森で出会った変な男を放っておくのも人としてどうかと思ってしまったので、村まで道案内をしてあげたけど、結果的に村の皆が「久しぶりの来客じゃああああ」と大喜びしてくれた。
入り口でたまたま出会ったベル婆なんて、小走りに駆けて来て「いらっしゃい、いらっしゃい。ゆっくりしていきなさい。やっぱり若者は違うね。肌がスベスベして…………うへっへへっ」と、両手をにぎにぎしながら挨拶を始めた。ルシファーも、にこやかな顔で返事を返していたけど、案外、良い奴なのかもしれないぞ? 微妙に顔が引き攣っていた気もするけど……。
平和で
「村長ー、あーけーてー!」
粗末な扉をドンドン叩いていると、迷惑そうな顔をした村長が顔を覗かせ、私とルシファーを出迎えてくれる。
「なんだなんだ、アリーじゃないか。まだまだ村長の座は譲らんよ」
「そんな座いらねーよ! っていうかほら、お客さん連れてきたよ」
私が、横にいるルシファーを紹介すると、これまた村長も「おお、わざわざこんな辺鄙な場所へようこそ……。おい、アリー! ぼさっとしてないで、早く茶ぁくらい出しなさい! ささっ、狭いところですが、どうぞどうぞ」と、私とルシファーの背中をグイグイ押しながら、村長がもてなしを始める。椅子に腰掛けたルシファーに対して、村長が、棚の奥から取り出した赤い缶に入ったお菓子を、さりげなく勧めている。
おいおい! あの缶に入ってるクッキーは、接待用のとっておきのお茶菓子じゃないか?! ハハハ、村長の本気っぷりに、恐れ入ったよ……。
薬草の風味が香る、アリー特製ティーを三人分淹れ、テーブルの上に並べれば、私の役目はお終いだ。村長の隣の椅子に腰掛けて、私も会話の仲間入りをする。せっかくの機会なので、缶に入っているクッキーを馬鹿みたいに貪り食う。……美味い! 他にも美味しい物はないのかと、催促する視線を村長に向けると、中指を立てていた。おいおい、村の紅一点にそんな事をするなんて、まったく信じられない村長だよ。
そんな私と村長の様子に気圧されたのか、ルシファーが乾いた笑いを漏らしていた。窓の外からは、中の様子を覗いている近所の爺婆の好奇な視線がルシファーを突き刺している。凄い圧だ。初対面の相手でも遠慮がない。
「それで……、あんたはどうしてあんなところに倒れてたの?」
黙っていても仕方がないので、ルシファーに声を掛ける。出鼻をくじかれたのか、村長が変な顔をしながら中指を下に向ける。ぶちころすぞ。
「いやー、話せば長くなると思うんですが……」
ルシファーが記憶を探るように、ポツポツと身の上話を語り始めた。
◆
「いやー、Lucifer君の話は楽しいなぁ! そう思うだろ、アリー?」
「いやー、村長さんもなかなかのモノで! この村、素敵っすよぉ!」
酔っ払いの男が意気投合し、肩を組みながら私に同意を求めてきた。すごく酒臭い。寄らないでほしいぞ、ばか。
ルシファーが村長に語った身の上話は、それはもう、すごかった。
馬がいなくても走る馬車の話とか、遠い場所にいる相手と会話が出来るアイテムだとか、美味しい食べ物がそこら中に売っていて、お腹一杯食べれるとか、もうお伽噺か、夢の世界かの話かと思ったよ。
そんな夢の世界から、こんな何も無い田舎にやって来た理由は、よく分かっていないようで、「なんか、ワープして来たと思うんだよね」と、なかなか鼻息荒く語ってくれた。
私としては、こんなど田舎の寂れた村なんかより、ルシファーが暮らしていた場所の方が何万倍も羨ましいと思うんだけど、ルシファー的には、この田舎に来た事がとっても嬉しそうで、世の中不思議なものですねぇ?
