ワンパンマン ~不思議な隣人~   作:Enoch365

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第二撃 勧誘、フブキ組

F市に存在するビル、とあるレンタルオフィスの一室に黒一色のスーツを着込んだ人間が数人集合していた。

 

 

「彼が最近活躍しているって噂のB級ヒーローね」

 

 

パラ、と1枚の紙を机の上に置いたのは深い緑色をしたドレスを着たグラマラスな女性。傍には数人の黒スーツを着た男女が控えている。

 

 

「はい、フブキ様。彼はC級ヒーローになってから銀行強盗や暴徒の鎮圧、幾つかの事件をハイスピードで解決しており最短距離でB級に昇格しています。数日前に起こった対怪人用兵器の暴走事件の解決も彼が一枚噛んでいるそうです。今現在のランキングはB級43位です」

 

 

傍に控えていた男の内、長髪を後ろで結った男がフブキと呼ばれた女性の前に新しい紙を差し出した。フブキは差し出された紙に視線を滑らせると、満足そうに頷く。

 

 

「そう…前例は余り多くはないけど期待値は高いわね。フブキ組に加入させておいて損は無いわ、彼の住所は?」

 

 

「こちらに」

 

 

次にフブキの前に髪を差し出したのは百合の花弁を模したかんざしを頭に挿した女性。彼女が差し出した紙をフブキが読んでいくと、フブキの顔が段々と青褪めていく。

 

 

「フ、フブキ様?如何されました?」

 

 

フブキの様子が変わったのを見て女性が心配そうに問いかけた。

 

 

「本当にこの住所で間違いないの?」

 

 

「はい、そちらで間違いないようですが…」

 

 

「そう…」

 

 

女性の言葉を聞き、フブキは綺麗に整えられ磨かれた爪を軽く噛んだ。

 

 

「…マツゲ、山猿」

 

 

「「はっ」」

 

 

フブキに呼ばれた二人の男が前に歩み出る。マツゲは先程フブキに紙を差し出した男、山猿は身体の大きな偉丈夫で、それぞれB級ランキング2位と3位の男である。

 

 

「貴方たち二人で行って来て…私は行かない」

 

 

「え?…えぇ、わかりました…ですがよろしいのですか?フブキ様が来られないまま勧誘となると相手の心証を悪くする恐れがありますが…」

 

 

「構わないわ…話だけして来て」

 

 

「わかりました。行くぞ山猿…リリー、住所の紙をくれ。失礼します、フブキ様」

 

 

「えぇ…頼んだわよ」

 

 

マツゲと山猿が部屋を出ていった後百合のかんざしを挿した女性、リリーがフブキに問いかける。

 

 

「フブキ様、何かお困りごとが?」

 

 

「――の部屋なのよ」

 

 

フブキは爪を噛みながら小さくつぶやいたが、小さすぎて女性の耳には入らなかい。

 

 

「…?申し訳ありません、よく聞こえませんでした」

 

 

「―――姉の住んでる部屋の隣なのよ…彼の部屋…」

 

 

「え…と言う事は、お隣にタツマキ様がお住まいになっていると?」

 

 

リリーは信じられないと言った顔でフブキの顔を覗き込むが、フブキの反応からして事実であるようだった。

 

 

「そう…行ったら絶対に絡まれるもの…行きたくないわ…」

 

 

「成程…」

 

 

フブキは姉のタツマキに対して強烈なコンプレックスを感じている。偶然会えば話すのだがそれ以外ではあまり顔を合わせたくないと言うのが彼女の素直な気持ちである。とはいえ、一緒に買い物にも行ったりすることはあるので仲が悪いと言う訳でもない。単純に姉との付き合い方が分からないのだ。

 

 

「出来れば今回の勧誘で来てくれたらいいのだけれど…私から出向くことになったら…頭が痛いわ…」

 

 

フブキはため息を一つつくと額を押さえて天井を仰いだ。

 

 

*

 

 

