ど田舎だけど、ギルドの運営、頑張ります!   作:saga14

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19話 部屋掃除

今日は朝から雨模様だったので来客も無く…………って、来客が無いのはいつもの事でした!

なので、たまには自室の掃除でもしようかな、と思い立ったが吉日。今日は二階の掃除をしましょう!

けっこうぼんやり過ごしてる事も多いけど、別に私は掃除が嫌いなわけではない。

むしろ、店内はいつも綺麗にしているんだから、綺麗好きと言っても良いぐらいじゃないかな?

でも、自分の部屋となると話は別になるのは何でだろうなぁ。

流石に布団を干したりはするけれど、そこまで細かいところまではする気にならないんだよなぁ。

不思議だなぁ。

 

バケツと雑巾を手に、階段を上がっていく。

この四つの部屋が、また他人に貸し出される日が来るのはいつになる事やら。

いや、でも一室は私のプライベート空間だ。となると三部屋だね。

でも一部屋は寝室として使ってるし、もう一つは物置だ。

となると、あれ、もしかして一部屋しか貸せなくなってる?

まあ、宿屋は副業みたいなもんだから良いよね。お客さんが増えたら、考えよう。そうしよう。

 

 

 

私がえんやこら、えんやこらと自室の掃除を終わらせ、寝室の掃除も終わらせたら時刻は昼だ。

物置は物置なので、まあ、いつでも良いよね。気にしない気にしない。後回し後回し。

頃合いも良いので昼食にしようと思ったら、いつの間にか階段を上がってきた猫ちゃんが唯一宿泊可能となっている一室に入って行ってしまいました。

 

「あっ、こら! そこはダメだよ」

 

残念ながら猫ちゃんに言葉は通じません。にゃあ、と鳴いたかと思うと、スルリと入室してしまいました。困ったやつだなぁ、と思いながら、私もその後に続く。

 

「猫ちゃん、続きはご飯食べてからするにゃあ」

 

部屋に入った私の目に入ったのは、ベッドの下に入り込もうとする猫ちゃんの姿。

おっと、流石の私もベッドの下までは定期的に掃除はしていません。このままでは猫ちゃんが埃まみれになってしまいます。それだけは断固食い止めないと! そこはダメだにゃあ!

駆けよって猫ちゃんを両手で抱え上げても、猫ちゃんは何がそんなに気になるのか、ベッドの下に向かって前足を伸ばし、鳴き声を上げています。おや、もしかしたら何かいるのかな? ねずみでも現れたのかな?

身を捩る猫ちゃんを廊下へ降ろしてから扉を閉め、ベッドと向かい合います。さぁ、来るならこい!

そっとしゃがみ込み、ベッドの下を覗いてみますが、手が入るくらいの隙間しかないので当然のように暗くなってます。うん、よく見えない。

なので、そっと右手を伸ばしてベッドの下に突っ込みます。ワサワサと左右に動かすも、何の手応えもありません。うーん、良かったやら悪かったやら。

手を引き抜き、再びベッドの下を覗いてみますが、生き物の気配は何も感じません。私の腕が床の埃を舞い上がらせただけで、後は何も無さそう。うん、猫ちゃんめ。単に入りたかっただけかにゃあ。

 

いたずら猫ちゃんに微笑ましさを感じていたら、ふと思い出した。ここは前にルシファーが過ごしていた部屋だ。

もしかしたら、私に何かを残してくれたのかもしれないぞ!

だって、一目惚れなんて珍しい事じゃないじゃない! 一国の貴族と田舎の村娘の大恋愛なんて小説では良くある事! ルシファー、別れ際にキャラを作ってたとかなんとか言ってたけど、それはシャイな自分を隠すために演技をしていたのかもしれない! そうよ、身分違いの恋はお互いを不幸にさせるだけ。でも、そこに愛があるならば、どんな困難でも乗り越えられる! 私、ルシファーの気持ちに答えてみせる!

ベッドの下に、きっとルシファーは手紙を隠してくれたんだわ。

「いつか、この手紙を見た君へ……」なんて始まり方だったらどうしよう! きゃー! きゃー!

さながら猫ちゃんは私とルシファーを繋ぐキューピット……! 猫ちゃん、君のファインプレーを私は無駄にしないよ! 私が貴族の妻となったら、名誉猫として飼い猫にしてあげるんだから!

 

そんな感じで現実逃避を楽しんでいたら、猫ちゃんが扉をカリカリ引っ掻いている音がする。

そろそろ猫ちゃんもお腹が空いたのかもしれない。ご飯でも食べようかな。

私が廊下に出ようと扉を上げると、何て事でしょう。猫ちゃんが凄い勢いでベッドの下に潜ってしまったじゃないですか! 私はとっさに捕まえようとするも、時すでに遅く。聞こえてくるのは窓の外の雨音と、ベッドの奥の方から聞こえてくる、か細い「にゃあにゃあ」という声だけ。ああん、もう!

