魔法先生ネギま 雨と葱   作:朝来終夜

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第02話 デート一本でがたがた騒ぎすぎている。

 同窓会の翌朝。千雨は自室のベッドから身を起こした。

「ふぁぁぁ……」

 ボリボリと後ろ頭を掻き、ベッドから降りようとして、足下に誰かが転がっているのを見つけた。

「ん、ああそうか……」

 二人で床に転がっていた茶々丸とさよを避け、ソファで寝ている和美を見下ろしてから、ようやく現状を確認するに至った。

「そういや、三次会がてら泊めたんだっけか?」

 中学時代の自分では考えられないことをやったな、と千雨は考えたが、今更だと首を振る。今は朝食をどうするかと台所に歩を進め、冷蔵庫の中身を確認し始めた。

「しまったな、昨日つまみ代わりにばかすか食っちまってら。買い出しには行くとして、いっそ朝飯食いに行くか?」

「お米があれば、お粥なら作れますが?」

「そっちも炊き置きの分で最後だな。せいぜい2合くらいか……ってこっそり後ろに立つなっ!!」

 千雨の拳を軽く捌いてから、茶々丸も一緒になって冷蔵庫を覗き込んだ。

「卵も2つだけですから、卵粥にしても4人分は難しいですね。もう少し具材があれば良かったのですが……」

「というか、お前寝てたんじゃなかったのか?」

「雰囲気で横になっていただけなので、実質は寝ていません。いい意味で」

「流石ガイノイド、ってか……」

 茶々丸でも現状の在庫では朝食の準備は無理と悟ったのだろう、外食案で推し進めることを了承してきた。

「というか、個人的に気に入らないから別にいいんだが……3人分ならギリいけんじゃねえの?」

「可能ですが、おそらく昼食まで保たずに、昼食前に間食して太る可能性がありますよ?」

「……やっぱりやめとこ、おら二人共起きろ!!」

「ひゃうっ!?」

 驚いて飛び上がるさよはともかく、和美の方は未だに深い眠りに就いていた。まさしく隙だらけといった有様である。

「……普通、人ん家でここまで爆睡するか?」

「朝倉さんは多忙の身なので、よく作業中に寝落ちしているんですよ」

「はあ、全く……先シャワー浴びてくるわ」

 その後、シャワーを交代で浴びながら三次会の後片づけをしていた三人は、ようやく起きた和美にゴミ運びを押しつけてから、千雨の部屋を後にした。

 

 

 

「つーか千雨ちゃん、車持ってたの?」

「移動手段が欲しかったからな。他にもあるが、四人なら車の方がいいだろ?」

 集積場にゴミ出しを終えた四人は、千雨の先導でマンション地下の駐車場に来ていた。そこに停めてあるレモンイエローの軽自動車、スバルのプレオに乗り込んでいく。

「誰か助手席でナビ頼む。カーナビ修理中なんだよ」

「では私が」

 運転席に千雨、助手席に茶々丸が座り、後は後部座席に乗り込んだ。

「それでは、どちらへ参りましょうか?」

「少し遠いけど、海岸沿いに新しいカフェテリアができたからそこにしよっか」

 目的地も決まり、千雨は車を動かした。茶々丸の指示する方向にハンドルを回し、軽快に運転していく。

「わ~きれいな景色~」

「朝方の麻帆良なんて、散々見飽きてんだろうが……」

「そうでもないよ。高等部出てから、二人であちこち出歩くのが多かったし」

 学園都市ということもあり、他の車もないので順調に進めていく。

「茶々丸、ガム取ってくれ。ダッシュボードに入っているから」

 千雨は手渡されたガムを口に含める。残っていた眠気を払っていると、後ろから和美が声を掛けてきた。

「運転中は煙草を吸わないんだね?」

「そこまで運転に慣れてないからな。というか、灰が気になって集中できねえ」

 話していると目的地が見えてきた。

 目的地に着いた面々は駐車場に停めた車から降り、すぐ傍の入り口から店内へと入っていく。

 景色のいい海側の席に陣取り、モーニング4つを注文した。

 ふと店内のテレビが千雨の視界に映った。

「あ、あの映画面白そう」

「うん、ああ確かに面白いらしいよ。評判結構いいし」

 マグカップ片手に千雨が呟いていると、丁度サンドイッチを咀嚼し終えた和美がそう答えた。数日前に上映開始になったらしいが、それでも評判の良さは情報通の彼女の耳にも入っていたようだ。

