続きがなければ書けばいいじゃない。
水色シユウを撃破した後、俺はホトホト疲れた身体に鞭を打ってアラガミが見当たらない場所まで逃げた。外は怖いので適当なビルの一室に籠って一休みする。
先程の戦闘は本当に苦戦を強いられた。少しも怪我をしたくない一心と、死んでたまるかという意地でほとんど動いたものだからだ。唯一の救いは、強化されていない神機でも、使い方次第で相手をワンパンできるところか。急所狙いとかで。
回復錠もない。味方もいない。ゲームでもない。現実を酷く実感したのは、初めてオウガテイルを倒した時だ。皮肉にもゲームだけの存在が、数値だけでなく視覚的な結果も伴って力尽きた様を見せつけてきたのだ。
アラガミを殺した事による身体の震えは、戦いの数をこなせば自然と消えていった。初撃破後は何故か戸惑いしか覚えなかったのが既に懐かしい。だが、神機で斬り裂く感触だけは未だに慣れていない。肉体と精神にギャップが生じている感が拭えないのだ。アラガミを倒すのに心がまだ未熟な感じである。
まぁ、それはそれで良しとしたい。神機使いとして染まり続ける俺の、元の世界の住民である証となりうるからだ。外部に示せなくても己だけそれを認識できていればいい。帰るのをまだ諦めるつもりはない。
ところで疑問に思った事が一つある。神機使いの身体についてだ。
今は日もすっかり沈み、代わりに月が空に浮かんでいる夜の時間。地上の明かりが不足しているせいか、ガラス窓から見える星空が大変美しい。
本来なら子供がぐっすり寝ている時間帯だが、どういう訳か俺は浅く眠る事しか叶わない。例えるなら、自力で覚醒しやすい授業中の居眠りである。神機使いって、皆こんな感じなのかな……。
今まで何も食べていないので空腹感はあるが、不思議と飢える感じもしない。だとすれば、昨日までの不眠不休が身体に堪えなかった理由もわかるものだ。アラガミを狩るハードワークをこなすためなら納得できる。
……俺という存在の特異性について考慮していないのは、ここだけの話だけど。
しかし、ヒトもアラガミも生身である以上、休みの一つや二つは欲しい筈。過労死(?)するアラガミがいないのも、本能で「それ以上はいけない!」と理解しているからではないだろうか。ブラック企業もアラガミを見習ってもらいものである。
「睡眠……眠……眠……」
……ダメだ。どんなに頑張っても深い眠りにつけない。やはり、硬い床の上に寝そべっているのが原因か? 慣れない事をしている訳だから余計に寝付けないのかも知れない。
ベッドが欲しい。布団でもいい。せめて毛布。
当然、そう願っても寝具が目の前に現れる筈もなく。時々月を眺めては、郷愁の念が募るばかりだ。阿倍仲麻呂と九州に飛ばされた防人の気持ちがよくわかる。
そして、マスク・ド・オウガになって三日目の朝。窓の向こうでは、気色悪い赤色の雨がザァァっと降り注いでいた。止む様子は一向に見られない。
(何だ、これ!? 原爆の黒い雨の親戚!? 俺、被爆してるの!?)
それから、ゴッドイーターのプロモーションアニメで謎のアラガミが核爆発も捕食し尽くした事を思い出して気分を落ち着かせる。そして念のため、勝手に大気中の放射性物質を捕食してくれるのを祈って神機を取り出した。お願いします、この世全てのオラクル細胞さん。
冷静さを取り戻し、しっかりと赤い雨の様子を観察する。見た目は色以外に何の変鉄もなさそうだが、酸性雨や黒い雨という前科を人類は持っている。少しでも肌に触れたら危険だという事だけは、何となくわかった。
……PV、雨……あれ? 見覚えがあるような、ないような……。
「雨……雨……赤い雨……赤い雲……あっ」
思い出した、赤乱雲だ。
確か、ゴッドイーター2のPVでも目にした記憶がある。ただ、俺はバーストまでしかプレイしていない上に、PV内容もうろ覚えなのだが。
「やっぱり……浴びたらダメな奴だよな?」
赤い雨に関しては、濡れたらヤバいという事までしか知らない。二十世紀少年の細菌兵器みたいな即死級ではないと思うが、やはり他の対象物を見てみないとわからない。どこかにのうのうと雨を浴びているアラガミはいないだろうか。
ひたすら窓から外の様子を眺める。しかし、それでアラガミに見つかってしまっては話にならないので、じっと潜めながらだ。邪魔だから仮面は脱ぐ。
窓ガラスにほんのりと映し出される自分の顔を無視し、忙しなく視線だけを動かす。すると、ひょこひょこと地面の上を歩く緑色の生き物を見つけた。
緑色の甲殻に、カブトムシに似た形態。だが、その虫らしさとは反して二本しかない逆脚。俺の知らないアラガミ第三号であった。