 

「猫ちゃん、良い子だから、出ておいで?」

「…………」

「おーい?」

「…………」

「ご飯だよー。食べるにゃあー」

「……………………にゃあ」

 

ダメだ。出てくる気配が無い。困ったなぁ。ご飯の匂いに釣られるかなぁ。

私が諦めて一階に戻ろうとしたら、入り口から「お邪魔するぶひぃ」という声。

お、丁度良いタイミングだね! オークに、ちょっと手伝って貰おうか!

 

 

 

オークに訳を話したら「任せるぶひぃ!」と期待の出来る返事をもらえた。うんうん。やっぱり頼りになるなぁ。こーゆー時に男手ってあると良いよね……と思ったんだけどなぁ……。

 

「ぶひぃ。入り口が少し狭いぶひぃ。部屋もオデには狭いぶひぃ……」

「うーん。ベッド、持ち上げられそう? その前に、部屋に入れそう?」

「無理に入ろうと思えば入れるぶひぃ。でも、ベッドの上にオデのお腹が乗っちゃうから、持ち上げにくくなるぶひぃ。力づくでやったら、ベッド壊れちゃうかもぶひぃ。最悪の結果になるぶひぃ」

「オークでもダメかぁ……。もう、猫ちゃんが自然に出てくるの待った方が良いかなぁ。残念だけど……それしか方法ないよね……」

 

諦めてご飯にしようと部屋に背を向けたら、名案が浮かんだのか、オークの声が私を止めた。

 

「仕方がないぶひぃ。オデ、アリーさんに力を授けるぶひぃ」

 

 

 

 

「そうぶひぃ、下に手を掛けて……もう少し足を開くぶひぃ……そうぶひぃ! その体勢ぶひぃ!」

「えっ……私には無理だよ? だって搬入する時だって、男の人が二人で何とか……」

「大丈夫ぶひぃ! 秘伝のオークパワーを注入するぶひぃ! これで一時的にアリーさんもパワーアップぶひぃ!」

「オークパワーってなんだよ胡散臭いなぁ……」

「大丈夫ぶひぃ! オデを信じるぶひぃ! じゃあ、オデの合図と同時にアリーさんはベッドを持ちあげるぶひぃ! 行くぶひぃ? 3・2・1…………ぶひぃ!」

「えっ、ちょ、待っ……はぁああああああああああああ!!!!!!」

 

オークの急な合図に驚きながらも、私は身体中に力を込めた。

そしたら、どうにも無理だと思っていたんだけど、オークパワーは本当だったようだ。ベッドは徐々に持ちあがり……45°を超え……なんと、自分の身長の高さまで持ち上げる事が出来たのだ!

 

「えっ、嘘ぉ! 信じられないけど、凄いよオーク! 上がったよ! なんか身体中が熱いかも!」

「…………壁に立てかけるぶひぃ」

「あっ、うん、そうだね。とりあえず……うぉおおおおおおおおお!!!!!!」

 

ずずず、っとベッドは床を擦り、壁際に立てかける事に成功した。

ベッドの下にいた為に埃っぽくはなってしまったが、猫ちゃんも無事だ。

 

「ほらほら猫ちゃん……ってあれぇ? それ何にゃあ?」

 

私は猫ちゃんを抱えようとして気付いた。猫ちゃんが何やら前足で叩いてるのは……細長い棒にレンズが付いている物だ。ん、これ……見覚えがあるぞ?

その他に、細い腕輪のような……綺麗なリングも落ちていた。うーん、これは知らないものだけど、でもこれってどう考えても……ルシファーの忘れ物だよなぁ。だって、細かい粒のような宝石が煌めいていて、こんな高価そうな物を持っていそうで最近泊まった人なんて……やっぱりルシファーだけだなぁ。

 

「……ねぇオーク。これって何に使う物か分かる?」

「…………綺麗ぶひぃ。女性用のアクセサリーぶひぃ?」

「うーん、私には分かんないけど……オークが来る前にここに泊まってた強いお金持ちの人がいてねぇ……あっ、その人の事も後で話してあげるね? そうだそうだ、とりあえず猫ちゃんの救出に成功したのでご飯にしよっか」

「…………」

 

廊下に立ってパワーを注入してくれたオークの横をすり抜け、階段の前に立つ。

 

