ど田舎だけど、ギルドの運営、頑張ります!   作:saga14

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16話 状態異常 ~毒~

長らく放置されていたミレダの家の掃除を手伝っていると、ついつい「村に戻って来れば良いのに」と思ってしまうのは、やっぱり私のワガママなのかなぁ。でも、それも仕方がない事じゃないかな?

トーン村には空き家がちらほら目立っている。その理由は住居者の引っ越しだ。

新たな土地へ引っ越しをした人は、住民登録先を移してしまうので、トーン村に戻ってくる事は滅多にない。

もちろん、ミレダのようにフラッと帰ってくる場合もあるけど、それは単に自分が生まれ育った地への里帰りみたいなもので、また少し経つと本来の居場所へ戻ってしまう。とっても寂しい。

 

なので、引っ越す人は村を離れる際「家は好きにして良いです。邪魔なら取り壊しちゃって」と簡単に言うのだけど、何というか、残された身としては、易々と壊せないものなんですよ?

「いつか、戻ってくるよね!」という淡い思いを心に残していますので、そんな皆が住んでた家を壊すという事は、もう本当に戻ってこないんだなぁ、と実感させる行為に他ならないわけで。

だからまあ「まったく、村に戻ってくる時はアリーの家に泊めてくれれば良いのに。わざわざ掃除の手伝いまでしてくれちゃってさ」と言われても、嬉しさより悲しさの方が勝ってしまうのだよ。

 

「ダメダメ! ミレダの家はここでしょ! 私のギルドは旅行者用の空き部屋しかないの!」

「全部、自分の部屋にしてるくせに……」

「そ、それはそれ!」

 

どうにか、引っ越しちゃった皆が戻ってきてくれるようにならないかなぁ。

私の冒険者ギルドが大盛況になって村が活気づいたら、戻って来てくれるかな?

 

「まあ、適当で良いよ。どうせ寝室しか使わないし」

「もう……」

 

ミレダの気のない言葉に一人切なさを覚えていると、家の外から「アリーさーん。どこぶひぃー?」と、オークの声が聞こえてきた。私が窓を開けて、「ここだよー」と、オークに手を振る。すると、オークはこちらに近付き、そのまま玄関に向かって行った。扉を叩く音とミレダの「律儀な奴だねぇ」という声が聞こえてきたと思ったら、扉からオークが顔を覗かせてきた。

 

「こんにちはぶひぃ。ミレダさんも一緒なら、丁度良いぶひぃ。ちょっと、森へ行くぶひぃ」

「ん? 森に行って何をするんだ? 探し物か?」

「ちょっと違うぶひぃ。アリーさんのギルドの為の勉強の時間だぶひぃ」

 

オークがミレダに説明をしている。というか、私は何も聞いてないぞ。新手のドッキリか!

ミレダとオークが二言三言交わすと、ミレダはどうやらノリノリになってしまったようだぞ。

 

「よし、アリー! 私も手伝ってやるからな!」

「ええ…………?」

 

私が言葉を返す間もなく、ミレダとオークに森へと連れて行かれてしまった。

なにさなにさ! 今日は一体、何が私を待ち受けているのだろうか!

 

 

 

 

今回はミレダも一緒という事で、いつもより森の奥へ来ています。

突然連れて来られたから、私の服装は繁みに入るのに適していない気がするんだけど。

まあ、葉とか枝で切り傷が出来るわけじゃないから、良いんだけど。良いんだけど。

 

「今日はアリーさんに、状態異常について勉強してもらうぶひぃ」

「お、おい、オークは私を馬鹿な子だと思っているんだな! 状態異常くらい知ってるよ! 毒・麻痺・睡眠・石化・魅了! はい、今日の勉強はおしまい! ありがとうございました!」

「アリーさん、なんか今日は元気が良いぶひぃ! オデ、やる気出てきたぶひぃ!」

 

森に来てまで何をするのかと思いきや、状態異常の勉強と言われてしまったよ。

でも、それなら森に来た意味が全く分からない。座学で済む問題なんじゃないかなぁ?