フブキから命令を受けたマツゲと山猿は紙に書かれた住所に到着した。

 

 

「ここで間違いないな…」

 

 

「あぁ、部屋番号も間違いない」

 

 

山猿の出した紙を再度確認してマツゲはドアの前に立つと

 

 

「B級43位のXI(サイ)!我々はB級ランキング1位のフブキ様から遣わされた者達だ!話がある!」

 

 

大声で玄関にかけて呼びかける――が、ドアが開く様子は無い。

 

 

「……」

 

 

「…出てこないな」

 

 

「よし、もう一度……おい!!B級43位のs「うっさいわね!近所迷惑よ!」――あべしっ!!」

 

 

「マ、マツゲぇ!!??」

 

 

もう一度、とマツゲが呼びかけ始めると突然玄関ノドアが勢いよく開け放たれマツゲの顔面に直撃。マツゲは勢いよく吹き飛ばされ後ろの壁に激突してしまいズルズルと崩れ落ちた。

 

 

「まったく…朝早いんだから静かにしなさいよ」

 

 

開け放たれた玄関に立つのは小さな少女、タツマキであった。タツマキはピンク色のパジャマを着ておりマツゲと山猿を睨みつけている。

 

 

「タ――タタタタタタツマキ様!?」

 

 

「え、でも…え…?」

 

 

山猿はあたふたと慌てふためき、マツゲは鼻血が出続ける鼻を押さえながら住所の書かれた紙を取り出し部屋番号を確認している。

 

 

「私はここの隣に住んでるのよ!…ったく…XI(サイ)!客よ!」

 

 

タツマキは振り返ると奥に声をかけた。

 

 

「いや、いきなり玄関まで突っ走らないでくださいよ…下の人に迷惑じゃないですか」

 

 

「コイツらがうるさいからよ。それに次からは浮遊してやるからいいでしょ別に」

 

 

「そうですけど…そもそもあんな風に開け放ったら怪我しちゃうじゃないですか。現に鼻血出されてるみたいですし…ティッシュ持ってきますね」

 

 

奥から出て来たのはジーンズにパーカーというラフな格好をした銀髪の青年。青年は腕を組みながらタツマキを嗜めると一旦奥に引っ込みティッシュを数枚引き出してマツゲに手渡した。

 

 

「あぁ…ありがとう」

 

 

「それで…フブキさんからお話があると言う事ですが?」

 

 

「「―――…ッくぅ」」

 

 

「どうしました…?」

 

 

「いや…まともに対応してくれたのが少しうれしくてな…」

 

 

鼻にティッシュを詰めながら目頭を押さえるマツゲと山猿。彼らは依然の勧誘でロクな目に合わなかったのでその時の一件を思い出しているようだった。

 

 

「ふんっ、どうせフブキのB()()()()()の勧誘でしょ?」

 

 

タツマキはフブキの作り上げたフブキ組を快く思っていない。フブキ組はフブキの超能力の才能を食いつぶす存在、彼女にたかる足手まといの集まりと考えているからだ。

 

 

「B級同好会ではなくフブキ組なんですが…えぇ…一応そうです…ですが…」

 

 

チラチラとタツマキの様子を伺うマツゲ。話しづらそうにしているその様子を敏感に感じ取ったタツマキはマツゲを睨みつけて委縮させる。

 

 

「…何よ、私は邪魔ってわけ?」

 

 

「いっ、いえ…そういう訳では…しかし何故タツマキ様がこちらに?」

 

 

「……朝ごはんを食べさせてくれるっていうから来ただけよ。先に奥に行ってるから」

 

 

そう言うとタツマキはふわふわと奥へと姿を消した。

 

 

「…すいませんね、朝から痛い思いさせちゃって」

 

 

「いや、構わない……だが、お前とタツマキ様と一体どういう関係なんだ?」

 

 

マツゲと山猿からすれば自分達が仕えているフブキの姉、タツマキとB級の人間が一緒に朝を過ごしているという事実が信じられないでいた。

 

