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以上、注意書きでした。
麻帆良学園女子中等部3-Aの教室に、ネギは駆け込むように入った。そこには彼の生徒の一人が、誰とも一緒に居ることなく、ただ黒板の方を向いて立っている。
ネギが声を掛けるまでもなく、その少女、千雨は振り向いて勝気気味な笑顔を浮かべた。その笑顔を見て気圧されながらも、ネギは己が心を律し、強引な勢いを持って言った。
『好きですっ!! ……千雨さんが良ければ、付き合っていただけたらな、と…………』
ネギは待った。どのような返事をするかは分からず、ただ待つしかできなかった。
『ネギ先生、私のことを選んでくれたのは嬉しいよ。……でも駄目だ』
『えっ、な、何故です……』
『それは……』
そして、千雨は拒絶した理由を告げた。
『それは…………恋愛は赤黒以外認めないからだっ!!』
「何ですかそれはっ!? ……って、え、あれ?」
3-Aが卒業して、早7年が経った。『
それは麻帆良学園に舞い戻ってきたネギ・スプリングフィールドも例外ではない。彼は今日の同窓会を機に休暇を取ることにした。丁度仕事も一段落し、暫くは急ぎの案件もないのが大きかった。
そこでネギは現在父親であるサウザンドマスター、ナギ・スプリングフィールドと共に住んでいるマンションの一室に戻り、今年の夏を麻帆良で過ごすことにした。
「なんだ、夢か……しかし赤黒って一体…………?」
そして彼らが住むマンションのリビングは、死屍累々と人間が折り重なって倒れていた。そう言えば、とネギは周囲を見渡して状況を確認する。
同窓会が終わり、何人かが分かれたり帰宅したりと解散になったのだが、その一部と帰宅し、そのまま二次会に雪崩れ込んだのだ。ネギは死んだように眠りこけている面々を避けながらコップの中身を嗅いでどこか納得した様に頷いている。
「そう言えば、未成年が僕以外にいないからってお酒振る舞ったんだっけ。父さん……」
かくいうネギも飲まされかけたのだが、うまく躱したお陰で臭いだけで済み、どうにか頭痛に悩まされずに済んでいる。
「まさか、この映画が残っていたなんて……ハア」
軽く溜息を吐いたネギの手には、『魔法反徒ネギま』と書かれたDVDケースが握られていた。その表面を眺め、懐かしさと若干の憤りを込めてソファの上に投げ捨てる。
「全く、父さんも映画のセリフに一々怒らないで欲しいな。その度に頭叩いてきてさ……」
ふと、パッケージに写っていた人物のことを思い浮かべた。その自主製作映画の主要な四人が写っていたのだが、問題はその一人だった。
(千雨さん……)
写っていた四人はネギとその師であるエヴァンジェリン・A・K・マクダウェル、そして師の従者である絡繰茶々丸と、かつてのネギの想い人である長谷川千雨だった。この映画を撮影していた頃はまだ気持ちを伝えていなかったので何もなかったし、卒業した後はほとんど顔を見ていないといっても差し支えない。
相談したいことや話したいことがあれば気軽に連絡していた。周囲にはあまり話せない悩みや不安も聞いてもらえていた。偶に茶々丸も交えて話す乱暴ながらも優しい口調は、ネギ自身に向けられていると思うだけで嬉しく思えていた。
そして、久しぶりに面と向かって話そうとしたのだが、どうも教師と生徒の関係でしか話せていなかったとネギは考えていた。会話が少なかった上に、どう贔屓目に見ても男女の仲には見えていない。
そんな悩みを胸中に秘めながら、ネギはベランダに出た。手すりにもたれかかり、自分の気持ちを整理するように口から言葉を漏らしていく。
「僕は千雨さんが好きだった。でも7年前の卒業式に振られてしまった。……そして今日、千雨さんと話せなかったことに、少し悔しがっている気持ちがある「本気じゃないの? それって」――うわはっ!?」
