千雨達のいる倉庫前に転移してきたネギ達は、二人づつに分かれて動き始めた。
「先に行って!! 後から追いかけるから」
返事をする余裕もなく、ネギと明日菜は倉庫の敷地内へと駆けていく。既に戦っている上条達に加わり、ガジェットを捌きながら倉庫を目指した。
「エヴァちゃん!! 次!!」
「分かっとるわ!!」
次に和美達が転移したのは、千雨とエヴァンジェリンが話していた場所。先程とはまた別の倉庫の中だった。しかしそこにあるのは改造された路面電車と各種小道具類、
「やっぱりここだったんだ……」
『ネギま部』で購入した倉庫の中。その一角に後付けされたような机の上、そこには映画で使おうと真名経由で購入した銃器の一部が広げられていた。
「弾丸は
「いいから早く使える武器を探せ。感傷に浸っている暇はない」
とは言っても、千雨自身が使う武器しか整備されていない為、大抵が仕舞われたまま埃を被っている。今でも広げられているものは、別の用途で分解されている様に見えた。
「とは言っても、
『整備済み』の札が掛けられている箱の中に唯一残されていた銃を手に取る。もう一つ、近くの棚にあった物を肩に担いだ和美は、同じく大型の銃器を引っ張り出そうとしていたエヴァンジェリンに声を掛けようとした。
「エヴァちゃ……流石に
「こうなったらやけくそだ。茶々丸もいないし「え、なんで!?」――……ハカセの休みが長めに取れたからと、そのまま
仕方なしに
「しかし、それだけでいいのか?」
「他に使えそうなのがなくってね。……まあ、後は手持ちで誤魔化してみるよ」
「……フン、行くか」
影を操作するエヴァンジェリンに和美は歩み寄った。手持ちの武器を確かめ、しっかりと携えたまま。
「チッ、どうもこのあたりが限界みたいだ。私はもう学園外に出られん。……後は麻帆良中探してタカミチでも捕まえてくるから、そっちは何とかしてくれ。気だけでもジジイよりはましだ」
「心当たりはあるの?」
「どうせ家族と一緒かラーメン屋台を引いてるかのどっちかだろう、あのトリプルTは……」
そして二人は転移した。既に戦っている者達の元へ。
「あれっ!? いつの間にか人数増えてない!?」
「ちょっと混ぜてもらうわよオラアッ!!」
シグ・ザウエルP228を抜いて発砲しながら鎖を振り回していた泉の後ろには、エヴァンジェリンによって転移してきた明日菜が持ち込んだ剣を振り回していた。
背中合わせに戦う二人だが、それぞれ近距離と遠距離と、役割がはっきりしているのでどうにかうまく噛み合っていた。
「……そういえばあんた、あの喫茶店の店員?」
「引きこもりの看板娘こと泉こなたですよろしくぅ!!」
「引きこもってたら看板娘もなにもないでしょうに……そういえばネギは?」
円錐型のガジェットを蹴り飛ばしてから球体型に取りかかろうと剣を構え直した明日菜は、ふとネギの様子が気になって
明日菜と一緒に来ていたネギは上条の近くで……
「千雨さぁん!! 今行きますぅ!!」
「ちょっとネギ先生少しは周りを見ようよ上条さん頑張って道空けてるよねああもう!! 不幸だぁ!!!!」
……盛大に足を引っ張っていた。杖を振り回してはいるが牽制にしかならずに、上条が必死になってカバーに回る始末、最早邪魔以外の何者でもなかった。
「……ごめん、あっち手伝ってきてもいい?」
「いや、いっそ二人で合流しよう。このままじゃ上条君過労死しちゃうし」
球体型のガジェットを斬り飛ばした明日菜は、シグ・ザウエルP228の弾倉を取り替えた泉と共に機械群の中を突っ切っていく。
「このバカネギッ!!」
「あぶっ!?」
一度ネギの頭に蹴りを叩き込んでから、明日菜は上条達と一緒に円陣を組んでガジェットに応戦していった。
「あうう……」
後頭部を撫でさすりながら立ち上がるネギを見て、上条は明日菜に問いかけた。
「……なあ、ネギ先生だけでも先に倉庫の中に入れた方が良くないか? どうせこのままじゃじり貧だし」
「そうしたいけど、今のネギ魔法使えないのよね……というかやっぱり、私達のこと知ってたの?」
「色々と事情があってな、詳しくはまた後で話すわ」
泉が牽制する中、突っ込んできたガジェットを明日菜が受け止め、その隙に上条が接近して分解するという構図ができていた。それもあってのネギの先行提案だが、現状では決定打に欠けている。
「杖もこのままじゃ役に立たないし、せめて……危なっ!?」
バキン、と鈍い音を立てて、明日菜の持っていた剣はその役割を終えた。具体的には中程からポッキリと折れたのだ。
「あーっ!! 私のエクスカリバーっ!!」
「いや明らかに装飾用の模造品だろ。ありきたりな名前付けるなよ」
とはいえ慰めている暇もない。手頃な武器がないか探る明日菜と中国拳法だけで正面突破しようとしては押し返されているネギを左右に挟むようにして、上条と泉はガジェット相手に善戦していた。
「というかお前等何しに来たんだよっ!?」
「現状だけ見ると思いっきり邪魔だよねっ!?」
『面目ない……』
並んで後ろ頭を掻きながら頭を下げる中、さてどうするかと明日菜は上条達に守られながら思案した。このままネギと共に突っ込むか、それとも逆に引くか。
そう考えている内に、戦況が変化した。
ガギジャッ!!