しかも、なんかオークのやる気に火を点けてしまったようだぞ? むむむ。

 

「それでアリーさんは、状態異常になった事があるぶひぃ?」

「うーん、毒ならある、かなぁ? 前に生ものを食べたらお腹壊しちゃってね、凄くお腹が痛くなるし、吐き気はするし、散々だったよ……。なんか、腹痛が極まると神様に謝りたくなるよね。あれ、なんなんだろう?」

「待つぶひぃ! それはただの食中毒ぶひぃ! 正しいような気もするけど違うぶひぃ! 世の中の冒険者は毒対策に腹痛の薬を使わないぶひぃ! 下痢止めも使わないぶひぃ!」

「アリー、体調不良と状態異常を一緒にしないでくれよ……」

 

オークはまだ良いとして、ミレダに呆れられると…………心に残るね……。

 

「てゆーか、私は別に冒険者じゃないから状態異常なんて関係ないよね? 私はただの村娘なんだぞ。ただの村娘なんて、せいぜい風邪とかお腹が痛くなる程度で十分!」

「そんな考えは捨てるぶひぃ! 一流の冒険者ギルドの受付嬢になるなら、冒険者の気持ちになるべきだぶひぃ。だから、今日はアリーさんに状態異常を味わってもらうぶひぃ」

 

私は、オークとミレダから逃げ出した。だが、回り込まれてしまった。

 

「なんで! そんなの絶対おかしいよ! ミレダも何でオーク側なんだよ!」

「まあ、オーク君の言っている事も分かるんだよ。王国の冒険者ギルドの受付嬢にも、元冒険者って人が意外に多いんだ。もちろん、アリーみたいに普通の子もいるよ? でも、やっぱり同じ経験をしているだけあって、経験者の方が、人気はあるね。だから、この機会だ。アリーも少しくらいは、冒険者と同じ土台に立った方が良いんじゃないかい?」

「えーーーーー…………? マジで? ドッキリとかじゃないんだよね?」

「アリーが普通の受付嬢で満足するならそれで良いんだけど、やっぱり、友達としては、ね」

「むぅ……」

 

ミレダにそんな事を言われちゃったら、私も覚悟を決めるしかないじゃないか。

意を決したように、私はオークに話し掛ける。

 

「痛いのは嫌だからね? ちゃんと、助けてよ?」

「任せるぶひぃ!」

 

 

 

 

「い……いやだ! 絶対にそれ、痛いよね! ね、ねぇ、助けてよミレダ!!」

 

バタバタと暴れる私を羽交い絞めに抑えるミレダ。耳元で「大丈夫、大丈夫だから」と言うのは良いんだけど、それならこの拘束を解いて欲しい。それか、オークの持ってるアレを、どうにかしてほしい!

オークは右手に、まだ生きている大きな蜂を掴んでいる。あの生き物は前に聞いた事がある。キラービとか言うモンスターだ。お尻に太くて大きい針が付いてて、超怖い……!

 

「そ、それをどうするつもりだ! い、いや、やっぱり言わないで! 言わないで!」

「キラービの針には毒があるぶひぃ。初心者冒険者は、苦労するぶひぃ」

「ひ……、ひぃ! い、今なら許してあげるから、ね? ほら、今日はもうおしまい!」

「キラービの針に刺されると、20%の確率で毒になるんだぶひぃ」

「ね……ねぇ! 今、聞き逃しちゃいけない事を言ってた! 失敗したら痛いだけじゃん! や……嫌だ、助けて! な……泣くよ! もう、泣くからね……?! えー、えーん!」

「わ、分かった! 分かったよアリー。確かに村娘にモンスターの攻撃は怖いよな。確かにそうだ。私たちはモンスターに慣れてるから、な。よし、痛くない方法だったら、良いか? 良いよな? なぁ、オーク君、ちょっとキラービ貸してくれないか?」

 

嘘泣きしている私を横に、ミレダがオークからキラービを受け取った。

それをどうするんだろう、と思っていたら、なんか左手で針の部分を掴んで、右に左に動かしている。

キラービの羽音が大きくなり、顎から威嚇音が聞こえてくるが、それでもミレダは全く怯む様子が無い。見ているだけの私はもう怖くて怖くて仕方がないのに……、やっぱり騎士は違うんだなぁ……。

 

「ほら、これなら良いだろ? アリー、これ、飲んでみろ」

 

そう言いながら、右手に掴んでいたキラービをミレダは解放した。

右手に捕まれていたキラービは、これ幸いとばかりに、羽音を響かせてどこかに飛んで行ってしまった。

キラービの行方を目で追った後、私の方に差し出されているミレダの左手に目をやる。

ミレダは、先ほどまでキラービから生えていた針と、その根元に付けられている袋? のようなもの? なにこれ内臓? を私に差し出してきたぞ?

