魔法先生ネギま 雨と葱   作:朝来終夜

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第08話 過去編。折られた杖と、その矛先は如何に

 ネギ・スプリングフィールドは、あの雪の日以来、努力を欠かしたことはなかった。外に出れば体術を身につけ、内に居れば机で勉学に励む。まさしく晴耕雨読な毎日を魔法学校で過ごしていた。理由はいつも、彼が携えている一本の杖。サウザンドマスター、ナギ・スプリングフィールドが使っていたとされる杖だ。

 あの時まで、彼にとってサウザントマスターは、ある意味物語の登場人物に過ぎなかった。千の魔法を使い、魔法世界を救った英雄だと、信じて疑わなかった。彼が死亡したという話も聞いたが、幼い彼には死の意味は理解できていなかった。せいぜいが会う機会がないだろう、という位しか。だからこそ、悪魔達の襲撃を受けた際、駆け付けてくれたサウザントマスターに対して、英雄(ヒーロー)としての尊敬の念を抱いたのだろう。

 ネギはあらゆる魔法をマスターするだけでは満足せず、新たな魔法の創作に乗り出していた。常時開放魔力を抑制する拘束制御術式を始め、雷切、超電磁砲(レールガン)竜破斬(ドラグ・スレイブ)等を生み出してきた。中でも最高傑作だと自信を持って言えるのは、固有時制御だった。一定範囲内の時間の流れを操作する術式は、もしかしたら時間跳躍魔法の先駆けとなるやもしれない。今でこそ時間を早めるか遅めるかが精々だが、将来この理論を応用して時間跳躍魔法を誰かが開発するかもしれない。

 それに気づいた時、ネギは目標であるサウザントマスターに、立派な魔法使い(マギステル・マギ)に至るための手段として、新たな魔法を生み出していく道を選んだ。けれども、今のままでは成長できないと、ネギは悟っていた。何故なら、ここでは誰も彼を、『ネギ・スプリングフィールド』として見ていないからだ。

 褒められることをしても、流石は英雄の息子だと評価される。資料読みたさにこっそり立ち入り禁止の書庫に潜り込んでも、英雄の息子だから仕方ないと判断される。そう考える人間が多いここでは、例え立派な魔法使い(マギステル・マギ)になろうとも、誰も『ネギ・スプリングフィールド』ではなく、『英雄の息子』として見ることになってしまう。何をやっても、誰もネギ自身を見ようとしないだろう。

 その時のネギは、英雄の息子であることを誇りに思いつつも、いつか父のような英雄として名を連ねたいと考えていた。故に、肩書に拘らずにネギ自身を評価してくれる環境で自己を高めようという思いに至ったのだ。

 幸いにも新しい魔法の特許で得た資金がある。ネギはこれらをふんだんに使い、時間を伸ばせる巻物やダイオラマ球を買い漁った。使いすぎたがために肉体的成長は計り知れないものと化したが、偶然手に入れた闇の魔法(マギア・エレベア)の巻物(ラカンが酒を飲む金欲しさに市場へ流してしまったものを、偶々ネギが購入した)と固有時制御を組み合わせることで通常の成長速度に調整することができた(実はその時から、ネギはエヴァに気があり、いつか会おうと考えていた。登校地獄についてはまだ知らなかったが)。そしてある日、ネギはウェイバー・ベルベットという偽名で固有時制御に関する論文を作成してアリアドネーに送った。

 結果は直ぐに帰って来た。これでもかという位の高評価である。その瞬間、ネギは素早く返事をしたため、自らの正体及びアリアドネーへの留学を希望する旨を伝えた。

 留学自体は認められた。流石に職員の中には色眼鏡で見かねない人間も居るが、基本的には平等に接する、という言葉も添えられていが。しかし、概ねネギの希望は通ったと言える。ネギは直ぐに校長に報告し、留学の手続きを取ろうと封筒を握りしめ、駆け出した。英雄になれる。父と同じように、歴史に名前が載る。そう信じて。

 

 しかし、ネギの留学は叶わなかった。

 

 校長はどっちつかずであったが、それでもネギの希望は通してやろうと考えていた。けれども、周りの人間は違った。サウザントマスターを偶像視している彼らにとって、ネギが留学するというのは受け入れられない事態だった。

 ネギは唯の人間ではない。彼は英雄の息子だ。その思いが彼を一人の生徒としか見ないアリアドネーを敵視し、留学の話を独断で反故にした。彼らは立派な魔法使い(マギステル・マギ)として正しい行いをしたと思ったことだろう。けれどもそれが、ネギを本気で怒らせてしまった。

彼は暴れた。今までの生で培ってきた全てを使って暴れまくった。魔法学園は崩壊しかけ、留学の件に関わった者達は全て瀕死の重傷を負った。特にひどかったのが、ナギの杖をへし折った瞬間だった。その時から彼はサウザントマスターを、自らの父を呪うようになった。

