ど田舎だけど、ギルドの運営、頑張ります!   作:saga14

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18話 さよならミレダ

「えっ……? ミレダ、もう帰っちゃうの?! そんなぁ……そんなぁ……」

 

今日はミレダと、アマタ婆の為に森で薬草を摘んでいたのです。

最初は何の事もない会話から始まったのだけど、村の話から森の話へ変わり、森の話から大陸の話へ変わり、大陸の話から王国の話に変わったと思ったら、急にミレダが王国に戻ると言い出してしまったのだ。

 

「いや、本当はもっと長居しようと思っていたんだけど、頑張ってるアリーの様子を見ていたら、私もいつまでも休んでられないと思ってしまってな……。いや、久々に会うアリーはどうしてるか気になってたけど、最近の様子を見る限り、私がアリーにどうこう言える筋合いもないよな。アリーの頑張り、見習わないとな……」

「わ、私は別に頑張ってない…………とは、い、言い切れない……! ここでそれを否定してしまったら、オークの頑張りも無駄にしてしまう結果に……ぐ、ぐぬぬ……。は、図ったなぁ、図ったなミレダ!」

「そ、そのテンションは良く分からないけど、もう決めたよ。明日の午前中にでも私は王国へ戻る。まあ、それまでの間は、よろしく頼むよ」

 

そう言い残すと、ミレダは十分なほどの薬草を集め終わったのか、村に戻って行ってしまった。

私もすぐに追って行ったけど、その足取りはやっぱり、なんか重く感じちゃうよ。それにしても、ようやくオークとミレダも仲良くなったと思ったのに、途端にこれだよ。オークもきっと、悲しむんだろうなぁ。綺麗って言ってたし、森へ連れて帰らないかなぁ。でも、それじゃあ問題解決にはならないから、ダメなんだよなぁ、きっと。

 

 

 

 

村に戻ったミレダは皆に挨拶周りをすると言って、薬草の入った籠を私に押し付けたかと思うと、村長の家に向かってしまった。

私はどうしたのかと言うと、どうにかミレダを引き留めようと思い、作戦会議をしようとしたのだけど、どこを探してもオークが見当たりません。まったく、いつも私が困っていると出てくるのに、いや、別に困って無くても出てくるな。変なタイミングで私を連れ出したりするし、もしかしてオークは私の事好きなんじゃないの?! それにしても、こーゆー時に見付からないんじゃ、評価下げちゃうんだからな! ぷんぷん!

ギルドの受付に座って、ああでもない、こうでもない、と考えているのに、どうにも良いアイディアが浮かばなくて実に困ってしまった。今夜中に引き留められなかったら、ミレダは王国に帰っちゃうんだから、私の頭にはしっかり働いてもらわないといけないんだけど、どうにも頭が動かない。

そう、本音を言うと、ミレダに帰って欲しくないと思う気持ちと同じくらい、また王国で頑張ってほしいと思う気持ちが私の中にはあるのだ。やっぱり、私のワガママでミレダの夢、と言うか目標? 騎士として頑張って働いているミレダを引き留める事は私には出来ないんだよなぁ。こんなど田舎の空気に染まっちゃっても困るだろうし、寂しいのは確かだが、むしろ盛大に送り出してやった方が良いような気がしてきた。そうだよね、盛大に祝って、またすぐに戻って来てもらう方向で行こう。それなら誰も不幸にならないはずだ!

思い立ったが吉日だぞ! 台所へ向かい、保存してある食材をふんだんに使った夕食をミレダに味合わせてあげる事に決めました。私の出来る事なんて料理くらいだから、ミレダが泣いて感動するほどのすっごい料理を作って見せるんだ! そして、王国の料理が口に合わなくなってしまえば良いんだ! あっはっは、あーっはっはっは!

