「……状況をまとめましょう」
あやか達が控えていた大型クルーザーへと戻ってきたネギ達は、情報共有の為に一度、甲板上に集合した。
ホワイトボードを船内から持ち出し、あやかの手により、その板上に今迄集めてきた情報が纏められていく。
「元々私達がここに来た目的は、行方不明となった裕奈さんとそのお父様である明石教授を探す為でした」
口頭で読み上げつつ、あやかの手で情報が書き連ねられていく。
「その明石教授が消えたここ、南大東島を調査しましたが、分かったことは二つ。二人はこの島にいないこと、そして……スカリエッティの狙いが『魔導巨兵ファウード』と呼ばれるものであること」
そこまで話してから、あやかの視線は千雨へと向けられた。
「千雨さん、お願いできますか?」
「……ああ」
その千雨は、あやかに話しかけられる迄ずっと、タブレットPCに視線を落としていた。話を聞きつつも、こなたから送られてきた情報を確認していたからだ。
そしてあやかと立ち位置を入れ替えた千雨は、受け取ったペンで大きく『ファウード』と書き殴った。
「ファウード。出所はゾフィスの時と同様、魔界と呼ばれる別世界だが……そっちは高音先輩が学園長を通して問い合わせ中だから、今はいいな」
なので、千雨は兵器についての一面から話し始めた。
「分かりやすく言うと、さっきのデモルトやリョウメンスクナノカミ、『進撃の巨人』に出てくる巨人よりも馬鹿デカい体躯で、口からエネルギー波、指からレーザー砲を吐き出す化け物だよ」
「……そんな生き物、いるの?」
リョウメンスクナノカミを見たことのある明日菜がそう言うのも無理はない。
現在は再封印されているとはいえ、世界に合わない規模の生物が存在していること自体が現実的にありえないのだ。
「一応人造生命みたいだが……何考えて作ったんだよ、そんなもん。邪魔でしかねえよ」
「おまけに武装しているとなると……ちょっと待って下さい。千雨さん」
少し横に控えていたあやかが話に割り込んできた。
「今、人造
「いや、その辺りは微妙なんだ……」
千雨は額を指差しつつ、そう返した。
「額に突き刺して、脳で直接操作できるコントローラーみたいなものがあるらしい。意思の有無までは分からないが、それを使えば完全に制御できるんだってさ。だから、そいつさえ押さえてしまえば……」
「……悪用されることはない、ですか」
ネギの言葉に、千雨は頷いた。
「ただ、奴らはその封印を解く為に必要な力を掻き集めている。本来ならばこの世界でいう攻撃呪文を集中砲火して破壊するだけでいいなんて、その気になれば誰でも解けるセキュリティとかクソだろとか――……すまん、話が逸れた」
一旦話を切って、謝罪する千雨。
「千雨ちゃん……なんかあったん?」
「以前刀子さんから伺ったんですが……当時の関東魔法協会の情報セキュリティ、力技で突破できるいいかげんな仕様だったらしいんです。千雨さんから見ると、その時点で『非魔法使い』を舐め腐っているとかで……」
このかと刹那が小声で話しているのは聞こえていないのか、千雨は話を続けた。
「とにかく、話を纏めると……憑依系転移者を用意できなくて火力が足りなくなったのか、破壊する為に『ジュエルシード』を集めているってのが分かった。後は場所とタイムリミットだが……」
歯切れ悪く切れる言葉に、全員が視線を外した。
もう……手掛かりがないからだ。
「千雨ちゃん。こなた達、何か言ってなかったの?」
「いいや……」
千雨は肩を竦めた。
「……そもそも情報が少なすぎる。原作通りならユーラシア大陸からニュージーランドへ移動、その後日本に進撃したらしいが、連中はそれに合わせる必要もないしな……」
どうしたものかと全員が悩む中、このかは懐から
「あの、このかさん「ちょっと待ってな~当たるも八卦当たらぬも八卦~」――占いでは流石に判断できませんわよ!?」