赤い雨の中を緑カブトムシは平然と歩き続ける。スピードなど歯牙にも掛けていないようで、一歩一歩が実にトロクサイ。何だ、あれ。
いや、まだ油断するべきしゃないぞ、俺よ。ああ見えて実は口からビームを出したり、Mの付く赤い配管工の如き素早さを備えているかもしれない。はたまた、不可視の攻撃を繰り出すのかもしれない。
つまり、あの愛嬌の感じられる姿は敵に対するブラフ。まんまと格下狩りに来たアラガミを、その立派な角で返り討ちにするための罠なのだろう。多分。
よくよく考えれば、(俺の知る限り)どんなに弱いアラガミでも必ず人を殺せるだけの戦闘力を持っているのだ。実力差などは関係なく、油断だけは絶対にしてはならない奴ばかりである。オウガテイルとか、オウガテイルとか。というより、エリックの死のインパクトが強すぎてオウガテイルばかりが目に浮かぶ。
「……ん?」
次の瞬間、緑カブトムシの横から突如としてヴァジュラが現れた。ヴァジュラも赤い雨を浴びても平気な様子で、真っ向から緑カブトムシと対峙する。
サイズではヴァジュラの方が圧倒的に優っており、対して緑カブトムシはまるで蛇に睨まれる蛙のようだった。何もしないままではヴァジュラに軽く捻り潰されるだろう。
これは緑カブトムシについて情報を得る良い機会だ。自分よりも格上のヴァジュラを食べて進化を果たしたオウガテイルがいるぐらいだ。どんなジャイアントキリングが繰り広げられるか、見物である。
お互いに相手を見据えた二体のアラガミは、身動ぎ一つする事もなく様子見を続ける。遠くのビルから観戦している俺からすれば十秒にも満たない出来事だが、彼らの体感時間ではそれ以上も掛かっているのだろう。
最初に動いたのは緑カブトムシだった。頭部の角を正面にかざし、脚に力を入れて地面を踏み込む。そして、勢いよく突撃を開始した。
速度は大した事はないものの、かなりの重圧感を与える初動だ。きっと、相手に衝突する瞬間に角が爆発したりするのだろう。そう考えると俺は思わず息を飲み、巨大な敵に立ち向かうその勇者を応援したい気持ちに駆られる。
(行けぇぇ!! 緑カブトムシぃぃ!!)
鋭く尖った角がヴァジュラの顔面へと襲いかかる。あれほど強く踏ん張りが利いてしまえば、ヴァジュラでもひとたまりもない一撃を受けるのは間違いない筈だ。
あと二歩進めば、緑の豪槍が正面に佇む猛虎の脳天に届く。
そして、あと一歩――
「Gau!」
相手の頭を砕くかと思われた一撃は刹那、横からヴァジュラの前脚払いによって軽々と捌かれてしまった。
一撃を不意にされて盛大に倒れる緑カブトムシ。それにヴァジュラは問答無用でパンチを繰り出した。横腹に強力な攻撃を受けた緑カブトムシは、そのまま綺麗な放物線を描いて数メートルほど吹っ飛ぶ。
吹っ飛ぶ勢いは途中からビルの壁にぶつかった事で削がれ、緑カブトムシは地面の上に転がった。身体をピクピクと動かし、逃げる事なくその場で悶える。
その直後、緑カブトムシの元にヴァジュラが悠々とやって来た。ヴァジュラは足元に寝そべる獲物の姿をまじまじと見つめると、淡々と捕食を開始するのだった。
えぇ……。
ものの見事に期待を裏切られた俺は、心の中で緑カブトムシに冥福を祈った。
※
マスク・ド・オウガになって四日目。赤い雨もすっかり止み、本日は雲一つない晴天ぶりである。しかし、まだ四日目だというのに俺はホームシックになりかけていた。誰も得はしないので涙は堪える。
はぁ……。
今日もアナグラ(場所は知らない)に向けて旅を続けている最中だ。俺自身、真っ当な神機使いか、神機の妖精か、アラガミかどうかはっきりしていないので、早急に誰かと会う必要がある。腕輪の偏食因子の事もあるし、悠長にしている暇はない。
愚者の空母から北へ真っ直ぐ歩き、がむしゃらに辺りを見回す。効率が悪いのはわかっているが、ロードローラーで探す以外に手はないのだ。あぁ、元の世界だったらGoogleマップですぐわかるのに……。
かつて繁華街であっただろう街並みもすっかり廃れ、車道と歩道の大半が土の中へと消えている。街灯は先端が折れているのもあれば、根元から倒れているものもあった。乗り捨てられた自動車は錆びていて、例え鍵とガソリンが残っていても二度と動き出しそうにない。
すると、道の真ん中で一人の青年が膝をついているのを見つけた。合わせた両手を握って祈りのポーズを取り、固く目を瞑って何やらぶつぶつと呟いている。
また、青年の前には一体のオウガテイルが立っていた。オウガテイルはじろじろと祈りを捧げている青年を見つめては、だらしなく口から涎を垂らしていた。そして、万物を喰らい尽くす牙を青年へと向ける――
何あれ。てか、待てぇぇぇ!!
