魔法先生ネギま 雨と葱   作:朝来終夜

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第07話 ネギは働き、千雨は暗躍する

 千雨と出かけた翌日。ネギは朝から電話をしていた。朝食後すぐにフェイトから電話があったからだ。

「レセプション? 軌道エレベーターはそこまで完成していなかったはずじゃあ……」

『正確にはエレベーターの『箱』の方だよ。ネギ君』

 自室の椅子に腰かけ、ノートPCに朝一で届いたメールに添付されていた資料を開いて中身を確認する。マウスを操作しながら、ネギは電話を耳に当てたまま対話を続けた。

「確かに新技術が使われているけど、そこまでして発表する程のものだっけ?」

『目的は別だからね』

 その言葉に、ネギは昨日千雨と話していた内容を思い出していた。法的に前例がないことや、魔法世界の情報公開の件が今でも響いているのだ。例え、世界の一つが危険に晒されていたとしても、だ。

「……成程、『平和的な対話』が」

『そう、接待も兼ねてのレセプションだよ。今後も仕事でそういう機会は増えていくと思うから、協力してくれるかい?』

「全然いいよ。争うよりずっといい」

 それはネギの本音だった。

 命がけで手に入れた平和を壊すような真似をするよりは、例え接待等の面倒事でも相手を傷付けない手段を取れるなら、そうするべきだと考えての結論である。

『というわけで休暇中だけど、今度のレセプションに参加してもらえるかな?』

「それくらいならいいよ。他の人には?」

『神楽坂明日菜と雪広あやかはこれから招待するよ。小規模だから、とりあえずは追加なしで。……ああ、そうそう』

 一区切り入れてから、フェイトは言葉を続けた。

『スピーチも頼めるかい? 一応発表の場だから、君の考案した特殊構造に関して重点的にね』

「はあ……分かったよ、フェイト。当日迄に纏めとく」

『よろしくね』

 電話を切り、ノートPCからデータをタブレットPCの方に移してから、ネギは自室を後にした。遊びに来たエヴァンジェリンと一緒にドラゴンクエストⅢをプレイしているナギに構わず、テーブルについてポットから作り置きの紅茶をマグカップに注いでいく。

「……ん、どうしたネギ?」

「ああ、ごめん。父さん。……ちょっと仕事が入っちゃってさ」

 ナギに目配せしてから、ネギはタブレットPCを操作してデータに一通り目を通し、スピーチする内容の傾向を脳内で纏めていく。一口紅茶を流し込んでいると、レベル上げに飽きたエヴァンジェリンがコントローラを手放して近寄ってきた。

「なんだ、仕事か?」

「ええ、マスター。今度行われるレセプションでスピーチをすることになりまして」

 スピーチの傾向を纏め終えたネギはタブレットPCを切り、一気に紅茶を飲み干した。

「昼食後にちょっとスピーチを纏めてきます。お昼はどうしますか?」

「ちょっと待ってろ。昨日手に入れた調理器具で、うまい生パスタ食わせてやるから」

「お前、料理に凝りすぎだろ……」

 呆れるエヴァンジェリンの眼差しを受けながら、ナギはいそいそと調理に取り掛かった。若干楽し気にしながら。

 

 

 

 一方その頃、千雨は麻帆良の裏路地を歩いていた。

 大きめの鞄を持ち、人目につかないようにしながら、目的の場所へと歩を進めていく。

「千雨ちゃん、何処に向かっているの?」

「情報屋だよ。……ちっとばかし、癖が強いけどな」

 歩き慣れた道のりを進む千雨に続いて歩いていると、和美の目に一軒のお店が……

「……ねえ、これって」

「言ったろ。癖が強いって……」

 呆れて肩を落とす千雨に、和美は前方の店を指差しながら再度問いかけた。

 

 

 

「これ……ただのメイド喫茶だよねっ!?」

「ああそうだよくそったれがぁ!!」

 

 

 

 確かにその店は、外見通りメイド喫茶だった。

 しかし秋葉原でよく見かけるような膝丈スカートのなんちゃってメイドではなく、英国調の本職御用達レベルのエレガントスタイルなメイドが数名、店の前で宣伝用のビラを配っている。ただし全員日本人。