 

「ねぇミレダ、これってキラービの大腸(ホルモン)? 焼いて食べるの?」

「いや…………。これは、キラービの毒腺とその袋だ。キラービは針を刺す際に、この毒腺を開いて毒を注入してくる。でも、その為にはキラービがリラックス状態になっていないといけない。キラービが相手を格上だと思っていると、緊張のせいか毒腺が閉まる……筋肉が収縮してるからかな? 逆に、キラービが相手を格下だと思っていると、相手は毒状態になりやすい。だから、今回のアリーの様子だと、20%程度じゃなく、80%の確率くらいで毒に侵されてたと思うぞ? 状態異常の確率なんてそんなもんさ。モンスターより強ければ、気を付ける必要はあまりないんだ」

「ミレダさん凄いぶひぃ! ミレダさんはモンスターの生体にも詳しいぶひぃねぇ! オデ、そんなの全然知らなかったぶひぃ。オデ、アリーさんが毒になるまでぶっ刺すつもりだったぶひぃ!」

「まあ、私は職業柄、な」

 

ミレダとオークが和気藹々とモンスター談議に花を咲かせている。

てゆーかおいおい、オークのくせになんか物騒な事を言っちゃいないか?

あんな太くて大きい針に何度も刺されたら、大量出血しちゃうよ!

前から思ってたけど、なんかあいつは私を勘違いしてる! 私はただの、か弱い村娘だぞ!

 

「さぁ、アリー。飲め!」

「まあ……痛くないなら……飲むよ。飲めば良いんでしょ!」

 

 

 

 

「ううっ……せかいがぐるぐるするよぉ……ぎぼちわるぃ……」

「ほら、村までもうすぐだ。頑張れ頑張れ」

「うぅ……おーくぅ、おんぶ、おんぶしてよぉ」

「アリーさん、辛いのは今だけぶひぃ。その辛さを乗り越えて、人は大きく成長するぶひぃ。オデがアリーさんをおんぶするのは、簡単な事ぶひぃ。でも、そこを手助けしてしまったら、アリーさんの身に何も残らなくなってしまうぶひぃ。オデは心を鬼にして、アリーさんを応援してるぶひぃ!」

 

私はミレダにもたれ掛かりながら、よちよちと、村に向かっている。

最初はオークが肩を貸してくれたけど、体格差がありすぎて、猟師が仕留めたラビットを肩掛けしているようになってしまった。なのでミレダと交代だ。

それにしても、凄いなぁ。世の中の冒険者たちは、こんな危険と隣り合わせになりながら、頑張っているんだなぁ。今までの私だったら「毒になった? 薬草食べれば良いんじゃないの? 違うの?」で済ませていたはずだ。

うぅ……そんな軽く流して良い問題じゃなかった……。ごめんなさい……、毒って怖い…………。

 

 

 

 

「はい、お疲れ様。村に到着したぞ。歩いて家に帰れるか? 階段、登れるか?」

「ここまできたなら……さいごまでやるよぉ……。うぅ……、がんばれわたし。がんばれわたし……」

「オデ、アマタお婆ちゃんから薬草貰ってくるぶひぃ!」

 

オークがドタドタと走ってアマタ婆の家に向かう。そんなオークとすれ違ったジーン爺が、不思議そうな顔をしながらこっちに向かって来た。

 

「そんなに急いでどうしたんじゃ? っと、アリー、大丈夫かい? なんだか体調が悪そうじゃないか。おいおいミレダ、急いでアリーをベッドに運んであげなさい」

「ああ、ジーン爺ちゃんか。いや、今日はアリーと状態異常の話をしていてね。その一環ってやつさ。だから、心配はいらないよ。今、オーク君が薬草を貰いに行ったところだしね」

