ど田舎だけど、ギルドの運営、頑張ります!   作:saga14

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3話 未知との出会い

私はのそのそとベッドから起き上がる。今日は何をしようかな。

顔を洗い、店内を掃除し、朝食を食べれば、もうやる事は無い。いつも通りの毎日が始まってしまう。どうしようもなく、暇である。

猫ちゃんでもくすぐって遊ぼうかなと思ったけれど、今日に限って猫ちゃんは、顔を見せてこない。せっかく用意したご飯が無駄になってしまった。どこにいるんだにゃあ。

特にやる事もないので、軽く店内を探してみたが、気配を感じる事は出来なかった。

 

「……いやー、どこかに悪漢と好漢でもいないかなー! いないよなー! そんなアクティブな奴らがいたら、問答無用で私の婿候補だよ! あっはっは!」

 

空虚な独り言が、宙に舞う。そもそも、こんな、平均年齢80代の村で騒ぎを起こす人なんか、いない。騒ぎを起こすどころか、まともに身体を動かせる人間が、少ないんじゃないかな?

この村の人間は、基本的にスローペースなのである。自宅の畑を耕したり、知り合いとお茶を飲みながら、楽しく談話したり、そんな毎日の繰り返しなのである。

 

「……余生を静かに暮らすって、こんな感じなんだろうなー」

 

しみじみと自分の口から出た言葉に、ちょっと驚いてしまった。

そもそも、まだまだ華の二十代なのに、こんなに枯れた生活してて、良いのかしら?

日の出と共に目を覚まし、日の入りと同時にお仕事は終わりだ。たまに、お昼頃には店じまいをしている時もあるけど、それはたまたまの話だ。たまたま。たまたまだからセーフ。

稼ぎなんかなくても、ギルドの庭で野菜や果物を育てているから、食事に支障はない。

肉や魚が欲しくなったら、ご近所さんと物々交換をすれば良いのだ。

貨幣経済? 何だろう、とても聞き覚えのある言葉だ。でも、どんなに頭を働かせても、その言葉が意味している事を、私は思い出せなかった。だって、この村の基本は、物々交換なのだから。生活の役に立たない、使わない知識は、記憶の彼方に、吹っ飛んで行ってしまうのだ!

 

 

どこかの王国の富豪が、突然やってきた。

 

「この村にしか生えていない、伝説の薬草があるんじゃ。それを、採取してきてくれ! 報酬はいくらでも払う!」

「えっ、この草だったら裏の庭に大量に群生していますよ?!」

「なに、全て譲ってくれ! 金貨10000枚で良いかな?」

「はい! お買い上げありがとうございます!」

 

なーんて妄想を受付に座りながらしていたら、いつの間にか午前中が終わっていた。

何でこんな時間になってるんだろう。まだ私、何もしてない。

時の流れは非常に残酷だよね。私の可憐さも、いつかは消えてしまうのだろうか。

 

「そういえば、薬草が足りなくなってきたな。森にでも行こうかな」

 

働かざる者、食うべからず、ってわけじゃないけど、一日中ゴロゴロしているのは、辛いものがあるのだ。時間を浪費している自覚がある分、まだ救いがある様な気もするが、実際の所、どうなんだろう。王国に行った皆も、こんなスロー生活を楽しんでいるのだろうか?

この村には「アリーちゃんったら、こんな早い時間からゴロゴロしてたわよ」なんて噂をする人なんて、誰もいないんだから、社会的な体面なんて気にしなくても良いんだけどね。

そもそも、この村は社会的なのだろうか。哲学的な疑問が浮かんでしまった。ううっ、頭が、難しい事を考えると、頭が痛くなってくる。ぐああああ。

でも、ほら、やっぱり村一番の若者がね、毎日ダラダラしてちゃダメだと思うの。

こんなんじゃ、村に活気は戻らないからね。私、自分のギルドの為にも、めちゃ頑張る!