 

「うーん…何でしょう、一応戦場を共にした仲とも言えますし…同じく超能力を扱う同類とも言えますし。それこそご飯を一緒に食べる関係とも…」

 

 

腕を組み首を傾げるXIにマツゲと山猿は言葉を失う。

 

 

「で、でもタツマキ様は全ヒーローの中で最も扱いにくいと噂のお方だぞ…よく無事でいられるな?」

 

 

声のボリュームを極力落としてXIに話しかけるマツゲ、XIはその言葉を受けて苦笑する。

 

 

「まぁ、口下手で恥ずかしがり屋なだけで性格そのものは悪くはないと思いますよ。今のところ攻撃されたりはしてないですし。―――それにしてもフブキ組の勧誘だとか?」

 

 

「あ、あぁ…フブキ様がお前の働きに目を付けられてな。どうだ、フブキ組に来ないか?」

 

 

少し脱線した話題をXIが自ら修正すると、マツゲは背筋を伸ばして改めて勧誘を申し出る。

 

 

 

 

「申し訳ありませんが、お断りします」

 

 

 

 

「……何故だ?」

 

 

XIの答えにマツゲの顔が険しくなる。

 

 

「フブキ組は人数で怪人や賞金首を叩くことが多いと聞きます。そして功績と懸賞金もまた人数で分配すると…でもそうしてしまうと落ちこそしないけど上には行けないですから」

 

 

至極当然、と言わんばかりにXIは答えた。マツゲはその言葉を聞き目を細める。

 

 

「上…A級の事を言っているのか?」

 

 

「えぇ、まぁ…そうですね」

 

 

マツゲは一度ため息を吐くと肩をすくめた。

 

 

「残念だがそれは無理だ…俺達はB級になって長いから分かる。Aから先は俗に言う天才の集まりだよ…ネットの掲示板なんかではS級からが本物のヒーローだ、なんて言われてはいるがそれは戦場を経験していない人間の戯言だ。フブキ様もA級になる事自体は何ら問題はない…しかしあのフブキ様でさえA級1位にはなれないんだ…それだけの化物ぞろいの世界なんだ、A級は」

 

 

務めて冷静に、マツゲはXIを説得するかのように話す。しかしXIは真面目な顔でマツゲの顔を見据える。

 

 

「――それでも僕は取り合えずAに行きますよ。それに答えこそ変わりませんが勧誘されるならご本人からお誘いして貰いたかったですね、一応僕にも多少のプライドはありますから」

 

 

「……それに関しては謝罪しよう…すまなかった。行くぞ、山猿」

 

 

「あ、おい…いいのかこのままで」

 

 

一度頭を下げた後踵を返して歩き出したマツゲを山猿が止める。

 

 

「…?何がだ?」

 

 

山猿はマツゲの耳元へ手と口を近づけてXIに聞こえない様に

 

 

「いや…制裁の件だよ…入らなかった奴は少し痛めつけるっていうあれだよ」

 

 

そう話すと、マツゲは呆れたように山猿を見上げる。

 

 

「出来るかそんな事、タツマキ様のご友人だぞ。死にたいのかお前は」

 

 

「――ッ…そ、そうか…それもそうだな…失礼する」

 

 

その言葉に山猿は一度廊下の奥を見て、ため息をついた後にXIに一礼をした。

 

 

「えぇ、もしまた来られると言うのなら今度はフブキさんも来られるように伝えておいてください。お茶菓子を用意しておきますから」

 

 

「わかった。お伝えしよう」

 

 

背を向けて帰っていくマツゲと山猿を見送るXIの背後、廊下の陰からタツマキが話しかける。

 

 

「――断ったのね、勧誘」

 

 

「えぇ、こう言うのも彼らに失礼ですがメリットがあまり…」

 

 

「……そう」

 

 

肩をすくめたXIを見てタツマキが息を吐く、その様子を見てXIは微笑んだ。

 

 

 

