治癒魔法の誤った使用法 作:サリチルさん
ウサト君が連れ去られてしまった。
何を言ってるのか分からないと思うが、私も……いや、こんなことを考えている場合じゃない。
一旦心を落ち着けて、たった今合流して状況を飲み込めていない氷月先生に事のあらましを説明する。
氷月先生が大広間から出た後、王様から事情説明が行われ、その中でウサト君とおそらく先生も勇者召喚に巻き込まれただけだと知らされたり、私たちが元の世界に帰れないと知って、カズキ君が王様に怒りを見せたりしたが、最終的には私たちは魔王討伐を引き受けることになった。
色々あったが、魔王討伐という異世界の定番のオイシイ展開に私は状況をとても楽しんでいた。
そして、その後にあったのがウサト君拉致の原因と言える"魔法適性検査"だ。
担当するのはヴェルゼさんという魔法使いらしい。本当は宮廷魔法使いのウェルシーさんという方が担当さるはずだったらしいのだが、氷月先生の車の誘導役に急遽当てられたために代役となったらしい。
なんでも、あれほど強力な魔道具に対応できるのは宮廷魔法使いのウェルシーさんだけだという王様の判断が理由らしい。車を魔道具と勘違いなんて、異世界ポイント高めじゃないか!
やはり氷月先生、できる。
だが、こちらも負けていない。魔法適性検査というかなり異世界っぽい響きに私は大歓喜だった。
移動した先の部屋の古びた雰囲気や、やり方も水晶に触れるという異世界感で私の心をガッチリと掴んできた。
初めに受けたのはカズキ君だ。
カズキ君が手を置くと水晶は白く光った。白い光は光魔法への適性を示すらしい。
くっ、やるじゃないかカズキ君。かなり勇者っぽいぞ。
それでも、あまり嬉しくなさそうだったカズキ君に私がビームやライトセイバーといった、溢れ出るロマンを語ると、ウサト君にバッサリと切られた。なかなか辛辣だね。
だが、嫌いじゃないぞ? むしろ、ばっちこいだ!
そして、私の適性魔法だが……雷魔法だった!
雷だぞ、雷!
実に主人公っぽいじゃないか!
果てしなくロマンを感じる。
広範囲にドカンとかいけちゃうんじゃないだろうか。
あとは、超電磁砲とか。あとで財布の中身を確認してみよう。
最後に適性検査をしたのはウサト君だ。
水晶は優しい緑に輝いた。
この光を見た瞬間、ヴェルゼさんは顔色を変えて水晶を凝視し、ややあって叫び声を上げてウサト君の手を掴んで大慌てで走り出した。
誤解のないように言っておくが、これを指してウサト君が連れ去られたと言っているわけではない。
こんなものは序の口ですらなかった。
カズキ君とともに二人を追って、着いた先は王様のいる大広間、つまりここだ。
ここに入ったとき、私とカズキ君は肉食獣のような目の女性に見定めるような目を向けられた。
この人できる……できる! と私が戦慄している横で、カズキ君はそれをまったく気にせずウサト君と会話し始めた。
カズキ君は大物だな、と感心した。
そして、運命の時はやって来た。
「……ふぅ、何だよぉ。お前の触った水晶が緑色になったのを見て、ヴェルゼさんが血相を変えて連れていったときは何事かと思ったぞ。でも良かった、何もなさそうで……」
えっ、言っちゃうの?
