ど田舎だけど、ギルドの運営、頑張ります!   作:saga14

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13話 炭鉱跡

「こっちは来た事なかったけど……いやぁ、大きいねぇ」

「森とは正反対ぶひぃ。用事もなければ、こんな所には来ないぶひぃ」

 

私たちは、目の前に広がる光景に圧倒されていた。

目に入る色は土色ばかりである。これは俗に言う、丘陵ってやつなんじゃないのかな?

元々が炭鉱なんて言われなければ、木々が禿げた丘陵にしか見えない。

それほど大きい。実際に見た事はないけど、王国のお城とかってこれくらい大きいんじゃないのかなぁ?

 

「思った以上ぶひぃ。これは、危険があるかもしれないぶひぃ、準備万端ぶひぃ?」

 

オークが私の方に顔を向け確認する。それに対し、私はコクリと頷きを返す。

前回の森の時とは違う。笛も持ってきたし、ルシファーがプレゼントしてくれた短剣も持ってきた。

背負っているリュックの中には、昼食用に二人分の大きいおにぎりを握ってきた。中身はアマタ婆が作ったネギの塩漬けだ。そして、それとは別に小さいおにぎりもある。これは、小腹が減った時のオヤツなのだ。

水筒の中身はハーブティー。疲労を回復効果があるので、こんな日にはもってこい!

私は(おもむろ)にポケットをまさぐる。ハンカチに包まれたるはクッキーだ。

これは別にオヤツ用というわけじゃない。可愛い動物がいたら、餌付けに使うつもりである。

もちろん、ちょっとだけ食べちゃうかもしれないけど、ちょっとくらいなら、良いよね?

ご飯を食べる時にシートは欠かせない。地面に普通に座ったら、お尻汚れちゃうもんね。

珍しい物があったら拾えるように、リュックのスペースは確保済みだ。

服装は歩きやすいようにガウチョパンツを履いてくるつもりだったんだけど、せっかくの天気だったので、新色のスカートを履いて来ちゃいました!

柔らかな風が私の足をくすぐっている。とても気持ちが良い!

…………家を出る前に何度も確認をしたのだ。この用意周到っぷりに、オークも驚いて私の女子力と冒険力に平身低頭(へいしんていとう)せざるを得ないはずだ。これなら文句の言いようがないだろう?!

 

「…………遠足!!! それは遠足の用意ぶひぃ! 冒険には見えないぶひぃ!」

「…………!?!!?」

 

何がダメだったのだろう……。まさかのダメ出しだよ……。

 

 

炭鉱は、村からそこそこ離れた位置にありました。

村の看板が立っている方の入り口。そちらは、森へ行ったり草原に入る道だ。

その入り口とは正反対、村を奥の方にどんどん進むと、木々に挟まれているのだが、簡単に石が敷かれた道に出る。その道をどんどん、どんどん突き進むと、急に視界が広がり、ここに到着できてしまったのだ。

私は小さい頃を思い出す。あの頃は、村の中を走り回っていたから、この道があるのも知っていた。

でも、お母さんが「危ないからそっちはダメよ!」と事あるごとに声を荒げるので、あまり近寄らなくなってしまったのだ。

そして、そのまま月日が経ち、私はその存在をすっかり忘れてしまっていたのだ。

炭鉱があった時代ならまだしも、今更こんな土塊(つちくれ)に用事がある人なんて、いないからねぇ。

 

「それで、ここで何するの? 掘るの?」

「掘ってみたいけど、二人だけじゃ時間がいくらあっても足りないぶひぃ。それに、どれくらい崩落してるか分からないから、無意味な行動になっちゃう可能性が高いぶひぃ」

 

そう言いながらオークは炭鉱跡から離れ、すぐ(そば)の草が群生している場所をゴソゴソと確認し始める。

 

「なにしてるの? 珍しい植物なんて生えてないでしょ?」

「まあ、生えてる植物は村と同じぶひぃ。でも、ちょっとこれを見てほしいぶひぃ」

 

オークが示す部分を見るも、一面にクローバーが生えているだけで、別に珍しさは何もない。

 

「どうしたの? 四つ葉でも見つけてほしいの? 結構ロマンチストな所があるよね」

「違うぶひぃ。もっと良く見てほしいぶひぃ」

「もっと良くぅ……?」

 

