魔法先生ネギま 雨と葱   作:朝来終夜

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 前後編で済ませる筈が、どんどんと延長していきました。起承転結も若干怪しいので、過去編は連番にしています。
 ……ここまで長くするつもりはなかったんじゃあ~


第14話 両手を握る覚悟 Vol.01

 二年程前。ネギ達がナギ=ヨルダと戦う前の春の話だった。

「フゥ……こんなもんか」

「原作に関わる気がないのは分かるけど……そこでお店ってどうなの?」

 ツンツン頭の目立つ髪形をした少年、上条当麻は自身の店の前で誇らしげに腕を組んでいた。その様をバイクに凭れながら、ショートカットのボーイッシュな少女が眺めている。

『ねえキノ、君のお兄さんは何で楽しそうなの?』

「あれ、エルメス。最初から見ていたんじゃないの?」

『ううん、寝てた』

 等という通常ではありえないバイクの発言にも上条は気にせず、キノと呼ばれた少女を手招きした。

「見ろ妹よ。これぞ兄の城だ」

「まあ、安く手に入ったのは認めるけどさ。……ちょっと周りを見てよ」

 と、上条の妹こと上条キノ(二卵性双生児)は兄が逸らしている現実に視線を向けさせた。

 そこは一面、広大な景色だった。

 果てが見えない草原に広がる大海原、移動すれば少し脆いがロッククライミングにも適した崖に出ることができる。ここに来るまでの道もコンクリートで舗装していないが、障害物も少なく拓けた道がここまで繋がっていた。

 話は長くなったが、要するに……人気がないのだ。

「……兄さん。ブラックジャックじゃないんだから、もうちょっとお客さん来るところに店開いたら」

「何を言う妹よ。ブラックジャックだってお客さんが途切れなかったじゃないか。例え崖の上に診療所を構えていようとも! その腕でお客さんを呼んでいたのだから!!」

「そうだね。で、兄さんは誰に(・・)転生したんだっけ?」

 その一言で、上条はその場にしゃがみ込んで膝を抱えこんだ。

 いじけて地面にのの字を書いている今生の(・・・)兄に呆れながら、キノは凭れていたバイクのエルメスから起き上がって、上条の肩に手を置いた。

「まあ不幸属性持ちでも、上条君はモテてたから大丈夫だって。きっとロリからお姉様まで、お客さんは寄り取り見取りだよ」

「だよな。俺も原作の様にモテる様になるよな?」

「きっとなれるよ。……腕ぶった切られる覚悟があるなら」

 ますますさらに落ち込む上条。原作での上条当麻の活躍を思い出してしまい、今度は怯えからくる振動も加わっている。

『キノ、一言余計』

「ハァ……情けない人と一緒に転生しちゃったな」

 額に手を当てながら、キノは呆れて息を吐いた。

 

 

 

 転生者や転移者、と呼ばれる者達がいる。

 神や悪魔という存在に魅入られた者達。

 突然発生した超常現象に巻き込まれた被害者。

 一度死んで生まれ変わることもあれば、転移者として死んだ時の状態のまま別世界に飛ばされてしまう時もある。

 彼らは第二の人生として新しい世界を訪れるのだが、何も前回と同じ世界とは限らない。

 剣と魔法の世界かもしれない。オーバーテクノロジー溢れる未来かもしれない。何もない無人島だと思えば、実は巨大な亀の上だったりするかもしれない。

 そして、空想の産物である『物語』の世界かもしれない。それだけでも魅力的だが、さらに忘れてはならないことがある。

 転生者の特典、というものだ。どう新しい世界を訪れるかにもよるが、その世界に適応して生き抜く為に、はたまた誰かの娯楽の為に、普段は持ち得ない筈の力を得ることもある。

 そして、上条達転生者がこの世界に転生、または転移するルールは幾つかある。

 一つ、原作を問わず既存のキャラクターでなければならない。

 二つ、今生を生きる上で、前世での名前を明かすことはできない。

 三つ、そのキャラクターの能力を得ることができる。

 四つ、さらに付随して一つ、もしくは一人の能力を得ることができる。

 それらのルールを持って転生してきた存在、それが上条達の正体だった。

 しかし、この世界を訪れたとはいえ、『物語』に関わる必要は皆無である。

 

 

 