「それより、あんた、どうするの? 当分、ここで暮らすの?」
「ああーん? そりゃ、まあ、そうさせてくれるなら嬉しいよ~ん。俺、まだあんまりこの世界の事分かってないし~!」
ふにゃふにゃと、酔っ払い特有の変なテンションで返事をされた。でも、この辺で泊まるとなると、私のギルドしかないよね。片付けをするのは途方も無く面倒くさいけど、私の婿になるかもしれない男だ。仕方がないから、一部屋開けてやっかー!
「じゃあ村長、一旦家に戻って片付けとかしてくるね! そいつ、ちゃんと連れて来てよ! 絶対に逃がさないでよ! 明日、赤ちゃんが産まれても驚かないでね!」
私が村長にそう告げると、ルシファーの顔が青白くなっていた。飲み過ぎたのかな? それなら、早く私のギルドに来てもらわないとね! 小走りで家に戻り、大荷物を詰め込んでいた一部屋を急いで片付け、来客の準備を済ませた。
村長と変な男は、べろんべろんに酔ったまま、夜遅くに訪ねてきた。あの後も、庭でみんなと飲み会があったらしい。それなら私も呼んでくれよ、畜生!
ルシファーを預かって、片付けた部屋まで連れて行こうとしたら、なんか千鳥足でやんの。肩を貸して、二階まで連れて行ったんだけど、「ありがひょ~」と耳元でぼそぼそ呟いていた。
私は、ルシファーをベッドの上に寝かせて、ベッド側のナイトテーブルに水差しと薬草を粉末状にした物を置いて、静かに部屋を出た。
部屋代の話は、明日で良いかな。でも、家族になるなら……いや、それとは別問題だな、うんうん。
◆
私が台所で朝食の準備をしていたら、階段から小気味よい足音が聞こえてきた。ルシファーが起きてきたようである。パタパタと小走りで受付に出てみると、ルシファーが物珍しそうに、店内をキョロキョロと見渡していた。
「おはよう、良く眠れた?」
「おはよう……ございます。あれ、ここ、どこです? 宿屋?」
「ここは私の冒険者ギルドですー。宿屋はついでですー」
私はルシファーを近くのテーブルに座らせる。そして、台所に戻って朝食の準備を手早く終わらせ、二人分の朝食をそのテーブルに並べて行った。
「ほら、とりあえず食べなさいよ。一応あんた、客なんだし」
「ああ、ありがとう。いや、こんなちゃんとした朝食は久しぶりだなぁ」
そう言いながら、私の作った朝食に手を付けていく。今日のメニューは白いご飯に、サラダとスープと目玉焼きだ。デザートに、果物も切ってきたぞ。
美味しそうに食べるそいつを見て、なんというか、私は嬉しい気分になってしまった。やっぱり、こうして誰かと食べるのは楽しいなぁ。こんな風に、お客さん増えてくれれば良いんだけどなぁ。
私がニコニコしながらルシファーを見つめていると、私の視線に気付いたのか、顔を赤くし始める。ふふふ、可愛い奴め。百戦錬磨のお姉さんに、タジタジかな? いや、百戦錬磨でもないんだけどね。そもそも、この村には若い男がいないからね。あっはっは。
◆
「それで、色々聞きたい事があるんだけど良いかな。ちょっと、今後の為にも」
私がいつも通りのルーチンワークをした後に、受付でぼーっとしていたら、ルシファーに話しかけられた。そうだそうだ、今日はお客さんがいるんだった。毎日の繰り返しって怖いね、危うく、いつもの癖でぼーっとするところだったよ。あっはっは。あっはっはっはっは。
「まぁ……、あんたの方が物知りそうだけど、それでも良いなら、良いよ。なんでも聞いて? この村一番の……いや、一番は言い過ぎか。五番……? いや、十三番目……?」
「ちょ、ちょっと! そんなに自分を卑下しないで下さい?!」
この村での自分の物知り順位を考えていたら、ルシファーが心配そうな目でこちらを見てくる。おっと、ギルドの看板娘がお客さんを不安な気持ちにさせちゃあいけないね。私は気を取り直し、ルシファーの座っているテーブルの向かいに腰を掛ける。
……話をするならお茶でも淹れて来れば良かったかな?
