魔法先生ネギま 雨と葱   作:朝来終夜

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第17話 両手を握る覚悟 Vol.04

 一瞬だった。

「ぁ……」

 抉り出された眼球が栓であるかの様に、鮮血が吹き荒れている。

 (つかさ)の血液に塗れながらも、その男は抉り出した二つの眼球を指先で弄んでいる。

 誰も声を上げられなかった。抜き取られた(つかさ)は勿論、その異常な光景に圧倒された泉達も。

「……ふむ。魔眼の類だと当たりはつけていたが、なかなか使えそうだね」

 紫の長髪が目立つ男だった。スーツの上に白衣という在り来たりな科学者スタイルだが、(つかさ)から身体の一部を奪った右手には赤いラインと金属の爪が際立つ黒いグローブを身に着けていた。

「さて……他に必要な能力は――おっと」

 パチン、と指を鳴らすことで男は結界を張った。

 前方に張られた魔力の壁がゴムの銃弾を、鎖を、土の角柱を次々と防ぐ。

「さて、錬金術は既に持っている。クラピカの念能力もそこまで必要ではない。後は……」

 男が見つめるのは泉だった。その視線を遮る様に(かがみ)と高良が並んで立つ。

「確か……『地球(ほし)の本棚』だったね。君の能力は」

「……だったら何?」

 ジャコン、とハンドグリップを前後に動かす泉。合わせる様に(かがみ)と高良も身構えている。

「これでも結構ブチ切れてるんだよ。……だから」

 泉は銃口を向け、シールドに阻まれるのも構わず発砲した。

『つかさ(さん)から離れろ(て)っ!!』

 防がれる銃弾、だが予定通りとばかりに、泉はウィンチェスターM1897を男に向けて投げつけた。

「っと」

束縛する中指の鎖(チェーンジェイル)!!」

 それを隠れ蓑に、(かがみ)は中指を伸ばし、先端に鉤爪のついた鎖を具現化させて全身を包む様に巻き付けさせた。しかし、男の張る結界が邪魔をして縛り付けることができないでいる。

「これでっ!!」

 高良は両手を合わせてから地面を叩き、巻き付けられた鎖を抑えるために反発しているシールドの間を通す様に円錐の塊を伸ばした。

「これはまずいかな……」

 男は再度指を鳴らし、(つかさ)の背後を取った時の様に転移した。その為に壁が消え、突き出された円錐を鎖が縛って砕いてしまう。

 警戒して周囲を見渡す泉と高良の近く、(つかさ)の傍に(かがみ)はしゃがみこんだ。

「つかさしっかり!! すぐ助けるから、癒す親指(ホーリー)「かがみ危ないっ!!」――こなたっ!!」

 咄嗟に庇った泉の腹を、褐色の腕が貫いた。(かがみ)の声を聴き、その光景を見た高良は両手を叩いて傷の男(スカー)に駆け寄る。

「……ああああ!!」

 その錬成が何を意味していたのかは分からない。

 しかし、高良の突き出した左手は、咄嗟とはいえ傷の男(スカー)を絶命させるには十分だった。

「おっと、惜しかったね」

「ああ……っ!?」

 恐らく、男にとっても傷の男(スカー)の強襲は予想外だったのだろう。本来ならば不意打ちで仕留めようと出現して繰り出していた魔力の糸は、高良の足を切断するだけで役割を終えた。

「みゆきっ!!」

「だいじょ、ぶ、です……」

 大丈夫じゃないのは見て取れた。太腿から溢れ出る大量の血液を見て、高良が泉や(つかさ)と同じ様に瀕死だと察し、(かがみ)は三人を無理矢理抱え込む。

「やれやれ……まあ、そこまでして欲しい能力じゃないから、別にいいか」

 肩を竦める男を(かがみ)は鋭く睨み付けるも、相手は構わず指を伸ばした。

「じゃあそろそろ……失礼するよ」

 鳴らされた指。そこから奔る火花を見て、(かがみ)は咄嗟に鎖を伸ばし、自分達に巻き付けた。鎖を幾重にも重ねて、少しでも壁にするように。

「やめ――!!」

 男の言葉と仕草を見ての判断だが、正解だったらしい。

 男の熾した焔の錬金術が、(かがみ)の鎖ごと周囲を焼き尽くした。

 

 

 

「……ぅ」

 (かがみ)が目を覚ますと、自らの右手が火傷で黒く焦げ、皮膚が爛れているのが見えた。次に目を移すと、眼球がなく、暗い眼差ししかできなくなった(つかさ)がいた。そこから命の息吹を感じることは、もうない。

 その元凶たる男は既に姿を晦ませ、視界には映らなかった。

「ぁ……」

「かが、み、さん……」

 声のした方を向く、先に気が付いたのか、高良が泉の腹部に手を当てていた。既に呼吸を止めた(つかさ)と違い、まだ辛うじて、呼吸をしているのか、少量だが口元から血泡が湧いている。

「つかさ、さん、は……?」

「もう……こなたは、まだ?」

「それも、もう……」

 それは残る二人もだった。

 高良も出血多量で意識が朦朧とし、(かがみ)も腕から身体の右側を見てみれば、火傷が上半身に侵食していた。

「……ねえ、みゆき」

「分かって、ます」

 パン、と手を合わせてから高良は地面に流れている血液に触れた。その血液は錬金術の錬成により流動し、彼女達四人を中心にした巨大な陣を描いていく。分かる人が見れば、こう答えるだろう。

 ……人体錬成の陣だと。

「未だ、魂が残っていれば……いいですか?」

「いいに、決まってる」

 (つかさ)は息をせず、泉の意識は生死の境を彷徨っている。

 この場の決定権は、(かがみ)と高良に委ねられていた。

「前世から、も。これから、も……ずっと一緒よ」

「もちろんです。たとえ……」

 高良は手を合わせた。

「……どんな形であっても」

 まるで、神に祈る様に……

 