「偶には映画でも観に行くかな。丁度暇だし」

「だったらネギ君誘えば?」

 ブハッ、と千雨は口に含んでいたコーヒーを噴き出した。

「おまっ、なに言ってんだよっ!?」

「いいじゃん、せっかく二人して休暇中なんだし。ネギ君きっと喜ぶよ」

「お前な……」

 紙ナプキンで口を拭いながら、千雨は苦言を呈した。

「だったらお前らも来いよ」

 せめてもの抵抗、といった発言だが、残り三人はあっさりと断っていく。

「すみません。この機会にハカセとの面会やマスターの身の回りの大掃除をしたいので」

「ごめんなさい。明日から盆休みに帰ってきた幽霊さん達と旅行に行く約束をしているんです」

「私はちょっとお仕事。ついでに千雨ちゃん家にお留守番しているよ」

「こいつら……」

 完全にデートさせる気だ。そう察した途端に、なんとも形容しがたい諦観で千雨の心が満たされてしまう。

「いいじゃん別に。……どうせ今のネギ君を好きになっていいか、不安なだけでしょ?」

「……何のことだが」

 噴き出したコーヒーの代わりを注文し、受け取ってから再度口に流し込んでいく。そんな千雨を和美は呆れた顔つきで見つめてくる。

「大丈夫だよ。もしネギ君が昔と変わってるんだったら、それこそ火星から逃げ出してるって」

「ああ、そう……そりゃそうだが」

 若干不貞腐れるようにそっぽを向く千雨。しかし和美は気にすることなく、両掌を合わせて何かをお願いする姿勢を作った。

「というわけで暫く麻帆良にいるから、その間千雨ちゃん泊めて」

「何がどういうわけだよこら、自分の家に帰れ」

「いやあ、ネギ君追いかけていたら一々家に帰るのが億劫でね。今はパルから貰ったパル様号で暮らしているんだよね」

 だから、麻帆良にいる間は泊まる場所がないらしい。さよが旅行に行くのも、その関係が大きかったのだろう。偶には別行動したいだけかもしれないが。

 とはいえ、家云々はともかく、既に昨日泊めているから今更というのもある。

「……食費お前持ちな」

「オッケー決まり♪」

 暫くは酒の量を減らすか、と千雨は内心で決めた。

(……久しぶりだな。誰かと暮らすのは)

 

 

 

 そして、その日の夕方。

「そっけないな~もうちょっと色っぽく書いたら?」

「キャラじゃねえよ。これで十分だっての」

 部屋の中で携帯を覗き込んでくる和美と軽く揉める千雨がいたとか。

 

 

 

 千雨達がはしゃいでいた翌日。つまりネギ達の二次会から二日経った朝、ナギ=スプリングフィールドは何ともいえない顔つきのまま、無意識に歯ブラシを動かしていた。

 始まりの魔法使いから解放されるという奇跡が起き、しばらく入院していた彼は、退院後ひとまずと麻帆良学園都市内にあるマンションの一室に暮らしていた。現在は長期休暇で帰省している息子のネギと住んでいるのだが、その息子が昨夜から挙動不審に陥っているのだ。

 携帯を見てにやけては顔を振る、時折ボーッとしては何もないフローリングの上でこける、挙げ句の果てには風呂でのぼせていたのを引き上げるといった始末だ。

 今朝も起きたら起きたで朝食を盛大にぶちまけるわ、布団を洗濯機に入れて壊すわと枚挙に暇がない。

 今も何故かブツクサ言いながら、エヴァンジェリンが置いていったレトロゲームのテトリスを延々とプレイしている。はっきり言って赤の他人だったら即座に逃げ出したいレベルだ。腹を掻きつつ、壁にもたれて歯を磨くナギは、息子を眺めながら、これからの行動をどうするべきか悩んだ。

 ここは父親として、息子に何かしてあげるべきではないのか。

 さてどうするか、と朝食後に遊びに来ていたかつての仲間ことジャック=ラカンに問いかけた。

「なあ、ラカン。この場合親父である俺はどうするべきなんだ?」

「独身の俺に聞くなよ。……まあ、ただこれだけは言えるな」

 コーヒーの入ったカップ片手に、ラカンはナギを指差した。

 

 

 

「まずは服を着ろ」

 ……ナギは裸族だった。

 

 

 

 とにもかくにも、ここに揃っているのは英雄二人だが、同時に脳筋二人でもある。故に結論は、必然的に力押しとなった。

 つまり…………

「おら話せよネギ。お父様にも話せないことなのかおい」

「別に言えとは言わねえよ。ただ独り言を聞いて欲しかったらいくらでも聞いてやるぜおい」

「あぶぶぶぶぶぶぶ…………!!」

 ネギは野郎二人に締められていた。

 ナギに4の字固めを決められ、ラカンに首を絞められたネギは抵抗できないまま、軽く泡を吹いてもがいている。何度もタップし、どうにか拘束を解いてもらったネギは、仕方なしにと話し始めることにした。

