6話
「私としたことが・・・っ」
久しぶりにヘルタースケルターに足を運んでイトリさんに話を聞こうと思ったら、前にヨモさんが金木くんを連れてきたことがあったらしい。そこでリゼの情報と引き換えに喰種レストランの情報を要求したのだとイトリさんは言っていた。
そこで私は思い出した。前に喰種レストランに連れていかれた時のことを、あそこはだめだ。人間の死体や解体に慣れていなかった時、いや慣れた今でも精神的に思うところがあるだろう。そんなところに連れていかれて、あの金木くんが平気なはずがない。
ましてや戦い慣れしていない彼の事である。半喰種化したばかりでも喧嘩慣れしていた私とは違う。もし私のように騙されて喰種の解体屋(スクラッパー)に殺されかねない状況になっていたりしたら・・・
「まずいな・・・」
金木くんのマンションを訪ねたり、あんていくや書店ものぞいたがいない。やはり月山さんが言葉巧みに約束を取り付けたと考えるのが妥当だ。となると金木くんの身が危ない。
私は自分のマンションの部屋に戻るとウィッグを外して髪を纏めて服を着替えウタさんにもらったマスクをつける。
―――――――もし、間に合わなかったその時は。
「殺す」
彼のことを解体したやつも、見物客も、喰ったやつも、みんな。
着いたときには既に日が落ちかかっていた。見張りの目を盗み中に侵入、会場まで一気に走った。会場は何やら大いに盛り上がっているようで、下にいるのは金木くんとスクラッパーの大男だけだった。しかし――――
「あれは、クインケ!?」
大男が持っているのはクインケだった。喰種しかいないこの場には有り得ない――――いや、月山さんが手配したのか。月山さんの家は有数の名家だから何かの伝手で手に入れたということも考えられる。一方の金木くんはもう既に切りつけられてしまったらしく脇腹から血を流している。そのうえ動きからしておそらく薬か何かを盛られているのかまともに移動できていない。
「ふざけんなよ」
呟くとそのまま下に降りて大男を蹴り飛ばし金木くんの前に立った。会場が一気にどよめく。
「あのマスク!まさか『ウィザード』か!?」
「凶悪で強い喰種を選り好みして食べるって噂のか!?」
「共喰いなんて正気じゃないわ!!」
「し、刺激するな!!喰われるぞ!!」
外野が何か言っているが私はそれよりも金木くんの怪我の心配である。後ろを振り返ると私の赫眼と金木くんの目が合った。
「大丈夫?」
「え、あ、はい」
「良かった、間に合って」
内心ほっとしながらも金木くんを安心させるために平静を装い笑顔を取り繕った。のだが。
「バラバラにしてやるのよママを興奮させてええ!タロちゃあああん!」
「ま、ま」
大男を飼いビトにしていた参加者の声で復活したスクラッパーがクインケを片手に迫ってくる。
「!」
「・・・そう、なら仕方ない」
この程度なら問題なく倒せるが、問題はクインケ。当たるつもりは更々ないが狙ってくるのは恐らく金木くんの方だ。金木くんの身体にこれ以上負担をかけるわけにもいかないので迫ってくる前に終わらせてしまおう。そう思い赫子を出そうとした瞬間。
スクラッパーは月山さんが貫き辺りを血濡れにしていた。
「こういうのはどうでしょう?マダムAの飼いビト 解体屋くんを味わうのは?」
その声に盛り上がる観客たちと自分の飼いビトを殺されたのにも関わらず月山さんの一言で手のひらを反すマダムAと呼ばれた参加者。吐き気がする。ここは金木くんを連れて即座に撤退するべきだ。金木くんになにかを囁いている月山さんには―――吹っ飛ばない程度に思いっきり殴らせてもらった。
「今度この人に危害を加えたら、私は全力であなたを倒します。では」
そのまま状況をよく呑み込めていない金木くんを抱き上げて会場を後にした。
*****
金木くんは怪我をしていたし着ていたドレスコードもボロボロのため着てきた私服を持って私のマンションまで連れてきて手当することにした。
「ちょっとごめん、傷見るから上脱いでね」
「う、うん」
女子の前で脱ぐのが恥ずかしいのか少し戸惑っていたけど私がハサミを構えると急いで脱いでた。脱ぎにくいなら手伝おうと思っただけなんだけどな・・・・ともかく脱いでもらったのでクインケで傷つけられた脇腹を見て触診する。
「っ」
「うん、とりあえず抉れてるわけじゃなさそうだし、相性の悪いクインケじゃなかったみたいだから大丈夫ね。私の赫子で治療するまでもないかも、これなら普通に自己治癒に頼った方が体的にはいいかもしれない。一応包帯巻いておく?」
「お願いします・・・」
包帯を巻き終わると金木くんがずっと私の事を見ていることに気付いた。ああもしかして・・・
「ひょっとして気持ち悪い?この髪」
「え!?いやそんな」
「目立つから普段はウィッグ付けてるんだ。高校3年の時にこっちに来たんだけど色々あってね、ちょっとストレスで脱色しちゃったの。だからこの髪は喰種として行動するときだけ」
「そう、なんだ・・・」
「はい、終わり。ドレスコードはこっちで処分しておくね」
「あ、ありがとう」
「どういたしまして。そうだ、今日はウチに泊って行ってよ」
「ええ!?でも、その・・・」
「もう遅いし、遠慮しなくていいよ。ええと、来客用の布団は・・・」
「・・・・・・」
金木くんが何か言いたそうにこちらを見ていたので私は来客用の布団を出して敷き終わると金木くんのもとに戻った。
「あの、聞いてもいい?」
「うん?」
「どうして氷室さんはここまでしてくれるの?知り合ったのは僕が喰種になったついこの間だし、それまで大学は一緒でも学部も選択も全く違うし、その、接点がまったくないのになんでかな、って思って・・・」
遠慮がちに聞いてくる金木くん。もう、言ってしまった方がいいのかもしれない。彼が知らないままでも親友の永近くんは気づくだろうし、いやもう気付いているかもしれないし。
「そうだね、ただ同類だからとか仲間だからとかそういうのは本音の一部だけど、ほぼ建前。私があなたに構うのは、あなたの事が好きだから」
「え、」
そのまま突然の告白に固まっている金木くんの目をしっかりと見て、はっきりと
「好きです。ずっと、入学式の時から。私はあなたに恋しています」
私は告白したのだ。