた海城と、海城の存在に慣れた不知火。

 

「誰から?」

 

「えーとですね、綾波の……親御さん!?」

 

大きく目を開き、口をあんぐりと広げる不知火。

 

「え、綾波の親御さん!? 俺達なんかしたかぁ!?

 

「し、司令まさか……」

 

「いやいや俺なんもしてねえから! 本当だからな!」

 

「怪しいですね……本当になんもやってないんですか?」

 

「本当だ。 俺のバーチャルボーイ賭けてもいいぐらいだ」

 

「なるほど。 そのバーチャルボーイってやつはどうでもいいですがまあ本当にやってないことはなんとなく察せました」

 

凄く頼りない言葉が連なってるが――本人的にはこれでも問題ないのだろう、特に何も言わずに話を進めていく。

 

「それで、その手紙にはなんと……」

 

「今開けますから急かさないでくださいよ」

 

「すんません……」

 

立場が逆転しているような気がするが、気にする必要はないだろう。

 

「読み上げますね……」

 

 

 

 

 

「呉第七鎮守府司令長官、海城星斗殿へ。 この度の御着任、おめでとうございます。 前任の方は艦娘からの信頼が厚く、その後任ということで運営に苦心することもあるかと思いますが、この第七鎮守府に配属されたということは大本営の――」

 

「長いから大事そうな部分だけ教えてくれ。 残りは自分で読むからさ」

 

「えぇ、分かりました」

 

 

 

 

 

「――我が娘、綾波のことをどうかよろしくお願いいたします。 綾波父より」

 

「……え? 以上?」

 

「はい。 大事そうな部分だけ切り取った結果です」

 

「マジで? ちょっと見せてくれ」

 

と、不知火から強引ともとれるやり方で手紙を取った。

 

「……あ、確かにそうだわ。 大事なの強いていえばこれだけだ」

 

「でしょう? まったく司令は……」

 

「あぁうぅ……誠に申し訳ございません……」

 

「にしても、いきなりこのような手紙が来たのはいったい……」

 

「娘のこと心配したからでしょ。 親心だって親心」

 

「まあそうとしか考えられませんね。 それじゃあその手紙は……」

 

「あぁ俺が持っとくよ」

 

「分かりました……少し不安ですが」

 

「それは言わないでくれ」

 

 

 

 

 

――でもなんか気になるなぁ。

 

「ということなんですよ霞」

 

「いやいやなんでそういうこと聞くのよ」

 

「それはもちろん……もちろん……」

 

うーん、なんも思いつかない。

 

「えーと、綾波のお父さんからなんで手紙が来たのってことでしょ? 普通娘が心配だからじゃないの」

 

「それ司令も言ってました。 でもなんだか腑に落ちなくて……」

 

「それ以外何があるっていうのよ」

 

「やっぱりそうですよね……」

 

結局この結論に至るのか――でもわざわざそんなことするかしら。

 

「来たのは初めてなんでしょ? しばらく会えないから寂しかったっていう理由が正しいと思うのだけれど」

 

「会えないからですか……あっ」

 

そうだ、忘れてたことがあった。

 

「どうしたのよ」

 

「調べてみたらですね、綾波の実家は京都にあるらしいんですよ」

 

「……別に会えないわけじゃないわね。 休み使えばいいわけだし」

 

「しかも過去の外出記録を見ると、綾波は毎年夏と冬の二回帰省していることが判明していました」

 

「いやいやそこまで帰省してんなら感づくでしょ」

 

「そして今回に送られた手紙……決して綾波の為だけとは思えない」

 

「た、確かにそうね。 しかもこのタイミング……まさかこれはクズ提督に対する挑戦状?」

 

「挑戦状……とは?」

 

「ほら、綾波って凄いお淑やかで礼儀正しいじゃない。

 

きっと実家はかなり厳しい所で、そして綾波のことを誰よりも大事に思ってるはず。 としたら、司令長官がどんな男かどうかというのを見極めてるんじゃないかしら!」

 

なるほど、合理的な理由だ。

 

「となると、クズ提督が採るべき行動は……」

 

「こちらも手紙で返す、というのはどうでしょう」

 

「それでは誠意がこもってないわ。 直接会いに行くというのはどう?」

 

「なるほど。 ですがどうやってアポとれば」

 

「綾波に直接聞くか……でも教えてもらえるかしら」

 

「そこは持ち前の交渉力でなんとかするしかないです」

 

「うーん、少し心配だけど……頼むわ!」

 

「了解!」

 

海軍式の敬礼。 なんか気持ちがいい。

 

――って私達何話してるんだ?

