リゼが、死んだ。
金木くんとデート、の振りをした捕食の際に工事現場で落ちてきた鉄骨の下敷きになって。ショックを受けた。というかまだ信じられない自分がいる。あの奔放で食べることに貪欲なリゼがこうもあっさり死ぬなんて。憎まれっ子世に憚るというのは迷信だったのだろうか。
そして、目の前にいるのは金木くん。私の想い人。今回の事件の唯一の生存者。申し訳なさそうにしながらも、沈んでいる悲痛な面持ち。目のところが若干赤く腫れているように見えるのはきっと何度も泣いたからなのだろう。
「あ、あの、ごめんなさい。リゼさんは・・・・」
「なんで謝るの?」
こんな追い詰められても人の事なのか。お人好しかバカかそういう性質なのか。
「え、でも、リゼさんと仲良かったし・・・」
「そうだね、でも一番ショックなのは金木くんでしょう?リゼに裏切られて殺されそうになって、挙句その日から今までの常識が反転するような目に遭って。だからね、いいの。私たち喰種側は狩って狩られてが日常茶飯事なのだから。あなたを責めるのはお門違いだし、むしろよくここまで持ったね。お腹すいてたんでしょ?それでも今まであなたは周囲の人に手をかけたりしなかった。それは並大抵の事じゃないよ。十分誇っていいことなの。だから謝らないで。あなたは何も悪くないの」
「えらいね、金木くんは」
そういうと金木君はボロボロと大粒のなみだを流し始めた。とりあえず気休め程度にしかならないと思うが私のハンカチを目元に当てた。ハンカチはビショビショになってもそれで好きな人の涙を止められるなら私のハンカチ冥利に尽きるだろう。
*****
「え、人肉を食べるコツ?」
「はい。ええと、氷室さんもその、僕と同じ半喰種だって聞いて」
「ああ、なるほど」
だから今日急遽呼び出しが掛かったのか。今すぐになんて言われたから路地と屋根伝いに走ってきたけど大丈夫だったんだろうか・・・・人の匂いとか音は警戒してきたけど鳩はめんどうだからなぁ。
そんな風に頭の片隅で思いつつ、申し訳なさそうな顔をしている金木くんへの答えを模索する。私が成りたてだったとき、今ほど食べるのに慣れていなかったとき。あの人を失ってすぐの頃――――
「あ、あの、やっぱりいいで「料理」え?」
「人肉を食べるのに抵抗があるのなら料理して食べればいいの」
諦めて話を終わらせようとした金木くんの言葉を遮るように私にとっての最適解を告げれば金木くんは意外そうな顔で復唱した。
「料、理?」
「そう。まずは自分で狩るんじゃなくて、店長から普通の肉の塊みたいに加工した肉を買って、家に持って帰るの。見た目はただの血が滴ってる肉だからそこまで深く考えなければそのままでもイケるけど、それでも抵抗があるなら薄く切って馬刺しみたいにしたり、焼いてステーキとか水で煮てスープにするとかね。ちなみに私はスープがおススメ。肉に火が通って普通の動物の肉にしか見えないし、肉の出し汁でスープも美味しくてお腹に溜まるから一番お腹一杯になると思うよ」
「な、なるほど・・・」
「ああ、あと料理するときはなるべく、というか絶対にスパイスとか使って味付け・香り付けしないこと。人間の口にするものを加えたその時点でとんでもないことになるから。それで、もし肉が残ったら真空パックに入れて空気をよく抜いて冷蔵庫に入れておくと肉の鮮度を落とさずに長く保存してられるよ」
「はい・・・」
なんだか段々相槌を打つ金木くんの声が小さくなっていく。もしかして、私引かれてるのかな?
「ごめんね、色々話し込んじゃって」
「いえ、そもそも聞いたの僕の方からだし、気にしてないので」
「なら、いいんだけど・・・なにかあったら言ってね。力になれるかもしれないから」
「ありがとうございます。」
これで少し気を楽にしてくれるといいんだけど。
「たぶん、無理だよね・・・」
「知るかよあんな半端野郎。嫌ならここじゃないどっかでとっととくたばってればいいだろ」
「まあまあトーカ。あ、私コーヒー飲みたいな」
「・・・豆は」
「んー今日はブレンドで」
「はいはい、ったく」
そうしてしばらくするとコーヒーが突き出され私の手前に置かれる。それに口付けて一口飲むと前から視線を感じてひとまず食器を置いた。
「何、トーカ?」
「あんた、食べたの?」
「うん」
そして思い出す、思い出したくない記憶を。
「とりあえず、前の感覚で自炊するのはやめようと思ったよね」
「・・・そう」