「あれでもない、これでもない!! この前買ったシャツは合わないし、かといってこれだとフォーマルすぎる!! ああもうどうしたら!?」
「いいから早く飯食え!! せっかく父ちゃんが作ったんだぞこら!!」
今日も今日とてスプリングフィールド親子は賑やかな朝を迎えていた。リハビリの一環で覚えた料理を並べながら、部屋でクローゼットをひっくり返している息子を父親は怒鳴り呼ぶ。
そしてネギは、片手に一枚ずつ服を持って駆け込んできた。
「父さん!! キリト戦闘服のSAO仕様とALO仕様、どっちがいいかな!? GGO仕様は若干女寄りなイメージがあるからちょっとあれだけど」
「何勝手に
というか何処から持ってきた? という疑問が解かれる前にネギを殴り倒したナギは息子を無理矢理座らせ、強引に朝食を開始した。
「……ったく、たかがデート如きでがたがた喚きやがって。俺がアリカと出掛ける時なんて、いつも普段着だったぞ」
「いやだって、恋は戦争だって……」
「少なくとも戦闘服はねえよ。迷彩着てナンパするよりも酷いぞ」
服もアドバイスもらえば良かったか、とナギは内心思ったが後の祭り。まだ店も開いていない、すでにデート当日で通販も間に合わないとくれば、最早手持ちでどうにかするしかない。
仕方なしに、手に持っていたフォークをネギに向けたナギは、おもむろに口を開いた。
「とにかく、お父様からのありがたい
「えっ、スーツとか?」
「仕事じゃねえだろ。というか俺にツッコませるなよ。本来ならボケキャラよ、俺」
若干メタい発言もあったが、それでも理解したのかネギは頷いた。朝食を食べ終わったこともあり、幾分か落ち着いてきたのか、持ち込んだ戦闘服を畳んでから部屋へと戻っていった。
「ごちそうさま。食器は後で片づけるよ」
「おう。……しかしうまくできたな、これ」
そういって並べられたフランス料理のフルコースに舌包みを打っていたナギだが、数分後に突撃してきた明日菜にツッコミと喝采を受けたのはまた別の話である。
「ついでにショッピングで服買ってこいってアドバイスしたけど、千雨ちゃん男性服とかは大丈夫かしら?」
「大丈夫じゃね? 結局は『似合う』か『似合わない』かの二択だろ」
ネギが出掛けた後をつけるように、ナギと明日菜も外出していた。それぞれ双眼鏡やオペラグラスと遠眼鏡的な小道具を持ち、駅前のロータリーで立ち往生しているネギを見つめている。
「しかし遅いな。もう30分は経ってるぞ?」
「確かにおかしいわね。誘ったのは千雨ちゃんだし、性格的に遅刻とかはしなさそうなんだけど……」
流石におかしいと思い、明日菜は携帯を取り出して操作した。
「おいおい、当事者のどっちかに聞くのか?」
「な訳ないでしょ。他に知ってそうな人間に聞くのよ」
短縮で電話を掛ける明日菜。少し時間はかかったが、目当ての相手は電話に出た。
「あ、朝倉。今大丈夫?」
『ちょっと待って……オッケ、明日菜。ネギ君絡み?』
「そう。ネギと千雨ちゃんのデートって、何時からか分かる?」
昨日はざっと流し見ただけなので、待ち合わせの正確な時間が分からなかったのだ。しかし、よく千雨と一緒にいる上に自称『麻帆良のパパラッチ』である彼女ならば、知らないことはないだろうと電話したのだが……
『……えっ、まだ2時間もあるよ?』
「「はあっ!?」」
あまりの衝撃に、横で聞いていたナギも含めて盛大に驚く明日菜。
『というか、上映時間の関係で、早めのお昼食べた後に待ち合わせる予定の筈だけど……え、何、ネギ君もういるの?』
「とっくにスタンバってるわよ……もう」
「浮かれすぎだろ、俺の息子……」
呆れて声も出ず、その場にしゃがみ込む二人に、和美は電話越しに呼びかけた。
『何なら今から千雨ちゃん向かわせようか? 今喫茶店で一緒に時間潰してたし』
「いや、いいわ。このことは内緒で、予定通りでお願い。あのバカはこっちでなんとかするから」
『りょうか~い。じゃあそっちはよろしくね♪』
携帯を仕舞った明日菜は、ナギの方を向いてハンドサインをした。相手も理解したのか、同じくサインで返す。
『あのバカ回収』
『オーケー』
そして二人はネギを回収し、近くのデパートに連行した。
「ふぅ……まだまだ子供だな、ネギ君は」
携帯を仕舞い、和美は千雨のいるテーブル席に戻った。相手が明日菜だったので、もしかしたらネギ絡みかと考えて席を外したのだが、正解だったようだ。もし千雨に聞かれていれば、これから向かうと言いかねない。
特に問題があるというわけではないが、互いに気まずくなりそうなので千雨が知らないに越したことはない。
「……急ぎの用事か?」
「ううん、もう片づいた」
再び腰掛けて、朝食とは別に注文したアプリコットティーを口に含めながら、和美は向かいの千雨との話を再開した。
「そういえば、相坂がいれば情報収集も早かったんじゃないのか?」
「そうでもないかな、相手霊感もあるっぽいし。……昨日のあれ、さよちゃんの正体も含まれてたんだよね」
「マジかよ、そりゃやっかいだな。……私も明日から混ざるわ。少し本格的に調べてみるか」