 

 

 

 

「おう、アリーおはよう」

「んん~……、もう時間なの~……? もう帰っちゃうの~……?」

 

朝になり、私は寝ぼけ眼をこすりながらミレダの方を見た。

昨晩はミレダの為に村の皆を呼んでパーティを開いたのだ。パーティと言っても、まあ、高が知れてしまうが、それでもイベントがあれば年齢関係なく盛り上がるのがこの村の良い所だと思う。私の作った料理を食べたり、お酒を飲んだり、歌を歌ったり、踊ったり。ミレダの為に作った私の料理は、ミレダが「手の込んだ料理はプロ顔負けじゃないかな? ははは」と笑いながらたくさん食べてくれた。

夜も更けて、一人、また一人と眠気が限界に達したのか、家に戻ってしまったが、お酒を飲み過ぎたのか店内で雑魚寝をしている人も何人かいる。きっとお酒臭くなってるんだろうなぁ……。

当然、私も途中から眠くなってしまったけど、ミレダと次に会えるタイミングが分からないので、最後まで頑張って起きていた。それで、まあ、自宅に帰ろうとしたミレダを引き留めて、一緒のベッドで横になって、眠りに落ちるまで色々話してたと思うけど、うん、私も酔ってたから、あんまり覚えてないや。

 

「ははっ、昨日は遅くまで話をしたから、まだ眠たげだな。それでも私の準備が終わり次第、最後の朝食を頼むぞ? ここから草原を抜けて、行商の馬に乗せてもらって港まで向かうんだ。途中でバテないように、精の付く料理を頼むぞ? そうそう、昨晩は楽しかったよ。私の為に、皆に付き合わせてしまって申し訳なかったかな。でも、まあ、今生の別れと言うわけじゃないんだ。昨日の内に挨拶を済ませられて良かったよ。まあ……オーク君に会えなかったのは残念だったけど……」

 

そうなのだ。なんて事か、オークが昨日中に私たちの前に姿を現す事は最後まで無かったのである。

もちろん、オークが来ない日もあるにはあるけど、それにしてもこんな大事なタイミングで来ないなんて間が悪すぎると思わない?! もしかしたら、昨日はのんびり森で遊んで、今もぐっすり眠ってるのかもしれない! それを考えてしまうと、頭の中がむしゃくしゃしてきてしまった。今からでも呼びに行ってあげようかなぁ、とも思ったけれど、オークが森のどこら辺を住処にしているのか私は知らないので、残念ながらそれはできないのだ。こんな事になるなら、この村に住ませてあげれば良かったのかな? それとも、大体の位置でも良いから聞いとけば良かったのかな? ううっ、後悔先に立たずだなぁ……。

 

ミレダが部屋で荷造りを始めたので、少し酔いが残っている重い身体を引き摺って、どうにか階段を下りて店内に戻って行く。店内には至る所に、昨日のお祭り騒ぎの名残が残っていた。テーブルの上の酒瓶は倒れており、椅子から転げ落ちたまま寝ている村長の姿も見受けられた。皆、はしゃぎ過ぎだぞ。

床で寝ている数人に声を掛けるが誰も起きる気配はない。仕方がないのでそのまま放っておくことに決め、私は近くのテーブルを軽く整えて、ミレダとの最後の食事の為の空間を作った。

オシャレな音楽でも流れていれば、舞台でありがちな『お別れ前に最後の食事をする二人』みたいなムードにもなったのかもしれないけど、残念ながら聞こえてくるのはいびきだけだ。そもそも、女同士だからそんなムードはいらないよね。うへへ、恋愛小説の読み過ぎかもしれないぞ。

 

台所で昨日の残りを温め直し、サラダを準備していたら、ミレダがいつの間にか降りてきたのか「良い匂いだなぁ。これで当分、食べ納めだな」と声を掛けてきた。

「もうできるよ。テーブルで待ってて」と告げ、二人分のお皿によそっていると、まだ閉店してるはずなのに、扉の開く音が聞こえ、誰かが入ってくる音が聞こえた。最初は早起きした誰かがミレダのお見送りに来たと思ったんだ。だって、年寄りは早起きだからね。でも、それは違った。ミレダの「オーク君、どうしたんだい!」と言う驚いた声が聞こえてきたんだもん。私も、オークがこんな朝早くに来るなんて思ってなかったから驚いちゃって、お玉を片手に店内に戻ってみたの。そしたら、そこにはオークが立ってた。でも、いつもとは全然違う様子に見えて……そう、身体中がボロボロになっていたんだ。

 

「ねぇ、オーク! どうしたの?! 何でそんなに傷だらけなの?!」

「オーク君、誰かに襲われたのか? それなら、私に任せろ。村を出る前の一仕事だ」

 

