二人の行動は早かった。
タクシーを捕まえて二人乗りのバイクを追いかけろと指示、移動中に頼りになる知り合いに片っ端から声をかけていく。
「あ、いいんちょ! ……もううるさいわね、いいじゃないいいんちょのままで! とにかく人集めて、大変なんだから!!」
「……あ、ナギさん。今すぐこれますか? ……分かりました。ラカンさん達にも声かけて下さい。緊急事態です。場所はまた連絡しますので」
一通りかけ終わると同時に、千雨達のバイクが停まったらしく、タクシーも少し距離を置いて停車した。
「朝倉先行って、払ったら行くから!!」
「お願いっ!!」
和美だけ先に行かせる明日菜。
「
応える様に和美は自らのアーティファクトである
「……お店?」
伝わってくる情報を精査していると、ネギ達が入ったのは一軒の喫茶店だと分かった。喫茶店にしてはえらく人気のない裏通りで営業しているが。
千雨がバイクを店の脇に停めて、ネギを連れ立って正面から堂々と中に入ると同時に、明日菜が和美に合流してきた。
「どんな状況?」
「……あ~明日菜。先に謝っておく」
「さっきから戦闘音がしない、から、もしかしたら、かも、だけど……緊急事態は緊急事態でも別件、かもしんない」
「……どういうこと?」
ジト目になる明日菜をどうどう、と宥めながら、和美は建物の陰から出て件の喫茶店の前に立つ。その言葉通り、別段争っている様子が見られなかった。
「でもこの喫茶店、初めて見るけど……こんな店、麻帆良にあったっけ?」
「それなんだよね~千雨ちゃん、何処で知ったんだろう?」
麻帆良学園都市内とはいえ、二人にも知らない場所は当然ある。しかし、ここは明日菜達が通っていた中等部からは大分離れている為、あまり来る機会自体ない筈なのだ。
「もしかして、ここが千雨ちゃんお抱えの情報屋だったりして?」
「……どうだろう。雰囲気的には情報屋っぽいけど、千雨ちゃんの伝手って、私知らないんだよね~」
それでも警戒心だけは絶やさず、明日菜は
「……朝倉、あんたそんな物騒な物持ち歩いてたの?」
「いや、明日菜の剣に比べたら可愛いもんだって。おまけに魔法世界じゃ、昔映画で使ってた閃光武器代わりの魔力球で逃げるしかできないんだしさ」
「あんたの場合、争いが起きる前にちゃっかり逃げてそうだけどね。……というか、
「元々簡単に作れるから、って超一味がまとめて作ってたじゃん。2000個くらい」
「多すぎでしょう、もう……」
互いの得物を確認し終えてから、和美はアーティファクトを一度周囲に戻した。
「……
明日菜もアーティファクトである
「で、どうする明日菜? 魔力球投げ込む?」
「それでもいいけど、問題ないかもしれないんでしょう? 寧ろ誰か出てくるの待ってた方がいいんじゃ……」
そう考えていた矢先に、状況は突如変化した。
「そんなっ!? こっ、これはっ!?」
『ネギ(君)っ!?』
ネギの突然の叫び声に、明日菜達は即座に行動に移った。
明日菜を先頭に扉を蹴り壊し、警棒を構えた和美と共に店内へと入っていく。いったいネギに何があったのか……!?
「コピ・ルアクじゃないですか! これフェイトが探してたんですよ。『一度飲んでみたい』とか言ってて」
「そうか、じゃあ豆ごと買ってくか? 面白半分に買ってみたけど全然売れないし……」
と、微妙に落ち込みつつツンツン頭の男がネギに商品を紹介しているだけなのを見て、二人は突っ込んだ勢いのまま、盛大にズッコケていた。
「……あれ、明日菜さんと朝倉さん?」
「いらっしゃ~い。でも閉店なんで扉の修理代だけ置いてって下さ~い」
茫然と床の上に座り込んでいると、突然カウンターの奥にある扉が開いた。
「上条、泉の方はもう大丈夫みたい……って、これどういう状況?」
「あ、千雨さん。お疲れ様です」
「おう悪かったな長谷川、いきなり呼び出して」
一先ず、と千雨はマスクを外しながら、二人を立たせてネギのいるカウンターテーブルに並べて座らせた。
「……つまり、病気になった同居人の看病に来ただけ、と」
「そう。ただの風邪だから病院に行くまでもないけど、もう一人の同居人が出掛けているから女手がなくて呼ばれたんだよ。着替えとかな」
「で、心配して一緒についてきた彼をただ待たせるのも悪いからと、代わりに俺が相手をしていたってわけ」
千雨は簡単に状況を説明しながら、手慣れた調子で作った紅茶を人数分並べていく。
「自己紹介がまだだったな。俺の名前は上条当麻。一応、この喫茶店『Imagine Breaker』の店長をやっている。よろしくな」
「あ、どうも。神楽坂明日菜です」
「同じく、朝倉和美です」
各々の得物(明日菜の場合は魔法隠匿の都合で未だにハリセン状態のまま)をそれぞれ膝の上に置き、千雨より振る舞われた紅茶を口につけていく。
「……あ、おいしい」
「というか千雨ちゃん、結構手慣れてるね」
「偶にヘルプで入るからな。普段はあんまり客来ないから、誰かが病欠でもない限り出ないけど」
カウンターの端に移動し、灰皿を取り出してから煙草を咥える。千雨は壁にもたれながら、火を点けて煙を燻らせ始めた。
「……千雨さんって、煙草吸うんですね」