気が付けば、隣には自らの姉のような存在である、神楽坂明日菜がいた。彼女も成人していたので酒を飲んでいた筈だが、どうやら酔いが醒めたらしく、起きてネギの独り言を聞いていたらしい。
「そんな驚かなくても。……で、今でも千雨ちゃんが好きなのよね?」
「そそそそれはその、えっと……」
狼狽えるネギを宥めるように、明日菜は後ろを向いて部屋の中を一瞥した。
「まあ、しょうがないか。千雨ちゃんはこっちに来ないで、朝倉達と飲みに行っちゃったし」
「あうう……」
「……で、今でも千雨ちゃんが好きなの?」
再度出された問いかけに、ネギは即座に返せなかった。おそらくだが、今も好意を抱いているのは間違いない。
問題は、それが本当に人に恋した気持ちなのかが分からないということだ。
「そ、それが……その~うう…………」
「……まあ、しょうがないんじゃない?」
明日菜もネギの隣で手すりにもたれかかり、星空の浮かぶ景色を眺めていた。
「今迄直接会えなかったんだし、自分の気持ちに自信が持てないのはなんとなくわかるわよ。でも、だからこそ……はっきりさせなさいよね」
「はい。でも、どうすればいいか……」
ネギも現状での自分の気持ちは、頭では理解できていた。けれども、頭で理解できていてもそれが正しいのか自信が持てなかったのだ。それこそ姉的な存在である明日菜に聞いてもらえたからこそ、どうにか折り合いがつけたといってもいい。
そして、気持ちと行動が一致しないのも事実だ。これからどうすればいいのか、ネギ自身にも理解できていない。
「そんなの決まっているでしょ。……会って話しなさいよ」
「会って、話を、する……」
「そう。会って話をするだけ」
軽く伸びをしてから、明日菜はベランダの手すりから身を起こした。
「今は教師と生徒じゃないんだから、二人で会って気持ちを確かめなさい。今はそれだけでいいから」
丁度夏休みなんでしょ? という問いかけに、ネギは今度こそ自信を持って頷いた。
そう、ネギには時間がある。聞けば千雨も、今は夏季休暇の真っ最中らしい。普段は何をしているのかは知らないが、休暇中であるならば時間も取れるだろう。
「二人で会う……仕事で相談したことのお礼以外で何を話せばいいでしょうか?」
「それこそ何でもいいわよ……仕事の話じゃなければ」
仕事以外に話すことが思いつかず、ネギと明日菜は話題を次々と挙げながら、わいわいとベランダで騒ぎだした。
(なあ、これツッコんだ方がよくね?)
(別にいいだろ。くだらん……)
それを
そして某居酒屋にて。
「……あれ、千雨ちゃん煙草吸うの?」
「ん、駄目だったか?」
ロックグラス片手に煙草を取り出す千雨に、和美はコリンズグラスを傾けながら促した。
「いや別にいいよ。なんか自立した格好いい女っぽいし」
「どこがだよ。半分女捨ててるようなもんだろうが」
等と女性喫煙者を敵に回す発言が見受けられましたが、作者的には別に自己責任で問題ないと思います。自分が喫煙者だからかもしれませんが。
とりあえず妊婦は吸うな。
「日本酒くださ~い♪」
「おい、相坂の奴酔ってないか?」
「ほんとだ……さよちゃんストップ!」
何故かテンション高く酔っているさよを和美が押し留めていると、今度は何故か茶々丸がくずおれてきた。
「……って、どうした茶々丸?」
「千雨さん、私、わたし…………」
煙草に火を点けないまま、千雨は茶々丸の傍に近寄っていく。確かに結構飲んでいるみたいだが、所詮はガイノイド、酔うことはないはずだが。
しかし茶々丸は、今度は両掌で顔を覆いだして泣き出してしまった。
「ちさめさん、わたし、わたし……」
「お前泣き上戸かよ。雰囲気にでも酔ったか?」
精神的には人間染みてきたのでそういうこともあるだろうと、仕方なしに茶々丸の話に耳を傾けていく。