「まさか……中に入るの?」

「安心しろ。それだけはない……つかあってたまるかっ!」

 別の通りから人目に付かないように店の裏に向かう二人。その裏手に着いてから千雨は、懐から携帯を取りだして電話を掛け始めた。

「着いたぞ、裏にいる。……ふざけんなっ! さっさと出てこいっ!!」

 千雨が電話越しに怒鳴り呼んでから数分後に、金髪にサングラス、アロハシャツを着た男が店の裏口から出てきた。装飾が余りにも金ピカな為、聞かれなければ情報屋ではなく、チンピラか麻薬の売人と勘違いされるような容貌だ。

「よう、土御門」

「何が『よう』だぜよ。せっかく舞夏とデュエットしてたのに。ふざけんなコラ」

「……義妹だろうが。二人でカラオケ行ってろ」

 土御門と呼ばれた情報屋は、適当な空き箱に腰掛けてから腕を組んだ。若干雰囲気が暗くなるのを和美は肌で感じ取り、無意識に右手を後ろ腰に隠した警棒にやろうとする。

「……で、メールで要求された情報(ネタ)だったな」

「そう。調べはついたか?」

 千雨は、懐から封筒を一通取り出して、目の前の男に渡した。

 前金だろう、封筒に入った紙幣を確認した土御門は、逆に大型の書類封筒を手渡してきた。

「名前は『植木耕助』。小説家の父親と姉と一緒に暮らしている高校生。友人は多い方だが恋人の気配はなし。趣味は清掃ボランティアで、よく公園を掃除している」

「そして、『麻帆良に入ってきた当時も、本人は公園で掃除していた』と?」

 静かに頷く土御門。それに和美は驚いて千雨越しに声を出した。

「ちょっと待ってよ!! アリバイがあるなら別人じゃ「だったらもっとやべぇよ」――……どういうこと? 千雨ちゃん」

 封筒の中に入っている書類を流し見て、千雨はそう結論付けた。

「変装や偽名なんて裏社会(ウラ)じゃ当たり前だ。……だが、だったら何でこいつを選んだ? 学生なら誰でもいいだろうが」

「……何か、理由があるってこと?」

 一つ頷いてから、千雨は書類を封筒に戻した。再び視線を土御門に向けて再度問い掛ける。

「こいつの所在は?」

「内通者がいるのかは知らんが、情報屋に当たった以外の足取りは掴めていない。麻帆良に潜入した当時の荷物から逆算しても、食料はとっくに尽きている筈だ」

「そこから当たるしかないか。……他には?」

「後一つ、これは『公園で清掃していた方の』彼に聞いた話だが……暴漢に遭って一度入院しているらしい。だが……」

 一区切り置いてから、土御門は話を続けた。

「その際の記憶は一切無し。怪我も軽傷だったから、警察も捜査を打ち切りかけてる」

「つまり、その時に『偽物』を生み出す何かをしていた、ってところか?」

 首肯による無言の肯定。

 千雨はここに来るまでずっと持っていた鞄を土御門に手渡した。

「約束の報酬だ」

「確認する。少し待て……」

 そして千雨は和美の横に立ち、土御門に背を向けるように立ち位置を変えさせた。

「どうしたの?」

「あまり見るな。……無性に後悔するぞ」

 不思議そうに肩越しに見る和美だが、土御門が鞄から取りだした物に思わず目を背けてしまう。

 

 

 

「にゃーっ!! 『黒執事、メイリン仕様のメイド服』、完成度高いぜよ!!」

「良かったな。……じゃあ帰るわ」

 

 

 

