結局、金木くんはウチに泊らずあんていくに泊った。
そして私は見事に振られた。いや正確に言うと答えを濁された。
『ごめん、今まで氷室さんのことをそういうふうに見てなかったから・・・考えさせてほしいんだ』
そりゃそうだ。金木くんはまだリゼのことが好きなんだろうし、なんで私もあそこで告白しちゃったかな・・・もっと金木くんと交流してからでもよかったろうに。
「(まあ、いいか。ショックだけど・・・私は愛せればそれでいいし)そういえば、今日バイトだっけ・・・」
朝、気だるい寝起きの身体をひきずり起こしてあんていくへ向かった。
*****
あんていくに着いて、二階でインコを飼うことになったと聞きつけて行ってみれば、案の定泊まり込んでいる金木くんに遭遇した。
「あ、その」
「・・・ぷ」
しどろもどろになっている金木くんに思わず笑ってしまう。
「なんでそんなにぎこちなくなるの!・・・いいんだよ、気にしなくて。別に断ったからってこれから助けないなんて薄情なことしないよ。むしろこれからは仲間としてよろしくね、金木くん」
「う、うん。こちらこそよろしく」
さて、金木くんとの仲直りも済んだところで仕事だ仕事。確か今日は夜勤だった気がする。
*****
今日の営業時間も無事に終わり、ゴミをまとめて捨てに行って裏手からあんていくに入ると店の方から慌ただしい音が聞こえ走り去る足音とともに気配が遠ざかっていく。
「?なに、泥棒・・・なわけないか」
店は荒らされてないし、レジも確認したけど無事だし。じゃあ一体?店のドアを開けるとぐしゃぐしゃにされた一枚の紙があった。とりあえず拾って中身を見てみることにした。
「(まったく、ポイ捨てとか勘弁してほしいんだけど・・・)一体こんなのだれ、が」
内容は金木くんに宛てられた脅迫状だった。そして差出人は―――――やはり月山さんだった。
「あの変態美食家・・・っ」
どうやら忠告は効いていなかったらしい。
「ただで済むと思うなよ」
そのまま私も、金木くんたちが向かったであろう教会へ急いだ。
*****
駆けつけて扉を開けるとそこには満身創痍の金木くん、トーカ、ニシキ先輩と無傷で祭壇に寝かせられたおそらく人質になっていた女性、そして今回の元凶がいた。その手からは金木くんの血の匂いがした。
「やあ、そろそろ来る頃だと思ったよ。氷室さん」
「こないだ殴った時のセリフ、忘れたんですか?」
「もちろん覚えているとも!ゆえにカネキくんを喰らえば必然的に君もおびき寄せることが出来ると踏んでね。色々余計なものが付いてきたがもう片付いたことだし、さあ!多少遅くなってしまったがカネキくんをいただいた後、君を髪の毛から爪先まで隈なく味わい尽くそうじゃないか!!」
「勝手に言ってろ」
月山さんが言い切るのが早いか、私は特攻を仕掛ける。相手が吹っ飛んだことを確認しトーカと金木くんのもとに行く。
「助けに来るの遅くなってごめん。二人とも動ける?」
「なんとかね・・・」
「氷室さんはどうしてここに?」
「店の戸締りしようと思ったら金木くん宛ての脅迫状がぐしゃぐしゃになって店の前に落ちてたから心配になって金木くんの匂いを追ってきたの」
「え、匂い?」
「こいつ、化け物並の感覚してんだよ」
「化け物とは酷いな。と、傷の手当といきたいんだけど・・・そう長いこと伸びててくれないのよね、月山さん」
私が言い切るとほぼ同時に瓦礫から飛びあがり赫子を構え迫ってくる。
「っ氷室さん!!」
金木くんが叫ぶ。大丈夫、分かってる。その瞬間――――私の赫子が背後の月山さんを串刺しにした。
「が、か!」
「私、言いましたよね。彼に危害を加えたら、あなたを倒すって」
「いっそそのままそこで這いつくばってなさい」
私は刺さった赫子で引き裂くようにして宙に浮いた月山さんを床に落とした。
相性的に私の燐赫は彼の甲赫に対して相性がいいし、串刺しからの引き裂きでそれなりにダメージを与えているのでもう月山さんはこの場にいる誰よりも瀕死の状態だった。しかしそれでも彼は立った。立ってゆっくりと覚束ない足取りでこちらに向かってくる。
「カネ・・・き・・・くん・・・後生だ・・・とくち・・・ひと・・・ち・・・」
しかし、私が殴り飛ばしたことでそのまま動かなくなった。
「しつこい、自分の肉でも食べてろ変態美食家が」
*****
あのあと、ニシキ先輩の大切な人だという人質になっていた貴未さんの処遇について揉めた後、貴未さんの発した何気ない一言でトーカは出て行ってしまった。
「(綺麗、ねえ・・・確かに複雑だよね)」
匂いを辿って教会の屋根に登った。案の定、そこにはうずくまっているトーカがいた。
「トーカ」
「・・・何」
「帰ろう、ヒナちゃんも待ってる」
「・・・・・・」
動こうとしないトーカの隣に私も座る。
「やっぱり、複雑?・・・綺麗って」
コクリと声に出さずにほんの少しうなずくトーカ。
「そうだね、私もきっと複雑になる。言ってくれたのが同じ喰種ならまだしも、今にも殺そうとしてた人間からの言葉なら尚更ね。そのうえ・・・金木くんの話で揺らいだでしょ」
「うるさい・・・っ」
「ううん、今はそれで良いんだと思うよ。私たちは喰種である以上どうやったって行き着く問題だし・・・私にも人間の身内、いるし」
「!」
「だから私はそうならないように必死になって隠すよ。それはトーカもでしょ」
「うん・・・」
「今はそうやって隠しながら今の生活を楽しんで満喫すればいいよ。高校、ひょっとしたら大学もかもしれないけど、うまく隠し通せたらみんなの中のトーカは「人間」のままで終われるかもしれないよ?」
「そっか・・・」
「ね、トーカ」
「何?」
やっとこっちを向いたトーカに話しかける。
「今は全然ダメだけど、いつか・・・いつか喰種法が無くなって私たちが差別されたりしないような・・・「友達」とか「家族」とかはっきりと胸を張って言えるような、そんな世界になればいいのにね」
「・・・何言ってんだよ、馬鹿」
そんな憎まれ口を叩きながらも、トーカは嬉しそうに微笑んだ。