 

珍しく湧き出たやる気を熱量とし、村の側にある森に向かうべく、軍手やバケツなどを探すために、雑然としたさまざまなモノが置いてある物置を覗いてみた。

そこには猫ちゃんが丸まっており、とても気持ち良さそうに寝ていたのだった。

 

 

「ぴ~、ひょろろ~。ひょろろろろろ~」

 

間抜けな音を鳴らしながら、私は森を進んでいった。

変な音の正体は、私の口元に咥えられている小さな笛から響いている。

これは、ジジイが昔作ってくれた、モンスター除けの笛なのだ。文明の利器ってやつだ。社会的な人間は、こんな道具が使えるのだ。どうだ、凄いだろ。未来だろ。

 

ずっと昔に、この笛を忘れて森に入った事がある。

その時は大変だった。スライムに見つかって、死ぬような思いをしてしまった。

なんだあいつは! ぐにゃぐにゃしやがって! 叩いても叩いても、手応えが無さ過ぎる!

しかも、ドロドロとした粘液を吐き出してくるのだ。あれが身体に付着すると、シュワシュワと皮膚や洋服が溶けてしまうのだ。まったく、殺す気か?!

ん? 私にはスライムの口が良く分からない。それなのに、吐き出すって言い方はどうなんだろう? まあ、考えていても仕方がない。どうでも、良いや。

だが、その粘液が、逃げる私のスカートを溶かした事を、絶対に忘れてはいけない。

村に帰って、アマタ婆に指摘されて気が付いたのだ。お尻の部分の布が、無くなっちゃっていた事に!

王国に出て行った友達が帰省した時のお土産で、とても気に入っていたのに、数回着ただけでおじゃんになってしまったのだ。これは悲しすぎる!

アマタ婆が布と糸で繕ってくれたんだけど、返ってきたそれを見て、私は何とも言えない気持ちになった事も記憶に新しい。だって、なんか生地の色が違うんだもん……。お尻の部分だけ、なんか色濃い生地が使われてて、見た目に寄っちゃ、その部分に、お漏らし的な何かをね、してしまった時のようなね、違和感があったからね。ふふふ……。

あの時の悲劇を繰り返さない様に、私はモンスターには絶対に出会わないように、気を付けている。森に入る時は、明るいうちに。生き物の気配がしたら、とりあえず逃げる。珍しい薬草を見かけたからって、安易に近付かない。こんなに厳しいルールを自分に課しているのだ。これでモンスターに出会ったりでもしたら、私は神様を一生恨んでしまうかも知れないぞ!

 

時々、村長が「ラビットなら大丈夫だろー」と言いながら捕まえてくる事もあるが、私には絶対に真似できないと思う。だって目付きが怖いし、そもそもあんなに爪が鋭いんだよ?

あんなのに引っ掻かれたら、私の柔肌は血まみれになってしまう!

でも、あの晩に食べたラビット鍋は美味しかった。また捕まえて来てくれないかな。

 

この森は村の側にあるくせに、そこら辺の森より深いようで、、日が暮れるとすぐに暗くなってしまうのだ。だが、広いという割には、モンスターの類などは、スライムやラビットくらいしか私は見た事がない。本当だったら、もっと奥に行けば、色々な野生のモンスターがいると思うんだけど、誰も奥地まで入りこんだ事はないから、真相は不明だ。奥地にも、スライムとラビットくらいしかいないのなら、心安らかに生活を送れるのだが、現実はきっと非情なんだろうな。まあ、私には関係ないか。

 

「だってね、わざわざ生い茂っている奥に入ってもしょうがないからね。服、汚れちゃうし」

 

独り言を言いながら、とりあえずの目的地に到着だ。

このあたりまでは村人が良く来るので、木々が道のように広く切り開かれており、安全なのである。森の入り口まで一本道なので、モンスターに出会っても走って逃げられるはずだ。

 

「ひょろろろろろろろろろろ~。ひょろろろろろろろろろろ~。」

 

私は笛を鳴らしながら、薬草の採取に精を出す事にした。

あればあるだけ役に立つのが薬草だ。滋養強壮、薬草生活で、君も健康を身に着けよう!

 

 

気付いたのは、持ってきたバケツが一杯になった頃である。

なんだか、木々に留まっていた鳥が、ピーピー鳴いている。なんだなんだ。何が起こった。

木の上を見上げながら、油断していた私の近くの繁みから、ガサガサと音がする。

ビクッと身体を震わせながら、振り返るものの、リスの親子が顔を覗かせているだけであった。ああ、びっくりした。寿命が縮んだような気がするよ。はぁ……。

リスの親子とにらめっこをしていた私だが、それでも確かに、森の様子が少しおかしい気がする。何というか、いつもと雰囲気が違うし、嗅ぎ慣れない匂いも漂ってきている。

しかも、何という事でしょう! その匂いの発生源は、この場所より、ちょっとだけ奥みたいなのだ。

えっ、もしかして、確認しなくちゃダメですか? 私、用事済んだし、帰っちゃダメですか?