 ネギは自らの殻を形成して閉じ籠り、ネカネやアーニャですら他人だと思い始めるようになった。以来、彼の生活は一変する。積極的に受けていた授業を全てボイコットし、日がな一日ネトゲで時間を潰すようになった。その理由は彼を知らない、唯の人間だと思う環境を探してたどり着いたのがそれだったからだ。その時に千雨と出会い、彼女を通じて本物のエヴァンジェリン、茶々丸と交流を持つようになった。

 最初は唯のネトゲ仲間だったが、互いの愚痴を聞きあっている内に何かしらの共通点を見つけた千雨がネギに鎌をかけたのがきっかけだった。そして魔法を知り、魔法世界のことやエヴァンジェリンのことを千雨作の特殊回線によって開かれたチャットでほかの誰かに聞かれることなく、知ることとなった。千雨はその話をした次の日にエヴァンジェリンに声をかけ、ネギとの橋渡しをした。彼らは最初衝突しあったが、次第に心を許し合える仲にまで進展していった。特に大きかったのが、立派な魔法使い(マギステル・マギ)に虐げられた過去を持つ共通点だったといえよう。

 愚痴りつつも、いつかは魔法世界から逃げ出そうと画策しあう日々。そんな日常があったからこそ、彼らは日々を生きていけたのだろう。ただしそれは現実となる。フェイト・アーウェルンクスとの接触が、彼らの逃亡計画を後押ししたと言えよう。

 

「……そして彼らはここまで逃げてきた。魔法世界から、立派な魔法使い(マギステル・マギ)から逃げるために!!」

 クルトは叫ぶように、話を締めくくった。

 周りは騒然としている。無理もないだろう。同じ立派な魔法使い(マギステル・マギ)を目指す者同士が、全く違う考えに至ったのだから。そして先に動いたのは、立派な魔法使い(マギステル・マギ)等とは何の関係もない者達だった。

「……あほらし、単なる内輪揉めかいな」

 そう考えるのも無理はない。千草にとって魔法使いとはかつての大戦で家族を失うこととなったそもそもの原因である。むしろ今回の一件は、その敵同士が互いに争っていたという風にしか見えなかったのだろう。

「こんな内輪揉めにチョッカイかけるなんて、情けのうなってくるな。……皆、帰るで!!」

 千草の一声で、関西呪術士協会の人間は詠春を残してマンションの屋上から去って行った。死者が出なかったことも、今回の騒乱で強く憎めなかったことも後押ししたのだろう。

 残された詠春は腕を組んだまま、古い馴染みに声をかけた。

「エヴァンジェリン、一つ分からないことがあるのだが」

「……何だ、詠春」

 話をしている間中、ずっと伏せていた顔を重たげに上げ、エヴァンジェリンは詠春に意識を向けた。

「ネギ君のことは分かったし、君自身についてもあの馬鹿(ナギ)が約束を守らなかったのが原因だと理解している。……じゃあ、そこの彼女はどうしてここにいる?」

 詠春の瞳の先には、件の彼女、長谷川千雨がいた。

「そうですわよ!!」

 その瞬間、我が意を得たとばかりに高音が立ち上がり、千雨に食って掛かった。

「そもそも何なんですか貴女は!! 魔法関係者でもないのに勝手に我々を敵視して「さっき言った通りだよ」――はい?」

 千雨は立ち上がり、右手を持ち上げた。その先にはSIGP230が握られている。

「さっき言った通り、あの時お前がいたせいでこうなったんだ。……顔を見るまで気づかなかったよ、あの時の女だと」

「貴女は一体……」

 高音にとって、向けられた銃よりも千雨との過去について、意識がずれてしまった。けれども思い出してしまう。……千雨の放った一言を持って。

 

「『お姉ちゃんは、魔法使いなんだよね?』」

 

 あれは千雨が小学生の時だった。両親が死に、一人で生きられるよう親戚の勧めで麻帆良の地に暮らし始めた時のこと。

 小学生とは単純なもので、見聞きしたものを本物だと信じ込んでしまう。しかし、彼女は違った。こことは違う常識を覚えていたから、彼女は違うと叫んでいた。……これは異常だと。

 麻帆良学園は、学園都市であると同時に魔法世界の住人が多数住む街でもあった。故に学園全体に強制認識を掛けられ、例え誰かが魔法を使ったとしても、これが現実だと刷り込ませて隠し通せるようにしたのだ。けれども千雨には、それが適用されなかった。僅かに残る両親との思い出が彼女を守ったのか、それとも元々対魔体質で効かなかったのか。