「そうかそうか……。いや、そうは言ってもやっぱり心配じゃ。アリーは村唯一の若者だからのぅ。アリーに何かあったら、それを見逃した儂も慚愧(ざんき)の念に苛まれてしまう。よし、すぐそこだから、儂の家に連れて来なさい。元気になるまで、儂も様子を見てやろう」

 

ジーン爺の提案に、私は乗っかった。

だって、凄く気持ち悪くて、本当は、もう一歩も歩ける体力なんてなかったから。

ジーン爺の家は、もう目の前だ。

 

私はミレダとジーン爺に介助されながら、ジーン爺の家にお邪魔し、布団の上に寝かされる。

横になったら、なんか一気に体調が良くなった気がしたけど、それはもちろん気のせい。

私の身体は今、毒に侵されています。いますよ。毒アリーですよ。オーク、早く戻って来ないかなぁ。

 

「じゃあ、私も身体に良い物でも作ってくるよ、アリー、台所借りるぞ」

「アリーの事は儂が見ておるからな。アマタ婆も薬草を煎じるのに時間がかかるだろう。ゆっくり、寝て、身体を休めるんじゃぞ」

 

ミレダが外に出て、ジーン爺が私の頭の上に水で絞ったタオルを置いてくれる。

ようやく一息つけた感じがする。一日の疲れからか、一気に睡魔が襲い掛かるのが分かった。

 

「アリーや、儂が気持ちよく寝られるように本を読んでやろう。眠くなったら、そのまま寝るんじゃぞ? 儂の事は気にしなくていいからな?」

 

ジーン爺が、ゴソゴソと何かを手に取ったかと思うと、ごにょごにょと言葉を紡ぎ始める。

地母神とか、生命とか……何か言ってる気がするけど……。う……、もう、眠気の限界だよ……。不浄……? なんて言ってるのか分からないや。……神秘なる愛……? もう、なんでも良いや。とりあえず寝よう。もう……おやすみ……な……さ……。

 

 

 

 

「あっ、オーク! お帰り! 私、なんか元気になったんだよー!!! ジーン爺のおかげで、身体の中から現生の毒気が浄化され、皆さまの御心にようやく報恩を返せるようになったよ! 私の一族の血は、はっきりと汚れてしまっている事が今回の一件で身に染みたよ。私のジジイが過去に成した財のせいで私の中の三毒が現世に災いとして降りかかってしまったんだね! 危うく私の自己中心性で痴愚(ちぐ)な人生を過ごすところだったよ。みんな、今までごめんね!」

「…………ミレダさん、一体何が……起きちゃったぶひぃ……?」

 

オークが私を不思議そうな目で見つめてくる。それにしても、ミレダが私の尊師に詰め寄ってるんだけど、一体どうしたんだろう。ああ、空は綺麗だなぁ。何の曇りもないよ。この美しい世界は、誰のおかげで成り立っているのだろうか。ああ、ミレダも尊師も、争いを収めようよ。世界は愛で満たされてるよ。

 

「ジーン爺! 寝てる間に、何をしたんだ! アリーがおかしくなってるじゃないか!」

「いや……儂はな、良かれと思ってな、この偉い人の説法を読んであげただけでな……」

「おい……、おい……。毒ならまだしも……、こんなんなったら……私の力じゃ手の打ちようがないし…………ああ、もう! 本当になんて事をしてくれたんだ!」

「儂もこんなんなるとは思わなかったんじゃ……、すまんのぅ…すまんのぅ…」

 

ミレダと尊師のやり取りを横で見ていたオークが、再び私を見つめる。

そして、またも二人のやり取りに目を向けたかと思うと、オークも何やら慌てた顔になって、目を見開いて詰め寄って来た。なんだなんだ、オークもようやく真理に近付いたのかな?

 

「アリーさん、魅力(せんのう)されてるぶひぃ! な、なんでぶひぃ! おかしいぶひぃ!」

 

オークが私の肩に手を置いて、目を見つめてくる。

おいおい、お天道様が見てるんだぞ。愛に目覚めたからと言って、そんなに積極的になるなよな。

それにしても、人生、最高!!!

 




登場人物

アリー:人生最高
ミレダ:毒だけって聞いてたのに……
オーク:予定と違うぶひぃ! 何が起こったぶひぃ!
ジーン爺:確信的
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