ど田舎だけど、ギルドの運営、頑張ります!   作:saga14

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24話 育ち盛り?(上)

未だに陽は登っていない。しかしながら空は徐々に白ずみ始めており、夜明けを予感させる時間帯だ。

そんな早朝にも関わらず私たちはそこにいた。草陰に隠れて、一匹のモンスターを注視しているのだ。

 

「……動きが鈍って来たわね。そろそろ巣穴に帰るのかなぁ?」

「ぶひぃ。バットは夜行性だからそろそろ寝る時間ぶひぃ。バットを狩るなら夜更けにならないとダメぶひぃ。陽射しの入らない場所なら話は別ぶひぃ。でも基本は夜に見かけるモンスターぶひぃ」

「……はぁ、じゃあバットの観察はオシマイ! ちょっと早いけど、おにぎり作ってきたから食べよ? 小休止を挟んだら、今度は目を覚ましたモンスターを追いかけなきゃ!」

「最近のアリーさん、やる気満々ぶひぃ! オデも嬉しいぶひぃ!」

 

オークの返事に私は笑顔を返し、背負って来たリュックの中からおにぎりを探す。

大した物は中には入っていない。水筒、食料、シート、メモ帳と筆記用具が主で、後はいざという時に私の身を守ってくれる短剣くらいだ。

オークに大き目のおにぎりを渡して、私も食べる。モンスターの観察は身体も使うし頭も使う。勉強不足の私には、余計にそう感じられた。でも、辛さはまったく感じず、むしろ楽しさや充実感で満ちていた。

おにぎりを食べながらメモ帳をぺらぺらとめくると、色々な種類のモンスターの名前が並び、その下には私が認識できた特徴も書き込んである。まだまだ資料としては頼りないかもしれないけど、この森のモンスターとはほとんど顔を合わせたような気もしてくるぞ? もちろん、湖より先には行っていないので、そんな事が無いのは分かっているけど……。

オークがもう食べ終えたのか、指先をぺろぺろと舐めている。足りないのかと思って、もう一度リュックに手を入れると「大丈夫ぶひぃ、残りはまた後で食べるぶひぃ」と遠慮の声が聞こえてきた。

私も急いでおにぎりを口に詰め込んで、次のモンスターを探そうとしたのだが……。

 

「そ、そんなに急がなくて良いぶひぃ。まだまだ朝は早いぶひぃ。モンスターが活発に行動するにはもう少し時間があるぶひぃ」

「でも、せっかくオークに頼んで付いて来て貰ってるのに……。時間は無駄に出来ないよ」

「そこは気にしないで良いぶひぃ。それにしても、オデは嬉しいぶひぃ。オデが村に越してからと言うもの、アリーさんは頻繁にオデの家を訪ねて来て、勉強をしているぶひぃ。そして、こうやって自分から森へ誘ってくれるようになってくれたぶひぃ。アリーさんが冒険者ギルド復活に対するその意気込みは、ヒシヒシとオデにも感じられるぶひぃ。それなら、オデも張り切って手伝わせてもらうぶひぃ!」

 

そうなのです。オークの言う通り、私は最近頑張っているんだよ?

湖での一件以来、モンスターに対する恐怖感が少なくなり、私はオークを誘って頻繁にモンスターの勉強をしているのだ。もちろん最初は森の入り口でスライムやラビットの観察から始まったけど、徐々に森の奥に入るようにもなって、今となってはオークのいた洞穴まではスイスイと来れる様になっているのだ!

もちろん、戦いになる場面も少なくはなかったが、その度にオークが追い払ったり倒してくれた。

でも、オークにばっかり戦わせてしまって良いのかなぁ。もちろん、オークが私の護衛を兼ねてくれているのは知っているけど、それにしても世話になりすぎな気がするぞ?

いや、気がするというか、世話になりすぎている!

