東京喰種-Criticalmind-   作:紗代

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蹂躙

今日はバイトが休みなので情報を求めてイトリさんのバー「Helter Skelter」へ向かう。「待っている」カネキくんの事ではなく別件で。

 

「はーい、というわけで今回の嘉納の情報ね」

「お願いします」

 

カネキくんと私が九死に一生を得た移植手術の執刀医。CCGのお抱え医師だったことなどの表面的なことしか分かっていない謎の多い人物の一人。私の身体については私も知らないことがまだある。そもそも私の時も今回のカネキくんの事故も都合がよすぎるように思えてならない。なのでこうして定期的に情報が集まるイトリさんのもとに来ているのだ。

 

「今回はあるわよ、とっておきのが」

「はい」

「嘉納は今―――――」

 

*****

―――嘉納は今とある資産家の屋敷地下にある専用のラボにいる。

 

そう告げられた私はすぐに準備を終えそのラボへと向かった。

地下に入るとそこは迷路のようになっていた。とりあえず私以外の匂いや音はしないので先に進む。自分の感覚と直感を頼りに進んで行く。長い長い道のりの先にあったのは中心に塔のような柱が立った今まで見てきたどの部屋よりも広い空間だった。しかしそこにも嘉納教授らしき存在を感知することが出来ず、そのまま奥へと進む。

 

通路を歩いていると音がした。微かにだけど人間や喰種の匂いもする。食事、だろうか。でもそれにしては音が無さすぎる。そう思っていると斜め前の扉が開いた・・・入れ、ということだろうか。周囲を警戒しつつ中を覗こうと近づく。

 

「入り給え」

「!」

 

その中から聞き覚えのある声がしたことで私はゆっくりと入り口の前に立った。

 

「やあ、久しぶりだね。氷室美月くん」

「お久しぶりです―――嘉納先生」

 

その部屋にいたのは私の執刀医にして今回の目的の人物。嘉納明博教授だった。

 

「その後、どうだねその身体は?」

「ええ、不便が増えましたが、彼とあなたのおかげでなんとか食い繋いでいますよ」

「ほう。それはよかった。余程彼との相性が良かったと見えるね。馴染んでいるようで何よりだ。実にいい。やはり君といいカネキくんといい君たちは私の最高傑作だ!」

「・・・今日は、先生に伺いたいことがあってきました」

「ふむ、君と彼・・・マヒトくん、カネキくんとリゼちゃんのことだね?」

「!、ええ、どう考えても今回の事故は私の時と同じく都合が良すぎる。意図的に起こったもの、なのではないのですか?そもそもマヒトとリゼに関してはあれだけ強大な力を持っているにも関わらず情報そのものが無さすぎる」

「・・・」

「私の勝手な憶測では組織ぐるみで動いているプロジェクトのようなものに組み込まれているように感じているんです。貴方の経歴も見せていただきましたが、総合病院の前にはCCGで解剖医をされていたとか。これだけ条件がそろっているんです。私が邪推してもおかしくないですよね?」

「・・・君は本当に聡明な子だね。そうだね、マヒトくんは本来なら君と同類を作り出すための赫包培養器になってもらうつもりだったんだ。今のリゼちゃんのようにね。しかし彼は君に必要な臓器と赫包を提供したのち死んでしまったんだ。遺体の腐敗速度が速くて一部を保存する事すらできなかった」

「・・・ではカネキくんとリゼは第二の私たちだと?」

「いや、君らとは別の思惑さ。私としては両方とも興味深いが・・・それにしてもマヒトくんのことは本当に残念でならないよ。彼は君との相性も含めてリゼちゃん以上の個体だっただろうから」

「・・・・・・」

 

なんだこの人。いや人として見ていいのだろうか。話せば話すほどこの人から人間味を感じられなくなっていく。マヒトやリゼ、おそらくカネキくんに対してさえ患者としてではなく実験材料として見ているのだ。本当に彼は人間なんだろうか。