「とにかくしっかりしてよ、兄さん。少ししたらボクも旅に出るんだからさ」

「分かってるよ。ったく……」

 一先ずエルメスを店の脇に停め、兄妹は『お~い……』と力なく呼びかけるバイク(モドラドもこの世界ではバイクを指す)を無視して店の中へと入っていった。窓際に幾つかしかないテーブル席とカウンター席がある中、上条は厨房に立ち、キノは向かいのカウンター席に腰掛けた。

「しかし変な時期に転生しちまったなお前も。もう少し前か後なら、この世界も見ごたえがあったんだろうが……」

「そうでもないよ。前世じゃあんまり旅行とかできなかったし、これを機に思いっきり羽を伸ばしたいんだよね」

「ならいいけど、っと……」

 ポットに水を入れて火にかけていると、外から物音が聞こえてきた。何事かと、上条達は入り口付近に意識を向ける。

「なんだ?」

「さあ……泥棒じゃなければいいけど」

 キノは『森の人』と呼んでいる銃(モドラドと同様、この世界ではパースエイダーも銃器のことを指す)を抜いてスライドを引いた。上条も護身用にと、以前キノから貰ったウィンチェスターM1897(ゴム弾装填済み)を厨房スペースから取り出し、ハンドグリップを前後に往復させた。

「……あげといてなんだけど、原作じゃ銃なんて使ってないよね」

「いいじゃねえかよ。原作は原作、俺は俺だ」

 若干ドヤ顔の上条を疎ましく思いながら、二人は並んで扉の前に立った。

「にしても……本当は新しいお客さんじゃないの?」

「それはない。何故なら……開店は明日だからだ!!」

「ボクは今日、発つ予定だって何度も言ってるんだけどね……」

 兄に呆れる妹。二人は扉を少し開け、外の様子を隠れ見ると……

 

 

 

「ホラ見てよかがみん、これ絶対エルメスだって!」

「ああ、はいはい。分かったからこなた黙って」

「なんか転移して早々楽しそうだよね。こなちゃん」

「ウフフ、私も別人に代わって、なんだか楽しいです」

 

 

 

「……迂闊すぎだろ、おい」

「ちょっと注意した方がいいかもね。というか『らき☆すた』?」

「あれ、知らないの? 選んだキャラクターの能力に反比例して、選べる能力の幅が広がるんだよ」

「そうだったんだ……とりあえず武器があればいいかと思って、さっさと『学園キノ』の能力を選んでいたから分からなかったよ」

「もうちょっと考えりゃ良かったのに……じゃあ挨拶と行こうか」

「ああ、ちょっと待って」

 そう言ってキノは、扉の隙間から少しだけ顔を出した。

「エルメス、聞こえてるだろ。……挨拶してあげなよ」

『こんにちは、ボクはエルメス。よろしくね』

 そして突然声を出したエルメスに驚く泉達、これが彼らの初めての出会いだった。

「……妹よ、お前って結構悪戯好きだよな」

「兄さんこそ、ハーレムルート目指して口説きまわらないでよね。妹として恥ずかしいから」

 詳しくは割愛するが、他に行く当てもない四人がこの店に居着いたのが、全ての始まりだった。

 

 

 

 時には店を切り盛りし、

「って、なんで巫女の格好しなきゃいけないのよっ!!」

「こなちゃん恥ずかしいよ~」

「いやいや、客引きは大事だよ。私だってコスプレしてるし」

「……声優ネタここでも引っ張るかよ」

 

 

 

 時にはキノも誘ってこっそり麻帆良に遊びに行き、

「あの図書館島にも行ってみたいですね」

「いっそのことここの学生になったら? 大学からでも入学できるみたいだし」

「……俺、二度も勉強したくないな」

「私も引き籠りたいかな~」

 

 

 

 そして原作でのイベントを遠くから眺めたり、

「あっ、光った!!」

「あの流れ星がそうなのですね……」

「綺麗だね~」

「ふっふっふ~私の能力(チート)、『地球(ほし)の本棚』を使えばこれくらいは訳ないのさ!! ……仮面ライダーの能力は貰えなかったけどね」

 賑やかに店の傍に広げたシートの上に腰掛けた『らき☆すた』の面々を眺めながら、上条は旅(旅行とも言う)から帰ってきていたキノと一緒に店の壁にもたれかかり、缶のコーラを傾けていた。

