魔法先生ネギま 雨と葱   作:朝来終夜

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第08話 昔、『ハイスクール・ウルフ』って海外ドラマがあってさ……レンタルDVDとか出てないかな、と思うわけですよ。

「ああ、食った食った……」

「うっぷ……結構な量でしたね」

 あの後、どうにか全て食べきった二人は、そのまま店に残り辛くなり、場所を変えるために外へ出たのだ。とはいえ結構な量を食べた後なので、店の脇に移動しただけで留まり、現在は胃腸が中身を消化しきるまで静かに待っていた。

「朝倉の野郎、帰ってきたら締める「千雨さん、路上喫煙はマナー違反ですよ」――ハァ……ネギ先生、ガムとか持ってないか?」

 千雨は我慢できずに咥えようとした煙草を仕舞い、ネギから受け取ったのど飴を口の中に入れた。適当に舌の上で転がしながら、これからどうしたものかと思案する。

「そういえばネギ先生、仕事は終わったのか?」

「まだですね。少し休んだら別の店に行きます」

 同じくのど飴を舐めながら、ネギは千雨にそう答えた。

「じゃあ私ももう行くわ。一応やることはあるし」

「千雨さんは今日、何をされてるんですか?」

 何気ない雑談だろうとは思うが、千雨は無意識に内心で身構えてしまう。

「ちょっと調べ事をな。個人的なことなんだが、これがまた面倒臭くてさ」

「そうですか……」

「じゃあな。のど飴ごちそうさま」

 早く煙草が吸いたい。

 調べ事や和美を締めることは二の次三の次とばかりに、千雨は煙草が吸える場所を脳内で検索する。

「あっ、あのっ! 千雨さんっ!!」

「……ん?」

 記憶を漁りながら立ち去ろうとすると、ネギに呼び止められたので、千雨は一度足を止めた。

「どうした、ネギ先生?」

「あの、その、えっと……」

 背中越しに聞き返した千雨だが、言い淀むネギを見て振り返る。このまま近づくか、再度振り返って立ち去るか悩んでいると、ようやく口を開き始めた。

「今度の仕事が終わったら、また、どこか遊びに行きませんか?」

「あ~、うん、そうだな……」

 その時ふと、千雨の脳裏にはある場所が思い浮かんだ。

 本来ならば誰かを呼ぶことはないだろうと思っていたのだが、何故か無性に、ネギを招待してみたいと思えてしまったのだ。

「……じゃあ、私の『とっておきの場所』、行ってみるか?」

「とっておきの場所? ですか?」

 そう、と千雨は続けた。

「なんとなく見せたくなってな。落ち着いたらそこでピクニックしないか?」

「……是非!!」

 仕事後の楽しみもでき、ネギは意気揚々と荷物の入ったブリーフケースを手に持った。

「ではまた連絡しますね!!」

「ああ、またな」

 楽しげに立ち去るネギに背を向け、千雨は目的地を決めて歩きだした。

(こっちも仕事を片付けないとな……)

 目指す先はまた別の喫茶店だった。

 

 

 