「実は……昨日千雨さんからメールがあったんです」

「千雨、って確か映画に出てた眼鏡の子?」

「そう、気の強い姉ちゃんだったな」

 面識のあるラカンがナギに説明し、ネギは話を続けた。

「それで『映画見に行くけど、一緒に行くか?』と誘ってくれまして、明日一緒に出かけることになったんです」

「な~んだ、ただのデートかよ」

「というか、お前から誘えよそこは」

 くだらない、と一蹴しかける二人だったが、次の一言でそう言ってはいられないと悟った。

 

 

 

「それで明日……僕はどうすればいいんですかっ!?」

「「……へ?」」

 映画見に行くだけじゃないの? とすら聞けない程、二人は呆れて声も出なかった。

 

 

 

 そして正午。

「あんたねぇ……デート自体経験あんでしょうが。何ビビってんのよ」

「いやっ、でっ、でも僕……」

 とりあえず野郎だけで考えても無駄だと、連絡の付いた明日菜と合流してオープンテラスのカフェで軽食をとりつつ、ことの顛末を説明し終えての感想が先の一言だった。

「つまり、こいつ本命とデートしたことがないだけで、結構女遊びは派手な方だったのか?」

「いや、正確には大なり小なりモテモテで、あちこちから引っ張りだこだったから結果的に、みたいな」

「なるほど、本命とモブだと緊張感が段違いだと……俺の息子(ガキ)ながら最低だな」

 ナギの冷たい視線に萎縮するネギの頭を引っ叩き、

「あいたっ!?」

 明日菜は鞄から雑誌を数冊取り出した。

「ほら、麻帆良WALKERとか色々持ってきたから、とりあえず参考程度に脳内に留めときなさい」

「参考程度に、ってここから回るところを探すんじゃないんですか?」

「そんな訳ないでしょ!」

 雑誌と一緒に取り出したチラシの裏紙にペンを走らせつつ、明日菜はネギに説明し始めた。

「いい、元々千雨ちゃんが映画に誘ってくれたんでしょ? だから映画メインでプランを立てるのよ。映画の話で盛り上がるならゆっくり話せる喫茶店に入ったり、逆につまらなかったらゲーセンやカラオケで映画の話を忘れる。それで夕食の時間になったら小洒落た店でディナー、後は天気が良ければ夜景の綺麗な場所でゆっくり過ごす……っていうのが簡単なデートプランね」

 おお~、と感心して拍手する面々。明日菜は気分を良くしながらネギを指差した。

「とりあえず、千雨ちゃんと何の映画を何処で見るのか教えて。向こうが何処まで準備してるか分からないけれど、少なくとも周辺の店を知っておけば、そこから話題を広げることも可能だわ」

「すみません、全然知りません『何でだよっ!?』――ぶるずるとら!!」

 ナギとラカンに殴り飛ばされたネギ。畳みかけるように、明日菜がテーブルを飛び越えて馬乗りになった。そのまま胸倉を掴み、怒りの形相を近づける。

「どういうことよ! それくらい知っておきなさいよ!!」

「すみませんすみません!! 浮かれてて詳しく聞く前に行くって返信しちゃいましたっ!!」

「アホーッ!!」

『Star Burst Stream!!』

 何処からか聞こえた電子音が二人の取っ組み合いを止めた。どうやら鳴ったのはネギの携帯らしい。

「おい、これ例の千雨ちゃんじゃね?」

「父さん! 勝手に人の携帯見ないでよっ!!」

 慌ててテーブルに置いていた携帯をナギから奪還し、ネギは改めて文面を覗き込んだ。

「……あ、明日の映画の話です「ちょっと見せなさい」――ちょ、明日菜さん!?」

 ネギから奪い取った携帯の画面に一通り目を通してから、明日菜は投げ返した。

「新しくできたショッピングモール内の映画館とは考えたわね、千雨ちゃん。ここなら探索の名目で事前情報抜きでも楽しめるし、互いの趣味思考を話題に乗せやすいから相手の好みも把握できる。しかも確かオープニングセール中で通常よりもお手頃価格の店が多い。……できるわね」

