東京喰種-Criticalmind-   作:紗代

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意識しはじめの淡さ

僕がここ、「あんていく」に勤めて数日。新たに気になる人ができた。

リゼさんを亡くして早々に切り替えが早い気もするが、まだこれをリゼさんの時と同じく恋と呼ぶには何かが足りない気がした。

氷室美月さん。

僕と同じ上井大学の理学部に在籍している女性。長く艶やかな黒髪と類稀なその美貌、見た目に反して社交的で行動派。温厚な性格から大学構内での人気は非常に高く、また成績も優秀かつ模範的な優等生であることから教師陣の受けもいい。

あんていくでは僕のバイトの先輩に当たる。僕が苦手なトーカちゃんとの橋渡しもしてくれるし、淹れてくれるコーヒーも美味しい。教え方も上手いし、客や人のあしらい方も上手かった。

 

「すごいなぁ」

「なにが?」

 

思わず声に出てしまっていたらしく本人が訊ねてきたが振り返るだけでその場から動かない。いや、動けないんだ。ヒナミちゃんが彼女の膝で寝ているから。

 

「ううん、なんでもない。それにしてもヒナミちゃん、ぐっすり寝てるね」

「そうね、疲れてたんじゃない?喰種は常に狙われてるから。人間にも喰種にも」

「人間にも?」

「そう、だってずっと昔から狙われ続けてるんだもの、そりゃあ人間だってただで食われ続けてくれるほど馬鹿じゃないよ。対抗手段、対策そういうのを開発することで人間は現代まで生き残ってきた。そうでなければ今頃喰種たちがこの世界を支配して人間は家畜・奴隷または難を逃れるために地下に潜ってる。」

「そう、だね・・・」

 

中立である半喰種で教養のある彼女のいう事は両方の側面を知っているせいか重みのあるものだった。事情を少し聞いてみたところ彼女は僕と同じ臓器移植手術による後天性の半喰種らしい。人間と喰種、どちらでもない微妙な立ち位置の僕らはどちらの味方なのだろう。

 

「金木くん」

「な、何?」

「今私の話を聞いて色々思うところあっただろうけど、変に気にすると碌なことにならないし、今のままでいいと思うよ」

「え!?」

「きっと色々考えたがるあなたのことだから『半喰種の僕は人間と喰種どっちを優先すべきなんだろう』とか思ってるでしょ」

「え、えーと」

 

どうしよう。ほとんどバレてる。そんなに顔に出やすいのか僕は。

 

「あのさ、私は人間でも大切な人はいるし、喰種の人たちのほうにも同じくらい肩入れする人だって少なくないの。だから優先するとかそういうことは考えなくたっていいのよ。単純に『助けたい』と思うかどうか。それだけでいいの」

「助けたいと、思うかどうか」

「そう、友達、家族、恋人、部下、上司、先輩、後輩いろんな関係を私たちは紡いでいるでしょう?それを『人間だから』『喰種だから』って分別してたら精神的に持たないし、やっぱりその時に『助けたい』・・・・『失いたくない』って思ったならだれでもいいんだよ。私たちは個人であって全員に平等にふるまわなきゃならない神様じゃないんだから。少なくとも、私はそうやって行動してるつもり」

「・・・・強いね、氷室さんは」

 

そういうと彼女はほんの少し微笑むとヒナミちゃんの頭を優しく撫で始めた。

 

「そうでもないよ、私は・・・逃げてばかりだから。私なんかよりヒナちゃんやトーカの方が強い」

「?なんで」

「だって・・・ふふ、なんでもないよ」

 

言いかけてそのまま閉じられてしまった言葉。それに僕が反応するより早く、彼女は撫でているヒナミちゃんの寝顔をみて呟くように、けれどハッキリとした口調で言った。

 

「愛し愛されることは、一番素敵で一番難しいことだよね」

 

その視線はヒナミちゃんをとらえているのに、まるでどこか遠いところを見ているような目をしていた。僕はその弱い部分を見せてくれた彼女に対して、抱きしめることも慰めることも出来ず、ただ黙ってその場に立っていた。

 

 

彼女に対する想いはまだ芽吹かない

 

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