 

「ちょっと待ってください。 私達って今何話してるんですか?」

 

「何ってそりゃあクズ提督に対する挑戦状に関することじゃ……」

 

「いやいやどんだけ壮大な話になってるんですか。 元々はあの手紙が少し気になるって話でしたよ」

 

「それがこういうことになったんじゃないの?」

 

「まあ確かにそうではありますが……もういっそのこと綾波に色々聞きます。 めんどくさいですし」

 

「……もし私の考察が合ってたら?」

 

「何もあげませんよ。 子供じゃないんですから

 

「はいはい分かりましたよ。 そんじゃいってらっしゃい」

 

手を振って送り出す霞。 少し不機嫌そうだけど、いつもこんな感じだ。

 

 

 

 

 

ここが――綾波の部屋ね。

 

まあドアはごく普通――他もそんな感じだけど。

 

同じ部屋には敷波がいるんだっけ。 確か綾波とは旧知の仲とは聞いたけど――

 

「失礼します。 秘書艦の不知火ですが」

 

「あっ今あけまーす」

 

この声は綾波か?

 

「はーい。 どうかしましたか?」

 

「あ、別にこれといった用事はないのですが一つ気になることがありまして……」

 

首を傾げる綾波。 凄いお人形さんみたい。

 

「綾波の実家はどういったところでしょうか……?」

 

しまった、なんか変な文章になってしまった。 コミュ障みたいに思われてしまう――ってそんな心配しなくていいか。

 

と思っていた時、奥から敷波が顔を見せた。

 

「え、不知火知らないの?」

 

「は、はい? どういうことでしょうか?」

 

「うそ……秘書艦だから知ってると思ってたわ……」

 

どういうことでしょうか――私って世間知らず?

 

「でも呉にいたら知らないと思いますよ。 京都にしかないですから」

 

「うーん、でも今度チェーン展開するって言ってたじゃん」

 

「確かに……そうでしたね。 しばらく艦娘としての生活しか考えてなかったから家のこと忘れてたかも」

 

「まったく……将来継ぐことがほぼなくても実家だよ?」

 

「はいはい。 分かりました」

 

なんか世界を形成している――ってそこじゃない。

 

京都にしかない? チェーン展開? 継ぐ?

 

まったくもって分からないフレーズしか出てこない。綾波の実家っていったい?

 

「そうだ、不知火さん。 私の実家についてでしたよね」

 

「え、そうですが……」

 

「私の実家はですね……京都にある旅館なんですよ」

 

――旅館?

 

あぁなるほど。 確かにチェーン展開もできる。 跡継ぎというのも必要になる。 綾波の礼儀正しいしさというのも合ってるし、お淑やかな部分も恐らくそういうところからだろう。

 

「ちなみにどんな名前の旅館で――」

 

言いかけると、敷波が手を掴んできた。

 

「それは私が話す。 ちょっと外出てもいいかな」

 

と、引っ張られて部屋の外に出た。

 

「あの……」

 

「いやあさぁ、あの子おだてられるのあんまり好きじゃなくてね。 まあこれがおだてるというのかは分からないけどさ……」

 

「ひとまず、綾波の家について話してくれますか?」

 

「分かった」

 

一旦間を置き、ようやく話してくれた。

 

「あの子の実家――名前を”彩波(あやなみ)”と言うんだけど、凄い旅館なの。 国内最高峰で、旅館業ではここに勝る旅館はないってくらい」

 

「それってかなり凄いんじゃ……」

 

「まあね。 他にも事業も行ってるからかお金持ちだし、綾波の地元宇治市なんだけどそこじゃみんな敬語。 お嬢様呼びが基本だよ」

 