そう考えていると人間や喰種の匂いと足音を感知する。そしてそれとほぼ同時に鳴り響く轟音。

 

「おや、ここも見つかってしまったようだね。仕方がない、私も引き上げるとしよう。ところで氷室くん。君は私とともにアオギリの樹に来る気はないかい?」

「いいえ。私は行きません。アオギリの樹にいい思い出は有りませんし、やらなきゃならないこともありますから」

「ふむ、それは残念だ。ならば他に打診するとしよう。それでは私は失礼するよ」

「・・・・・・」

 

そうして去っていく嘉納教授を私は足音が遠ざかるまで見送った。付いていきたくなかった。手に掛けることすら意味があるのかと立ち止まったのだ。しかし、手ぶらで帰るのも嫌なので自分が残された部屋を物色することにした。

物色を開始してからしばらく経つとここにはもう何も手掛かりになりそうなものがないことが判明してしまい、私はとにかく外に出ることにした。のだが・・・

 

「血の匂い・・・」

 

私が来た通路から、夥しい血の匂いと轟音が伝わってくる。自分の研ぎ澄まされた感覚が第六感となって警告を鳴らす。引き返してはいけない。この先は戦場だ殺戮だ蹂躙だ。まだ奥があるのだし、ここから相当離れているのだからそっちに行かずとも出口を探す方法なんていくらでもある。

けれど同時に、なぜか行かなければならないと思った。本当に直感的なことで表しにくいことだけど、私が行かなければならないと思ったのだ。

来た道を引き返していくとあの巨大なホールにたどり着いた。やはり濃くむせ返るような血の匂いがする。見渡すと血濡れの壁や床、転がる遺体・・・はまだいい方でなかには肉塊のように食いちぎられているものもあった。

そしてその中で一つだけ揺れる呼吸音。何かの這いずるような音。何かがいる。そう思って下を見る、と―――

 

そこには、行方知れずになった想い人がいた。

 

顔についている片目を覆うような甲冑、ムカデのようなデザインの赫子が這いずっている。さっきの這いずるような音はこの赫子によるものだったのだ。

 

「(まさかここにある残骸すべて、彼が倒して喰らったもの・・・?)」

 

しかしもしそれが本当だとすれば、あの状態にも説明がつく。あれはおそらく不完全な赫者、半赫者だ。きっと大量捕食による急激なRc細胞摂取のよる変化なのだろう。だとしたらまずい。赫者も半赫者も理性が飛ぶ傾向にあるため誰彼構わず攻撃してしまう可能性がある。嘉納教授の部屋で感知した音や匂いは複数あった。それが捜査官にしろ彼の仲間にしろ傷つけてしまったら、彼はきっと後悔する。

 

「(あの部屋には私たちの手掛かりどころかRc抑制剤すら置かれていなかった。いったいどういうつもりだヤブ医者め)」

 

抑制剤があればある程度確実に彼を鎮静化させることができただろう。でも今はないしかといってこの状態の彼を放置すれば―――

 

「(いずれ彼は、独りぼっちになってしまう)」

 

きっと、誰より聡いくせに寂しがり屋の彼のことだ。自分を責めて死ぬまでそのままなのだろう。そんなのだめだ。誰よりも優しい彼が傷付いてばかりなんて、報われないなんて。

 

「(やっぱり、この世界は間違っている)」

 

私は意を決して下のカネキくんのもとへ降り、彼が反応するより早く赫子を私の赫子で縫い留める。それと同時に舌を噛んでそれなりの血が口内に溜まったことを確認すると素明かさず彼の口に口付けた。

Rc細胞の濃度を薄めるために私の血液を口に流し込んだのだ。こんなことをしたことがないし、成功するかどうかも謎の賭けだ。

 

「(元に、戻って―――)っ!!」

 

彼に、舌を噛まれた瞬間、嫌な予感がした。

 

私の舌は、カネキくんに食いちぎられた。

 

「あ゛、あ゛ぁ゛あ゛ああああ」

 