「それでなんだけど……このお金って、使えるのかな?」
男がごそごそと、ポケットから黄金に輝いてる小さな円形の物を机に置いた。
「なにこれ……? 高価な物に見えるけど、ここは一泊銅貨二枚だからね、びた一文まけてやらないから…………って、えっ、これ! 嘘! 金貨ってやつじゃないの? えっ、初めて見た! うっひょおおおおおおお! 凄い、輝いてる! うわぁ! うわぁ! うわぁ!」
「……っ、んんっ! ごっ、ごほん、ごほん!」
ルシファーのワザとらしい咳込に、辛うじて私は現実に戻ってこれた。もう少しタイミングが遅かったら、私はこの世界に帰ってこれなかったかもしれない。ふぅ、危ない危ない。ルシファーの話を改めて聞こうと、目線を戻すと、ルシファーがなんか気まずそうな顔をしている。……いや、はい。テンション上がりました。ごめんなさい。
自分でも気づかない内に中腰になっていた私は、落ち着いた素振りで席に着く。はい、今のは幻覚。何も無かった。オッケー?
「んんっ。ええ、これは、この世界で流通している金貨なんじゃないかな? 違っても、金だし、はい、使えますよ。でもこんな場所じゃ! お釣りなんか出せないんだからね! ちゃんと崩してから来てくれないと! 困るんだから!」
先ほどの失態を、怒ったような態度で誤魔化す。しかし、どう頑張っても、私の目線は自然に金貨の方に向いてしまう。ああん、だって、本当に初めて見たんだもん。こんな、綺麗なお金、存在する事は知っていたけど、貴族くらいしか使わないんじゃなかったの? あれ、そしたらルシファー、貴族なんじゃないの?
「ああ、うん。使えるなら平気。ここの支払いもちゃんと用意するから、安心してほしい」
ルシファーがそっと、私の金貨ちゃんをポケットにしまってしまう。ああ、さようなら金色の輝き。次に会うのは、今晩ルシファーが寝静まった頃ね。私が、ちゃんと救い出してあげるから、安心して待っていてほしい。
「じゃあ、次は魔物とか魔法について聞きたいんだけど、良いかなぁ?」
「…………、…………! んんっ、ええ、良いわよ。近くの森に行けばモンスターがいるから、実物を見せながら説明してあげる」
さっきの金貨に目が眩んで、邪な考えが浮かんでいた気がするんだけど、うん、大丈夫。きっと気のせいだと思う。そんなね、お客様の荷物をね、いやいや、気の迷い気の迷い。うんうん。私は清廉潔白な美少女だからね。金貨じゃ私の心は掴めないぞ☆
「じゃあ、行くわよ! びっくりして気絶しても知らないんだからね!」
さっきから私のペースは乱れまくりだ。まったく、とんでもないお客さんが訪れたものである。そろそろ、私の面目、躍如しないとね! こんな調子じゃ、名門ギルドになんか、ほど遠いんだから!
ギルドを一時閉店し、私はルシファーを連れて、森へと目指していった。私の後を追うルシファーが「魔物、楽しみだなぁ」なんて、物騒な事を言っているのだが、きっと私の聞き間違いだろう。モンスターを楽しみにするような変人、聞いた事も無い。まったく、図鑑を見るような気分でいると、大怪我するぜ!!
ようよう、森へと近付くにつれて、眠くなりそうな
登場人物
アリー:来たぜ婿候補!
蒼穹のルシファー:異世界最高!
村長:久々の若者だなぁ!
ベル婆:若者のエキスを吸うとな、肌が若返るんじゃ