 

「頑張れ私! 弱気は損気! もしかしたら、村の生活に影響が出るかも知れないしね!」

 

私は勇気を振り絞って、そろり、そろりと茂った木々の合間を通り抜けていく。

何かあったら、走って帰って村長に報告だ。大丈夫、私は一人じゃない。頑張れ、頑張れ村娘!

 

「ひょろろろろ~……。ひょろろ~……」

 

心細い私の心情を表すかのように、弱弱しい笛の音が広がっていく。

実際は20メートルくらいしか進んでないだろう、でも、私には、その何倍も、何十倍にも感じられた。

そして、ついに見つけてしまった。そこで倒れている、変な服を着た変な男を……。

 

 

重労働に汗を流した後は、ため息一つでございます。

私の身体は汗びっしょり。そして、着ている服も木の枝に引っ掛かったり、泥が跳ねたりで、ぼろぼろだ。そうなのだ。私は、あんな怖い場所から、一人で、この切り開かれた場所まで、男を引き摺って来たのである。だってほら、放っておくのも怖いし。モンスターとか出たら、食べられちゃうじゃん? モンスターが人間の味を覚えると、恐ろしい事になるのだ。

 

それにしても、と、そいつの様子をマジマジと見てみる。着ている服は見慣れないけど、どっかの国の住人なのかな? この服は、今、流行ってるのかな? ダメだ、私には全く分からない。息はしているので、つんつんと細い枝で身体を突いてみる。そもそも、こんな顔の奴、見た事がない。知らない人が村の近くまで来れば、誰かしらが気付いて、村が大騒ぎになるんだからな! ど田舎、マジで舐めんなよ!

 

私がつんつんしていると、男が「んんっ……」と言いながら、動き出す。良かった、死んでない。そして、急にガバッと上半身を起き上がらせたかと思うと、辺りをキョロキョロし始め、近くに座っている私の顔を遠慮なくじろじろと見始める。

 

「俺は……車に轢かれそうな女の子を助けて……。神様に会って……。ゲームの世界……?」

 

男はブツブツと言いながら立ち上がり、自分の身体を触ったり、している。

ちーとだのれべるだの言っているが、全く意味が分からない。言葉は通じそうなのだが、発している言葉が聞き慣れない単語ばかりである。なんだ? 王国で流行ってんのか、それ?

困惑気味に見つめていると、男は急にガッツポーズをしながらその場に立ち上がり、喜び始めた。喜色満面で、見ているこっちも愉快な気持ちになりそうだ。いや、嘘です。躁鬱を繰り返す怪しい人にしか私には見えない。怖い! 村長! ヘルプ!

 

「よっしゃぁあああああああ! ここ異世界っぽい? 俺レベル100っぽい? ようやく俺の時代きたあああああああああああああああああああああああああああ!」

 

なんか怖い。すごい気持ち悪い。

帰って、良いかな。良いよね。

 

気付かれないように、そろそろと背を向けて歩き出そうとしたら声を掛けられてしまった。

 

「えーっと、君。俺を助けてくれたのかな? ありがとう、俺の名前は……、俺の名前……」

 

男はウンウンと唸っている、もしかして、記憶喪失って奴なのかな? それなら大変だぞ。

私が心配し始めたら、男は何かを閃いたかのような顔をして、私にその名を告げた。

 

「俺は……闇の支配者であり、混沌から降誕せし勇者……。蒼穹のルシファー(やまだけいすけ)だ!」

 

なんだろう……、関わっちゃいけない人に出会ってしまった気がする。

でも、森に放置しておくのもアレだし、仕方がないから、村に連れていく事に決めたのだ。

もしかしたら、何か探しに来た、とかかもしれないからね。

ギルドに依頼、してくれたら良いんだけどなぁ。




登場人物

アリー:薬草は採取するけど、調合はアマタ婆任せ
蒼穹のルシファー:本名はやまだけいすけ
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