「ほら、オークもパワー使ったから疲れたでしょ? 部屋を元通りにする時にまたお願いするんだから、栄養つけなきゃ!」

「…………ぶひぃ」

「こら、さっきから変な目でこっちを見て……! このリングは人の物だからあげられないんだからね! まったく、物欲しそうな顔をしてもダメなんだからねっ」

「…………アリーさんに、どうしても聞きたい事があるぶひぃ」

「んー? なぁに?」

「何でアリーさんは華奢なフリをしてるぶひぃ?」

 

突然のオークからの疑問に、私は降りていた階段から足を滑らせ、そのまま床に滑って行ってしまった。

 

 

 

 

「えっ……嘘……? オークパワーなんて……嘘……?」

「そうぶひぃ。オデにそんな魔法みたいな力は無いぶひぃ」

「……でも、ほら。ベッド……上がったよ……?」

「あれはアリーさんの純粋な腕力ぶひぃ……」

「嘘………………嘘………………」

「オデ、アリーさんは余所者を欺く為に華奢なフリしてたと思ってたぶひぃ……」

 

私はテーブルに座り、両手で顔を隠してしくしくと泣いていた。向かいにはオークだ。

いや、確かに「前よりは力が出るかもなぁ」くらいには思っていた。でも、こんなに力持ちだったなんて信じられないよ。別に、華奢なフリなんてしてない。私はただの村娘なんだ。男二人で持ち上げられるベッドを一人で持ち上げられるほど力持ちなはずがない。これは嘘なんだ。オークが嘘をついているんだ。オークパワーが私の身体能力を一時的に上げただけなんだ……。そうに決まっている……。

 

「……そんなに泣く事ぶひぃ?」

「……泣く事だよ! オークには分からないかもしれないけど……女の子ってのはなぁ! 小さくて、か弱くて、柔らかくて、良い匂いのする生き物なんだ! 格好良い勇者みたいな男の人に守られて……大きな家で幸せに暮らさなくちゃいけないんだ! なのに……こんなのって……ううっ……」

「ミレダさんはどうぶひぃ?」

「ミレダは騎士じゃないか! 私はギルドの看板娘だ! なのに……確かに力こぶができるよ! でも、それだけだ! 畑仕事をしているんだからそれくらいは普通……なんだ!」

 

男の人は、可愛くて庇護欲を刺激されるような女の子が好きなんだ。

私が読んだ事のある恋愛小説のヒロインは、皆そうだった。キラキラしてて、皆に愛される。一見か弱いんだけど、芯は強くてお互いがお互いを支え合う。そんな関係になる展開ばっかりだ。

そして、私も恥ずかしながら、そんな展開に憧れていた。

まあ、場所が場所だけに自活しないといけないんだけど、困らないように家事炊事は得意と言えるくらいは頑張ってきたし、流行は分からないけど身だしなみにも気を付けてきたつもりだ。

それなのに……力持ちはダメだろう。力持ちのヒロインなんて見た事がない!

きっと、夜伽の時もがっかりされるんだ。柔らかくなくて堅いから、がっかりされるんだ。

夜の営みは大失敗! 欲求不満の旦那はもっと可愛い女の子の元へ……残された哀れな私……。

 

「もう、おしまいだぁ……」

「……おしまいじゃないぶひぃ。アリーさんが行き遅れても、オデが貰ってあげるぶひぃ」

 

そっと、オークが私の肩に手を置いた。

 

「アリーさんの力、オークの中じゃあ普通ぶひぃ。むしろ、オデの方が力持ちぶひぃ。だから、アリーさんの事はオデが守るぶひぃ。オークの中なら、アリーさんも華奢に生きられるぶひぃ。人間社会に、さよならするぶひぃ……」

「ちょ……ちょっと待って! なんかオークのフォローの仕方がいつもと違う! なんか優しいんだけど……優しさの方向が間違ってる!」

「オデ、アリーさんの事、ずっと待ってるぶひぃ……。第二婦人の座は空けておくぶひぃ……」

「気持ちは嬉しいんだけど……気持ちは嬉しいんだけど……さ」

 

のそのそとオークが立ち上がり、台所の方へ向かって行った。

今日の昼食はリゾットだ。鍋から漏れ出たトマトの香りが店内に漂い始めた。

私はオークの背中を見つめながら、心に浮かんだ気持ちを声に出そうか、悩んでいた。

オークは、優しい。村の皆とも馴染んでいるし、空き家を渡せば移住してくれるだろう。

そして、二人仲良く暮らすのも悪くないかもね。うん、それ自体は悪くない事なんだよ、きっと。

でも、第二婦人ってなんだよ。




登場人物

アリー:STR:68
オーク:オデの方が力持ちぶひぃ!
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