ど田舎だけど、ギルドの運営、頑張ります!   作:saga14

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12話 叡智の輝き

「今日は助っ人を連れてきたぶひぃ!」

 

ギルドの裏にある広い庭で草むしりをしてた私に、声を掛けてくる者がいる。

庭と言うか、ここに広がっているのは私の個人的な野菜畑のだが、別に野菜だけじゃなくて花も植えているんだから、庭みたいなものだと思っている。

今日はとっても天気が良かったので、陽射しが強くなる前に久方ぶりの畑仕事に精を出しているのさ。さてさて、力強く照っている太陽が、私のキューティクルにダメージを与える前に、庭の手入れを終わらせなきゃね!

 

「草、毟ってるぶひぃ? 手伝うぶひぃ!」

 

私の仕事ぶりに何かを察したのか、オークが率先して手伝いを買って出てくれる。オークの優しさに感動しながら、ふと、顔を向けると、のっしのっしと大きい身体を揺らしながら、私の背後を通り過ぎ、畑の一角に向かって行った。

 

(オークの太い指で、庭いじりなんてできるのかな?)

 

オークの巨体を見つめながら一つの疑問が浮かんで来てしまった。そんな私の心配も他所に、オークがどんどんと草の群生している場所に向かって……………………あ、あいつ! 私が苦労して根付かせた野イチゴの方に向かってるじゃないか! 嫌な予感が私の頭を過ぎり、背筋に、冷たいモノが流れるのを感じてしまう。

 

「細かいのは、アリーさんに任せるぶひぃ! オデ、大きいのやるぶひぃ!」

「待て、待て待て待て待て! お前は触るなぁああああああ!」

「遠慮は無用ぶひぃ!!!」

 

オークが私の制止も気にも留めずに、いつもの鈍重な動きはどこに行ったのか、その体格からは全く想像もつかないほどのスピードとスマートさでその場にしゃがむや否や、力強く野イチゴを鷲掴(わしづか)んだと思うと同時に、ブチブチと引っこ抜いてしまったではないか!

オークの達成感のある表情と裏腹に、私の顔に浮かぶのは悲壮感の一言!

そして、間髪入れずに私の大きな悲鳴が村中に響き渡ったのであった……。

 

 

「ちょっとした冗談ぶひぃ、あの時のアリーさんの顔、面白かったぶひぃ!」

「こいつ……、とんだお茶目さんだぜ……」

 

あの時のオークの行動は、私をからかう為の演技と言っていた。事実、実際にオークが抜いたように思われた野イチゴちゃんは全く以て無事であり、オークの手には野イチゴとは何の関係も無い植物が握られていただけだったのだ。

だが、オークは気付いていないのだろう。この私の言いようの無い怒りに。なぜなら、オークが代わりに抜いた植物も私が割と大切に育てていたネギだったわけで、オークのしてしまったジョークは私にとって全然ジョークでも何でもなかったのだ。

 

庭から店内に移動してきた私達は、簡単に汚れを落とし、いつも通りと言って差し支えは無いだろう、店内のテーブルに近付いて行く。

そこには、一足先にオークが連れてきた助っ人である、ジーン爺が座ってお茶を飲んでいた。

 

「それにしても家庭菜園だなんて、アリーさんにも可愛いところあるぶひぃ」

「家庭菜園っていうか、ここは時々しか行商が来ないから、自給自足なんだよ。この村の人は皆、やってるし。ジーン爺さんも、色々作ってるよね。豆とか米とか豆とか野菜を」

「なかなか楽しいぞぉ? おまえさんにも、土地を貸してやろうか?」

 

ジーン爺とオークが顔を合わせながら、雑談をし始める。そんな二人を見ながら、私は「オークもすっかりこの村に馴染んだなぁ」としみじみと思ってしまった。

モンスターではあるが、しっかりと意思疎通ができるし、なんというか、人格もできている。

今度村長に、住民登録できないか、聞いてみようかな?

 

「それで、本当は何の用だったの? 私の手伝いしに来てくれたわけじゃ、ないんでしょ?」

「ああ、そうだったぶひぃ。ついつい、まったりしちゃったぶひぃ」

 

そう言いながらオークは、ジーン爺に注がれた水をゴクゴクと飲み干し、カップを机の上にトンっ、と置いた。

 

「ここが繁盛していた時の話を、聞いてみるぶひぃ!」

 

 

「アリーさんは、ここを譲ってもらったって言ってたぶひぃ! この村は田舎だから、次代に継げるほど繁盛してなかったら、宿屋に落ち着いてたと思うぶひぃ! それなら、その時代を生きていた人に、この村の様子を聞いてみて、ちょっと参考にできる所がないか、考えるぶひぃ!」