あやかがそうツッコむが、あまりの情報のなさに、とりあえずそれでいいかと周囲で止める気配もない。
「……難しい、ですかね?」
「ドラえもんの映画で『南海大冒険』ってあったろ? のび太がいきなり宝の場所当てて、そこから冒険が始まるやつ。そんなミラクルでもない限り……」
このかと周囲が騒いでいる中、ネギに話しかけられた千雨がそう返す。が、その瞬間ある人物に思い至り、二人の視線が完全に交わった。
「前に、フェイトがその力を利用できないか、って雑談中に話していたことがあるんですが……」
「それ、こなた曰く本気で検討しているらしいぞ。いやでもまさか……」
しかし何もしないよりはましだと、ネギはある人物に電話を掛けた。
「……あ、桜子さんですか? ちょっとお聞きしたいことがありまして――」
そしてネギの電話とこのかの占いが終わり、同時に結果を発表することに。
『ここ(です・や!)』
そして見事に、同じ地点を指差していた。
「桜子さんが言うには、なんとなくこの辺りだという話で」
「八卦でも、ここやって出とるえ」
偶然。そう言い切るのは簡単だが、誰もがあることを思っていた。
ここはとある物語の世界、そしてよく聞く一つの言葉、
「……いいんだな?」
千雨は、全員に問い掛けた。
「いいんだな? 本当にこれでいいんだな!? こなたにチート能力で確認取るように頼んでも、本当にそれでいいんだよな!?」
「言いたいことは分かるけど、他に手掛かりがないんだからさ……もう進めようよ千雨ちゃん」
「でも本当なのこれ……」
その結果は『小笠原諸島近辺』、一応国内である。
「やっぱりスカリエッティの前世は日本人で、国内を拠点にしていると考えた方がいいのか……?」
「だから本当にいいんだよな!? 聞いてしまってっ!?」
「……もういいから、千雨ちゃん」
未だに『御都合展開』が気に入らずに電話を躊躇する千雨を促し、こなたに確認を取ることに。
電話越しに事情を聴いたこなたは渋々という態で地図を広げ、
『話は分かったけどさ、そんな『御都合展開』本当にあるわけ……あれ? 本当に当たりだ』
「マジでっ!?」
どうやら大当たりらしく、そこで鎖が動いているらしい。
二、三話してから電話を切る千雨に、周囲の視線が集まっていく。
「……なあ、叫んでいいか?」
和美と真名が立ち上がり、肩を叩いて千雨を海の方へと促した。ネギも何か声を掛けようとするが、明日菜が首を横に振るため、なくなく断念する。
そして全員に見守られる中、千雨が代表して、海に向かって叫んだ。
「今までの苦労は何だったんだ――――――――――っ!?!?!?!?!?」
あやかはポン、と掌を叩いて注目を自分に移した。
「……さて、話を戻しましょう」
「あの、いいんちょさん。最初からこうしておけば「ネギ先生……話を、戻しましょう」――……はい」
あやかの言に圧されて、押し黙るネギ。
完全にその考えを封殺する気で強引に話を進めるあやかに、全員が乗っかることにした。というより、これ以上考えるのが嫌になっているのだ。
八つ当たり気味に煙草を咥えだす千雨をそっと放置し、ネギ達は再び話を再開した。
「端とはいえ国内というのは大きいですわね。場合によっては出国手続きも覚悟していましたから」
「でも船で行くの? 本当にあるのなら難しいんじゃない?」
そう話す明日菜だが、ハッキリ言ってその通りだ。
船で向かったとしても足から登る必要があるだろうし、何より高度が高すぎれば、飛行手段を持つ者達だけで全員を運んで乗り込むとなると……。
「その点は問題ありません。一度補給も兼ねて沖縄本島に戻ります。その後はまたチャーター機に乗り換え、上空からの偵察を行いましょう」
「まあ、実際にあるとは、まだ、限りません、し……(ぼそっ)千雨さんの僕への好感度、聞いてみようかな」
「ネギ先生。それを聞いたことが
