「ぶひぃ……。何もなかったのは、残念だったぶひぃ」
「ちょっと期待してたんだけどね、やっぱり簡単に進まないかぁ」
私達は、炭鉱跡への道を引き返し、村へ向かっていた。
オークが「ダンジョンが生きてるなら、空気穴がどこかにあると思うぶひぃ?」と言っていたので、周辺や少し登れそうなところを探してみたのだが、残念ながらそのような穴は見つからなかった。
やっぱり、元々の入り口だったところから掘り進めないといけないのかなぁ。面倒くさいなぁ!
帰り道をとぼとぼと歩いている私達の耳に、村の方から楽し気な声が聞こえてくる。
行商が来たのかな、と思ったが、まだそんな時期じゃないはずだ。じゃあなんだろか。
横目でチラリとみると、オークも不思議そうな顔をしている。
うかうかしてたら私たちだけ楽しいイベントに乗り遅れちゃうじゃん?! そんなのは絶対に許されません。
オークと共に頷き合うと、私はすぐさま村の方へと駆けだし、愉快な空気に突撃するのであった。
◆
「お~、アリー! 久しぶりだな、元気にしてたか?!」
皆が集まっている村の入り口に近付くにつれて、その楽し気な声の中心に、見覚えのある顔があった。
「えっ……! うっそぉ! ミレダ、何で帰ってきたの!?」
「皆の顔が見たくなってな…………なんてな!」
彼女はミレダ。王国で騎士をしている、私の幼馴染だ。
私は走って皆の輪の中に混ざり、ミレダの両手を取って、ピョンピョンと跳ね回ってしまった。
だって、嬉しいじゃん。昔なじみの幼馴染に会えるなんて思ってなかったからね。
まず私は、彼女の後方を見てみる。馬車の類はない。じゃあ、歩いてここまで来たのかな?
そして次に、彼女の後ろに回り込む。背負っているザックは、パンパンだ。
「ねぇ、早く家に来なよぉ! お土産話、あるんだよね!」
私はミレダを催促する。この馴れ馴れしさは幼馴染の強みでもあるのさ。
それに、こんな所で立ち話も難だろうし。
戸惑っているミレダの背中をグイグイ押して、私の住まいであるギルドへと誘導していく。
「おいおい……まだ村長に挨拶してないぜ……」
「村長は死にました!!! はい、おしまい!」
私とミレダを先頭に、ぞろぞろ。お爺ちゃんお婆ちゃんが大名行列のように着いてくる。
村長は誰かが呼んできてくれるだろう。わざわざミレダが出向かなくても、きっと平気!
「そんなにお土産が気になるのか………………」
ミレダの呆れたような物言いにも、私は気にしない。
だって、本当に楽しみなんだもん!
◆
人数分のお茶とお茶菓子を用意して店内に戻って来くると、ミレダの周りはお爺ちゃんお婆ちゃんで一杯だった。まるで、おしくらまんじゅうみたい。
そんなおしくらまんじゅうに混ざり込もうとお茶菓子をテーブルに置いてミレダの方へ…………な、なんだと?! 爺婆防御壁が強すぎて、私の介入できる余地が無い!!?! くっ、クソ! ミ、ミレダ! 私はここだよ、私はここにいるよ!!!
そんなミレダは私を追い払う様に手を振りながら、近付いてくる一人一人に挨拶を続けている。
「お、まだ生きてたんだな!」「当然じゃ! 儂が生きてるうちに、子供を頼むぞ!」
「アマタ婆ちゃん! 薬草臭いぜ!」「ほっほっほ、良薬、口に詰め込むぞい?」
「ちゃんと美味しい物、食べてるか?」「婆はな、麦と肉と魚と少しの果実があれば十分なんじゃよ」
豪勢じゃねぇか、と言う私の脳内ツッコミもさておき、ふと、気付いてしまった。
オークが素知らぬ顔でミレダに近付いて行っている事を。
「おい、お前なんか緑色だぞ!!?! 病気なんじゃ………………んんんん??」
ミレダの声色がやはり変わった。
皆にお茶を配りながらミレダの様子を伺っていた私は、二人のファーストコンタクトが気になって仕方がない!
だってほら、友達と友達は仲良くしてほしいからね! あはは! あはは!
「初めましてぶひぃ。お姉さん、綺麗ぶひぃねぇ!」
ミレダは目をぱちくりとさせている。
一瞬、腰元の長剣に手を掛けそうになっていたが、周りの気にも留めてないような態度に、自分がどうすべきか、悩んでるみたいだ。
仕方がない。手助けをしてやろう。まったく、ミレダも小心者なんだから!
爺婆を押しやりながら近付いて行くと、ミレダがこちらに顔を向ける。
まあ、当然かな? 仕方ないなぁ! 紹介して! あげなきゃなぁ!