「それで、なんでジーン爺さんなの? 村長じゃダメなの?」

「一番最初に出会ったぶひぃ! 誰でも良かったぶひぃ!」

 

オークは何の臆面もなく、失礼な事を言い放った。しかし、ジーン爺は思う所も無いのか、ニコニコと微笑んでいるだけだった。

 

「まあ、確かに何十年も昔は栄えてたって聞いてたよ。近くの炭鉱が潰れちゃってから、冒険者も来なくなって、こんな感じになったみたい」

「炭鉱に何があったか知ってるぶひぃ?」

「いや……、そこまでは聞いた事がなかったや。そういえば、どんな依頼が来てたの? ジーン爺さん、昔の事だけど、思い出せる?」

 

そう尋ねると、ジーン爺は遠い目をしながら「今も良いが、昔も昔で良かったんじゃ……」と昔話をしてくれた。

 

「昔…………。まあ、五、六十年ほど前の話になるが……。今はすっかり山岳というか、岩壁のようになっているあの場所に、炭鉱があった。この村の住民は、基本的に森で狩猟をするか、炭鉱夫として働くかのどっちかだったからのぅ。まあ、女どもは畑仕事もしていたが。それで、毎日毎日掘っていたら、いつだったかは思い出せんが、掘り過ぎたのか、奥の壁が崩れてしまっての、ちょっと騒ぎになったのじゃ。

もちろん、事故が起きて騒ぎになったんじゃない。壁の奥から、洞窟のような、穴っぽこが現れたんじゃ。中からは聞いた事もないような呻くような声が聞こえたりして、それはもう、恐ろしかった。当時は、未知に対する危機感も大きかった。すぐに埋めよう、という話に(まと)まりかけた。しかし、たまたま来ていた行商の者が、せっかくだからと、王国の調査団に掛け合ってくれ、調べる事になったんじゃ。

そしたら、すごいダンジョン? だったようでな。噂を聞きつけた世界の富豪がな、腕利きの戦士たちを引き連れて、その洞窟にどんどん入って行ったんじゃ。だが、上手くは行かなかったらしい。富豪の連れた戦士たちが戻ってくる事は無かった。しかし、彼らは消沈しなかった。戦士がダメなら、冒険者を雇ってみるかと、思ったようだった。村にはチラホラと冒険者も集まってきていた。それなら、依頼と言う形で、彼らに任せてみればどうだろうか、と。

冒険者も何も情報のないダンジョン? に潜るのは怖いらしくてな、それに、この村にはアイテム屋もなかった。それならある程度バックアップが得られそうな富豪の依頼、という形で動いた方が、犬死する確率はだいぶ減るだろう。報酬にも、期待できたからな。

そして、それは成功した。富豪は希望通りの結果に満足し、冒険者も、自分の目的が果たせずとも、依頼を(こな)せばある程度の報酬が得られたからじゃ。だが、この話の中で一番の成功者が、お前の爺さんだったんじゃ! あいつは、ちゃっかりとこんなギルドを作りやがって、富豪と冒険者の橋渡しなんかしやがった! あいつは、場所を提供しただけで、毎日毎日、ある程度の額を受け取っていたらしい! ああ、本当に憎たらしい! あんなに上手い事をやりやがって、何と羨ましい! 儂も、儂も気付けていれば! あいつは、狩猟も採取も苦手だった。だが、頭は良かった! こんな村じゃ、知恵よりも体力の方が大事だったはずだ。それなのに、あの瞬間、あいつの勝ち誇った顔と言ったら! ちくしょう! ちくしょう! ちくしょう!」

 

過去の嫌な思い出がスイッチになったのか、ジーン爺が興奮し、ブルブルと痙攣し始めた。

 

「ご、ごめんね! なんか私のお爺ちゃんが、ごめんなさい! だから、お、落ち着いて下さい!」

 

私はそっと、ジーン爺にお茶を渡す。それを受け取ったジーン爺は、ゴクンゴクンと飲み、ようやく落ち着いてくれたようだった。ああ、びっくりした。というか、怖かったよ……。

 

「ああ……、すまんな。昔の腹立つ事まで思い出してしまった」

「そして、それが崩れるまで続いたって事? 私の爺ちゃん、超勝ち組じゃん!」

 

ギロリ、と睨まれてしまった。

 

「まあ、まあ、落ち着くぶひぃ。ダンジョンが潰れたのは何年前ぶひぃ?」

「そうだのぅ。ダンジョン、というか炭鉱が崩れたのは、三十年くらい前、ってくらいになるかのう」

 