そう思った俺は反射的に神機を銃形態に変更させ、ほぼ無意識にトリガーを引いた。銃口からは火属性を示す赤い弾丸が連射され、銃撃の反動で身体は少しだけ後ずさる。
発射されたオラクル弾は弾道を曲げる事なく、真っ直ぐオウガテイルの頭部へと飛んでいった。先陣を切った弾丸が命中するのを皮切りに、立て続けに着弾していく。全弾を受けたオウガテイルはその場で大きくよろめき、無様に地面の上に倒れ込む。
勿論、これだけでオウガテイルは死んでいなかった。祈りを続けるばかりで一向に逃げようとしない青年を傍目に、俺は大急ぎで神機を刀身形態に戻し、オウガテイルが起き上がらない内に全力で駆け出す。
相手をこちらの間合いに入れると、尾刀クロヅカを容赦なく縦に振り下ろした。
「Guaa!!」
胴を斬られた事でオウガテイルは悲鳴を漏れ出す。それでも俺は情けを掛ける事なく、下ろした神機を裏に返して斜めに振り上げた。
オウガテイルの胴に大きく十字の傷が出来上がる。それから間髪入れず神機を捕食形態にして、目の前の瀕死のアラガミへ存分に喰らいつかせた。
黒い顎がオウガテイルの体組織を噛み壊し、周りを憚る事なくモシャモシャと咀嚼音を立てる。その奥にアラガミの中枢であるコアを探り当てると、コアを思いっきり引き抜き、ようやく牙をオウガテイルから離した。
コア摘出が完了し、神機も元の刀身形態に戻る。コアを失ったオウガテイルは、それから程なくして霧散していった。
(相変わらず、すごい動き方ができてるよな。俺って……)
そう思うと、スピードハンティングを軽々とこなしている自分に何だか嫌気が差してきた。我ながら、最近まで平和のぬるま湯に浸かっていた日本人とは到底思えなくなってくる。
一方で青年の方を見てみると、間近で戦闘が起きたにも関わらず、未だに祈りを捧げていた。眉間にシワを寄せて休みなく祈りの言葉を口にしている姿は、ある種の強迫観念に囚われているようで逆に恐ろしく感じた。何なの、この人。
かくして一種の条件反射でオウガテイルを退治した訳だが、この青年をどうすればいいのだろうか。祈りをやめる様子はなく、誰かが水を差さなければ落ち着きそうにもない。そもそも、この人は俺の事が“見える”のか?
「あの、すみません」
「神よ、どうか私をお救いください。神よ、どうか私をお救いください。神よ、どうか私をお救いください……」
「えっと……聞いてま――」
「神よ、どうか私をお救いください! 神よ、どうか私をお救いください! 神よおぉ!!」
話し掛けてもそれを遮るように祈りを強め、遂には大声を出して何も耳にしようとしない始末。しかも表情を苦渋の色にまで染めてまで。本当に何なの、この人。
ひたすら「お救いください!」と連呼しては、ぷるぷると身体を震わせていく。ワンフレーズごと丁寧かつ一生懸命に叫んでいるせいで顔は真っ赤になり、苦しそうに息をしている。
これ以上はまずいと感じた俺は、青年の肩に手を置いてもう一度語り掛ける。
「落ち着いてください! 何歳ですか! あ、俺何言ってるんだ……」
青年だけでなく俺も少なからず動揺していたようで、うっかり変な事を口走ってしまった。年齢とかどうでもいい。
しかし、変な事を言ったのが利いたのか、青年はふと呪文を唱えるのを止めた。そして、ゆっくりと瞼を開いて俺に視線を飛ばしてくる。
「……神」
「へ?」
紙? 神? 髪? 噛み?
