魔法先生ネギま 雨と葱   作:朝来終夜

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第11話 少年よ、拳を握れ

「……『電光石火(ライカ)』」

 吹き飛ばされながらも、植木は即座に体勢を立て直して高速で移動し始めていた。接近戦に備えてネギが身構えるも、相手はそれに対応して攻め手を変えてくる。

「……『百鬼夜行(ピック)』」

 樹木から生まれた、連結した黄色と黒のブロックが角柱となってネギに迫ってきた。

「ふぅ……」

 ネギは一つ息を吐くと、少し腰を落として構えた。ゆっくりと、しかし確実に力を込めて拳を振り上げる。

「……フッ!!」

 ネギは発勁を用いて拳を突き上げ、植木が放ってきた『百鬼夜行(ピック)』の先端にぶつけた。すると突き出された角柱は持ち上がり、射手は無防備な身体を晒してしまう。

「よし「……『唯我独尊(マッシュ)』」――ってわわっ!?」

 歩法だけで瞬動術の真似事をして近づこうとしたネギだったが、すかさず背後に繰り出された四角い物体を躱すために千雨の身体を抱え、

「ってこらドサクサに紛れてっ!?」

「そんなこと言ってる場合ですかっ!?」

 怒鳴り合いながらもどうにか移動するが、かえって植木から距離を開けてしまった。

「……『(くろがね)』」

 撃ち出された樹木球にネギは化勁を用いて、どうにか軌道を逸らそうと前に出た。千雨は地面の上に降ろされていたが、直ぐに立ち上がることはなかった。

(考えろ……もう銃はない。あるのは右手首のシースナイフと腰のアーミーナイフ。魔道具系はここに入った時点で全部おしゃか、後は無用の長物と化した……ん?)

 おそらくネギが落としたのだろう、その物体に千雨は慌てて手を伸ばした。

 

 

 

 その間も、ネギは攻撃を逸らすことに専念した。一つ一つの威力は強く、樹木球や角柱を真正面から受けるのは、現状魔力の使えないネギには不可能だからだ。

 しかし、攻撃を逸らしつつも、ネギの足は止まらず植木の方に向いて動いている。

(少しの隙さえあれば……一気に攻められるのに!!)

 ジラされている状態だが、ネギはどうにか心を静めて耐えた。

「……『唯我独尊(マッシュ)』」

「くっ!?」

 時折来る四本足の四角い顎がネギの体勢を崩してくる。それでも転がりながら勢いをつけて立ち上がる様は、千雨よりも身体を動かしている証左だ。

 けれども、それだけでは相手に勝てない。その証拠に、植木は未だに攻撃の手を緩めることはなかった。

「……『(くろが)――』」

 

 

 

 しかし、一発の銃声がそれを邪魔した。

 

 

 

 ダァン!!

「今だネギ先生っ!!」

「っ!!」

 返事する間も惜しいとばかりに、ネギは僅かに練った気の真似事で強引な瞬動術を行い、一気に植木に肉薄する。

「ぐぅ……」

 そこには右手に取り込んだゴミごと掌を撃ち抜かれた(・・・・・・)植木の姿があった。

「……っ『花鳥(セイ)』「させるかっ!!」――ぶほっ!!」

 左手でも能力を使おうとした植木をそのまま殴り飛ばし、ネギは肩で息をしながら後ろを振り向く。

 視線の先には、千雨がネギの落としたグロック17を地面に伏せながら、銃口を植木に向けた状態で構えていた。既に弾切れの筈だが、おそらく予備の弾丸を持ち合わせていたのだろう。

 その証拠に、千雨の周囲には弾倉とばらけた弾丸が幾つも転がっていた。

「千雨さ「まだだっ!!」――……っ!?」

 千雨の檄にネギは慌てて植木の方を向く。同時に千雨も引き金を引き、銃弾を今度は左手に撃ち込んだ。

 

 

 

『条件的には、どちらも手を使っているから、両手を攻撃できれば相手を押さえられると思うよ』

 前日の打ち合わせの段階で泉から聞いていた、予想された相手の弱点を的確につくが、敵が立ち直る方が早かった。

「……モップに(ガチ)を、加える力」

 突如、撃ち抜かれた筈の右手から放たれたモップから毛先が伸び、千雨の撃った弾丸を掴み取ってしまう。

(イングラムの弾倉から移し変えた弾丸は後1発、てかモップで銃弾防ぐとか反則だろうが!!)