地面に顔を近づけ、這いつくばる姿勢をとってみる。目を皿のようにして見るが、どう見ても普通のクローバーだ。外見に違和感がないので、葉を(むし)り、土を手で払い、もぐもぐと食べてみる。変な匂いもしないし、味も普通だ。

やれやれ。私にはオークが何を言いたいのかが分からないぞ? 仕方がないので、降参とばかりにオークを見上げた。オークは何かを言いたげな顔をしながらその場に立ち尽くし、私を見つめ返していた。

 

「……、…………?! え、エッチ! い、今、私のお尻見てたでしょ! エッチ! スケベ!」

「ち、違うぶひぃ! 冤罪ぶひぃ! 別にアリーさんのお尻なんか見てないぶひぃ! 信じてほしいぶひぃ!」

「嘘! 絶対見てた! だからこんな格好させたんでしょ! ばかばか! エッチ!」 

「その格好はアリーさんが勝手にしてきたぶひぃ! そもそも、そんな大臀筋、興味ないぶひぃ!」

「な……、な、何よその言い方! 大臀筋って何よ!!! なんで筋肉っぽく言うの!!! ばかばかばか!!!」

「うるさいぶひぃ! アリーさんは何かその…………堅そうなんだぶひぃ!」

「か、か、か…………。そんな訳ないでしょ!!! ちょっと、ほら! 触ってみなさいよ! ほらぁ!!!」

「いやぶひぃ! そう言って触ったら怒るぶひぃ! とんだ痴女ぶひぃ!」

 

あんまりすぎる言い草に、私は頭に血が上ってしまった! もう、その後の記憶は定かではないのだ!

こっちを見ながら逃げるオークを追いかけてたら、あいつは仰向けに転んでしまった。

怒ってた私がそんなチャンスを逃すはずないじゃない! 転んだオークの右手を掴み上げ、私の女性らしい、ふくよかな膨らみに手を這わせたのだ!

 

「ほらほら! もう二度と堅いとか言わせないからな!」

「や、やめて欲しいぶひぃ! こんなのって無いぶひぃ! オデ、汚されちゃったぶひぃ!」

「オークには刺激が強かったかな? がはは! がはははは!」

「あ、アリーさんのテンションがおかしいぶひぃ! オデ、押しちゃいけないスイッチ押しちゃったぶひぃか?!」

 

高笑いする私と、さめざめと泣くオーク。気持ちの良い風が吹き抜ける炭鉱跡の前で、時間も忘れて、二人の二重奏が奏でられてしまっていたのさ……。

 

 

その後、我に返った私は、冷静を装ってオークの腕を離したんだけど、なんかもう凄く顔が赤くなってたと思う。

記憶の中の私は「ほら、どうだ! 柔らかいだろ! がははは!」とか言いながら、その、押し付けていた気がするんだけど、どこまで本当の事なのか、全然、分かんないや。

オークが嬉し泣きか悔し泣きか分かんないけど、男泣きをしてるけど、それに触れるのも悪いし、まあ、気安く「お! オークの男泣き、風情あるね!」なんて言っても良いかもしれないんだけど、まあ、うん、もう、良いや。忘れよう。おにぎり食べて、忘れようじゃないか!

いそいそとシートをその場に広げ始めると、オークがのそのそとこちらに近付いてくるのが分かった。

そうそう! 色気より、食い気! みたいな! な!

 

 

「……ごちそうさまぶひぃ。おにぎり、美味しかったぶひぃ」

「……うん、それなら、良かった。また作ってあげる」

 

別に、お腹が空いてたわけじゃなかったので、私は小さいおにぎりを食べるだけでした。

オークの方には大きい方をつい渡しちゃったけど、全部食べてくれたらしい。ちょっと、嬉しいぞ?

 

「…………さて、先に、オデが考えた事を言わせてほしいぶひぃ」

「……先って?」

「まあ、聞くぶひぃ。ちょっと話は長くなるかもぶひぃ。なるべく分かり易く、話すぶひぃ」

 

そう言いながら、オークはこちらを向いて座り直した。

先ほどの事を気にしないオークの様子に、真面目な話が始まるのだと察し、姿勢を整える。

 

