ど田舎だけど、ギルドの運営、頑張ります!   作:saga14

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8話 村の名前

ルシファーがいなくなってから、すっかり村は静かになってしまった。

いや、静かになったんじゃない。元の生活に戻ったんだ。やっぱり、結構寂しくなるもんだね!

 

「は~、これからどうしよっか。ね~、猫ちゃん」

 

お昼を過ぎても、やる事が見つからない私は、受付で猫ちゃんと戯れていた。膝元に乗せた猫ちゃんの喉元を撫でると、ゴロゴロと鳴き始める。ここか、ここがええのんか。

身体を撫でまわし、頭を撫でまわし、肉球の感触を楽しんでいると、猫ちゃんは抵抗を諦めたのか、ぐにゃりと私に身体を預けてくる。そんな猫ちゃんを心行くままにモフる。ああ、なんて気持ちが良いのだろう。心が洗われる気がするよ。現代のオアシスだね、猫ちゃん。

思う存分モフった後に床に降ろしてやると、猫ちゃんはトテトテと床を歩き回り、出入り口の扉の所まで行くと「にゃあ」と一鳴きして出て行ってしまった。

 

手持無沙汰になった私は、引き出しを開けてみる。そこには一冊のファイルが入っている。ぺらり、と表紙をめくると、そこには村長の字で書かれた依頼と、請負ったルシファーのサインが書かれており、『解決』のスタンプが押されていた。

これを見るたびに、口元が、ニヤッとしてしまうのは、やっぱり一つの結果を出したからなんだろうなぁ、と思ってしまう。この中身が今までのように空だったなら、今まで通りの『一日をぼんやり過ごすだけ』の人間になってしまっていただろう。いや、今でも十分そんな感じだけどね? 午前中ぼんやりしてたし。ははは。ははは。

 

さてさて。私は気を取り直し、勢いよく受付から立ちあがる。

少しずつだけど、私の中にやる気の火が灯っているのだ。これを消す理由は無い! 頭を働かせて、何かできる事がないかを、探してみる。

すると、先ほどまでの休憩で休まっていた私の頭脳が、素敵な答えを弾き出す。そう言えば、村の看板の字が擦り切れて読めなかったな!

ギルドの仕事とは関係ないけど、いっちょ、やったりますかぁ!

 

 

私は村長から黒いインクと長い棒を借りて、長方形の板の前に座っていた。

そして、悩んでいた。

だって、せっかく書き直すんだもん。名前だけ書いても、勿体ない気がする。何か、アピールできる感じの事を一緒に書いた方が、この村を訪れた人へのインパクトになるかもしれない。でも、特産品なんて、何にもないし、観光名所もまったくない。これは困ったぞ。村の名前しか書く事がないじゃないか! 本当なら、それだけでも良かったんだけど、今の私は無駄にやる気に満ち溢れているのだ! やってやる! やってやる! やってやるんだぜ! 村一番の若者である私が引っ張って行かないと、この村は立ちいかなくなってしまうんだぜ!

そういうわけで、一生懸命考えてみたら、出るわ出るわナイスアイデア。私の頭脳はアイデアの泉なのかしら? 自画自賛をしながら思い付いた内容を、試し書きをしてみる。

 

『冒険者ギルドの トーン村』

 

我ながら書いてみて、「うっひゃあ!」とした気分になってしまった。

なんというか、恐れ多すぎる! 無かった事にしようと、横にポイっと投げ捨てた。残りの板はそんなに無いんだ。遊んでいる暇はない。

ふうっ、っと息を吐き、神経を集中させる。もう良いや、普通に書いて終わらせよう。さようなら、私のアイデア達。泉は枯れたのです。

 

「あら、アリーちゃん、面白そうな事、してるわね」

 

ぐっと力を込め、私がインクの塗られた棒を板に押し付けようとしたその瞬間、背後から、声が掛かって来た。

 