 チート野郎、と内心で毒づきながら、千雨はグロック17の銃口を植木に向けていた。咄嗟に移せたのは3発だけだったが、それでも相手の意表を突くには十分すぎた。

 しかし、相手の対応が早すぎた為に、半端な反撃と化してしまった。

「……『旅人(ガリバー)』」

「っ!? 千雨さんっ!?」

「あっ……!?」

 周囲の地面に、マス目の様な模様が浮かんでいる。その一つ、千雨がいるマスの周囲の線模様から、壁がせり上がってきていた。

「千雨さん、今……っ!?」

「もう手遅れだ!! いいから伏せろっ!!」

 瞬動術と併用しながらどうにか千雨の下に辿り着いたネギだが、脱出するには一歩足りなかった。

「こいつは捕獲用の神器(じんぎ)中からは(・・・・)破壊できない!! それより次の攻撃を……ってネギ先生っ!?」

 しかしネギは逆に立ったまま、防御の構えを取っている。

「駄目です。多分次の一撃は……」

「……『魔王(まおう)』」

 次の一撃が十ツ星神器、魔王だと悟り、千雨は愕然とした。ネギも第六感か何かで次の一撃が強力なものだと判断したのだろう、逃げられないと断じ、少しでも防ぎきろうと防御態勢を取っている。

 

 

 

「……『魔王(まおう)』」

 十ツ星神器、『魔王(まおう)』。

 それは『うえきの法則』において、最強の威力を持つ神器(じんぎ)である。想いを形に変え、力に変え、自らの強さの象徴となる生物を生み出す。

 その最強の神器(じんぎ)を、植木は使った。

 本来ならば、植木の力の象徴は小林先生(コバセン)という自らが尊敬する存在だが、その『魔王(まおう)』は違った。

 それは巨大な球体だった。しかし今迄のような樹木でできたそれではない。まるで業火が凝縮され、触れる全てを焼き尽くさんばかりに燃え盛っている。

 その身の丈以上の業火球を、植木はネギ達に向けて放った。視界も封じられ、いや動きを止めた時点で回避する術はない。

 ネギと千雨は死ぬ。もしこの状況を第三者が見れば、そう考えても不思議はない。

 

 

 

「ギリギリセーフッ!!」

 しかしその第三者は、その死ぬ運命をあっさりと覆した。

 

 

 

 バキン、という音と共に、上条は振り払った右手の手首を軽く回してから、背後にある(ガリバー)に触れた。再び鳴る音に合わせて、ネギ達を拘束していた檻は粉々に砕け散ってしまう。