私だけじゃない、村の皆も色々とオークの世話になっている。何か村に困り事があったらオークに声がかかるし、それでなくてもオークは率先して皆の手伝いをしている節がある。ジーン爺の家の前を通った時なんか、敷地を超えてるんじゃないかと思うほど畑を耕しているオークの姿があった。他にも、アマタ婆の家に大量の薬草を運び込む姿や、村長の家にラビットやウルフを届けに行く姿も見た覚えがある……。

これで私までオークに頼りっきりだと、オークが疲れ果てて倒れてしまうかもしれない!

そんな事になる前に……どうにかして、自分の事は自分でできる様にならないと!

 

「ね……ねぇ、オーク。ちょっと私にモンスターの倒し方を……教えて欲しいかなー……なんて」

「ぶひぃ? アリーさんは冒険者になる予定はないぶひぃ。それなら弱点などの知識があれば何とかなると思うぶひぃ。わざわざ危険を冒す必要は……無いと思うぶひぃ?」

「い、いやっ……ほら、前にミレダも言ってたじゃない! 『元冒険者って人が意外に多いんだ。冒険者経験のある子の方が、人気はあるね』って。つまり、私もモンスターの倒し方を知らないよりは、知っていた方が……その、良いと思うの! 損はないしね、うんうん!」

 

決して「オーク、あなた疲れているのよ」という私の気持ちを悟られてはいけない。そんな事を知られたら「そんな事ないぶひぃ!」とむしろ奮起してしまうかもしれないからだ。そうならないように、私はもっともらしい言葉を考えて、オークにモンスターの倒し方を教わろうと思ったのだ。でも、まあ、モンスターの倒し方を知っといたほうが良いかもって気持ちは、うん、元からちょっとはあったし。

そんな私の熱意を感じてくれたのか、オークはうんうんと頷きながら「アリーさんの言う事、一理あるぶひぃ。それなら、モンスター討伐も一緒にやってみるぶひぃ!」と納得してくれた。ああ、良かった。

 

 

 

 

「じゃあ……やってみるね……?」

 

私とオークは森の入り口に戻り、スライムとラビットの相手をする事から始めた。

オークが言うには「アリーさんなら素手でもスライムとラビットくらいには勝てると思うぶひぃ」と言っていたのだが、私には到底信じられない。オークの持つ棍棒を貸してほしかったけど、オークは私から離れて木の陰で見守っている。私は諦めて目の前にいるスライムを見据えて……少しずつ近付いてみた。

それにしても、ラビットは村長でも捕まえられるから素手でどうにかできるというのは多少理解ができる。でも、スライムはそんな事ないと思うんだけどなぁ。だって、ぐにゃぐにゃしやがって、叩いても叩いても手応えが無いからだ。

私の接近に気が付いたのか、スライムはぐにょりと動いたかと思うと、こちらに近付いて来た。

粘液を吐き出させるわけにはいかない。私は意を決してスライムに走り寄り……スライムを蹴っ飛ばした。

 

「……あ、アリーさん! もう平気ぶひぃ! 初撃でスライムは倒れたぶひぃ!」

 

急に動き出さないかと、恐怖心を隠しながら、えいっ、えいっ、とスライムを踏んづけていた私に、オークが声を掛けた。私はその声に反応してスライムから少しづつ離れて行ったが……去り際にもう一度蹴っ飛ばし、走ってオークの元へと近寄って行った。

 

「ふぅ……怖かった……。それにしても初撃って事は、最初のキックでスライムは死んじゃったって事?」

「たぶん、そうぶひぃ。そもそも、アリーさんはオデを一撃でダウンさせた過去があるぶひぃ。それならスライム程度なら十分に勝てると思うぶひぃ」

「た……確かに私は男性二人が必要なベッドを一人で持ち上げられる女さ! へっ! だからといって、スライムをやっつけられるなんて、思ってもみなかったよ! あの時のオークだって、油断してたんだなぁ、とか、自分で後ろに飛んだのかなぁ、くらいにしか思って無かったんだからな! ふんっ、力持ちには、心配無用ってか!」

「そ、そこまで言ってないぶひぃ! 別に遠回しにアリーさんの腕っぷしを褒めているわけでも……ぶひぃ! 見る見るうちにアリーさんの目付きが鋭くなっていってるぶひぃ! アリーさんやっぱり自分が硬い事を気にしてるぶひぃ! 平気ぶひぃ、スライムくらい、王国にいる人なら誰でも倒せると思うぶひぃ!」

 

オークったら失礼しちゃう! まったく、最初の頃の乙女心の機微を感じ取る紳士な姿はどこに行っちゃったのかしらね、ぷんすかぷんすか!