「え……」

 

正直、絶句するほどだ。 綾波がこんな環境で育ったなんて――

 

「でも敷波はお嬢様呼びでは……」

 

「あー、これはちょっと話が長くなるんだけどね……」

 

 

 

 

 

「元々あたし、関東の貧乏な農家だったんだよ。 まあ綾波とは真逆の生活を送ってたんだ。 普通なら地元の公立学校行くと思うだろ? でもあたしは違った。 あたし幼児の時にお嬢様学校に憧れてな、そん時にお父さんが色々仕込んでくれたんだ。 そのおかげで、綾波達の行くような学校に無事入れたんだ。 でもね、周りはそれはもうお嬢様ばっかりで、所謂学校カーストってのが蔓延してたわけ。 それで平民出身の私はその最底辺にいたの。 まああいつらの逆鱗に触れることはしてないからイジめにはあってないんだけど、白い目で見られたりはしたんだよね。 そんな中であたしに優しく接してくれたのが綾波だったんだ。 なんかウマが合うようでさ、それから仲良くなれて……今に至ると」

 

 

 

 

 

「この中にも色んな話はあるけどそこまで話すととてつもなく長くなるし、ここで区切るね」

 

「分かりました。 にしても驚きです、敷波にそんな過去があったなんて」

 

「秘書艦として知ってほしいんだけどね」

 

「はい……」

 

うぅ、今後の課題か……

 

「まあ細部まで知ってねというわけじゃないけど一応出身くらいはね。 それはそうと、私が貧乏農家出身って聞いてどう思った?」

 

「え、えーと……正直驚きました。 ずっと綾波と一緒にいますからてっきりお金持ちなのかと……」

 

「あー京都だと綾波の顔知れ渡ってるからさ、一緒に行くと……なんかね」

 

「……正直な気持ち、貧乏な家出身ってことにどう思ってるんですか」

 

「うーん、別になんとも思わないなぁ。 子供ん頃は普通に幸せだし、学校時代も綾波のおかげで普通に楽しかったしね」

 

「……敷波は素晴らしいお方ですね」

 

「いやいやそんなこともないよー。 だって綾波とはしょっちゅう悪さしてたし、それなりに悪童だったからさ」

 

「ふふっ、そういうことをやることが素晴らしいんですよ」

 

「……なんか照れちゃうなあ、そんなこと言われるなんて……」

 

赤く染まる敷波の顔。

 

夕日と合わさり、とても輝いていて――幸せそうだった。

 

 

 

 

 

――「ってことなんですよ」

 

翌日、自慢げに海城に話す不知火。

 

「すげえ長い話だったな。 もう疲れたぞ」

 

「その分濃かったんだからいいじゃないですか」

 

「確かに、二人の知らなかった過去を知れてよかったけどさ……そういや、綾波の実家は超凄い旅館なんでしょ?」

 

「ええまあそうですが……」

 

「今度行ってみようぜ、二人で」

 

「なっ……!?」

 

瞬時、恐怖の顔と化す不知火。

 

「いいんじゃね? 親睦の意味も含めて、二人で行くというの――ねえねえ、なんでそんな怖い顔してるん? そして拳をこっちに向けてるのもなんで――」

 

「沈め」

 

鉄拳制裁。

 

不知火の右手が、海城の左頬へクリーンヒット。

 

海城は全治一週間の怪我を負った。




キャラクター紹介

綾波:第十九駆逐隊所属。 実家は国内最高峰の旅館業を営んでおり、綾波はそのお嬢様。 厳しく育てられた為か礼儀正しさでは抜きん出ており、周囲からは一目置かれている。 良家の出であることをあまり好ましく思っておらず、平民として生まれることを望んでいるらしい。

敷波:第十九駆逐隊所属。 実家は東京西部の農家であるが、幼児期から培った頭脳のおかげで綾波がいる学校に入学することができた。 綾波とは仲が良く、綾波の地元宇治で彼女にタメ口を利かせられるのは敷波ただ一人。 今ではすっかりお付きの者として、綾波の側に立っている。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。