「泉、こいつら任せたっ!!」

「ほいきたっ!!」

 ネギ達に駆け寄る泉と入れ替わる様に、上条は植木に向けて駆け出した。

「……『魔王(まおう)』」

「効くかっ!!」

 迫りくる業火球を右手だけで打ち消し、一切の迷いなく距離を縮めていく。

「……『(くろがね)』、『快刀乱麻(ランマ)』、『唯我独尊(マッシュ)』、『百鬼夜行(ピック)』」

 樹木球を触れ砕き、大刀を割り、挟み来る箱をバラし、角柱を真正面から殴り壊した。

「……『波花(なみはな)』」

 今度植木の手から生み出されたのは、巨大な黒い鞭だった。

「……『威風堂々(フード)』」

 上条は身を低くして右手を構えるが、迎え討とうとした鞭が直前で止まる。

「やばっ!?」

 どうやら植木も学習しているらしい。直接的な攻撃が効かないだろうと鞭が繰り出される先、上条の斜め後ろに巨大な腕を繰り出し、鞭の軌道を変えてきたのだ。

「うらあぁぁ……!!」

 しかし、その鞭の先端を受け止める者がいた。

「早く行って!!」

「おうっ!!」

 鞭に対して切り裂かん勢いで、明日菜は剣を叩きつけた。その隙を逃さないように、上条は黒い巨大鞭の横を駆け抜けていく。

「……『魔王(まおう)』」

「無駄だっ!!」

 距離は届いた。

 上条は植木の放った『魔王(まおう)』を打ち砕き、その右手を降りかぶった。

「その神器(じんぎ)は使う奴の信念に応じて強くなるんだろうが。お前みたいな人形が持ち合わせている思考なんかで、本物(・・)のような力が出せる訳ないだろうが!!

 それでも、与えられた信念(かんがえ)だけで、お前がまだ俺達を倒せるって言うのなら!!」

 上条の、全ての幻想を殺す右手が、植木に放たれた。

 

 

 

「まずは!! その幻想をぶち殺す!!」

 

 

 

 その右手は、植木耕助という仮初めの存在を粉々に殴り壊した。粒子となって消えゆく偽物のいた空間に、上条は拳を突き出した後でゆっくりと降ろした。

俺達(・・)でも勝てる気がしないってのに、ただの操り人形が勝てるわけ「って、何してるの上条君!!」――ぶべらっ!!」

 肩を降ろしていた上条の背中に、突如泉がドロップキックを繰り出した。元々距離が離れていたこともあり、助走でついた威力は、通常よりも確かな破壊力を彼女に与えていた。

「やるだけ無駄かもだけど、それでも情報が手に入る可能性があるから生け捕りって言ったよね。私言ったよねっ!?」

「すみませんすみません!! カッコつけすぎましたっ!! でもやられるよりましだと思って許してっ!!」

「……駄目、お仕置きターイム」

 コナタハ,ケンジュウノジュウシンヲニギッタ.

「RPG風では誤魔化しきれない殺意がここにっ!!」

 上条が起きあがるのに合わせて、泉は仰向けに蹴倒した。馬乗りになって拳銃の銃身を握り、銃床で釘打ちができるように構えだす。

「許して下さい泉さん!! 上条さんが馬鹿でしたーっ!!」

「いいから、ほら大人しくし「千雨さんが一番の馬鹿ですよっ!!」――て……って、あり、なにごと?」

 突然割り込んできた罵倒に、二人は思わず声がした方を向いた。

 

 

 

「終わったな。ってて……」

 泉がドロップキックの為に助走して駆けだした後、千雨は上半身だけを起こして、空いた手で後ろ頭を掻いていた。

「……ったく上条の奴、あっさり消しやがって。偽物生み出した元凶探す手掛かりだったってのに」

 掻いていた手を今度は懐にやり、煙草を取り出した。泉が上条にブチ切れているのを眺めながら、軽く振って一本だけ飛び出させて、口に持っていこうとする。

「全く、調子に乗って馬鹿やるから――」

 そこから先は続かなかった。

 

 

 

 バシンッ!!

 

 

 