 着いた先は喫茶店『Imagine Breaker』、昨夜も訪れた場所に千雨は堂々と入店する。

「いらっしゃ……長谷川かよ、どうした?」

バイト(・・・)だ。泉はもう大丈夫か?」

 カウンター奥にいた上条は親指で店の扉を差した。用件を察しはしたものの、テーブル席にいる客に対応しなければならないので、その口は閉じたままだ。

「なあキョロ~私達って付き合ってるのか~」

「どうなんでしょうね~」

 唯一の客が放つ緩い会話を聞き流しながら、千雨は店の中に入る。階段を上り、泉の部屋をノックして声を掛けた。

「泉、入っていいか?」

「千雨さん? どうぞ~」

 確かに中には泉という少女がいた。しかし昨日とは違い、ベッドではなくカーペットの上に寝転がっていた。

 ……ネトゲしながら。

「千雨さんもどうだ~い? 今イベント中で楽しいよ~」

「やめとく。そもそも映画と違って、そんなに好きじゃねえんだよ。ネトゲって」

「映画って?」

 忘れろ、とばかりに千雨は手を振って泉の横に腰を下ろした。土御門から受け取った書類を広げて、写真が印刷されたページを指差す。

「『植木耕助』。心当たりは?」

「『うえきの法則』って漫画の主人公だね」

 泉はプレイの手を止めずに、そのまま話し始めた。

「シリアスシーンにもギャグが入ってて面白かったね。神様が転んで能力のヒントを与えるとか、ご都合主義なのにギャグとして成立しているからその辺りはすごいと「感想じゃなくてストーリー!!」――オォゥ……中学生が能力貰ってバトルロイヤル、優勝者に能力を与えた人が次の神様、ってのが大まかなストーリーです。助けてUMRさ~ん」

 千雨が凄んだ為に一瞬プレイから手を離したので、一転ピンチになった泉は、画面上のUMRという人物にチャットで助けを求めている。

 プレイも一段落し、再び口を開けるようになったからか、今度は人物プロフィールに関して話してきた。

「能力は『ゴミを木に変える力』。掌に包める位のゴミを木に変えて闘うんだけど、これ、意外と応用力高そうなんだよね」

「変えられる木に制限はないってことか?」

「それだけじゃないよ」

 チャット上で抜け出す打ち合わせをしながら、泉は説明を続けた。

「話の中で『ゴミゼロ週間』とかなんとかでゴミがなくて能力が使えなかった時があったんだけど、よく考えたら髪の毛とか抜いて『ゴミ』だと認識すればいつでも能力が使えると思わない?

 それに原作だけでも、変えた木の落ち葉や木の枝とかを、『ゴミ』だと認識して連続して木に変えている場面もある。おまけに、そのサイクルを利用して、相手の能力を『元に戻す』力もあるんだよね。もしこれが魔法(・・)にも作用されたら、やっかいなんてものじゃないよ」

「使い方によっちゃ、驚異になるってことか」

「もっとやばいのが、『神器(じんぎ)』って呼ばれる力。他にも『モップに(ガチ)を加える力』があるかもしれない」

 ようやくネトゲからログアウトした泉は、軽く背中を仰け反らせて千雨の方を向く。

「まあ理想としては、『うえきの法則』じゃなくて続編の『うえきの法則(プラス)』に入る前の状態かな? その時なら何の能力も持ってなかった筈だし」

「だが全部持っている可能性の方が高い、ってことか」

「でもその彼、公園で清掃ボランティアしてたんでしょう? もし転移者だとしても、『原作に関係なく、第二の人生を楽しむ』側だと思うんだけどね~」

「……昔のお前等のようにか?」

 千雨の一言に泉は一瞬目を細めるも、すぐに厚顔を崩す。

「人生平和が一番だよね~」

「それには同感だ。……悪い」

「別にいいよ。……じゃ、『神器(じんぎ)』と『モップに(ガチ)を加える力』の説明を続けようか。それにしても……」

 一度立ち上がり、部屋の隅から座卓を引っ張りだして脚を立てながら、泉は目を細めて溜息を吐いた。

「あの土御門君も転移者(こっち側)だったら、事情を話せたんだけどね」

「こればっかりは仕方ないさ。『平行世界の異次元同位体』とか迄出すとか、神様はこの世界をややこしくしたいのかね」

「『ややこしくしている側(わたしたち)』が言うのもなんだけど、向こうも大変みたいだよ。縄張り争いとか」

「……みんなで幸せになろうぜ、おい」

 世界に平和が訪れるのは、いつになるのか……

 

 

 

 その数日後、千雨はとある場所に来ていた。

「準備しといて正解だったな……」

 用意するのは、映画撮影の時に千雨が携えていた牙。

 イングラムM10、SIGP230、そして単発銃ことトンプソンセンターコンデンター。ヴァッシュの銃は実弾だと火力と反動が強すぎる為に断念した。他にも指輪型の魔法発動媒体と腕輪型の魔法道具、手首に巻いて仕込めるシースナイフの束に閃光の魔力球をいくつも仕込んでいく。

 

 

 