 

「……これでアリーさんもスライム程度なら難なく倒せると分かってくれたと思うぶひぃ。それなら、もう少し奥の方に生息しているモンスターと戦ってみるぶひぃ。今度は素手じゃダメだと思うぶひぃ。いざとなったら、オデが盾になるから安心して欲しいぶひぃ」

 

オークはそう言うと、再び森の奥の方に向かって行ってしまった。

私はぷりぷりと怒っていたのだが、そうそう、当初の目的を思い出しました。

私はオークの負担を軽くしてあげようと思ってモンスターの倒し方を教わるのだ。それなのに、私が刺々しく接してしまったら、オークの心が休まらないじゃない! アリー、失敗失敗!

辺りを伺いながら前を歩くオークが急に立ち止まり、こちらに向き直った。

私はオークに近付いて、オークがさっきまで見ていただろう方向を見てみた。次の相手は、あいつかな?

 

「……ぶひぃ、運が良い事に小型のボアぶひぃ。普通サイズのボアだったら止めたけど、小型ならアリーさんを守りながらでもオデは圧倒できるぶひぃ。アリーさん、倒してみるぶひぃ? 小型と言っても子供じゃないぶひぃ。突進力には注意するぶひぃ。相手の側面に立つ事を、意識するぶひぃ。武器は、何か持ってるぶひぃ?」

「……うん、一応、短剣があるから」

 

そっとリュックから短剣を取り出し、右手で握りしめる。

オークはその短剣を見ながら「凄く綺麗な短剣ぶひぃ。アリーさん、凄いの持ってるぶひぃ?」と言ってくれたけど、正直なところ、私にはその威力自体は良く分かっていない。スライムとラビットはすぐやっつけられたけど……ボアはどうなんだろう?

オークに「短剣、綺麗だけど強いか良く分かんないんだ……ダメそうだったら、助けてよね?」と言い残すと、私はそろそろとボアの方に近付いて行った。

私の足音に気付いたのか、地面の匂いをスンスンと嗅いでいたボアがこちらの方を見る。そして、(いなな)いたかと思うと、その突進力を生かしてこちらに突っ込んできた。

 

「きゃっ!」

 

その突進力に私は驚きながらも、ボアの側面に付こうと私は斜め前に前転をするような形で飛び避けた。

私の横をボアが通り過ぎたかと思うと、ボアは少し離れたところまで突き進み、そして止まった。

 

「ボアは基本的に小回りが利かないぶひぃ! ボアが止まる前に追いかけて後ろから攻撃するパターンもあるぶひぃ!」

 

いつのまにか離れていたオークから、アドバイスが飛んできた。でも、すぐに体勢を立て直して追いかけるなんて、私にはちょっと難しいかもしれない。それならば……。

私の方に向き直ったボアが、後ろ足で地面を蹴りながら、もう一度(いなな)いた。再び突進してくるつもりだろう、でも、今度は大丈夫。あとは、きっとタイミングを合わせれば……。

急加速でこちらに突っ込んできたボアを相手に、私は先ほどのように斜め前に前転するように回避した。そして、今度は回避する際に右手の短剣を横に突き出し、すれ違うボアの身体にその短剣で傷が付くようにと願った。そして、それは成功したのだろうか、私の横を通り過ぎながらボアは悲鳴のような鳴き声を上げて、その勢いのまま横に倒れ、地面を滑って行った。

 

「アリーさん、大丈夫だったぶひぃ?!」

 

離れていたオークが動かなくなったボアの様子を見た後に、私に近寄ってきてくれた。私は服に付いた土を落としながら立ち上がってボアの方に近付いてみる。ピクリとも動かないという事は、倒せたって……事、なのかなぁ?

