「どうやら、互いに武器が尽きてしまったようですね」
「そやな……あんさんもやるやんけ。まさかここまで武器を持ち込んでるとは思わんかったで」
辺りに散らばるのは茶々丸の武器の残骸と式神の符。最後など肉弾戦で呪術師相手に殴り合っていたのだ。それももう、限界に近かったが。
「というわけで小太郎! やってまい!! ……小太郎?」
「黒髪の少年ならば、肉弾戦に入る前に帰りましたよ。『あほらし』とか言って」
「あほーっ!!」
戦場にも関わらず明後日の方を向いて叫ぶ千草。
「Guard Skill――Hand Sonic」
我関せずと茶々丸は両手の仕込み刃を展開し、片方を千草に向けて構えた。
「……武器は品切れちゃうんかい?」
「持ち込んだ武器は、です。仕込みは未だ健在ですよ」
「んなの反則やろっ!! さっきの肉弾戦で使えやっ!!」
あまりの理不尽さに叫ぶも、意味がないと悟るや千草は、防御用の呪符をどうにか攻撃に使えないかと思案する。だがそれを茶々丸が待つ道理はない。
「では行きます。……手足の2,3本は覚悟してください」
茶々丸は駆け出し、右手の刃を千草へと向けて突き出す。
しかし、それは叶わない。
キィン!!
「……!?」
甲高い金切り音と共に茶々丸は後退し、右手の仕込み刃に目を向ける。刃は半ばで折られ、いや切り裂かれていた。
「手足の2,3本でも困りますよ。……君が茶々丸君だね?」
そこには刀を構えた関西呪術協会の長、近衛詠春が立っていた。
「確かにそうですが、何か御用ですか? 近衛詠春様」
「おや僕のことを知っているのかい。……なら話は早い。戦闘行動を中止して欲しい」
「構いませんよ。そちらが攻撃及びマンションへ突入しない限りは」
元々籠城するつもりだったのだ。時間さえ稼げるならばどの選択肢でも問題はない。
茶々丸は仕込み刃を仕舞い、手を前に組んで待機状態に入った。
「助かるよ……もう少しでお義父さん達も駆けつける。そうすれば君達は彼らの庇護下に入れるよ」
「成程……我々の事情を御存じなのですね?」
「人伝だけど……ネギ君の事情は、ね」
詠春は静かに刀を鞘に納めた。
「悪い、神楽坂……」
右手の単発銃を降ろし、千雨は無意識に呟いた。
「あ、ああ……」
「……お前の馬鹿さ加減を甘く見てた」
目の前では
「お姉様、っ!?」
「悪いが動くな」
単発銃を手放し、素早くSIGP230を引き抜いて発砲した千雨は、ゆっくりと高音達に近づいていく。
「治療用のマジックアイテムがある。こいつを渡すから、武器を全部捨てて帰れ」
「分かりました! だから早くお姉様を!!」
イングラムM10も捨て、左手で腰のポーチから治療用マジックアイテムを取り出すと、高音達に見えるように掲げて見せた。
「まずは装備を全部外せ。確認したらこいつを投げ渡す。そしたら外した物を全部外に投げてから使え」
「分かりまし「その必要はありませんわ、愛衣!!」――お姉様っ!?」
「なっ!?」
咄嗟的に千雨が銃口を向けた先には、腹が痛むにも拘らず、腕の力だけで起き上がろうとする高音がいた。
「お前……」
「貴女、の、ような、悪、党に!」
立ち上がれなくとも、彼女はまだ戦えた。その証拠に、
「私達正義の「何が正義だよ」――え?」
高音が千雨を見ると、彼女の持つSIGP230が、銃口を揺らして視線の上を彷徨っている。
「お前達は善人どころか偽善者ですらない……ただの独り善がりな
軽い銃声が二発。その銃弾は、高音が召喚した
「お前達はただ結果が欲しいんだろ!? 『自分が助けた』、『自分が守った』、『自分が行動したから救われた!』、そんな下らない結果が欲しいから!! あちこちで出しゃばっては勝手に満足して消えていくんだろうが!!」
「貴女、何を……」
事情が飲み込めずに思わず呆然としてしまう高音に、千雨は無表情にSIGP230の銃口を突き付けた。
「もういい、あの時お前がいたせいでこうなったんだ。……だからさ、」
死んでくれよ。
千雨の指が引き金に掛かり、高音が咄嗟に
「そこまでだ。どちらも手を出すな」
突如二人の間に龍宮真名が割り込み、それぞれにデザートイーグルの銃口を突き付けてきた。
「……龍宮?」
「ちょっと貴女! 何故私にまで銃を向けてますの!?」
龍宮はどちらの意にも介することなく、ただ冷静に状況だけを告げる。
「学園長からのお達しだ。『事情は理解した。もうすぐ魔法世界より使者が来る。至急屋上に来られたし』だ」
「……分かったよ」
突然の闖入者に漸く冷静になれたのか、千雨は銃を下ろして数日ぶりに会うクラスメートに目を向けた。
「傭兵だと聞いちゃいたが、まさかこんな所で会うとはな」
「それはお互い様さ。……できればこれ以上、知り合いとは戦場で会いたくはないがね」
ニヒルに笑い返すと、龍宮は千雨の方に向けたデザートイーグルだけ、ホルスターに納めた。
「早く屋上へ行こう。そこで倒れている
「
「
屋上では死屍累々と倒れ行く魔法関係者達がネギ達の周りを覆っていた。驚きなのは、全ての者達が未だ生きているといる点だ。
「流石に全解放はできませんからね。……殺したらこいつらと一緒になってしまう」
「……ネギ、私は「エヴァさんは正当防衛ですよ。自分から手は出してないでしょう?」――だが、最初の一人は明確な殺意を持って殺した」