いつの間にか近くに控えていた茶々丸にそうツッコまれるネギ。
そんな二人を差し置いて、話は終わりとばかりに片付けを始める面々、中にはお茶菓子まで用意し出す者までいる始末だ。
「今迄の苦労は何だったんだよ……」
「まあ、そう言わずに」
しゃがみ込んだ千雨の隣に、和美も腰掛けて話し掛けるが、当の本人は紫煙の中に逃げ込んでいるのか、なかなか視線を合わせようともしない。
「……このまま見つかると思うか?」
「見つかれば御の字、でいいんじゃない?」
しかし、和美には千雨の心情が透けて見えていた。
「まずくなったら全員で逃げる、それでいいと思うよ?」
「……まあ、それしかないわな」
もう、個人でどうにかなる状況じゃない。
千雨一人でも無理なのは勿論、ここにいる全員で乗り込んでも、確実に対処できるとは限らない。文字通り、それだけ大きな問題なのだ。
「最悪、場所を確認してさっさと逃げるか」
「文字通り、『魔法反徒』だね……ごめん、冗談」
SIGP230が仕舞われるのを確認してから安堵の息を漏らす和美を見て、千雨はあることを考えていた。
「なあ、朝倉……お前、本当に何を考えているんだ?」
「……何って?」
不思議そうに首を傾げる和美に構わず、千雨は煙を吹かした。
しかし千雨が
沖縄本島に到着しても、すぐに出発できるわけではない。
あやかが手続きを行っている間、他の面々はそれぞれ準備があるので一度解散となった。
千雨もまた、持ち込んだ荷物から銃弾を補充し、弾倉に一発ずつ詰める作業をしていた。今居る場所もあやかの借り切った空港近くの倉庫で、そこに全員の荷物が預けられている。
「まさか、こんな長い付き合いになるとはな……」
イングラムM10の弾倉を作りながら、その視線は銃本体に向けられていた。
千雨が銃を握ることを選んだのは、魔法に対抗する手段で一番分かりやすい力だったからだ。だから銃を握り、容赦なく引き金を引いた。
映画撮影の当時こそ、人殺しにはならないからと銃を撃つことに躊躇はなかったが、転移者と関わってからは違う。一度でも迷えば自らの死を、そして周囲の人達を巻き込むことに繋がるのだから。
「……千雨ちゃん?」
そんなことを考えている時だった。明日菜が倉庫に入ってきたのは。
「神楽坂か……どうした?」
「ちょっと釘刺しに「とっくに朝倉が刺した後だよ」――千雨ちゃん、朝倉と仲いいのね」
「何考えているか分からないから、こっちは距離感決め辛くて苦労しているけどな」
出来上がったばかりの弾倉を傍らに置いてから、千雨は明日菜の方へと向き直った。
「電話越しには一度言ったが……ゾフィスの時はありがとうな、助けに来てくれて」
「私の時にも助けてくれればいいわよ。お互い様でしょう?」
そう元気に返してくる明日菜だが、千雨は逆に溜息を吐いた。
「……社交会でまた通訳すれば「いつもお世話になっております」――お前、ネギ先生近くにいるんだから、いいかげん英語覚えろよ」
「そう言う千雨ちゃんこそ……いつ覚えたの?」
「ある程度話せるようになったのは、大学の長期休暇利用して短期留学した辺りだな。発音がアメリカ寄りだから、ネギ先生的には気に入らないかもしれないけど」
そんなことを話していると、突如携帯が振動し始めた。
画面を確認するとあやかからで、手続きを終えたので三十分以内に集まれとの指示だった。
「何にしても……一人で突っ走らないでよ。千雨ちゃん」
「むしろ今回は逃げる方だよ。……明らかに個人の
手早く弾倉をホルスターや鞄に仕舞い込んだ千雨は、明日菜と並んで倉庫を後にする。
「……やばくなったら全員で逃げるぞ。最悪遠距離から魔法なり核弾頭なりでなんとかすりゃいいし」
「ちょっと思考が過激だけど……分かっているならOK」
集合場所へ向かう中、明日菜は千雨の肩を叩いた。
「それじゃあ行きましょう。……ファウードに!!」