「遅れてごめんね、こいつはオーク。最近、村に遊びに来てるんだ。それで、こっちが……」
「こっちの、髪の色が茶色で前髪ぱっつんボブカットのお姉さんは誰ぶひぃ? 猫目でキリッとしてる表情には凛々しさがあるぶひぃ。身長はアリーさんより高くて、体型もがっちりしてるぶひぃ。鍛えてる人ぶひぃ? おやおや、この簡素な鎧に着いてる紋章は、王国の紋章ぶひぃ。王国の騎士関係者ぶひぃ? 腰元の長剣は、一般流通の品だから、まだまだ地位は低いっぽいぶひぃ! 今後の活躍に期待ぶひぃ!」
「ああ………………、うん。………………王国で騎士をやっている、ミレダだ。アリーの幼馴染で昔はここに住んでいたんだ。ちょっとびっくりしたが、君に敵意が無くて、安心したぞ。よろしくな、オーク君」
ミレダとオークが、握手をしている。その様子に、私もにっこり。
やっぱり、自分の知り合い同士、仲良くしてもらいたいもんね。
「じゃあ、挨拶はもう良いかな? そろそろ、お土産の方、よろしくぅ!」
「アリーはまったく……。やっぱり友情より、物欲の方が勝るって?」
ミレダがそう言いながら、苦笑を隠そうともせずに自分の荷物を漁り始める。
やったぜ! ついに待ちに待った時間だ。
チラチラと荷物の中身が見えてしまうけど、その度に私の興奮度は高まってしまう。
あっ、あれかな? いえ、あれも捨て難いわね! ふふ、お土産の宝石箱ですわ!
そんな私の浮かれ気味の様子を、オークが何とも言えないような表情で見ている。
いや、オークが口パクで私に何かを伝えようとしている……。
口元に注視し、解読に努める。『は・し・た・な…………!?!?』 ……うっさいわ!
だってだって、楽しみなものは、しょうがないじゃん?!
◆
「アマタ婆ちゃんはこれ。鉢とすり棒。これを使うと、作った薬が長持ちするようになるらしいぜ」
「おお、ありがたや、ありがたや。ミレダちゃん、ありがとうねぇ」
「ジーン爺ちゃんはこれ。大地神マグナ・マテルの像。私にはよく分かんないけど、ご利益があるって言うから……」
「ミレダ!!! お前は、本当に……本当に……良い物を選んでくれたのぅ……」
ミレダの前には、長い行列が出来ている。
帰郷者がやって来た時の恒例行事、お土産お渡し会の始まりである。
ミレダは皆の為に、便利な農具や不思議な植物の種を渡している。
それを皆が嬉しそうに受け取って、恭しくお礼をしている。
ミレダの「そんなに感謝しなくていいよ~。また、買ってきてあげるから」という声も合間合間で聞こえてくる。でも、この村から出た事ない私たちにとって、帰郷者の買ってくるお土産は、どんな物にも代えがたい、宝石みたいな物なんだよ! まあ、実際に宝石とか貰っても、持て余すけど!
窓際に飾っている猫のぬいぐるみも、前回ミレダが買ってきてくれたお土産だ。「猫、好きだろ?」って言いながら放り投げてきたそれを、大事そうに両手で抱えた私。まるで、何かの舞台のワンシーンみたいだったと思う。あの時の私の美少女ポイントは、かなり高かったと思うんだよな、本当に。
「アリーさんは、何を貰ったぶひぃ?」
「ん、私は最後に回されちゃった。ぐすん」
「オデは、これ貰ったぶひぃ」
そう言いながら、ちょっと使い古し感がある、鉄で作られた盾を掲げる。
何でちゃっかりお前も貰ってるんだよ、と思ったが、嬉しそうだったので何も言わなかった。
「『お前の存在は、よく分からん。だが、敵意が無いなら、この村を守ってやってくれ。敵がいるってわけじゃないけど、それが絶対ってわけでもないしな。使い古しで悪いんだが、これでも使ってくれ』って言いながらくれたぶひぃ。良い人すぎるぶひぃ!」
「まあ、良かったじゃん?」
「おーい、アリー。待たせて悪かったなぁ」
私がオークと話をしていたら、皆にお土産を渡し終えたのか、ミレダがこっちに近付いて来た。
右手には、木箱のような物を持っており、左手には、可愛い猫のぬいぐるみが見える。私、絶対こっち! 誰が何と言おうが、こっち! もう、ぬいぐるみから目が離せないよ!
息が荒くなり、ギラギラとした様子の私に、ミレダがちょっと引いてるような顔をする。
でも、そんな物を見せる方が悪いんだからね。可愛い猫ちゃんのぬいぐるみ。仲間が増えるにゃん!