「まず、ダンジョンの話ぶひぃ。このダンジョンは、三十年間続いてたぶひぃ?」

「……そうだね。崩落しちゃったから終わっちゃったけど、崩落してなかったら、もっとこの村は栄えてたかもしれないんだよね。あーあ、崩落しなければ良かったのに」

「そうぶひぃ。ここは、炭鉱の崩落によって強制的に終わらせられたぶひぃ。だから、ちょっと考えてほしいぶひぃ」

「……?」

「もしかしたら、まだダンジョンは生きてるのかもしれないぶひぃ。入り口が塞がっただけで、中に住む魔物は、生活をしているかもしれないぶひぃ。お宝も、残ってるかもしれないぶひぃ」

「……つまり?」

「まあ、落ち着くぶひぃ。まだ、仮定の話ぶひぃ。それで、さっき、クローバーを調べたぶひぃ。そしたら、分かった事があったぶひぃ。あのクローバーは、四つ葉どころじゃないぶひぃ。六つ葉や七つ葉にもなってるぶひぃ。植物の急成長は、魔物の影響に寄るところが大きいぶひぃ。近くに魔物がいると、魔物から漏れた魔力で、変な成長をしやすくなるんだぶひぃ」

「えっ、じゃあ!!!」

「そうぶひぃ。この炭鉱跡に閉ざされたダンジョンは、生きている可能性が高いぶひぃ。ここを上手く再生出来れば、また、村に冒険者を呼べるかも知れないぶひぃ!」

「……やった! やったぁ!!!」

 

思いもよらない場所から成功の道が現れた事に、私は喜びを隠せなかった。

今まで、一人で、手探りだけで色々考えていた。でも、知識も経験も、何もなかった私は、何もできなかった。良い方法が、何も浮かんでこなかった。

でも、オークが来てからは、違う。

オークと一緒に過ごすようになってから、自分がやるべき道が、一つずつ明確になっていったのだ。

 

「ありがとう! 私、頑張る!」

 

オークの手を取って、ピョンピョンはしゃいでしまう。スカートがチラチラと(まく)れるが、私はそれどころじゃない。オークの目線が宙を彷徨い、顔が赤くなっているのは、単に私の熱気に当てられていたからだと、そう信じてあげようじゃないかい?

 

「ま、まあ、待つぶひぃ。アリーさんのやる気は知ってるぶひぃ。でも、まだ喜ぶには早いぶひぃ」

「??? なんで? もうほとんど解決したようなもんじゃない?」

「どう言うべきぶひぃ……。その、炭鉱の奥に現れたダンジョンに潜む魔物が、この場所の植物に影響を与えてるぶひぃ? 正確な距離は分からないぶひぃ。でも、こんなに異常な成長を促している以上、魔力の高い、危険な魔物が潜んでいる可能性が高いぶひぃ」

「でもでも! 村のギルドで間に合ってたんでしょ? それなら、きっと大丈夫だよ!」

「…………………………分かったぶひぃ。じゃあ、一つずつ、質問するぶひぃ」

 

私に引っ張られて立ち上がっていたオークが、また、シートの上に座り込んだ。

私も、正座をし、オークの言葉を待つ。

 

「ん、んんっ、ぶひぃ! まず、戦士が倒されるようなモンスター、想像できるぶひぃ?」

「スライム……、には負けないか。じゃあ凄く大きいスライム……? あ! 森のグリズリー!」

「……次に、モンスターの弱点とか、知ってるぶひぃ?」

「目! これは自信ある! 生き物は、目を潰せば良いんだよね!!!」

「……魔法とか、スキルとか、知ってるぶひぃ?」

「魔法は不思議な力なんだよね! 火を点けるの! スキルってなんかあの……。…………?」

「……もし、アリーさんのギルドの隣に、他の冒険者ギルドが建ったら、勝てるぶひぃ?」

「地の利は我にあり!!!」

「……そもそも、この炭鉱、どうやって掘るぶひぃ?」

「スコップ!」

 

オークは頭を抱えると、うんうんと悩み始めてしまった。そんなオークを私が不安そうに見つめるのだけど、すぐさま意を決したような顔をしたオークが私を見返すと、一息に色々な言葉を捲し立てるように、発してきたのだった。

 