私はそう思った。
もちろん、カズキ君がウサト君を陥れようとしたなんて微塵も思っていない。純粋にウサト君か無事だったことに安堵して洩らした言葉だとは分かっている。
でも、これはもうちょっと気を使うべきじゃなかったかい……。
だって君の言葉の後、ウサト君の表情がすごくひきつってたもの。目なんて、バタフライを通り越してクロールしてたもの。王様の顔も真っ青になってたもの。さっきの女性が物凄い表情でウサト君を見てたもの。
ローズ、王様はその女性をそう呼んでいた。
ローズさんは、消えたかと錯覚するような速度で移動し、気づいた時にはウサト君を脇に抱えて走り去っていた。
後を追いかけても既に後ろ姿すらなく、ローズさんの高笑いだけが響いていた。
そんなことがあって、戸惑いながらもなんとか心を落ち着けて王様に事情を聞き始め、どうやら救命団という場所に連れていかれたらしいということを聞いた辺りで氷月先生が戻ってきた。
「経緯は理解した。だが、情報が足りずに判断に困る」
「それでは、私が」
氷月先生の誘導を担当していた女魔法使いのウェルシーさんが私たちの前に歩みより、説明を始める。
「えーと、救命団については既に説明したようですね。それではローズ様について。彼女は、治癒魔法のエキスパートです。しかし、なんと言いますか……部下への指導方針が少しおかしいんです」
「おかしい?」
「えと、私も詳しくは知らないのてすが……『救命団は常に死と隣り合わせ! よって貴様らにはどんな苦境でも生き残れる術を授けてやろう!!』と団員を厳しく指導し、そのしごきに耐えきれず、逃げ出してしまう団員が後をたたないのです。実際、騎士団との合同訓練でも、騎士たちが耐えられなくなり、中止となりました」
「その騎士? が耐えられないとなると、ローズという人物は余程の実力者なのですか?」
私の問いにロイド王は、懐古するように顎をさすりながら答える。
「ああ、今は救命団に移っているが……いやこの話はよそう。あやつには並の騎士では比べるべくもない。それに、以前の魔王軍の進行の際は救命団が多くの兵士の命を助け、撃退の要となったと言ってもいい。その功績からも分かるように、ローズの方針は間違っていない。間違ってはいないが……」
「いないが?」
「その指導で出来上がるのが……はぁ」
遠い目をしたロイド王は、大きなため息をつく。
王様も心労が絶えないのだなと思いながら、私はウサト君の身を案じていると、それまで真剣な顔で話を聞いていた氷月先生は、得心がいったというような顔で口を開いた。
「なるほど。つまり兎里君はレスキュー隊に就職したということか」
「氷月先生……」
そういえば氷月先生は天然だった。
今の説明を聞いてどうしてそんな結論になるのだろうか?
カズキ君は納得した顔をしているが、レスキュー隊ってもっと……あれ?
そういえば、レスキュー隊の訓練は過酷だと聞く。そう考えると、氷月先生の認識もあながち間違いじゃないのか?
いや、しかし……。
「そういえば、ヒヅキ様の適性検査がまだでしたね。ローズ様はああなってしまうと誰にも止められないので、先にそちらをやってしまいましょう」
思い出したように提案するウェルシーさん。
他の人の顔にも諦めの色が見えるあたり、ウサト君の救命団入りは既に覆せない確定事項となってしまったのだろう。
ウェルシーさんに連れられて、今度は氷月先生を伴い、再び私たちが適性検査をした古びた部屋へ向かうのだった。
道すがら、氷月先生に話しかけられる。
「君たちは自衛隊に就職を決めたと聞いた。犬上君は提出した進路資料と方向性が大きく異なるが、それで良かったのか?」
自衛隊って……どちらかというと軍隊のような気がするが、魔王軍の進行からの防衛が主な役目なら、自衛隊の方が近いのだろうか?
「進路は、実は決まっていなかったので無難なものを書いて埋めていました。それに、私はこの世界に来て思ったんです。新しい自分を始めてみたい、と」
「そうか」
「それに、先生の方こそ、教職から戦闘職に変わるのは大変なんじゃないですか?」
「いや、私は自衛隊には入らない」
「えっ?」
思わず声が漏れてしまった。
氷月先生の言うところの自衛隊に入らないということは、断ったということなのだろうか?
「私はここで魔法を研究したいんだ。ウェルシーさんからも既に許可を貰っていてな。まあ、君の言うように新しい自分、いやなりたかった自分を始めてみたいと思ってしまってな」
氷月先生はブリッジを押さえて眼鏡の位置を直すと、その手で口元を隠して言葉を続けた。
「正直、こんな状況だが魔法という完全な未知に好奇心が抑えられない。こんな気持ちは大学以来だ」
そう言った氷月先生の顔を見て私は目を見開いた。
あの微笑くらいの表情の変化しかなかった氷月先生が、子供のような表情で笑っていたからだ。
だが、私は驚きよりも共感の方が大きかった。
そして、何よりもこんなことを考えているのが自分だけじゃないと知って、嬉しかった。
「それではヒヅキ様、この水晶に触れてください」
いつの間にかあの部屋に着いていたようだ。
ウェルシーさんに促されて、氷月先生は水晶に手を置いた。
そして、水晶が輝きを放ち、示した適性は……治癒魔法だった。
沈黙が辺りを支配した。
なかなか話を進ませられませんでしたが、魔法を使い始めたら進む速度は早くなるはずです。
思い付きを小説にするって難しいですね。
作品を投稿している先輩達を尊敬します!
ヴェルゼさんはオリキャラです。
名前の由来は、
ウェルシー → well-see → ヴェルゼ(ドイツ語読み)
と、かなり安直です。