「あっ、アマタお婆ちゃんこんにちは。単に、書き直してるだけなんだけどねー」

 

アマタ婆ちゃんがニコニコしながら、「なるほどねぇ」と笑っている。

よし、もう一度だ。気を取り直して。アリー、書かせていただきます! 私がインクの塗られた棒を板に押し付けようとした、その瞬間の事である。アマタ婆ちゃんが何かに気付いたように、地面に落ちていた何かを手に取ってしまった。

 

「あら、アリーちゃん、何かしらこれ?」

「へっ?」

 

私が間抜けな声を上げながら、振り返ってみると、アマタ婆ちゃんがさっきの私の下書きを見つめていた。

ああ、違うんです。それは出来心だったんです。私が弁明しようと口を開きかけた所に、アマタ婆ちゃんの気の利いた一言が私を襲った。

 

「アリーちゃんのやりたい事、わかっちゃった! ちょっと、待ってて!」

 

アマタ婆ちゃんはそう言うと、えっちらおっちら、村長の家に向かっていった。そんなアマタ婆ちゃんの姿を、恥ずかしい物を見られた気分に陥っていた私は静かに見ていたのだけど、ハッと我に返り、急いでアマタ婆ちゃんの後ろを追いかけて行ったのだった。

 

 

「どうしてこうなった…………」

 

そこでは、皆がわいわいと楽しそうに相談をし、皆がわいわいと手元の板に何かを書きこんでいた。長方形の板はたくさん積まれているし、長い棒も人数分用意してある。村の皆が総出となって、村の看板作りに精を込めていたのだ。

 

「まあ、良いじゃないか。たまにはこーゆーイベントも必要なんだ」

 

村長が笑いながら話しかけてくる。

 

「まあ……、イベント感覚でも良いんだけど……。でも、絶対に村の前に置く看板は普通のにしようね! 誰も来ないからって、笑いを狙わないで良いんだからね! 内輪ネタ、禁止!」

「それを決めるのは、村長の仕事なのだが?」

 

憎ったらしい言葉を残して、村長が私から離れて行ってしまった。

まったく、もう!

 

「まあ、良いや。ああ言うけど、村長は真面目だからね」

 

私も皆に倣って、手近な棒を持ち、サラサラと無駄なく、書いてみた。

そこに出来上がる、シンプルな「トーン村」の看板。我ながら良い出来だろう。でも、ちょっと隙間が寂しい気がする。猫ちゃんでも描いてみようかな? 私の膝の上にいる猫ちゃんをイメージして、サラサラと姿を描く。すごい、今の私、インスピレーションに溢れてる気がする。これはもう、傑作が出来るはず!!!

一筆入魂。気合を入れて描ききったそれを見てみたら、なんか六本足でぐにゃぐにゃの何かが、そこには描かれていた。

おかしいな。猫ちゃんって。こんなんだったっけ?

 

 

私がうんうんと悩んでいたら、背後の方から「ジーン爺さん、良い事を書いたなぁ」と歓声の声が聞こえてくる。なんだなんだ。私のより凄いってのか? それより、好奇心には逆らえません! 皆の輪の元に駆け寄り、歓声の中心に立っているジーン爺が自慢げに掲げている看板に目を向けた。

 

『例え辛くとも 神に祈りを捧げれば 魂は極楽浄土へ迎えられる トーン村』

 

「おいおいおい! おかしいよ! ってゆーかシャレにならない! みんな、頷きながら拍手しちゃだめ! 祈ってもダメ! ああ、もう、突っこみどころしかない!!!!!!」

 

私がくそう、くそう、と地団太を踏んでいたら、皆が笑いながら「冗談じゃよ。ふぉっふぉっふぉ」と言ってくれる。へっ、そんな言葉に騙されるか! 皆の目を見ればそんなの嘘だと……ダメだ! この曇りなき眼に吸い寄せられそうだ! 負けるな! 負けるな私! 村の看板娘!