ミレダの顔付が一気に変わって、そこからはヒシヒシと怒りの様なものが感じられた。戦いとか良く分かんない私でさえそう感じたんだから、オークはもっと感じてたかもしれない。でも、そんな私たちの様子を見てもオークは取り乱した様子も見せず、むしろ、いつも通りの落ち着いた声で私たちに話しかけてきた。

 

「ぶひぃ。朝からごめんぶひぃ。身体を洗ってくる暇もなかったぶひぃ。アリーさん、店内の掃除は後でするぶひぃ」

「店内の掃除なんかどうでも良いから! オーク大丈夫?! 怪我はない?!」

「ああ、森の中だったらなんだい? 大型の獣でも現れたのかな? なあ、オーク君。すぐにでもその場所を教えてくれ」

「二人とも落ち着いて欲しいぶひぃ。確かにオデはボロボロだけど、そんな事はどうでも良いぶひぃ。オデ、ミレダさんの為に、お花積んできたぶひぃ。ミレダさん、そろそろ帰る頃合いぶひぃ?」

 

私たちは、二人で顔を見合わせて、そしてまた、オークの方を見直した。

オークはさっきまで背後に隠していた両手を前に出す。そこには、今まで見た事もないような色鮮やかな花がたくさん抱えられていた。

 

「王国に帰ると思ったから、お土産考えたぶひぃ。でも、普通の物じゃ王国で買えちゃうぶひぃ。だから、オデ、珍しい花を探してたぶひぃ」

「い……いや、確かに私は今日帰るが。……それをオーク君に話した覚えはないんだが、一体どうして、いや、誰かに聞いたのか? でも、昨日の今日だからそんなはずは……」

「そんな事は気にしないで良いぶひぃ。あえて言うなら、オークの勘だぶひぃ。オデ、ミレダさんを初めて見た時、とても綺麗な人だと思ったぶひぃ。凛々しい佇まいに、精悍でも女性特有の柔らかさがある表情。でも、その瞳を見た時、オデ分かったぶひぃ。この人の美しさは、ギリギリの所で保たれてるぶひぃ。きっと、村に帰って来たのも、何かを失敗して来たんだと思ったぶひぃ。でも、そんな表情も最初の間だけだったぶひぃ。アリーさんと一緒に過ごして、ミレダさんの瞳からは、悩みや迷いが消えていったぶひぃ。オデ、安心したぶひぃ。そして分かったぶひぃ。ミレダさん、きっとそろそろ帰っちゃうぶひぃ。だからオデ、ミレダさんの為にお花探してたぶひぃ」

「あ、ああ……! 確かに私は、王国で失敗をしたさ! 自分に課せられた任務を、完遂する事ができなかった。それだけなら良い。私が罰せられるだけだ。だが、それだけでは無かった。賊に襲われた第二王子候補をお守りする事ができずに……怪我をさせてしまったんだ。もちろん、罰は受けた。しかし、それだけでは私の心は収まらなかった。自分は国民を守るために騎士になった。だが、私は弱かった。そんな自分が、許せなかった。自分の努力も、信じられなくなった。ああ、だから村に戻って来た。自分の心の中をもう一度見つめ直そうと思ってな。なんだったら、村で暮らそうかとも思ったよ」

「ミレダ……、そんなに思い詰めてたの知らなくて……ごめんね、友達なのにごめんね!」

「いや、良いよ。気にしないでくれ。むしろ私はアリーを見て、自分の考えが小さかった事に気付けたよ。アリーは冒険者ギルドの看板娘として、苦手な事をひたすら頑張っていた。あんまり好きじゃないモンスターも調べてるみたいだし、オーク君と一緒に、夢に向かって突き進んでいた。そう、私もそうだ。最初は夢に向かって突き進んでいた。それも、順調にだ。だからこそ、変なプライドが生まれていたんだろうな。アリー、君のおかげで、私は気付けたよ。もう一度、最初から努力して、自分に自信を持ってみせる。そして、人々を守る騎士として、生きる。この村に帰って来て正解だった」

「ミレダ……!」

 

私は感極まって、ミレダに抱き着いてしまった。そんな私たちを、オークは優し気な瞳で見つめてくれていた。オークは、いつだってそうだ。私だけじゃない、他の人だろうが誰だろうが、困っている人がいたら助けてくれるんだ。そんなオークを私は誇らしいし、私と友達になってくれて、とても感謝をしているんだ。