寸でのところまで迫っていたガジェットに投げられ、突き立った剣を見た明日菜は、慌てて剣が飛んできた方を向く。そこには先程別れた和美が、空になった鞘を投げ渡しながら駆け寄ってきていた。
「明日菜それ使ってっ!!」
「朝倉っ!?」
言われるままに鞘を受け取った明日菜は、ガジェットに投げつけられて突き立った剣を引き抜く。
「……ってこれ、『魔法世界残業編』でネギが使ってた剣じゃないっ!?」
「刃は入ってないけど、模造品よりはましでしょ。魔法世界で買った中古の剣、映画用に改造しただけだし……そんでネギ君これ」
明日菜の後ろに近づいた和美は、持っていた物をネギに突き出した。
「これ、は、僕の……」
和美が用意した物……ホルスターに納められたグロック17を受け取り、そのまま抜いて七年振りの感触を確かめ始めた。
「千雨ちゃんがちゃんと整備していたよ。弾丸は実弾しかなかったけど、機械相手ならかえっていいでしょ」
ネギにグロック17を手渡した和美は、腰からスチール製の警棒を抜いて構えた。
「ほら行った行った!!」
「早く行きなさいバカネギッ!!」
バキッ、と警棒を叩きつけられたガジェットから響く鈍い音を最後に、和美はネギに背を向けた。
明日菜も受け取った剣で切りつけ、強引にネギが通る道をこじ開ける。それを見た上条達も、すり抜ける隙間を作ろうと躍起になった。
「行けネギ先生!!」
「長谷川さんをお願いっ!!」
泉の放った鎖で押し退けられたガジェットの横をネギは駆ける。同じく並んで駆けた上条は、倉庫の近くで反転し殿を勤めた。
全員からの援護を受け、倉庫に駆け込んだネギは、内部にも潜んでいたガジェットを見るやグロック17のスライドを引いた。
「どけぇ……!!」
時間を少し戻して、倉庫内に入った千雨はイングラムM10の弾倉を取り替えていた。先程から迫り来るガジェットに9mmパラベラム弾を叩き込みながら前進していたのだが、あるラインを越えた途端、その追撃がパタリと止んだ為に隙ができたからだ。
「この先か……」
可能な限り気配を消し、手持ちの装備を改めていく千雨。
(イングラムの弾倉は今入れたのを含めると2本、シグは使ってないから余裕があるが……問題はコンデンターだな)
残弾は少ない。9mmパラベラム弾では弾幕を張ることで牽制にはなったが、数が多い為に狙いを定める暇がなく、かえって決定打を欠いてしまった。
そこでコンデンターで
コンデンターを中折れさせ、中の空薬莢を排出してから最後の一発を装填し、肩掛けのホルスターに戻した。
(こいつは最後の切り札だ。シグで牽制してからイングラムで制圧、止めにこいつをぶち込んで仕舞だ)
イングラムM10を右手に構えつつ、壁を背にして徐々に移動していく千雨。
(しかし妙だな……)
手榴弾でも持ってくれば良かったと内心後悔しつつも、どこか何かが引っかかる感触を千雨は覚えていた。それでも倉庫の奥にある待機室らしき場所にいるだろう敵に対して、彼女が歩みを止める理由はない。
(こんな倉庫で一体何を考えてやがる? レセプションを襲うならそれこそ学園都市の外の方が勝手が……)
……そこで気付いてしまった。
「くそっ!? やっぱり罠かっ!?」
千雨は入り口から離れた。その直後に巨大な、蔓の塊でできた球が壁を突き破ってきたのを、地面に転がることで強引に身を躱す。
イングラムM10の銃口を向けると、こじ開けられた壁の向こう側から、緑の髪が特徴的な少年が出てきた。年齢的にはネギに近いと感じつつも、千雨は彼が誰かを理解する。
「……植木耕助か」
しかし、彼からの返答はなかった。そもそも事前の情報が正しければ彼は偽物、もしかしたら作り物かもしれない。
そう思っていた千雨だが、むしろその方がまずいことに気が付いた。
「……『