青年のその一言に、俺は戸惑いを抱かずにはいられない。当然、俺はこの人に会うのは今回が初めてで、彼も俺の事を微塵も知らない筈だ。神とか呼ばれる道理はない。
その直後、青年は立ち上がるどころか、逆に俺に向けて平伏した。
「神よ! 私たちの願いを聞き入れてくださり、誠にありがとうございます!」
「神じゃないです」
あまりにもしつこく感じたので、俺は咄嗟に否定してしまった。別に本当に神ではないので問題はないのだが。
俺から酷い返事を受けた青年は、それでも笑顔を絶やさずに祈りのポーズを取ってくる。先程とは一転して、本心から嬉しく感じているような表情だ。
「正体を隠したいお気持ちはわかります! ですが、その仮面と肩掛けは紛れもなくオウガテイルのもの! 教主様から言い伝えられた通りのお姿! 間違いありません! あなたは、この世で不義を働くオウガテイルを成敗しに来た真のオウガテイルであり神の分身、マスク・ド・オウガ様です!! 人の姿をしているのは、地上に降りるための仮の姿でございましょう?」
(……何それ)
青年の怒涛の解説を受けて、俺はひたすら引く事しかできなかった。不義を働くオウガテイル? 神の分身? 何のこっちゃ。
この世界において神の存在は、アラガミがいる事もあって全く信じていない。ただ俺が気になるのは、何故この青年がマスク・ド・オウガの名を知っているかである。
ゲーム中にマスク・ド・オウガが登場する事は一切ない。あるとしても追憶のエリックぐらいで、マスク・ド・オウガ自体はDLCで手に入る後付けの存在だ。ストーリー上で関連しようがなく、普通に考えれば目の前の青年にその名前を知る由はどこにもない。
プレイヤーの間でまことしやかに正体は誰かと囁かれてきたが、ついぞ決定的な証拠を得るには至らず、謎の迷宮入りを果たした特殊な神機使い。それが俺の、マスク・ド・オウガに対する個人的な印象である。
また、“教主の言い伝え”という点にも引っかかる。誰がどういう意図でオウガテイル教(仮)なんてものを開いたかは知らないが、その教主に話を聞けば、俺がマスク・ド・オウガになった理由も少しわかるかもしれない。
勿論、こうなった原因の根拠として判断するには眉唾物である感は依然として否めない。ミッションの方でもテスカトリポカ討伐任務の説明欄に、生け贄を捧げるカルト教団云々と書いてあったせいでもある。仮に話を聞けたとしても情報の信憑性が足りないだろう。アラガミを崇拝しているだけに。
しかし、情報入手源が非常に限られている現状では、一考の余地は十分にあると思う。
「私たちは常にこの日を待ち望んでおりました! もてなす準備はいつでも出来ております! 拠点まで案内いたします! ささ、こちらです!」
「あ、ちょっ――」
その後、俺は引っ張られるようにして青年の後ろをついていった。
※
極東支部において、偵察班と偵察部隊の狭義での違いは、人員に神機使いが構成されているか否かである。
神機使いの絶対数がどうしても少ない事から、神機使いから成る偵察班の規模は偵察部隊と比べて遥かに小さい。だがアラガミに対する効果的な迎撃手段を有しているため、偵察任務による死亡率は他の通常部隊よりも低い。それでも神機使いの人員不足に変わりはなく、偵察だけでなく戦闘の要請もしばしばある。
また偵察以外の仕事としては、新人神機使いの実戦訓練用に小型種のアラガミを追いやったり、即応の陽動部隊として機能する場合や討伐対象のアラガミを誘導する場合もある。戦場の花形ではないのは確かだが、資材回収班や討伐班などの様々な部隊を心おきなく各地へ派遣するためには欠かせない存在だ。
そして、贖罪の街近郊にて。低いビル群ばかりが建ち並ぶその場所へ、カンナ率いる偵察班は出撃していた。
人員はリーダーのカンナ、部下のツルギ、リノの三名である。男女比は一対二。三人とも第二世代型の神機使いであり、銃身はスナイパーを使用している。
ビルの屋上に陣取る一向は、ステルスフィールドを用いながら周囲の状況を確認していた。カンナは敵襲に警戒しながら肉眼で自分たちの付近を逐一確認し、残りの二人は双眼鏡でより遠くの場所を眺める。
「うげっ。滅茶苦茶湧いてるぅ……」