「まあな。嫌か?」
ネギは首を横に振るも、千雨は2,3口吸っただけで灰皿に煙草を押し付けた。
「そういや、いつの間にか吸ってたな。お前」
「はっ、人の勝手だろ」
上条の指摘に千雨は肩を竦める。その言葉を聞いて、ネギは正面に向き直った。
「そう言えば、上条さんと千雨さんって、どうやって知り合ったんですか?」
「……ここでバイト初めたから知り合った、っつう発想はねえのかよ」
無論違うが、千雨はツッコまずにはいられなかった。上条は苦笑しながらも、ネギに簡単に説明した。
「昔、長谷川の知り合いがストーカーに遭ったことがあったんだよ。その時俺も、別口で犯人を追っててさ。……んで、とっ捕まえる時に知り合ってこのまま、な」
「ストーカーって、3-Aの誰か?」
「いや、大学の知り合い」
出涸らしにお湯を注ぎながら、千雨も口を開いた。
「助けたのはいいんだが、暫くは男性恐怖症になっちまってな。お陰でこっちに懐かれて、克服して彼氏できるまで強制的にルームシェアだ」
「そういや彼女、ヘルプで来る度にカウンターの端の席に座って待ってたっけ」
上条が指差した席を、ネギ達は見つめた。その様子を眺めながら、千雨は出涸らしの紅茶を流し込んでいる。だが上条は逆に、愉快気に顔を歪めてネギ達に向けて身を乗り出した。
「で、その話の面白いところは、当時彼女が自称『長谷川の恋人』って嘯いてたことなんだよ」
「ぶっ!?」
「それホント? 千雨ちゃん」
「……るっせえな、黙ってろ。特に朝倉!」
上条が告げた話のオチに、明日菜と和美も思わず笑い出していたが、一人ネギだけは複雑な顔をしていた。その様子を見て、千雨が話し掛けた。
「……ん、どうしたネギ先生?」
「あ、いえ……千雨さんは女性が好き、って訳じゃないんですよ、ね」
「当たり前だコラ! ……ったく」
頭を掻いてカウンターから出る千雨、そのままネギの隣に移り、腰を落ち着けた。
「ホラ、前に電話でルームシェアのこと話したろ。その時の奴だよ」
「ああ、あの時の。……そう言えば、3月に出て行かれたんでしたっけ?」
「そう、漸く男性恐怖症が治って、恋人ができたからな。……お人好しにも、程があるだろ」
「……そんなことないですよ」
自嘲気味な千雨に対して、ネギは真っすぐに応えた。
「千雨さんが優しいから、こうやって誰かが救われたんです。お人好しとか思っていてもいいんです。ただ、『誰かを救えた』ってことだけは忘れないで下さい。それだけ千雨さんがすごいってことなんですから」
「……別に。大したことはしてねえよ」
ネギの言葉に、顔を背ける千雨。顔が赤くなっているのにカウンター奥の上条は気付いていたが、それを指摘することはなかった。
「いや、しかし良かったわね。救いのある話で」
「ホントホント、せっかく平和なんだし、人が傷付いた話なんて聞きたくないよね」
そう言って、明日菜と和美は立ち上がった。
「いやあ平和で良かった良かった」
「ホントホント。じゃあ私達はこれで「どこへ行かれるんですか? お二人共」――……え?」
じりじりと後ずさる二人の背後から、突然声を掛けられて振り返る。そこにはいつのまにかあやかが、仁王立ちで立ち塞がっていた。
「ああ、いいんちょごめん!! 連絡遅れたけど大丈夫だったわ!!」
「ええ、皆さん無事でなによりです。……事情は外で粗方読ま、……ゴホン聞かせて頂きました」
その言葉を皮切りに、明日菜と和美の顔から汗が止めどなく流れ出してくる。言い訳を口にしようにも頭が回らず、間髪入れずに追撃の言葉が突き刺さっていく。
「というかお前等だろ。ネギ先生に盗聴機仕掛けたの? ……出歯亀しやがって」
「紅茶代はいいけど、扉の修理代よろしく~」
「お二人共……」
ガランガラン、と何かが床に落ちる音が店内に響いた。ハリセンと警棒が力なく転がる中、明日菜と和美はとうとう俯いてしまう。
例え20歳を越えようとも、はたまた100年以上の歳月を眠っていようとも、雪広あやかの迫力に逆らうことができず、逃げることもままならなかった。
「……そこへ正座なさい!! お説教の時間です!!」
『いやぁ~!!!!』
本日の教訓。
『やめよう、歩きスマホと早とちり』
そして店の外に顔を出した千雨は、あやかに連れられて待機していたのどかと夕映に声を掛けた。
「他にも来てるのか?」
「いえ、もうすぐ来る筈でしたが、いいんちょに帰宅連絡を指示されたのでもう帰ったと思いますです」
「あの~ネギ先生達は?」
「ネギ先生はカウンター席、朝倉と神楽坂はいいんちょから説教受けてるよ」
ドア縁に肘をついてもたれながら、すぐ横の地面に並んでしゃがんでいる二人に中へ入るように促す。
「中入れよ。説教長くなりそうだし」
「そうしよっか、ゆえ」
「そうですね……ところでコピ・ルアクって何ですか? 珍しいコーヒーとからしいですけど」
「ん? ああ……」
立ち上がるのどかと夕映から顔を背けて、頬を掻きながら千雨は答えた。
「簡単に言うと……ネコの糞から出た未消化のコーヒー豆のことだ」
そして図書館コンビは、あまりの気分の悪さにすぐには何かを飲むことができなかったとか。