 ……この世界には、転移者という異邦の住人達が暮らしている時がある。

 彼らがこの世界に溶け込んで生活する分には問題ない。しかし彼らの中にはここを『現実』と捉えず、自分達には関係のない『つくりものの世界』だと考えて牙を剥く時がある。

 そして、『原作側(この世界の人間)』である千雨は、彼らの存在を知ってしまった。しかも、ネギ達が世界を救う為に今も活動している中で。

 

 

 

「……戦うさ。流石に宇宙迄行くのは無理でも、あいつが帰ってくる場所位は、守ってみせる」

 千雨自身、自分が戦う者という意識はない。そんな生き方はしてこなかった。できて暗殺者の様な、『隠れて敵を討つ』というやり方位だ。

「前回は情報戦でどうとでもなると思っていた。……だが今回は違う。相手を必ず倒す。場合によっては……殺してみせる」

「あまり物騒なことを口走るな。千雨」

 振り向くと、近くのテーブルの上には、いつの間にかエヴァンジェリンが腰掛けて足を組んでいた。さらに腕を組みつつ、千雨に胡乱げな眼差しを向けている。

「エヴァか。あんたはまだ魔力しか戻っていないんだし、いざという時の備えでいて欲しいんだけどな」

「あまりふざけたことを言うな。……貴様もあのぼーやにとって大切な人間だと言うことを忘れるな」

 そして、それは私にとっても……そう目で語られた気がした。

「……先生には、もっと良い女がいると思うけどな」

「フン、お前以上に良い女がいるか。予め危険を取り除き、帰る場所を守る為に戦い、しかもそれを隠す女等、な」

「買い被りすぎだ……」

 千雨は手に持ったSIGP230の銃床に弾倉を叩き込み、両手で構えて感覚を確かめている。

「そういう生き方しかできないから、七年前の私はさっさと身を引いたんだよ」

「どうかな、人とは変わるものだ。……良くも悪くもな」

 チッ、と千雨は舌打ちした。

 暗に、だったらネギに話すなり離れるなりしろ、と言われたように。

「確かに忙しいだろうが、他にも信頼できる人間に話しても「知ってんだろ。私が『魔法使い嫌い』だってことは」――そうだったな」

「正直、あの性格じゃなかったらと偶に思っちまうよ。そうしたら『魔法使いなんざ嫌いだ』って言えるのにな」

「……ま、面白くないだろうな。何しろ昔――」

 エヴァンジェリンは腕を解くと、口元を歪ませながら静かに両手を挙げた。

「……悪かった。だから下ろせ、弾の無駄だろ?」

「だな……」

 手に持っていたSIGP230を腰のホルスターに仕舞うと、千雨は他の銃器を鞄の中に仕舞っていく。

「できれば、あの指輪もフィクションじゃなければ良かったんだがな……」

「収納用のマジックアイテムか? 市場に出回っているが、馬鹿高いぞ」

「……知ってるよ。てかフザケてるよな。下手な『別荘』より高いんだぞあれ」

「そんなもんだ。だから自作してたんだよ、私はな」

 荷造りも終え、千雨達はこの場所を後にした。

 ヘルメットを被り、外に停めてあるブルドッグに跨ると、その後ろにエヴァンジェリンが続いて跨ってきた。

「……降りろよ」

「付き合ってやろうではないか。……一緒に麻帆良から逃げた仲、だろ?」

「だったら尚更降りろよ」

 首を傾けるエヴァンジェリンに、千雨は自分からバイクを降りて座席を指差した。

「例えヴァンパイアでも、ヘルメット付けろ」

「面倒だな……」

 そして一人乗ろうとする千雨とそれを阻止するエヴァンジェリンとの攻防が数度続く。適当にじゃれ終わると、ふと千雨は口を開いた。

「……なあ、『登校地獄(インフェルヌス・スコラスティクス)』の一部は解けて魔力だけは戻ったんだろう。だったら別に、後から転移してきても良かったんじゃないのか?」

「いや、せっかくだからバイクに乗ってみたい」

「今度でも良いだろまったく……」

 話すんじゃなかった、と千雨は例え『闇の福音(ダーク・エヴァンジェル)』と呼ばれていた吸血鬼であっても、友人(・・)を巻き込んだことを少し後悔し、

 

 

 

 相手を見誤っていたことを多大に後悔した。

 

 

 

 

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