「正直、千雨ちゃんも調査に加わるのはやりすぎな気もするけど……仕方ないかな」
実際、不気味な陰があるままなのはいただけない。思い過ごしならいいのだが、もし万が一何かあってからでは遅いのだ。そして、その万が一が起きそうなのは今迄の経験が物語っている。
「……ま、心当たりがあるからなんだがな」
「なんか言った、千雨ちゃん?」
思わず漏れただろう言葉を聞き返す和美を、千雨は無言で首を振って返した。
「そんじゃま、そろそろ飯食いに行こうぜ。何食う?」
「だったら中華にしない? 丁度超包子の支店がこの近くにも出たから、一回行ってみたかったんだよね」
「いいな。よし、そうするか」
超包子の経営者である級友の話をしながら、千雨達は喫茶店を後にした。
『やっぱり新品だと、ちょっと固いかな?』
買ったばかりの服に着替えも終え、昼食も取ったネギは明日菜達と別れ、再び待ち合わせ場所に来ていた。
その様子をナギと明日菜は再び隠れて見守っていた。一歩間違えればただの過保護であるが。
「……いや、
「しょうがないでしょ。
先程の遠眼鏡類に追加して
「てか、これどっから持ってきたんだ?」
「昨日龍宮から借りてきたのよ。こんなこともあろうかと」
「どんなことだよ」
よもや、父親と姉貴分に見張られてるとは思いもよらないネギは、緊張しているのか気を紛らわせようと鼻歌を歌っているらしい。固めのリズムが受信機越しに聞こえてきている。
「……なんでSAOのOP?」
「ああ、ネギの奴最近はまってるんだよ。最初ラノベだったけど、結局アニメで見れるとこまで見てたな」
「メディアミックスって活字離れの原因なのかしらと言う前に、少しは気にして時系列!」
「所詮二次創作なんだから、よっぽどの暇な僻み屋でもない限り、誰も気にしないっての」
先程のメタな発言に関して、全くストーリーと関係ない話を広げたことは正式に謝罪します。引き続き、本作品をお楽しみください。
「そろそろ時間ね。しっかりやりなさいよ、ネギ。まずは相手が定期を持っているかどうかを把握、ないもしくは定期の範囲外ならばまとめて切符を買ってくると言ってさりげなく奢る「あれ、あのバイクに乗ってるのって、千雨ちゃんじゃね? 映画とそっくりだし」――……ってあーっ!? 千雨ちゃんやめてー!! せっかく徹夜でアピールポイント考えたのにーっ!!」
明日菜の徹夜越しの叫びも虚しく、千雨は乗っていたバイク、BT1100ブルドッグをネギの前に停車させ、ヘルメットを外して顔を出していた。
「何でここで千雨ちゃんがアピールするのよ。もうやめてお願いーっ!!」
『わあーっ!! 格好良いバイクですね千雨さん』
『いいだろ? 映画の時に乗ってた
「……おい、息子がノリノリだぞ。これだから二十歳前は……まだまだガキだな」
千雨はネギに挨拶してバイクから降りた。シートを外してメットインから予備のヘルメットを取り出して、そのまま投げ渡している。
『そんじゃ行こうか。後ろ乗れよ』
『はいっ!!』
「はいっ!! じゃないって!!」
「もう諦めろって明日菜。ここまできたら年下路線で攻めるしかねえって……」
ついでに買い込んだ缶ジュース片手に、バイクで走り去る息子達を眺めながらナギは呟く。しゃがみこむ明日菜の肩を叩き、缶の中身を一息に飲み干すと歩きだした。
「ほら行こうぜ。先回りするなり帰るなり、どっちでもいいからさ」
「……はあ、なんか疲れたし、もう帰りましょう。後は二人の問題だし「それは甘いね、明日菜」――うわっ!?」
明日菜が驚いて振り返ると、そこには和美が立っていた。
「朝倉!! いつからそこに「千雨ちゃんがバイクで来る少し前に来てたぞ」――だったら言ってよっ!! 吃驚したじゃないっ!?」
ナギのしれっとした発言に明日菜がつっこむも、和美は手招きしてタクシー乗り場へと向かっていた。
「ほら行くよ。千雨ちゃんだって、内心は結構ギリギリなんだからさ」
「……本当アンタ口軽いわね」
「ちゃんとバラす相手は選んでるって」
千雨達を追う為に、三人はタクシーで新しくできたショッピングモールへと向かった。
「……これでもね」
そう小さく嘯きながら。
「よし、着いた。ほら降りろよ」
「あ、は、はいっ!」
ネギに渡したメットを受け取ってメットインに仕舞い、千雨はバイクを押しながら駐車スペースへと歩いた。
「千雨さん、本当にバイクの運転上手ですね」
「今でもなんだかんだ乗ること多いからな。移動手段としてはわりかし便利なんだよ」
バイクを駐車スペースに停め、二人は新築したばかりで綺麗なショッピングモールへと入っていく。夏期休暇のシーズンということもあり、盛況な証拠である人混みの洗礼を受けながら、映画館のある上層階をを目指した。
「というか、背が伸びたなネギ先生。運転している時、顎を頭に乗せられてる感覚だったわ」
「ははは……すみません、若干乗り辛くて」
「まあいいけどさ……」
ふと、周りから自分達がどう見えているんだろう、という疑問がよぎったが、千雨はそれを胸の内に仕舞い込んだ。
(気にしても仕方ないか)
今はネギと映画を観ることを楽しもうと、千雨は気持ちを切り替えていく。