 原因は定かではないが、彼女が強制認識を受け付けずに、超常的なことが起きればこれは現実じゃない、魔法が存在するんだと声高に叫んでいたことに変わりはない。けれども所詮、彼女は独りだった。誰一人として、千雨に取り合うことはなく、徐々に彼女の周りから人が減っていった。子供とは残酷である。集団心理が強いともいえるだろう。

 明らかに異物である彼女は受け入れられないまま、独りの日々を過ごしていた。特に決定的だったのが、高音との出会いだった。

百の影槍(ケントゥム・ランケアエ・ウンプラエ)!!」

 偶々道路に飛び出したクラスメイトを助けるために、通りかかった彼女が走り寄る車に対して魔法を使ったのだ。けれども彼女は

「これはCGですわ!」

 と大法螺を吹いてしまったのが駄目だしとなった。千雨を含め、皆は魔法使いだと思って聞いてくるも、当時幼かった高音にとって、魔法は誰かの役に立つものだと強く願っていたために躊躇なく使い、そして満足したかのように適当に返して去って行ったのだ。

 その時、千雨の必死さに気づいていれば未来は変わったかもしれない。けれども高音にとっては立派な魔法使い(マギステル・マギ)になることしか考えていなかったために縋り寄ってくる千雨を無視して、その場から消えたのだ。

 そして千雨は、周囲から完全に拒絶された。

 常識(・・)を知らない可哀想な子、というレッテルを張られ、周りの人間からは無視される日々。苛められないだけましだったかもしれないが、当時小学生だった彼女にとっては、どちらも同じだったのかもしれない。

 あれから数年の月日が流れた。元々留学生だったがために、あの時偶々麻帆良を訪れていた高音に会うことなく、千雨は中学生になった。けれども彼女にはまだ救いがあった。出鱈目人間が揃っているとはいえ、クラスメイトは千雨を拒絶することはなかったし、大体その時期の少し前位にネギという、遠い地の幼い友人を得たのだから。

 

「まさか、あの時の……」

「そうだよ。……もしあんたがあの時私に気づいていれば、こんなことにはならなかったかもしれない」

 しかし、この世界にもし、というものはない。誰かを助けるという意味を理解していなかった高音に、救いを求めたが拒絶された千雨。

 過去の、未熟だった時のツケが、今頃になって回ってきたのだ。

「君!! 事情は分かったが、銃を降ろ「命令すんじゃねぇ、立派な魔法使い(マギステル・マギ)!!」――!!」

 今にも引き金を引きかねない千雨を制止しようと、ガンドルフィーニが口を開くも、その本人に遮られてしまった。

「お前達は善人じゃない。偽善者ですらない……ただの独り善がりな自己愛者(ナルシスト)だ」

「…………」

 高音は何も言わなかった。いや何も言えなかった。ただ銃口を向けられたまま、何の行動にも移そうとしない。この時になって漸く気付いたのだろう。自らの身勝手さに。

 徐々に引かれていく引き金。

「……駄目ですよ、千雨さん」

 けれどもそれを止めたのは、今まで沈黙を貫いていたネギだった。

「千雨さん、いつも言ってたじゃないですか。本当の正義は全てを救おうと抗い、立ち向かうものだって。何かを犠牲にして目的を遂げたものは悪だけど、犠牲を生むだけなのはただの畜生だって」

 ネギは立ち上がった。エヴァンジェリンの肩を借り、悲しい瞳をしている友人に語りかけるために。

「僕達は悪だけど、畜生じゃない。そして目的は遂げました。……もうこれ以上、犠牲を生む必要はありませんよ」

「ネギ……」

 年の離れた友人に諭され、千雨の手から力が抜け、SIGP230は地面に落ち、転がっていった。その銃は関東の魔法関係者達の前で止まったが、誰も拾おうとはしなかった。

「確かに、これ以上は無駄以外の何物でもないな」

 唯一無言を貫いていた龍宮が銃を拾い、弾倉を抜いてスライドを引き、薬室を空にしてしまう。

「……本当の正義、か」

 タカミチの呟きは、突如吹き荒れた風に流されて、消えていく。

 その時彼の脳裏には自らの師が、赤き翼(アラルブラ)だった時の記憶が映っていた。




次回予告
 とうとうこの話も最終話。伏線殺しの異名を持つ作者の描く終焉とは!?
 サブタイトルと話の内容噛み合ってなくね、とかいう疑問は捨てつつ第09話、心して読まないで下さい。普通で結構です。



 この度、予想よりも早く執筆が進んだ為、年末年始に別途更新いたします。どうぞお楽しみに。
 ……え、クリスマスは何故何もしなかったのかって?
 ブラックサンタにすら見捨てられるレベルの人でなしで、人様にプレゼント与える気が一切ないからですけど何か?
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