ジーン爺が両手で数を数えながら、計算していた。

私も考えてみた。私が小さい頃、ここでジジイと暮らし始めたのが十四年前くらいだ。その頃には、もう崩れてから二十年くらい経ってたんだな。そりゃ、二十年も経てばこんな村、誰も来なくなっちゃうね。

 

「ぶひぃ? それなら、三十年近くもダンジョンは続いてたぶひぃ?」

「そうだ! あの男は、三十年も働かずに、のうのうと暮らしていたんだ! まあ、儂達にご馳走を振る舞ってくれた事が何度もあったから、感謝はしている。そして、村を盛り上げてくれたのも、あいつのおかげだと分かっている。しかし、悔しいんじゃ! こんな、こんなビッグビジネスを独り占めにするなんて、ほんとうに、ほんとうに……」

「な、泣かないで! 私、ジーン爺さんの事、大好きだから! ねっ、だから元気だして!」

 

私は、オークの方を睨みつける。まったく、高齢者を刺激しないで欲しいよ! 興奮して死んじゃったらどうするの! ぷんぷん!

 

「ま、待つぶひぃ! それなら、オカシイぶひぃ! 普通、三十年も経つ前に、ダンジョンは攻略されるぶひぃ! 金銀財宝がなくなるとか、魔物が全滅するとか、原因は色々ぶひぃ! でも、三十年も冒険者が挑み続けるなんて、ちょっと尋常じゃないと思うぶひぃ!」

 

私が、そうなの? とジーン爺に目を向けるも、ジーン爺は話がさっぱり分からないのか、首を傾げている。そもそも、私も良く分からない。ダンジョンがあれば、冒険者は入るんじゃないの? 違うの?

 

「冒険者って、冒険するのが仕事なんでしょ? ダンジョンがあれば、集まるんだよね?」

「そんな単純に考えないで欲しいぶひぃ! 冒険者は、未知なるモノに刺激を求めて冒険してるぶひぃ! だから、稀覯(きこう)なアイテムや新種のモンスターとの出会いが無ければ、寄ってこないぶひぃ! ダンジョンを求める冒険者を『壺にタコが入っちゃうのは、習性だからしょうがないよね』みたいな物言いで言わないで欲しいぶひぃ! 冒険者に謝るぶひぃ! ほら、王国にお辞儀ぶひぃ!」

 

 

あの後、少し遅くなった昼食を食べてから皆は解散した。

私の知識に憤るオークと、私のジジイに憤るジーン爺を見送って、私はため息をついた。

 

「はぁ、今日は疲れちゃったなぁ。言ってる事が、良く分かんなかったよ……」

 

オークに冒険者の何たるかを説かれ、ジーン爺に楽して金を儲けるのはダメだと、説教された。

せっかくの昼食だったのに、二人の勢いに押され、私は涙目だった。ご飯の味も、思い出せない。

それでも、分かった事はある。

 

「三十年か……。って事は……!」

 

私は、ジジイが金を使っている姿をあまり見かけた事が無かった。

私の両親も質素な暮らしをしており、決して貧しくはないが、富んだ生活、というわけでも無かった。

 

「ある……! あるはずだ……!」

 

私は箒で床を叩いたり、天井を叩いたりする。しかし、何も異変は無い。外に出て。小走りでギルドの裏の隅に立っている小さい小屋に向かう。この小屋はジジイが生きていた頃からの倉庫だ。そこには、使い方の良く分からないアイテム? みたいなもの? がたくさん詰まってあるのだ。

逸る気持ちを抑え、小屋の中に乱雑に置かれている荷物を退かし、厳重に仕舞われている箱や隠し扉などを探してみるが、それっぽい物は、何もない。それでも諦めきれずに午後を丸っと使い、辺りが少しづつ薄暗くなった頃に、ようやく私は探索を止めたのだった。

得られた物は何もなく、身体中が埃っぽくなっただけの一日になってしまった。

 

「……。…………はぁ。おかしいなぁ……。絶対、どこかにあると思ったのに」

 

疲れた体を奮わせギルドに戻り、汚れた身体を整え、夕食の用意やギルドの簡単な掃除など、いつも通りの習慣を追えると、すっかり寝る時間になっていた。

二階に上がり、ベッドに飛び込む。心地よい疲れが私の身体を睡眠に導いていく。

だが、私の頭の中は、決して休まる事は無かった。頭の中には、どこかに隠してあるだろう、銅貨や銀貨の事でいっぱいになってしまっていたからだ。オークやジーン爺から聞けた情報が残る余地も無く、私の頭はすっかり金目の物でいっぱいになってしまっていた。

お金、大好き。




登場人物

アリー:成金娘?!
オーク:未知の炭鉱ぶひぃ!
ジーン爺:許さん、絶対に許さん
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