「それでも破格すぎだろ……いくらこの世界に関してだけは原作知識以外見れないとはいえ、他の原作なら見放題なんだからさ」

「まあまあ、こうやって原作イベントを楽しめるのも、転生者の特権だって」

 同じく紅茶缶を飲みながら、キノは空を指さしてはしゃぐ四人を見つめつつ、上条に問いかけた。

「それで……誰が好きなの?」

「グホッ! ……あのね、俺も転生者な訳よ。あいつ等みたいに転移者じゃないから、見た目の最低二倍は生きているのよ。そんな未経験なチェリーボーイじゃあるまいし「でも好きになる切っ掛けはあったんでしょ?」――……ハア、まあな」

 壁にもたれたまま地面に腰掛けた上条は、膝を立てながら空を眺めた。

「これでもさ、前世で彼女がいたことがあったんだよ。でも不良に絡まれた時に恰好悪い所見せちゃってさ、あっさり振られたよ。……まあ八方美人なところもあったから、さっさと彼氏作っちゃってたけどな」

「また繰り返す、って考えてるの?」

「どうだろうな。だけど……」

 上条は視線を落とし、己が右手を見下ろした。

「分かんねえんだよ。こんな俺にも、誰かの為に立ち向かえる『覚悟』があるのかって」

「……まあ、これだけは言っておくよ」

 空き缶を片手に、キノは泉達の方へと歩いて行った。

能力(ちから)はあるんだから、後は僅かな勇気(・・・・・)だけだよ」

 その言葉を、上条は脳内で反芻させ、徐々に理解を深めていく。

 やがて、一つ溜息を吐いてから、上条は立ち上がって後ろ頭をボリボリと掻いた。

僅かな勇気(・・・・・)、か……」

 上条もキノに続いて、草原ではしゃいでいる四人の元へと向かった。何だかんだ気にかけてくれる妹と、気心知れた仲間達と、そして……想い人のことを思いながら。

 

 

 

 そして二週間が過ぎた。

「まあ、それで告白しないのも俺なんだけどな……」

 そう独り()ちながら上条は、定休日に街へ一人繰り出していた。

 居心地の良さに何も言えずにいる日々を悶々と過ごしていたのを誤魔化すように、適当にウィンドウショッピングを行っていた上条だが、ふとある店の前で止まる。

「……いいな、これ」

 そこにあるアクセサリーを見て、上条は財布を開けて中身を確認した。

「せっかくだし、買ってくか」

 他にも土産としてケーキ屋でカップケーキを人数分買い、帰路へと着いた。

「今日はキノも帰ってくるし、早めに戻らないとな」

 街を抜け、徐々に自然が人気を押し退ける中を、上条は歩いていた。

「しかし街まで遠いのが難点だな……原付でも買うか?」

 等と呟きながら歩いていると、前方に人が立っているのが見えた。全体的に白い印象が漂う、細身の男だった。しかし上条には、その人物が誰なのかすぐに察しがついた。

一方通行(アクセラレータ)だ。すげぇ、本物だぞ。こんなところで何やってんだろう? こいつも転生者かな?)

 半分有名人にあったような感覚で見てから、上条は直ぐに視線を戻した。あまりじろじろ見るのも気分が悪いだろうとの考えからだ。

 しかし、相手はその口元を、徐々に歪めていく……

 

 

 

「思ったより時間が掛かっちゃったね」

『まあ、高速が混んでいたから仕方ないよ、キノ。でもバイク(ボク)だったから、早く帰れるんだよ』

「それが唯一の救いだよ」

 原作イベントを終えたキノは、翌日には既に旅に出ていた。今日は購入した土産類を片付ける為に、一度戻ろうとエルメスを走らせている。

「そう言えば兄さん、ちゃんと告白しているのかな?」

『どうだろうね。何だかんだ日常を楽しんでて、そのまま日和(ひよ)ってそうな気もするけど……お、噂をすれば』

 エルメスに言われ、前方の道を上条が歩いているのを見かけた。まだ若干距離はあるが、特徴的なツンツン頭と店までの道のりから、そう推測できた。

「丁度いいや、兄さんも乗せて『キノ避けてっ!!』――なっ!?」

 咄嗟にエルメスが警告してくれたおかげで、突如目の前に現れた人物を躱すことができたキノだったが、そのまま横転してしまう。

「ってて……大丈夫、エルメス?」

『ボクはね。でも……向こうは大丈夫じゃないみたい』

 突然現れた人物、麦藁帽子を被った金髪の女性はキノを見つめていた。

『別の意味で』

 ……ガンベルトに納められた六弾倉回転式拳銃(リボルバー)を抜きながら。

 

 

 

 

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