背中合わせに話しながらも、それぞれの手の先からは『
「もう汚れてるんだよ。この手は……ネギ?」
「じゃあ、一緒に汚れますよ」
呪術師の破魔呪により負傷して下ろしたままの手を握るネギに、エヴァは驚いて後ろを向く。
「貴女を呪いから解放した時から、僕はもうお尋ね者です。千雨さんは脅迫されていたことにできますし、茶々丸さんはガイノイド、元々命令には逆らえませんでした。……だから僕と貴女で、一緒に汚れた道を歩きます」
「……お前は誰よりも馬鹿だよ、ネギ。…………だからこそ、
とうとう足も撃たれてしまった。ネギとエヴァは背中合わせにその場にしゃがみ込んでしまう。けれどもその手は、未だに放れることはない。
「共に歩もう。……何処までも汚れた、誇りある悪の道を」
「この命、尽きるその間際まで」
ネギはエヴァの手を放すと、静かに立ち上がって、両掌を前に交差させた。
「共に汚れていきましょう。…………拘束制御術式第壱号――か「|冥府の石柱《ホ・モノリートス・キオーン・トゥ・ハイドゥ》」――見せ場取らないでよ、フェイト」
ネギ達を囲う様に降り注いだ柱状の岩が、直前まで迫っていた魔法の数々を押し潰してしまう。その光景に魔法関係者達が圧倒される中、遥か上空より、三人の男性が降り立った。
「すまないネギ君。……色々な意味で邪魔だったかい?」
「まあ、僕達がやられる前に間に合ったのはうれしいんだけど……狙ってやらなかった?」
「……ソンナコトハナイヨ、ネギクン」
片言ですっとぼけるフェイトを無視して、ネギはエヴァに手を伸ばした。
「どうやら、ダンスパーティーはこれまでのようですね」
「……そうだな」
夜明けと共に、一台のヘリがもはや廃墟と化したマンションの上を舞い、一人の人物を降ろして去って行く。その人物は緩やかに降り立つと、既に揃っている面々の眼前をゆるゆると歩き出した。
「これはこれは……一通り揃っとるのぉ」
顎髭を撫でながら、麻帆良学園学園長、近衛近衛門は一人一人、顔を覗き込んでいく。
関西呪術協会の長近衛詠春にガンドルフィーニ達魔法教師、高音ら魔法生徒に天ヶ崎千草率いる呪術師達。普段は邂逅することがない彼らの間に居る者達の傍へ、学園長は歩き出した。麻帆良学園のデスメガネことタカミチ・T・高畑、MM元老院総督クルト・ゲーテル、
「さて……この場合は初めまして、となるのかのぉ? ネギ・スプリングフィールド君」
「どうでしょうね。……他にも言うべきことは多々あると思いますが」
ネギ・スプリングフィールド、長谷川千雨、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル、絡繰茶々丸は互いを守るように身を寄り添いあっていた。その手には未だ魔法発動媒体が握られ、茶々丸に至ってはいつでも武器を展開できるよう、腕を微かに持ち上げている始末だ。
「今回の件、儂等は君の過去が中心となって起きたと考えておるが、その辺りはどうなのかね?」
「……何処まで知ってるんですか?」
「魔法学校での出来事位ならば、そこのタカミチ君から一通り、のぅ」
学園長は思案しつつ、ネギの傍に近寄って、しゃがみこんでいる彼の目線に合わせて膝を折った。
「故に、全ての過去を皆に話した上で、謝罪させて欲しい。良いかね」
「……いいわけないだろうが、じじぃ」
だが答えたのはエヴァンジェリンだった。彼女は片手を持ち上げ、掌の上に氷塊を生み出し、学園長に威圧的な眼差しを向けている。
「これ以上、ネギの傷を広げるというのなら「落ち着け、エヴァ」――何故止める千雨っ!?」
けれども千雨は、エヴァンジェリンの行動を諌めた。しかし彼女の瞳は、他ならぬネギに向けられている。
「それはネギが決めることだ。それに、もう事情を説明しないと、今度はこっちが悪役になるぞ」
「だがっ! それでは……」
手の氷塊を消すと、エヴァンジェリンはネギを強く抱きしめた。顔を自らの胸に埋めさせ、視界に魔法使い達が映らないようにしている。
「なにより、私ももう疲れてるんだ。だったら連中との話をとっとと済ました方がいい」
「でも、それじゃあネギは……」
顔を伏せるエヴァの頭に手を伸ばして一撫ですると、千雨は周囲を見渡して、こう呟いた。
「大なり小なり、それぞれの思惑や事情もあったが、計画の始まりはネギの過去にある。けれども、それはきっかけに過ぎない。ネギのことはなくとも、少なくとも私は同じ道を進んでいたと思う。その上で聞いて欲しい」
「だ「静かにしたまえっ!!」――……高畑先生?」
話を遮ろうとする高音を諌め、タカミチはクルトの方を向いた。
「悪いが頼めないか? ……僕には彼の過去を語る資格はない。僕自身も、彼らと同じ穴の貉だと思うから」
「……分かったよ、タカミチ」
クルトは肩を竦めると、一歩前に出て、この場にいる者達全てに聞こえるよう、声を大にして語った。
「かつて、ネギ・スプリングフィールドは皆と同じように
――同じく
次回予告
ついに明かされるネギの過去。はたして読者の予想通りなのか、それとも予想を裏切るのか。正義とは、悪とは何かを考えつつ待て、次回!!
「……本当の正義、か」