「わたし……この前千雨さんがネギさんにと送ってきた旅行土産のお饅頭を、うっかり会談のお茶受けに振る舞ってしまいました!!」
「そう言えば旅行してきた話をスルーされてたっ!!」
とりあえずと茶々丸の頭を引っ叩き、今度こそライターで煙草に火を点ける千雨。紫煙を肺に吸い込み、脳内で疼く頭痛を宥めようと呼吸を整える。
「どうでもよくて忘れてたから、別にいいけどさ。あれそこまで高いものじゃなかっただろう? あんなの会談で出してもいいのかよ」
「構いませんよ。相手はあの総督ですし」
「……ああ、あの総督か」
ならいいか、と煙草の灰を灰皿に落とす。
今度はさよが寝てしまったのか、和美が上着を掛けてやっている。
今のところこの四人しかいないが、先程まで美砂、桜子、円のチア部三人娘も同席していた。一方的に絡まれていたのだが、変な拍子にカラオケに行きたいから、と先に席を立っていたのだ。
「というかさっきの話だけどさ、千雨ちゃん、ネギ君のことどう思っているの?」
「どう、ってな……」
その件で先程迄弄られていたのだが、千雨は頑としてノーコメントを貫いた。それに飽きたのかは知らないが、チア部の三人が撤収したのでお流れになったままである。
なのでどう言うべきかと考えていた千雨だが、ふと数日前のことを思い出していた。
「この前エヴァの奴と飲んでた時にも聞かれたな。そういや」
「エヴァちゃんと飲んでたの!? ある意味すごい組み合わせだわこりゃ」
「そうでもねえよ。茶々丸とツルんでると自然とセットでついてくるんだわ、あいつ」
とはいえ、口の堅さ
その数日前の飲み会の内容が下記に当たる。
「いったいどうしろってんだよ、もう……」
「それを私に愚痴られてもなぁ……」
エヴァンジェリン(年齢詐称中:雪姫モード)と裏路地の居酒屋に入った千雨は、席に着いて一杯飲むなり、激しく溜息を吐いていた。
適当なカクテルの入ったコリンズグラスを傾けながら、適当につまみを口に入れていく。
「というか茶々丸どうした? 休暇中だって聞いたから、最初あいつに声掛けたんだぞ」
「茶々丸は急用の仕事だ。だから夕飯代わりに行って来いとさ」
「……帰ったら巻いてやれ。徹底的に」
グラスを置いた千雨は、煙草を咥えて火を点けた。ライターをテーブルの上に放り、紫煙を燻らせている。
「いやちょっと待て……そもそもなんで私達は、一緒に飲む仲になってるんだ?」
「いいじゃねえか、一緒に麻帆良から逃げ出した仲だろ「あれは映画の話だろうが!! しかも黒歴史!!」――……おまけに愚痴る相手がいないんだよ」
煙草の灰を灰皿に落とし、千雨は空いた手でメニューを広げた。
「朝倉は口軽いし、綾瀬とかは下手したら逆恨みされる可能性もある。他は馬鹿と色ボケしかいないから、遅かれ早かれ話したことばら撒かれるのがオチだし……やっべ、交友関係狭すぎるわ私」
「龍宮はどうだ? あいつなら口固いし、馬鹿でも色ボケでもないだろ」
「駄目。容量大きい上に仕事人間で、酔う前にすぐ切り上げて帰ってしまう。必ず割り勘でくれるけどな」
特にめぼしいものもなかったので、メニューはテーブルの端に投げられた。今度はエヴァンジェリンが手繰り寄せてそれを眺めている。
「そういえば、ぼーやのことはどう思っているんだ?」
「正直、分かんねえよ……」
吸殻を灰皿に入れ、次の酒を頼もうと呼び鈴を鳴らした。
「昔だったらあいつの邪魔になるから、って自分の気持ち抑えられたけど、幸か不幸か、もう抑える理由もないしな。……まあ、それだけって訳でもないんだが」
「何かあるのか? ……赤ワインボトルでくれ、グラスも二つ。お前も飲むだろ?」
「ああ、あとチーズ盛とブルスケッタも頼むわ。とりあえず以上で」
「……あんまり飲み過ぎないようにしなさいよ」