痛みと呼吸のし辛さで口を離し、窒息しないように即座に舌の再生に取り掛かった。が

 

「ひひ、フヒハハハハ!!あまい、おいしいおかし」

 

カネキくんに赫子で殴られ押し倒された。

 

「ねぇ―――もっとちょうだい」

「―――っ!!」

 

恐怖し一刻も早くここを抜け出そうとするが力が入らない。口内の舌は普段ならもう再生しているはずなのに再生途中、まさか―――

 

「(あのピクルスか)」

 

やってしまった。そう反省しながらもがいていると服を引きちぎられた。カネキくんは破られたことで露わになった私のデコルテや谷間、腹に指を這わせる。

 

「きれいでまっしろ、ふわふわやわらかマシュマロ生クリーム、わたあめ」

 

そう呟くと勢いよく私の首筋に齧り付いた。

 

「!ぐっぁ」

「あまいはちみつ、とろとろ、おいしいねぇ」

 

咀嚼する音、飲み込む音、歯が食い込む感触、痛み、私の肉も内臓も食われていく。内臓が無くなったそばから再生し始める。燐赫でよかった。じゃないと死んでる。内臓が無くなる感覚、舌を食いちぎられる感覚で思い出したくもないあの拷問の記憶がよみがえる。そんなに美味いのか私は、それとも女を蹂躙したいのか。そう思ってしまうのは、たとえ好きな人であっても同じらしい。まったく薄情な自分を張り倒したい。

でもこれで私の赫包さえ食べられなければ薄まって満腹になって正気に戻るのではないのだろうかと希望的観測に思考を逃がし、好きな人に捕食されているショックを和らげる。

でも好きな人に捕食されて終わるのも中々乙なものかもしれない。むしろ私には贅沢な終わり方だと思う。どうやって服を隠そうか、もし自分が元仲間を食い切ってしまったことが分かればまた思いつめるかもしれないから私の痕跡は消しておかなければならない。

そう思っているとカネキくんが震えていた。食べるのも止まった。どうしたのだろうと動かし辛い首を動かし彼を見る。

 

「ミ・・・ヅキ・・・僕をみて・・・ぼくをみてくれよ・・・」

「!!」

「おいて・・・ないで・・・一人は嫌だ・・・おいていかないで」

 

馬鹿だな、私も、この人も。

 

「一人になんてしないよ」

 

そうだ、私はこの人の帰りを待ち続けるんだ。何勝手に死のうと思ってるんだろう。カネキくんも、こんなふうに思ってるならなんで出て行ったりするかな・・・。それに催促しなくても私はずっとあなたが思うよりあなたを見てあなたを想っている自信がある。断言できる。あなたのところにリゼが帰ってくるまで、いや、あなたに寄り添って理解してくれる人が現れるそのときまであなたを愛するよ。だから大丈夫。

 

「大丈夫」

「ぁ・・・ミヅ、キ?」

 

すると正気に戻ったのか鎧と赫子が崩れていく。そして惨状を理解したのか私を見ると顔色が真っ青になった。私のお腹の辺りはともかく私のデコルテや胸の部分は肋骨が見えているし臓器も完全に治ったわけではない食われた状態なのでグロテスクな光景を晒している。正気に戻る直前に気絶させるべきだったのだろうけど、傷を治すのに手一杯でそこまでの余力がなかった。

 

「僕は、なんてことを・・・っ」

「大丈夫だよ、傷なら治すから・・・そんなに背負わなくていいの」

 

なんとか起き上がって、血塗れで申し訳ないけど抱き寄せた。カネキくんは、恐る恐る震える手を私の背中に回した。

 

「う、うぅ、ああ・・・ごめん、ごめんミヅキ」

「うん・・・」

「っ、・・・僕は・・・僕は・・・・・・もう、喰べたくない」

「そうだね・・・本当に・・・・・・この世界は間違ってる」

 

そのとき、ホールの入り口にいた人間が中に入らず無言で去っていくのを私はそのまま見逃すことにしたのだった。

 

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