『飛雄へ。この前実家に戻ったばかりだけど、手紙を書こうと思います。
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ついこの間、同じ大学に通う男の子が私と同じバイト先で働くようになりました。名前は金木くん。私と同い年でこれまた私と同じように一人暮らしをしています。
ちょっと気弱だけど真っ直ぐで優しい人です。前に書いた同じバイトの女の子や店長たちにしごかれながらもめげることなく仕事をこなす姿がどことなくあなたに似ていたので知らせたくなって書いてみました。
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そろそろ12月。そっちでは雪が積もるのかな?東北の冬の寒さは尋常ではないとよく聞くどどうなんだろう?身体に気を付けて、バレーボール頑張ってください・・・勉強、しないと高校に入れないのでバレーボールを続けたければ勉強もしっかりすること。1年生なんてあっという間なんだから油断しすぎない事。
毎回書いてることですが、手紙を書いたことがあの人にバレると面倒なので読んだら燃やしてください。それではお元気で。
美月より』
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月山さんと教会で戦ってから三日後。店にいるのは僕と店長とトーカちゃん、そして氷室さんだけ。お客さんの出入りが緩んだ隙をついて僕は氷室さんを盗み見る。
最近益々氷室さんが気になるようになった。なぜここまで僕たちを助けてくれるんだろう?僕は彼女の想いを受け入れられなかったのに、気にするなと言ってくれたけど・・・だけど普通は自分を振ったような奴のところに迷わず助けに来るなんてことはしないはずだ。それに僕らが敵わなかった月山さんをいとも簡単に戦闘不能にして見せたあの強さ・・・一体どんなことをすればあんなに強くなれるんだろう。
そう思っていると来店を知らせるベルが鳴った。
「いらっしゃいま・・・飛雄!?」
「・・・姉貴」
現れたのは長身痩躯の鋭い目つきが特徴的な少年だった。
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来店客は、どうやら氷室さんの弟さんらしかった。なので氷室さんが注文を取り、給仕するのは分かるんだけど・・・
「・・・・・・」
「(し、視線が痛い・・・)」
なぜか彼の視線は氷室さんの方ではなく、それどころか彼女から出されたコーヒーでもない。何の関わりもない僕に向けられていた。食い入るような視線にさすがのトーカちゃんも気になるのか向こうに聞こえない程度に声を潜め僕を問い詰めてきた。
「・・・アイツ、さっきからずっとあんたのこと見てるけど、あんたアイツになんかしたの?」
「さ、さあ?その前にまず僕初対面なんだけど・・・」
頼みの氷室さんは買い出しに行っちゃったし、時間的にもお客さんは少なくて、今彼以外にいた彼の隣の人が会計を済ませてあんていくを出て行った。
「ほら、とっとと食器下げてきな」
「ええ!?トーカちゃんが行った方がいいんじゃないの?」
「私そろそろ上がりの時間だから、それにあんたが行けば自分が睨まれてる理由分かるんじゃないの?」
「それはそうだけど・・・」
「なら問題ないだろ」
そう言われてしまってはもう引き下がれなくなってしまい、僕は覚悟を決めて彼の隣のテーブルの食器を片付けに行く。その間も僕への視線は相変わらず刺さったままで、僕と彼の間には微妙な空気が流れている。
「(なんで僕、この子に睨まれてるんだろう)」
「・・・あの」
「は、はい?」
「カネキさんって、あんたですか?」
「え、あ、はい。この店で働いている金木は自分だけですけど・・・」
すると彼の目が一瞬見開く、しかしすぐに鋭い目つきに戻った。
「あんたが・・・あの、質問していいですか」
「はい?」