「まあ、うん。一応、聞くけど、どっちが良い?」
「こっち! 絶対こっち! いちいち聞かなくても分かるよね?! ミレダはまったく、もう!」
「アリーさん、一応もう片方の方も見てみるふひぃ。見てからでも遅くはないぶひぃ?」
「っ、ああん?!」
「怖いぶひぃ! こんな怖いアリーさん初めてみるぶひぃ! 許してほしいぶひぃ!」
オークが
「…………まあ、ぬいぐるみだとは思ったけど、一応、これも良いかなと思ってな」
ミレダが箱を開ける。そこには、二枚の紙……羊皮紙が入っていた。
「これはな、
「
「え、そうなの? そもそも、シフト? って何? 何か美味しい物と交換できるの?」
「アリーさんの
「ああ、オーク君の言う通り、珍しい魔法なんだ。で、この羊皮紙の片方には、王国行きの
「違う! この村はアリー村じゃないやい! トーン村のままだよ! 誰かが、悪ふざけをしているんだ!」
私は顔を両手で覆った。なんだいなんだい、何も聞かれないからスルーされたのかと思ってたけど、やっぱり突っ込まれたよ! 恥ずかしい! 知り合いに見られるの、超恥ずかしい!
「ああ……、それなら、ごめん。それで、うん、このトーン村への
ミレダがそう言いながら、箱を前に差し出した。
……今、私の前には可愛いぬいぐるみと、王国行きの切符がある。
もちろん、王国行きの切符は魅力的だ。でも、私みたいな田舎っぺが行っても良いのだろうか。王国の人たちに、苛められるんじゃないのかな。言葉、通じるのかな。田舎者侵入禁止罪とか無いのかな……?!
ううっ、ダメだ。捕まりそう…………怖いよう……。
私の手が、右へ行ったり左へ行ったり、宙をフラフラしている。
それを見たミレダが、「ふふふっ」っと笑いだした。
「いや、冗談だよ。本当は、両方ともアリーへのお土産だ。王国へ行ける、なんて言われても、アリーがすぐに飛びつくとは思わなかったしね。やっぱり、多少の銀貨銅貨とかあった方が楽しめるから、準備に時間もかかるしな」
そう言って、ずいっと、私の方に両方のお土産を突き出してくる。
「え、本当に良いの? 高かったんでしょ?」
「頑張ってるアリーへのご褒美みたいなもんさ」
やったぁ、と私の声が店内に響いた。
自分のお土産を楽しそうに見ていた、お爺ちゃんやお婆ちゃんが、なんだなんだ、と近付いてくる。
「お、良いタイミングで皆が集まってくれたぶひぃ! みんな、頑張ってるアリーさんに拍手ぶひぃ!」
皆が良く分からない様子を隠そうともせずに、パチパチと拍手をしてくれる。
アマタ婆も、ベル婆も、ノーラ婆も、ジーン爺も、ベイク爺もみんな、拍手をしてくれた。
村長の姿は見えない。
そんな拍手の渦の中から「今までお疲れ様ぶひぃ!」という声が聞こえた。それに続くように、「アリーちゃん、いつもありがとうねぇ」「お手伝い、ありがとうねぇ」「応援してるぞぉ」と言った声も聞こえてくる。私は、なんだか嬉しくなって、目に涙が浮かんできた。
「アリー、ごめんな。本当は、私も村に残るべきだったのかも知れない」
「良いの! ミレダは、王国に行っても、みんなの事を大事に思ってくれてる。それだけで、十分だよ!」
「皆、ミレダさんも帰ってきた事だし、頑張ってる二人を胴上げするぶひぃ!」
オークの声を合図に、私は皆に囲まれた。あれ、私、凄いドキドキしてる。胴上げされるなんて、夢みたい。
ミレダの方を見ると、オークがミレダの腰に手を当てている。そりゃ、そうだよね、二人もなんか、胴上げできないもんね。
「皆、アリーさんとミレダさんに、ばんざーい! ぶひぃ!」
「ばんじゃーい!」
私は、宙に浮かんだ。ミレダも隣で宙に浮かんでいる。凄い嬉しそうな顔をしてたけど、きっと、私もそんな顔をしているんだろうな。こんな幸せな時間が、ずっと続けば良いのにな。そう思いながら、浮遊感を味わった。
そして、即座に床に叩きつけられた。
そりゃ、そうだよね。
知ってた。
私は、気丈に振る舞って、立ち上がろうとした。でも、上からミレダが降って来た。
私は、「ぐえっ」と空気の漏れ出るような音を出しながら、ミレダの下敷きになってしまった。
「やっちまったぶひぃ! 華奢なアリーさんが下敷きになっちゃったぶひぃ!」
オークの声を最後に、私の意識はどんどん遠くに行ってしまうのであった。
ああ、起きた時にはベッドの上だろうなぁ。とほほ。
登場人物
アリー:言われてみればミレダって猫っぽいよね
ミレダ:アリーは変わって無いな
オーク:美人さんぶひぃ!
村長 :何で呼ばないの?