意識を強く持っていなかったら、危うく村の看板がそれになるところだったけど、何だかんだ私の言葉を無碍にしないのが、村の皆の良いところだと思う。まあ、甘やかされてるだけなんですけどね。

 

「村長! もう十分でしょ! 本番書きして、ご飯食べよ!」

 

隅の方で自分の作品を完成させていた村長へ近付くと、村長は「しまった!」というような顔をして、私の前に立ち塞がる。

 

「……ああ、アリー。そうだな、終わりにするか。片付けは任せろ。先に帰って良いぞ。皆の飯の準備を頼む」

「昼食の準備はするけど……って、それより村長は何を書いてたの? 本番用? ちょっと見せてよ」

 

村長の「だめ、だめだよ!」という言葉を無視して、村長の板を見てみた。そこには大きく立派な字で「ようこそ アリー村」と書いてあった。

おいおい、この村長、勝手に地名変えちゃったよ。

 

 

村長の弁解はこうであった。

 

「ほら、若い子はもうアリーしかいないんだから。次期村長じゃん? 今のうちに慣れさせようと思ってな?」

「トーン村も別に村長の名前じゃないだろ! っていうか何で私の名前なんだ!」

「ほら、最近は冒険者ギルドを頑張っているじゃないか。その、応援しようという気持ちをな?」

「そ、そんな言葉に騙されるか! でも応援ありがとう! つーか、こんな名前じゃ、村に帰ってきた皆に笑われるよ! 絶対、村長に間違われるよ!」

 

「ううう……」と声を出しながら、頭を抱える。こんな看板を友達に見られたら、なんて言われるか分からない。っていうか、この村を離れる事が出来なくなる気がする。そうだよ、こいつ、外堀から埋めてきやがったよ! 怖い! この村長怖い! このままだと最後の住人に私がなりそうだ! それだけは嫌だぁああああああ!

 

「分かったよ……。分かった、ちょっと悪ふざけが過ぎたな」

 

村長が笑いながら、私の肩を叩いている。

もう、この人の場合は本当にやりそうだから。怖いんだよ。まったく。

 

 

とりあえず、という事で、村の看板は私の物を使う事になった。

皆のは、遊びすぎていて、村とか関係なくなっちゃったからね。

 

「これで、人が来てくれれば、良いんだけどなぁ」

「そこは、アリーの頑張り次第だぞ」

 

杭に看板を巻き付けていた村長が、笑いながら、応援してくれる。

まあ、私も冒険者ギルドを大きくしたい気持ちはある。私が頑張れば、本当に、この村にも人は増えてくれるかもしれない。それなら、これからも頑張って行こう。皆と協力して、村を盛り上げていこうじゃないか。

なんやかんやあったけど、そんな風に心に誓えた、有意義な一日になりました。

 

 

後日、改めて看板を見に行ったら、酷い事になっていた。

『アリー村』だけなら、まだ可愛げがあったのかもしれない。

『可愛い看板娘 おいでませ冒険者ギルド アリー村』とかなんだこれ! 嫌がらせか!

ぷんぷんと怒った私は、レベルアップのおかげで強くなった腕力を武器に、それを引っこ抜いた。

 

でも、後日また通りがかったら、看板は元通りになってしまっていた。

それを引っこ抜いた上、叩き割って、自宅の竈用の薪に使ってしまった。

 

これで大丈夫だと思って、次の日見てみたら、やっぱりここは『可愛いアリー村』らしい。

下に小さく(トーン村)と書いてあった分、まだマシかもしれない。

 

諦めた私は、自分の寝室に戻り、ベッドに倒れ込んだ。

そして、頭を抱えて悶えながら、一日を過ごす羽目になってしまったのだ……。




登場人物

アリー:次期村長
村長:絶対に、絶対に逃がさない
ジーン爺:地獄の沙汰も、人次第
アマタ婆:犯人
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