「いや、一瞬で状況把握できるお前さんもすげえよ」

 ラカンの一言に、スプリングフィールド親子も首を縦に振った。

「となると下手な事前情報は逆効果ね。そっちは当日の楽しみにしておいて、モールを出た後に焦点を絞るべきかしら……」

「先生、もう一つ問題があります」

 腐っても妻子持ちであるナギが、デートの上での問題点を挙げた。

「うちの息子、相手とまともに話せるでしょうか?」

「ああ、それもあるわね。ただでさえ今から緊張してるってのに……」

 とはいえ、流石にこればかりは自分でどうにかしてもらうしかない、と明日菜は強引に流した。それでも、せめてもの対策にと持ってきた雑誌の一つを広げてネギに見せた。

「ほら、デート中の対応の仕方とか載ってるから、とりあえずこれ読んでなさい」

「あ、ありがとうございますっ!!」

 雑誌を食い入るように見つめるネギを置いて、明日菜は再び椅子に腰掛け直した。

「結局は当人達の問題だから、これ以上は手の施しようがないわね」

「いや、十分だぜ明日菜。助かったわ」

 お礼代わりに、とメニューのデザート欄を広げて勧めるナギ。

「しっかし、うまくいくのかね、これ」

「まあ、こればっかりはどうしようもないって」

 息子が地面に正座して雑誌を読み耽る姿を眺めながら、ナギはほのかに笑みを浮かべていた。

 ようやく手に入れた、平穏な時の流れを楽しむように。

 

 

 

 ネギが翌日の予定に四苦八苦したその日の夜、千雨は自室でテレビを見ていた。バーボンウィスキーの入ったグラスを片手に、テレビの向かいに置いたソファーの上で片膝を立てながら。

「明日か……ちと性急すぎたかね」

「いいんじゃない? 遅かれ早かれだって」

 足下のフローリングに腰掛けていた和美が、同じくテレビを見ながら答えた。こちらは千雨が用意したジンジャーハイ用のジンジャーエールをそのまま飲んでいる。

 千雨は顔をしかめながら、琥珀色の液体を喉に流し込んだ。

「お前、独り言にも律儀に答えるかよ」

「二人きりなんだから、話しかけられたかと思うってば。てか千雨ちゃん、独り言多いね」

「……元々引き籠もってたからな。自分の世界に入り込んでると、自然に出ちまうんだよ」

 グラスが空になるも、千雨はボトルの中身を注ぐことなく、座卓の上に置いた。

「しかし助かったよ、朝倉。デートなんて映画見に行くくらいしか思いつかなかったしな」

「別にいいって、取材ついでの情報(ネタ)だし。……で、結局ネギ君のことは本気なの?」

「さあな。……ま、明日考えるさ」

 つか言ってないのになんで分かるんだよ、とのんびり返す千雨に、和美は座卓に頬杖を突きながら口を開いた。

「でもあんまりのんびりしない方がいいんじゃないかな。どうもネギ君の周りが不穏っぽいし」

「何だよ、宮崎達がネギ先生狙ってるから背中刺されるな、ってか?」

「それだけだったらいいんだけどね~」

「いや良くないだろ、私に死ねと?」

 千雨のツッコミを聞き流した和美はバックから手帳を取り出し、片手で器用にページをめくっていく。

「最近、ネギ君目当てのファンが結構麻帆良に入ってるんだけどさ。どうもそれだけじゃないみたいなんだよね」

「それだけじゃない、って。あいつ襲ったってメリットなんてないだろ? 特に恨み買ってる様子もないし」

「私も正直、最初はハーレムルート関係での逆恨みじゃないかな、とも思ったんだけど、それにしては毛色が違うんだよね。……あ、あったあった」

 目当てのページを開けたまま、和美は千雨に手帳を見せた。

「ネギ君狙うだけだったら、こんな情報いらないよね」

「ん? 綾瀬に桜咲、宮崎に神楽坂まで。先生襲う為に、一緒に従者でも調べてたんじゃねぇの?」

「よく見てよ。順番や頻度は不揃いだけど、クラス全員の情報が高値で取り引きされているんだよ」

 全員、という言葉に千雨は眉を潜めた。元々魔法関係者も複数在籍し、最終的に全員が魔法を認知することにはなったが、全員がネギの従者として活動している訳ではない。それどころか、非戦闘員のままな者が多いのだ。

 戦闘要員ならまだ分かるが、全員を調べるとなると不穏な気配を感じざるを得ない。例えば、人質とか。

「……で、他にも気になることがあるんだろ?」

「その情報屋とは顔見知りなんだけどさ、少なくとも最初から情報を握ってるっぽかったって。事前に持っていた情報と擦り合わせている印象だったみたい」

「事前に、ね……」

 手帳から目を離す千雨。和美もその気配を感じてページを閉じた。

「……まあ、これに関しては私が調べとくから、千雨ちゃんは明日のデートを楽しんできてよ。元々これ調べに麻帆良に来たんだし」

「ああ……お前に映画以外のデートプラン聞いたことは内緒な」

「分かってるって」

 千雨の方を向いた和美は、彼女に向けてウィンクを飛ばした。

 

 

 

「ネギ君の前では、かっこいい千雨お姉さんで通して欲しいからね♪」

「……余計なお世話だ」

 

 

 

 結局の所、表で格好をつける為には、裏で相当な努力をしなければならないという話だった。

 

 

 

 

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