「ってっ! 何すんだ、よ……」

 突如伸びてきた手が、千雨の持っていた煙草を弾き飛ばした。何事かと見上げてみれば、屈んできたネギが、千雨を見下ろしていた。

「何を言っているんですか……千雨さんが一番の馬鹿ですよっ!!」

 その剣幕に、千雨は呑まれてしまった。

「なんで一人でこんなことしていたんですかっ!? 死んでしまうかもしれなかったんですよ!?」

「いや、だって……」

 いつもならすらすらと言葉の出る口が、この時に限って回らない。いつもなら説教する度に睨みつける眼差しも、今はただ力無く揺れている。

「僕達がいたでしょう。上条さん達だっていたでしょう。その気になれば誰にだって助けを求められたのに! なんでっ!?」

「ネギ、先生……」

 もう、返事もまともにできなかった。

 ……気づいてしまったからだ。

「千雨さんがいなくなってしまうと思うと、いてもたってもいられなかったんですよ。仕事なんて、世界なんてどうでもよく思ってしまったん、です、よ。

 やめて下さいよ……もっと、頼って下さいよ。知らないところで……死のうとしないで下さいよ…………」

 ネギが、泣いていることに……。

「……長谷川」

 呆然としたまま顔を上げると、ネギの背後には、いつの間にか上条が立っていた。腕を組んで憮然とした態度で、千雨達を見下ろしている。

「黙ってろって言われていたし、俺達も無闇に話す気はなかったけどな……もう限界だ。話すぞ」

「てめっ!!」

『話す』という言葉に、千雨は右手に残っていたグロック17を握った。

「……撃ちたきゃ撃てよ」

 それでも、上条は態度を変えなかった。もしかしたら、銃口を向けても同じ態度をとっていたかもしれない。

「忘れたのか? 俺達は一度、とっくに死んで(・・・)んだよ。確かに死にたくないとも思うがな、少なくとも……お前等の生活踏みにじってまで生きたくねえよ!!」

「っ!?」

 千雨は勢いに押されて、グロック17を握ったまま手を下ろしてしまった。

「……千雨ちゃん、もう観念しなよ」

 和美が傍により、千雨の肩に手を置いた。

「それにね、皆怒ってるんだよ。千雨ちゃん一人で抱え込んじゃったことに。上条さん達だって、千雨ちゃんと協力していたのに一人でやっちゃおうとするから怒ってるって、もう気づいてるんでしょう?」

「…………」

 しゃがみ込んだ和美は、あやすように千雨を抱き寄せていく。

「皆千雨ちゃんが心配なんだよ。だからもう、銃を下ろして……ね」

「ああ、そうだな……」

 千雨は、ゆっくりと指を開いていった。

「……まだ、泉に撃たれて死にたくないしな」

「ホントだよ、もう……」

 千雨に向けて構えていたシグ・ザウエルP228をホルスターに仕舞いながら、泉はゆっくりと駆け寄ってきた。

「……勘弁してよ。もう誰かが死ぬなんて嫌なんだしさぁ~」

「……ああ、そうだったな」

 千雨は俯いたまま、和美に支えられながら立ち上がった。銃どころか、煙草を拾う気力もないのか、そのまま立ち去ろうとする。

 

 

 

「ネギ先生……ごめん」

 

 

 

 ネギは追いかけようとしたが、近寄っていた明日菜に頭を押さえられてしまい、立ち上がることができなかった。

「今は朝倉に任せましょう。それよりも……」

「……ああ、分かってる」

 力が抜けたのか、上条はその場に膝を折って座り込んだ。

「とりあえず明日にしようか。今は頭の整理が必要だろうからな」

「そうね。……ほら、帰るわよネギ」

 ネギを促す明日菜を眺めながら、上条は泉の方を向いた。

「俺達も一度帰ろうぜ」

「あ、うん……」

 泉の意識が帰宅に向けられようとしたが、顔がふと後ろを、植木が消えた場所の方を向いてしまった。

(あの『魔王(まおう)』の、業火球みたいなアレ。どこかで見たような……)

 

 

 

 倉庫を出た二人は、千雨のバイクの傍にいた。

 地面に座り込んでいる千雨の横で、和美は携帯の短縮ダイヤルを操作している。

「ちょっと待っててね。エヴァちゃんに電話するから……ああ、エヴァちゃん」

『朝倉和美か……終わったのか?』

「うん。一先ずは……高畑先生は見つかったの?」

『ああ、見つかったんだがな。正直、電話してきてくれて助かった……』

 不思議そうに眉を潜める和美に、エヴァンジェリンは電話越しに呻くように呟いた。

 

 

 

『丁度夫婦喧嘩中に出会(でくわ)してしまってな。ラーメン屋台の横で土下座しているタカミチの頭を源しずなが踏みつけていて、どう声を掛ければいいか分からなかったんだ』

「いや、止めようよエヴァちゃんっ!!」

 

 

 

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