「あんたは、姉貴を・・・氷室美月の事、どう思ってるんですか?」
「え、氷室さん!?」
「そう、あんたと一緒に働いてるあの人の事です!」
「ど、どうって・・・バイト仲間とか、友達?」
「そう、ですか」
咄嗟に出た僕の答えを聞いた彼は一瞬寂しそうに、けれどそれよりも安堵しているように見えた。僕はとりあえず顎を触っていた手を下ろし、脇に抱えていた盆を持ち直す。
「なら、いいです。すいません、手間取らせて」
「い、いえ!ではごゆっくりどうぞ」
そしてコーヒーを飲むと会計にやってきた。トーカちゃんは気を遣ってなのか奥の方に下がっており、会計も僕がする羽目になった。
「今日は、ありがとうございました。」
「いえ、あの、氷室さんには挨拶していかなくていいんですか?」
「いいんです。最初に顔見れたし、それに今日の目的はあんたに会うことだったんで」
「え?」
「最近、姉貴が送ってくる手紙によくあんたの名前が出るようになって、姉貴との関係を聞きたかっただけなんで」
もしかしてこの子・・・
「お姉さんの事、好きなの?」
「なっ!」
指摘すれば分かりやすく顔を赤くして言葉に詰まった。
「なんで分かるんすか・・・俺が、姉貴のこと、その・・・好きなの」
「なんとなく、かな?」
「あっそ・・・義理の姉弟で、一目惚れ、なんですよ・・・!っじゃあ、俺もう帰ります。ありがとうございました。」
「こちらこそ、ありがとうございました。」
そうして去って行った彼の後ろ姿を見送りながら、僕はなんとも言えない気分になった。
*****
それからしばらくして氷室さんは買い出しから帰ってきた。
「只今戻りましたー・・・あれ?飛雄、帰ったの?」
「うん、今日は氷室さんに会いに来ただけだったみたいだからコーヒー飲んだら帰って行ったよ」
「・・・なんかあった?」
「え、」
「あの子、ちょっと口下手で主語が抜けてることもしょっちゅうでね、もしかしたら誤解を生むようなひどいこと言ったんじゃないかなって、思ったから」
顎の輪郭に触れていた手が止まる。驚いた・・・隠し事がバレたのかと思った。
「確かに口数の少ない子ではあったけど、静かないい子だったよ」
「そうね、元が素直な子だから・・・その良さに気付いてくれる人がいればいいんだけど」
ほんの少し憂いを滲ませた表情に思わず目を逸らしたく・・・いや目を逸らすことは出来なかった。きっと、今の僕の顔は赤くなっていることだろう。
「・・・お客さんいないし、ちょっと休憩しましょうか。私の奢りで」
「え、いいの?」
「いいのいいの、時間帯からして滅多にお客さん来ないから。で、何が飲みたい?キリマンジャロ?ブルーマウンテン?」
「じゃあ、ブレンドで」
「了解!」
さっきと打って変わっていつもの調子に戻った彼女。無意識にその表情や所作を見ている自分がいる。クズ豆を弾く白くて細い指。軽やかに動作をこなしながらも集中している揺るがない目。
「はい、ブレンド。熱いから気を付けてね」
「うん、ありがとう」
手渡してもらったコーヒーを火傷しないように注意しながら一口飲むとそれは以前淹れてもらったものと同じ、深くて温かいけれど飲みやすい美味しいものだった。
「美味しい・・・」
「そう?・・・よかった」
そう言って微笑む彼女もカップに口付け飲んだ。綻んだ優しげな眼は彼女の魅力の一部だ。と、ナレーションのように心の中で呟く。
「・・・どうしたの?」
「え?」
「そんなに見られたら穴が開きそう」
「ご、ごめん!!」
き、気付かれてた!恥ずかしさと情けなさでさっきよりも赤くなっている気がする。
「ふふ、なんてね。気にしてないよ、他に見るものもないし。その代わり私は金木くんを見ることにするけどね」
「!!」
「ああっ、零れるよ!?熱いんだから気を付けて!!」
「ごめん・・・」
「分かればよろしい」
この時間が一瞬でも長く続けばいいのに。彼女の綺麗な笑顔に鼓動が早くなるのを感じながら、僕はそんなことを考えていた。