右手から巨大な樹木が生まれ、それが一門の大砲となる。そこから放たれる樹木球は狙い違わず千雨に襲い掛かってきた。
「んにゃ、ろうがぁ!!」
樹木球の中心から避ける様に移動するも躱しきれていなかった。仕方なしにイングラムM10の銃口を向けて発砲する。向かってくるのが鉄ならば意味がないが、幸か不幸か相手は樹木の塊。鉛の球でも十分削り取ることができた。
――カシュッ
「くそっ!?」
しかし代償は大きかった。残り2本の弾倉はとうとう一本になり、しかも交換しないと何の役にも立たない。
(シグは……駄目だ。火力もスタミナも足りない)
右手のイングラムM10を左手に持ち替え、今度はホルスターから抜いたコンデンターを構える。
(予定変更、短期決戦しかないっ!!)
弾倉は交換することなく、千雨はコンデンターの銃口を向けながらジグザグに距離を取ろうとした。
「……『
しかし横薙ぎに振るわれた大太刀を躱す為に跳躍、刃の上を転がる様にして回避する。しかも悪いことは続き、その拍子にイングラムM10を手放してしまう。
「なろっ!!」
器用に腰に差したSIGP230を左手に握り、発砲。銃弾で牽制しつつ一定の距離を保とうとするも、
「……『
地面から伸びた腕らしきものがそれを弾いていく。その腕は千雨の方へと伸びることはなかったが、今度は植木の方が動き出してしまった。
「……『
「なっ!?」
蔓が植木の両足を包んだかと思えば、今度はそれがローラーブレードの様に形を成して動き出したのだ。常人の十倍以上の速度で千雨に接近し、拳を振りかざして襲い掛かろうとしている。
「ちっ!?」
咄嗟に左手首に仕込んだシースナイフの束で防御するが、その威力に左手のSIGP230ごと吹き飛ばされてしまう。吹き飛ばされながらも右手のコンデンターで強引に狙いを定めようとするが、向こうの方が早く、狙いを定めることができなかった。
「……ってて」
二転三転と転がってから勢いよく立ち上がり、両手でコンデンターを握って狙いを定めようとするが、うまくいかずに銃口を下げる。
(カウンターでぶちこむしかっ……!?)
「……『
背後から何かが突き出てくる気配を感じて、千雨は咄嗟に前に飛んだ。その感覚は正しく、顔だけ振り返って見てみると、四隅に柱が伸びた四角い物体が、まるで噛みつくように千雨に迫っている。
「……っ!?」
耳の裏に隠した小型の閃光弾を地面に叩きつけ、引き裂かれた暗闇の中を駆け抜ける。魔力球の方も持っていたが、この敷地内に入った途端に使えなくなったので、今回使用したのは純粋な科学製だ。
どうにか狙いを外すことには成功した千雨だが、完全に体勢を崩してしまい、一瞬眩暈を起こしてしまう。
それでも立ち上がろうとするが、その行動を許さない者がいた。
「……がっ!?」
コンデンターは地面を滑るようにして蹴飛ばされた。その足を持ち上げたまま、植木はそれを移動させて千雨の背中に乗せる。そのまま自らの掌でゴミを包み込み、力を込めている。
「……ゴミを木に変える力」
すると、植木の手の中から一本の木が槍の様に尖りながら、その姿を現した。
その尖端から、千雨は目を離すことができなかった。
(ここまでかよ……)
手首や腰に隠したナイフを抜く暇もない。迫りくる凶槍に思わず目を閉じかけるが、視界に映る存在がそれを邪魔した。
「……?」
植木もまた、違和感を覚えていた。これから相手を刺そうという間際で、何故か腕が止まってしまったのだから。別に怪我をしたとかでもない。何か別の力が働いたかのような……?
原因が分からず、植木は不思議そうに振り返ると……
その顔に、ネギの拳が突き刺さった。
吹き飛ばされる植木を視界に入れていた千雨の耳に、鋭い言葉が突き刺さった。
「千雨さんに手を出すなっ!!」