「やっぱりモンスターの知識が足りて無さ過ぎるぶひぃ! 冒険者ギルドは単純に依頼を引き受けるだけじゃないぶひぃ! 依頼内容に応じて、どんなモンスターが出るか、どんなアイテムが必要か、備考欄に書く必要があるぶひぃ! 別に書かなくても良いけど、書いた方がギルドの信用度は断然高まるぶひぃ! 何も分からない依頼なんて、怖くて誰も受けられないぶひぃ! そして、モンスターの弱点は目じゃないぶひぃ! まあ、生き物の弱点が目であるのは正しいぶひぃ! でも、スライムのどこに目があるぶひぃ! モンスターには、目が無い種族なんてたくさんいるぶひぃ! ゴーレムなんて、目潰ししたら、逆に突き指するぶひぃ! 魔法とスキルくらい知っておいてほしいぶひぃ! ただの便利な力じゃないぶひぃ! 物理攻撃で倒し辛いモンスターを倒すのに必須ぶひぃ! スライムは強ければ、魔法で倒す生き物ぶひぃ! スキルは特別な技術ぶひぃ! 武器とか防具に付随してる場合が多いけど、一流の冒険者は自力で身に着けてるぶひぃ! 相手の魔法を防いだり、自分の攻撃に属性が付いたりするぶひぃ! アリーさんの料理の上手さも、ある意味スキルぶひぃ! 今までの話を纏めたら、国立のギルドがアリー村に建てられたら、確実にアリーさんは負けるぶひぃ! 地の利とか関係ないぶひぃ! 冒険者は、絶対にそっちに入っちゃうぶひぃ! せいぜい、宿屋として頑張るぶひぃ!」

「えっ、えっ、えっ…………?」

 

頭がクラクラしてきたぞ? オークが未だに口を動かしているが、私の頭ではもう理解ができない。理解ができないというか、耳に言葉が入ってこない。魔法って便利な力なんだよね? 空飛んだりできるんだよね? んん? モンスター? スライム? アンデッド? ん、ん、ん?????

 

 

気を失っていたのか、目を開けると見慣れた天井が私を迎え入れる。背中の感触は柔らかで、私はベッドに寝かされているのだろう。オークの体型じゃ私の部屋に入れないと思うんだけど、誰かに介抱を頼んだのかな?

顔を横に向けると、まだまだ窓の外は明るい。夕方にもなってなさそうだな。

足元の方向。部屋の出入り口を見ると、オークが申し訳なさそうな顔をして、こちらを覗いていた。

 

「……私、また、倒れちゃった?」

 

数秒した後、オークは心配そうな顔で、頷いた。そっか、また倒れちゃったのか。

私は、ため息を一つつくと、上半身を起き上がらせ、オークに向かってにっこりと笑ってやった。

 

「えへへ、ごめんね、いっつも迷惑かけて。重かったよね?」

「オデこそ悪かったぶひぃ。アリーさんの事は知ってるのに、ついムキになって説明しちゃったぶひぃ。本当はもう少し、一緒に炭鉱跡を調べる予定だったぶひぃ。オデのせいで、ゴメンぶひぃ」

 

オークが謝る。でも、悪いのは私なのだと自覚している。オークは、冒険者であるならば誰でも知っている事を私に説明してくれただけなのだ。悪いのは、私の知識不足なんだよなぁ。

掛けられていた毛布を払い除け、ベッドから立った私はオークの方に近付いて行く。

そして、不安そうなオークのほっぺを両手でつまむ。ビローンと、上に持ちあげ、横に軽く引っ張ってみる。

 

「な、何するぶひぃ!」

「ほらほら、笑ってないとダメなんだからね! いっつも迷惑かけてるのは私だけど、男でしょ! どーんと、構えていなさいよ!」

 

私はオークの前で笑う。

つられて、オークも笑いだす。

そうそう、これで良いのだ。暗い雰囲気なんて、する事ない。

だって、今日は、進展があったんだから!

 

「今日は疲れちゃったから、休むね。ごめんね。また、明日行こう?」

「……分かったぶひぃ。また明日、行くぶひぃ。今度はちゃんと、用意するぶひぃ」

「スコップ?」

「スコップはいらないぶひぃ……」

 

オークが私から距離を取り、階段の方に歩いて行く。もう、帰っちゃうようだ。

私は、ふと、午前中の事を思い出した。終わった事だけど、せっかくだし、ね?

 

「…………今日は、ありがと。でも…………私、女の子だよ? 柔らかかったよね?」

 

手摺(てすり)に手を掛けたオークが立ち止まる。こちらからは見えないが、顔が赤くなっているのかもしれない。

本当は、数秒だったんだと思うけど、私には、何分にも、何時間にも感じられちゃった。

そんな長い時間の後、オークはこう言って、静かに階段を下りて行ったのだった。

 

「…………堅かったぶひぃ」




登場人物

アリー:堅い
オーク:むっつり
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