すると、アラガミの群れを発見したツルギが声を漏らした。双眼鏡から目を離し、おそろしやという風に肩を抱える。
その時に偵察服の布同士が微かに擦れ、ツルギの耳元にその摩擦音がやって来る。任務に集中するには余計な雑音だが、むしろ本人は極端にリラックスしていた。それからカンナに腕を軽く叩かれると、彼女に双眼鏡を手渡す。
カンナはツルギが指差す方向へ双眼鏡を覗き込む。
双眼鏡越しで見る景色の中には、やたらと殺風景な広場があった。広場には複数のシユウがたむろしており、のびのびと近くの残骸などを捕食している。
また、ツルギから口頭で別の方角を指示されると、元商店街だった建物群の中に大量のザイゴートを発見した。シユウと共に堕天種は確認できない。
双眼鏡をツルギに返し、カンナは極東支部にいるオペレーターへ通信を飛ばす。
「こちらカンナ。シユウを三体確認。別方向からはザイゴートの群れがいる。数は……九だ」
『はい。こちらからも反応をキャッチしました。シユウとザイゴートの確実な分断をお願いします。その間に討伐隊を向かわせますので』
「了解」
通信を介してオペレーターの指示を得たカンナは、すぐさま二人の部下にも指示を伝える。
「ではいつも通り。集中狙撃でアラガミを少しずつ釣るぞ」
「アイアイサー」
「了解しました」
神機を構え始めるカンナを横にツルギは軽い調子で、リノは生真面目に返事をした。
三人は横一列に並び、専用に取り付けられたスコープを使って敵を照準する。発射と同時にステルスフィールドが強制解除されるため、後にザイゴートに発見されるリスクを考慮して、射撃体勢は伏せだ。
狙いを澄ませ、一斉にトリガーを引く。
ビルの屋上から放たれた三本の光線は住宅街跡地の上を突き進み、目にも留まらぬ速さで大気を貫く。それら狙撃弾はやがて、一体のザイゴートの頭部にある巨大な眼球へと直撃していった。
オラクル細胞の高エネルギーで眼球を徹底的に破壊され、あっという間に絶命するザイゴート。空中から地面へ落下し、ドスンという音を立てる。群れを形成していた他の個体は、突如として訪れた仲間の死に面食らった。
だが、その死を少しでも悲しむ素振りは見せず、一瞬にして厳戒態勢へと移った。ザイゴートたちは目玉をギョロギョロと動かしながら、攻撃方向から逆算して敵の索敵をおこなう。
その間にも偵察班による長距離狙撃は続き、一体、また一体とザイゴートの数が減っていく。閃光に穿たれた卵状の怪物は地へと墜ち、同時にその身体を揺らす。
着弾を確認し、ザイゴートが命尽きる様を黙々と見つめるカンナたち。そんな中、ザイゴートのたわわとしている胸部に何気なく視線を向けていたツルギは、とある総統の台詞を思い出した。
「おっぱいプルンプルン!」
「ツルギ、後でぶん殴る」
「ごめんなさい。真面目にやります」
リノの冷ややかな口調にツルギは恐れを成すと、悪ふざけを止めて狙撃に再び集中した。
しかし、残り六体というところでカンナたちの居場所が遂にバレてしまった。ザイゴートの卓越した視力がビルの屋上にいる三人の人影を明確に捉え、浮遊高度を更に上げていく。
それからザイゴートたちは無規則な機動を取りながら、猛スピードで偵察班のいるビルへと突撃していく。
これまで狙撃による集中攻撃を徹底して一体一体の確実な撃破をやってきた三人だが、偏差射撃が利きにくいような回避運動を取られては敵わない。潮時だと判断したカンナは、ザイゴートが急速接近してきた段階で即座に狙撃を切り上げる。
「狙撃終了。ポイントを移動するぞ」
カンナがそう告げると、彼らはビルの屋上から急いで下へと降りていった。ザイゴートを誘導し、ゆっくりと着実な撃破を意識した近接戦闘へと持ち込む魂胆であった。
ここ数年で急速発達したレーダーの性能もあり、オペレーターによるナビゲートもほぼ万全。アラガミの位置情報を常に把握できるのは、三人にとっても非常に助かる事だ。
ちなみに、ツルギとリノが階段経由で丁寧にビルを降りたのに対し、カンナは屋上から無傷で飛び降りたのはここだけの話である。
この後、偵察班は無事にザイゴートを殲滅すると、シユウを狩る討伐部隊の狙撃援護に回った。ついでの仕事のように。
シリアスとギャグが壊れて混ざった匂いがする? 自覚はしています。