「妹さんに僕を取られなくてよかったですね」

 

 

 

「――ッハァ!?何言ってんのよ!?意味わかんない事言わないでくれる!?アンタなんていなくても別に寂しくないんだから!勘違いしてんじゃないわよ!」

 

 

「だって僕がいなくなったらまた一人で外食だけになってしまいますからね…でも…へぇ……()()()んですか?」

 

 

「―――ッ!!もう!!」

 

 

「あだっ」

 

 

バスン、と奥からクッションが飛んできてXIの顔面を直撃する。

 

 

「ご飯にするわよ!」

 

 

「待ってくださいってば」

 

 

直ぐにXIに背を向けて奥へと入っていったタツマキにXIは苦笑しながらクッションを拾い上げた。

 

 

*

 

 

「どうだった?」

 

 

帰ってきたマツゲと山猿を見たフブキが問いかける、するとマツゲは言いにくそうに

 

 

「駄目でした…状況が状況だったので制裁も不可能であると判断し、しませんでした」

 

 

「状況が状況?どういう事?」

 

 

フブキがマツゲに聞くとマツゲはどこか言いにくそうに

 

 

「いえ…その…彼の家を訪ねたのですが彼ではなくタツマキ様が出てきて…」

 

 

先程の出来事を思い出し、話し出す。

 

 

「――は?部屋を間違えたの?」

 

 

「違うんです――信じられないかもしれませんが…彼の部屋にタツマキ様がいらっしゃったんです」

 

 

「………え?」

 

 

凛とした表情を崩さないフブキが珍しくきょとんとした顔でマツゲの顔を見た。

 

 

「本当ですフブキ様、パジャマを着たタツマキ様が彼の部屋に…彼女曰く『朝ごはんに誘われたから』らしいのですが…」

 

 

「――う、嘘でしょ!?お姉ちゃんが他人と関わるどころか家に上がり込むなんてある訳ないじゃない!?」

 

 

それこそ信じられないと言う顔でフブキは声を荒げる。

 

 

「ウソも何もこの目で見てきたんです」

 

 

「マツゲが鼻血を出したのもタツマキ様が玄関を思いっきり開けた時に顔を強打したからで…」

 

 

マツゲの顔と山猿の態度を見て嘘はついていないとフブキは確信する。

 

 

「ほ…本当なのね…」

 

 

「どうされるのですかフブキ様。彼はタツマキ様のご友人とも取れる立場にありますが…」

 

 

「……わかった。次は私も行くわ」

 

 

「しかし…タツマキ様と喧嘩になったりしたら…」

 

 

「確かにそういう事も有り得るけど…何より興味がわいたのよ。姉さんが無下に扱わないXIと言う人間に」

 

 

リリーがファーコートをフブキの肩に掛け、ドアを開ける。

 

 

「行きましょう、車を回してちょうだい」

 

 

「「「はっ!」」」

 

 

*

 

 

「…ご馳走様」

 

 

「お粗末様でした」

 

 

朝食を食べ終えたタツマキは手を合わせると、食器を浮かせて流し台へと運びサイコキネシスで洗い始めた。

 

 

「いやぁ、助かります。洗い物って面倒なんですよね。食洗器買おうかな…」

 

 

「アンタもサイコキネシスでやればいいじゃないの」

 

 

「毎回できませんよ、疲れますし…。楽が出来るなら楽をするのが一番です」

 

 

「ふーん…そう…」

 

 

その時またインターホンが鳴り二人の視線は玄関へと向けられた。

 

 

「…またあいつ等かしら、仕方ないわね」

 

 

ゆらり、とタツマキが立ち上がり玄関へと歩いていく

 

 

「今度はゆっくり開けてくださいね」

 

 

「わかってるわよ」

 

 

ガチャリとタツマキはゆっくりとドアを開けて来客を確認し――目を見開いた。

 

 

 

 

「一週間ぶりくらいかしら……お姉ちゃん」

 

 

 

 

 


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