一頻(ひとしき)り抱き合った私たちは、そっと、離れた。そして、オークがミレダに近付いて行き、両手いっぱいの花を差し出した。

 

「花束には後でするぶひぃ。でも、その前に受け取って欲しいぶひぃ。この、赤やピンクの花の花言葉は『前進』『辛抱強い』ぶひぃ。ミレダさんの今後に向けての応援だぶひぃ。ちなみに『美』ってのもあるぶひぃ。ミレダさん綺麗だからぴったりの花ぶひぃ。王国に行っても頑張って欲しいぶひぃ。そして、この青みが強い花はアリーさんから渡して欲しいぶひぃ」

「……? えっ、私から……。じゃあ、はい、ミレダにこの花もプレゼントします! 私の事、たまには思い出してね!」

「その花の花言葉は『不屈の精神』だぶひぃ。ミレダさんには、夢を諦めないで欲しいぶひぃ。そして、『夢で逢いましょう』って言葉もあるぶひぃ。これを枕元に飾れば、夢の中で二人は会えるぶひぃ! 寂しくなってもこれで平気ぶひぃ!」

「ううっ……ほ、本当に私なんかの為に……いや、だめ……だ。こんな、サプライズ、嬉しくて……な。泣くな、と言う方が……無理だと……思わ……ないかい。ああ……なんて幸せなんだ私は……本当に、本当に村に戻って良かったよ……。そして、君たちみたいな……友を持って……」

「ねぇ、ミレダ! 別に今日が最後ってわけじゃないんだから、ねっ! 笑って過ごしましょうよ! せっかく、オークも来てくれたんだから、最後まで格好良く、綺麗にね!」

「そうぶひぃ、オデ、お腹空いたぶひぃ! 三人で楽しくご飯食べるぶひぃ!」

「あ……ああ、そうだな。アリー! 精の付く食事、期待してるんだからな!」

 

 

 

 

「ミレダ、行っちゃったね」

「ぶひぃ。出会いあれば別れあるぶひぃ。でも、アリーさんには空間転移(シフト)の羊皮紙があるぶひぃ。一度なら、こっちから会いに行けるぶひぃ」

「……うん、そうだね。そのためにも、私も頑張らなくちゃな~」

 

私たちは、村の入り口でミレダを見送った。

私とミレダ、お互いの姿が見えなくなるまで手を振っていたけど、まあ、寂しくなるなぁ!

オークの方をちらっと横目で見てみる。まだ、ミレダの向かった先を見つめていた。

それにしても、出会いあれば、別れあり、か。もしかしたら、オークとも別れる日が来ちゃうのかな。

でも、すぐにそんな考えは捨て去った。そうだよ、今からそんなこと考えても仕方がないもんね! オークには、私が一人前になるまでいてもらわなきゃ、困るんだからね!

私は、そっとオークの手のひらを掴もうとして……。

 

「あっ、アリーさんにもお土産あるぶひぃ。これ、果物ぶひぃ。食べるぶひぃ」

「……あっ、うん、私にもね、うん、ありがとう、うれしいな~」

「オデ、昨日から寝てないぶひぃ。今日はこれで帰るぶひぃ」

 

オークは私に、森のどこに生えていたんだろう? 緑色の皮をしている果物を渡して、すたすたと森の方に帰って行ってしまった。私は、その果物を食べる前に、まず、村長の家に向かった。村長は「なんだなんだ、アリーじゃないか。まだまだ村長の座は譲らんよ。おや? 珍しい果実を持っているねぇ。お土産かい?」と興味津々に見ていたが、私は無視して、花の図鑑を手に取ってみた。

ミレダにあんな洒落た花言葉のある花を贈ったんだ。もしかしたら、私にくれたこの果物にも……「愛してる」とかだったらどうしよう! きゃー! きゃー!

 

 

それっぽいページを見付けた。

 

 

花言葉を見てみた。

 

 

強……健……?




登場人物

アリー:オークってやつはさぁ!
ミレダ:オーク君ってやつは……
オーク:ミレダさんにはガーベラとニゲラ、アリーさんにはグァバぶひぃ
村長:美味いなこれ!

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