 

「小型って言ってたけど……ボアってあんなにか弱い生き物なの……?」

「いや、違うぶひぃ。皮膚にはかすり傷しかなかったぶひぃ。つまり、ボアが弱いわけでも、アリーさんが強いわけでも……そ、その目は止めるぶひぃ! 原因はたぶん、その短剣ぶひぃ。それ、どうしたぶひぃ? ちょっと半端ない業物な気がするぶひぃ……」

 

私は右手に握っていた短剣に目をやる。ルシファーが護身用にプレゼントくれた物だが、予想以上に良い物だったようだ。私にはちょっと分不相応な気もするよ……。

 

「……オーク、ちょっとどれくらい強い短剣なのか、調べてくれない?」

「オデも気になったぶひぃ。ちょっと借りて……」

 

オークが途中で言葉を止め、短剣の方に向かっていた右腕を凄い勢いで引っ込めた。そして、その短剣からじりじりと離れると、必死そうな声をあげた。

 

「お、オデがちょっと腕を伸ばしただけで、とてつもない悪寒が全身を襲ったぶひぃ! もしかしたら、モンスターに対する何らかのスキルが付いてる可能性があるぶひぃ! そんなのオデが手に取ったら、オデもそこのボアみたいになっちゃう可能性があるぶひぃ! 可能性の一つぶひぃ、でもあんまりその短剣をオデに向けないで欲しいぶひぃ!」

「えーっ……? こんなに綺麗なのに……。ほら、きっとオークの勘違いだよ。だから、もう一度お願いね?」

 

私は無造作にオークに近付き、短剣をオークの方に差し出した。もちろん刃を自分の方に向け、オークには柄の方を差し出す。しかし、それでもオークは短剣を受け取らずに、私の手首をぎゅっと掴んだ。

 

「い、痛いよオーク……。でも、ほら、大丈夫だから、大丈夫、大丈夫」

「いやいや、短剣はオデには分からないぶひぃ。だから、大丈夫、大丈夫ぶひぃ。大丈夫ぶひぃ」

 

私がグイグイと短剣を押し付けようとするも、オークが凄い力で反発してくる。それにしても凄い力だ。私がどれだけ必死に押し込もうとしても、全くビクともしない。やっぱり、私の何倍も強いんじゃないのかなぁ、オークは。

私とオークが「大丈夫(ぶひぃ)」と言い合いながら押し問答をしてると、再び草陰がガサリと鳴った。遠くの方だと思ったけど、徐々にその音は近付いてきているようだ。そして、辺りを震わせるような咆哮が聞こえたかと思うと、木々の上で(さえず)っていた鳥達が一斉に飛び立ち、小動物の逃げるような草葉を踏みしめる音も聞こえてきた。

私が不安そうに周りをキョロキョロ見渡すと、オークは急いで立ち上がり、右手で棍棒、左手で盾と言う、一部の隙も無い姿勢を取った。それにしても、今までオークがミレダから貰った盾を構えた姿を見た事は無かった。つまり、近付いている相手は、それほど危険なモンスターのようで……。

 

「この辺までは滅多に出てこないはずぶひぃ……。オデ達、とんでもなく運が悪いぶひぃ。アリーさん、無傷で済むとは考えないで欲しいぶひぃ。そして、先に謝っておくぶひぃ。ごめんぶひぃ。オデが死んでも、気に病まないで欲しいぶひぃ。それより、川の方に向かうぶひぃ。ここから西の方向に走れば良いぶひぃ。すぐに川に飛び込んで、川下まで流されるぶひぃ」

「えっ……それって……」

 

私が言い終わる前に、それは現れた。太い両足で地面を踏みしめ、その背丈はオークと同じくらいに見える。腕は太く、指先には鋭い爪が見える。そして、全身が茶色い毛で覆われており、あれを見るのは……そう、これで二回目だ。だが、一度目はルシファーが持ってきた依頼の品。その時は既に死んでいた。

生きているそれを始めてみるのは初めてで、そして、こんなに威圧されるなんて……。

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