店員にそう言われても、千雨は手を振っただけで返した。
「なんだ、知り合いか?」
「同じ大学の灰原。学部違うけど前に住んでたアパートのお隣さん」
「……というかお前、大学の知り合いと飲めばよかったんじゃないのか?」
「見ての通り、帰省してない連中は全員バイトだよ。一人彼氏といるとか言うのもいたが、あれ絶対見栄だ」
先に運ばれてきたワインを開け、グラスに注ぎながらエヴァンジェリンは改めて千雨に問いかけた。
「それで、いったい何を悩んでるんだ?」
「……さっき言った交友関係だよ」
ワインの苦みを口腔内で転がしつつ、どうにか舌を動かし始めた。
「まあ、なんというか。こっちが年上な分、本当だったらあいつよりもしっかりと自分の気持ちを理解していないと駄目なんだろうが……人付き合い狭すぎて、かえって自分の気持ちが分からないんだよ」
「……ああ、よくある話だな」
「そう、よくある話。先生もなんで、こんな私を好きになったんだが……」
続いて乗せられたチーズをつまみつつ、さらにボトルを空けていく二人。
「まあ、多分好き寄りなんだろうけど、それって昔の話だろ? 今でも同じ気持ちになれるか、って思うわけでさ」
「私は好きだぞ」
「それは良かったな。……いや、ちょっと待ってくれ」
取り出されたのは一冊の手帳。適当なページのメモスペースにペンを走らせて次々と名前を書いていく。
「今思ったんだが、もし万が一私と先生がくっつくとするだろ」
「ああ……」
覗き込んでくるエヴァンジェリンに、千雨はさらにペンを走らせて書き込んでいく。
「で、先生の親父がトチ狂って「どういう意味だ。縊るぞコラ」――いいから聞け。お前を第二婦人なり後妻なりにした場合……どうなるか分かるか」
「私とお前は、義理の親子になる……」
顔を見合わせる二人。そして結論。
『気持ち悪っ!!』
手帳に書き記したことを塗り潰して慌てて閉じる。
「勘弁してくれ。見た目ロリな母親なんていらねえよ……」
「私だってお前みたいな捻くれ者を娘になど欲しくないわっ!!」
思わず立ち上がりかけた二人だが、騒がしくしたせいで周囲の視線を集めてしまったので、冷静になりつつ肩身を狭めて座り直した。
「というか、先生の母親って結局どうなったんだ?」
「知らん。まずはそこからだな、私は」
グラスの残りを飲み干し、エヴァンジェリンは席を立った。
「少し化粧室に行ってくる。……お前もまずは知ったらどうだ? ぼーやのことを」
「……そうだな」
席に一人残された千雨は静かに、グラスを傾けていた。
「結局はそこからだな……」
主要キャラの現状一覧 Vol.01
ネギ・スプリングフィールド
ISSDA勤務。Blue Mars計画の一環で軌道エレベーター開発に関わる予定だが、計画調整に必要な各種手続きの承認待ちの為、せっかくだからと空いた時間を貯めていた年次有給休暇の消化に使用、結果長期の夏期休暇を得ることとなった。現状での実家に当たる、ナギの住むマンションの一室にて休暇を過ごす予定。
長谷川千雨
大学4年生。情報科学部だが他学科履修にて哲学や経済学、社会学等の文系の学問修得にも注力している。ISSDA特別顧問としての地位は確約しているが、実質ネギの相談役ということだけなので大した権限はなく、裏で色々と活動せざるを得なくなっている。現在は大学近くのマンションの一室を借りて暮らしている。引きこもりを目指すが真逆の道に行きかけている喫煙者。
ナギ・スプリングフィールド
二年間の昏睡状態から復活した為、身体中にガタがきて本調子ではない。隠居云々はともかく、現状はまともに動けるようになろうと麻帆良にてリハビリ中。そのついでに、せっかくだからと戦闘以外のスキルも身につけようとしている。よくエヴァンジェリンや麻帆良に移住したラカンと一緒にいる。