 適当に手を振って背を向けたまま、千雨は和美の背を叩いて、この場を後にした。

 並んで歩いている和美は、若干頭を抱えたくなるのを堪えながら、千雨に土御門のことを聞いた。

「……あれ、本当に情報屋?」

「正確には『多角スパイ』だな。……義妹とメイドに目がないのを除けば、結構優秀だよ」

 千雨も眼鏡を指で押さえ、目を軽く瞑っていた。

「なにせ元々は、『関西呪術協会』から来た陰陽師だからな。今はネギ先生の親書の件もあっておとなしいけど、他にも色々と情報を売っているらしいぜ」

「……本当、人って見かけによらないね」

 メイド喫茶を後にした二人は、裏路地を出て大通りを人混みを避けながら歩いていた。

「……あれ、京都の時って千雨ちゃん関わってなかったよね?」

「後で調べたんだよ。……そういえば、お前のせいで私は、新田に説教を受けたんだったな」

 和美は逃げ出したが、千雨に肩を強く握られてしまった。

「もう時効でしょ!! 私も結局お説教を受けたんだからさぁ!!」

「知るかコラ!! ああクソ、丁度いいから知り合いのボクシングジム行くぞ!!」

「殴る気だよね!? 絶対試合と称して殴る気だよねっ!?」

「試合じゃない。スパーリングだ」

「素人目線じゃどっちも同じだってばぁ!!」

 

 

 

 結局、近くの喫茶店でお昼を奢ることで決着を付けた二人は、そのまま見かけた店に入った。

 店内で知り合いの顔を見つけた千雨は、和美を伴ってそのまま相席できないか声を掛けた。

「よう、相席いいか? ネギ先生」

「……あれ、千雨さんと朝倉さん?」

 テーブル席にて、ノートPCでスピーチをタイプしていたネギは、顔を上げて千雨達を認識すると、すぐに席を勧めた。

「どうぞ、大丈夫ですよ」

「ごめんね、ネギ君」

 千雨も一礼してから座り、ネギの向かいに座った後に和美もその隣に腰掛けた。

「何してたんだ?」

「今度、小型のレセプションが開かれることになりまして、そこでするスピーチの原稿を纏めていたんですよ」

「レセプショ「うるさい」――ぶっ!?」

 身を乗り出す和美の顔面に、千雨はメニューを叩きつけて黙らせた。

「……という名目の『会談場』だろ?」

「はい、以前千雨さんから受けた助言(アドバイス)を基に、フェイトが考えた結果です。一応休暇中ですが、争うよりずっといいので受けたんですよ」

「いいんじゃねえか? 私も賛成だ」

 話を聞きながら注文を決めていた和美は、メニューを手渡しながら千雨に問いかけた。

「……千雨ちゃんも関わってるの?」

「いや、『物事を円滑にするには対話を重ねるのが有効だ』って以前こいつらに助言(アドバイス)しただけだ。多分、今後も適当な理由を見つけてはレセプションや社交パーティーを繰り返していくんじゃないか?」

「ふ~ん……」

 ウェイトレスに注文を告げてから、禁煙席の為手持ち無沙汰な千雨に、和美は作業に戻ったネギに変わって話しかけた。

ISSDA特別顧問(千雨ちゃん)は行かないの?」

「小規模な上に、私は裏方の相談役だからな。基本的に表舞台には出ないんだよ。行くとしたら会議の相談役(オブザーバー)くらいか」

「そうですね。フェイトも今回は明日菜さんといいんちょさんしか呼ばない、って言ってましたし。……その後の座談会には出席しませんか? おいしいご飯とか出ますよ」

「パス。堅っ苦しいのは御免だ」

 とはいえ、いつまでも裏方に徹することはないだろうという考えもある。いずれは表に出るべきだとは千雨自身思うが、出なくていい内は出る気はなかった。

 本人が現状、別件で忙しいというのもあるが。

「ねえねえネギ君。そのレセプションって、報道枠で出席できないかな?」

「できますけど、記者(プレス)カードがないと入れませんよ。フェイトに言えば発行してくれると思いますけど、小規模ですから急がないと席が埋まってなくなるんじゃ「ごめん千雨ちゃん!! これ会計!!」――えっ、朝倉さん!?」

「お前、注文どうするつもりだよっ!?」

 既に昼食を済ませているネギと違い、遅めの食事にかかろうとしていた千雨達は、結構な量の食事を注文していた。それこそ一人じゃ全部食べきれないくらいに。

 店を出ていった和美の背中を見送ってから、千雨は顔を伏せてネギに頼み込んだ。

「もうキャンセル間に合わねぇだろうし……悪いネギ先生、少し引き受けてくれないか?」

「いいですよ……大変ですね、千雨さん」

 まったくだ、と千雨は和美が置いていった紙幣を回収して脇に避けた。煙草が吸いたくて仕方ないのを、指を叩いて誤魔化しながら。

 

 

 

 

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