金木くんが、誘拐された。アオギリの樹によって
「アオ、ギリ」
かつて私も連れ去られた組織。地獄のような、場所。そんなところに彼を放り込むなんて。
もし、彼があの時の私と同じような目にあったら、彼はどうなってしまうのだろう・・・そんな恐ろしいことを考えて身体が冷えていく、吐き気が、する。たしか、今のアジトは11区だったか。
「店長、すみません。やっぱり私、待てないみたいです。少し、出てきます」
そう言い残して着替え11区の喰種の匂いが一番濃い場所を特定し、徘徊していた下っ端の喰種を気絶させ、フードとマスクを奪い変装し建物の中に入った。
私が攫われたのは今回のアジトではなく島だったのでこの廃墟の仕組みは分からない。なので匂いや足音の数、反響音などを頼りに自分の現在地と周辺の地図を脳内に書き起こしつつ進む。
「(とりあえず、喰種の多いところか強そうな喰種がいそうなところを虱潰しに行くしかないか・・・)」
その「とりあえず」向かった先が悪かった。
「かくれんぼ、見つかってるんだし出てきたら?」
「!!」
攻撃は躱したがフードが取れ、マスクは真っ二つにされたためもう使い物にならない。
「お前は、あの時のやつか」
「そーだよ、タタラさん。久しぶりだねえミヅキちゃん。一年とちょっとぶりかな?」
「エト、とタタラ・・・」
「覚えててくれたの?えらいねえ・・・でもアオギリに入ってくれにきたわけじゃなさそうだね」
「っ・・・」
「狙いはカネキくんかな?なら早く行ったほうがいいよー、ヤモリさんの趣味部屋に連れてかれたらしいからー」
「ヤモリ・・・?」
「んん、じゃあこういえばわかる?あなたを趣味で散々散々散々散々散々散々痛めつけたレイルさん、あの人の「そういうこと」の師匠で元崇拝者」
「っ!!そいつと彼は今どこにいる!!」
「えーっと、たしか趣味部屋はー・・・この奥にある5棟だったかな?」
そこを抜けようと足に力を込めた瞬間、経験が危険を察知し身を引いた。その直後、私のいた場所にはタタラの赫子が深々と刺さっていた。
「っ」
「でもさあ、私たちもここにいる以上通られちゃ困るの。だから、ね?ここでお役御免になってほしいなあ」
「・・・そんなことを私が聞くとでも?」
「くすくすケタケタ、いつまでその気でいられるかなあ?・・・共喰いしてるのはねえ、あなただけじゃないのよ。ウィザードさん」
その瞬間、エトの赫子も展開される。位置からして羽赫、だろうか。タタラの方は裾から出しているらしく燐赫なのか尾赫なのか判別できない。
「(一番最悪なのはタタラの赫子が尾赫だった場合・・・)」
二人とも厄介且つ強いことは分かっているのでここは突っ切ることを優先に無理に倒すことは避けなければならない。私の目的はカネキくんで、逃走のためにも相性の悪い尾赫の攻撃を受けるわけにはいかないのだ。
「(カネキくん・・・っ)」
そして私はこの二人と相対した。
*****
「あ、タタラさん。捜査官がいっぱい来てるみたいだよ」
「CCGか・・・」
「うん、逃げよ。うちも結構押されてるみたいだし、それにこれだけやればもう大丈夫でしょ、ね――――――――ミヅキちゃん」
「・・・・・・」
なんて様だ。抜けられるなんて考えていた甘い自分を罵る。結局予感は的中しタタラは尾赫だった。喰らったところの傷が塞がり切ってない。赫子の毒と傷のせいで熱い、気持ち悪い眩暈がする。手傷は与えられたろうがボロボロのこちらとでは雲泥の差である。そのうえこの二人は赫者だった。まったく、戦力差なんて端から決まっていたも同然である。
「あ、そーだ。忘れてた」
「・・・?」
そしてエトは私のもとまでやってきて内緒話をするように囁いた。
「力の暴走が怖くて逃げるのはいいけど、早く身に付けないと今回みたいに誰も救えないよ?――――――隻眼の先輩としての忠告」
「!?」
「行くぞ、エト」
「はーい、じゃあまたねミヅキちゃん!クスクスクスクス」
私は見た。私を置いて去っていく二人、タタラに続くエトの両目―――――私と同じ右目にしかない赫眼を。
*****
取り敢えずあの二人はもういない。だから、もう邪魔なんてない。傷が塞がらない。抉られた脇腹が痛い。腕の感覚がない。折れて刺さって肺が苦しい。息するだけで死にそう。立ってもよろける。景色がぼんやり。頭熱い。吐きそう。
でも行かないと。救えなくても行かないと。みんな彼を待ってる。大丈夫、どんなに欠けててもあなただから、骨の欠片でも肉片でも髪の毛でもいろんなものとどろどろになってても必ず見つけ出して大切にするから、お願い、生きてて。
「カネ・・・く・・・」
すきだよ、すきなの、振られたってかまわないの、あなたにこいしただけでこんなにしあわせ。あいしてる、しあわせになってほしいの、あいさせてよ、はなすだけでぽかぽかするの、あなたのたいせつなひとごとまもるってやくそくするよ、だから、だから、まってて。
私は動かない身体を衛生的とは言えない古いコンクリートの壁伝いに立たせ一歩一歩奥へと進んで行った。