 

 

『よう、初めまして。そっちは久しぶりだな』

「はい、ご無沙汰しています。転移した時以来ですね」

 白い空間の中、その中心に聳える巨大な扉の前に、人型の輪郭が浮かんでいた。そこから聞こえる声に高良は頭だけ下げて挨拶した。

『それで』

 人型の輪郭をした何かは、親指で後ろを指すような仕草をして、高良達に問いかけてくる。

『後ろの扉を一緒に使っても……助けられるのは辛うじて一人だけだが、どうする?』

「やっぱりそうですか……」

「まあ、いいじゃない」

 高良がぼやく中、(かがみ)は自らの膝に泉の頭を置き、(つかさ)を横抱きに引き寄せた。

「もう答えは決まっている、でしょう?」

「ええ……前世ではお世話になりましたから」

 高良は泉の頭を撫でた。

「ほんと、いつも無茶苦茶やってさ。私達引っ張りまわして、無理矢理楽しませて……」

「だから転移しても、ずっと一緒にいようとこの姿を選んだのですよね」

「うん。だから死んでも……ずっと一緒」

 その手は慈愛か、それとも無慈悲なる選択か。

 (かがみ)達は、再び冥府への扉を開く道を選んだ。

「敵討ちなんていいから……最後まで生きてね」

「さようなら。また、死後の世界で会いましょう」

 そして高良は、手を合わせた。

 

 

 

「……じゃあね。こなた(・・・)

「また、お会いしましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 上条達が駆け付けた時には、既に全てが終わっていた。

「店もボロボロ、ここにいるのはハガレンの傷の男(スカー)こなた(・・・)だけ……」

「襲ったのは死んでいる傷の男(スカー)か? じゃあ柊達は他の奴に……」

「もしくは……」

 (かがみ)達を除けば、ここ数ヶ月で聞き慣れた声が耳朶(じだ)を叩き、泉の意識を覚醒へと促した。

「ぅ……」

「気が付いたか泉っ!!」

「兄さん、落ち着いて。……こなた、意識ははっきりしてる?」

 上条当麻と、その妹として転生したキノ。ぼやける視界の靄が晴れ、その姿をはっきりと視認した泉は、細めていた目をゆっくりと開けた。

「……あ、上条君。キノさんも」

「無理して話さなくていいから。……兄さん、そのまま支えてて。エルメスから鞄を取ってくるから、枕代わりにしよう」

「分かった」

 少し離れたところに停めているのか、キノはエルメスの元へと駆けて行った。その手に握られた『カノン』を見て、覚醒よりも早く、泉の脳内に先程迄の記憶が駆け抜けていく。

 

 ――突如来訪した傷の男(スカー)

 

 ――砕かれていく店内、

 

 ――(かがみ)の鎖と高良の錬金術、

 

 ――自らが放ったショットガンのゴム弾頭、

 

 ――(つかさ)の眼球を抉ってきた魔導士の男、

 

 ――辛うじて見えた焔と繭の様に包んできた鎖、

 

 ――そして……

 

「ぁ……」

 

 そして、死んでいった泉の大切な――

 

「……っ」

 詳しくは未だに分からない。けれども、上条は泉の頭を自らの身体に促した。

「――ぁああああ!! ああああ……!!」

 ただ泣いているのか、ただ叫んでいるのか。

 慟哭する泉を、上条は静かに見つめていた。そして悟る……もう二度と、

 

 

 

「ああああああああ!!!!!!!!」

 

 

 

 もう二度と、(かがみ)達には会えないことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その翌日。上条は店の近くに穴を掘っていた。

 傍らには三つの亡骸が横たわり、シートを被せられている。

 壁や床に穴が空きはしたが、二階の住居スペースに支障はなく、今も泉が部屋の中で寝ている筈だ。キノも一緒の部屋に居て寝ているか、寝られずに銃器を弄っているかもしれない。

『ねえ、なんで穴を掘っているの?』

「……分かんねえ」

 店の壁際に停められたエルメスから質問が投げられるも、上条は答えられずにいた。その間も、穴を掘ることを止めなかった。

「ただ、人間でいたいからかもな」

『穴を掘ることが、人間でいられることなの?』

「正確には……墓を作ってやること、かな」

 ザクッ、とスコップを地面に突き立て、上条は軽く伸びをした。

 そのまま自らが掘った穴の底で腰掛け、背中越しにエルメスに言葉を投げようと、思考を巡らせていく。

「もしこいつらを放置したら、俺もこいつらや、こいつらを利用しようとした奴と同じ、人を人とも思わないろくでなしになってしまう気がして、仕方ないんだよ」

『ふぅん。人間って、面倒くさいんだね』

「その通りだよ……だから」

 上条は静かに、だか力強く、両の拳を握り込んだ。

「人間だから……自分自身が許せない。もう」

 彼は叫ぶ。

「もう……守れないなんてのはごめんだ!!」

 拳を地面に叩きつけ、上条はそのまま立ち上がった。

「そいつが、そいつらが何を考えているのかは知らない。死んだ連中が敵討ちを望んでないのかもしれない! だがそれでもっ!! 止めなきゃいけないのは分かってるんだっ!!」

 上条は拳をぶつけ合わせた。まるで、自分に自信を持たせるかの様に。

「この世界に『上条当麻』はいない。俺が上条当麻(・・・・)なんだ。だったらなってやる……『上条当麻』の様な英雄(ヒーロー)にっ!!」

『何言ってるの?』

 上条の決意に水を差すタイミングで、エルメスはツッコミを挟んできた。

 

 

 

『もう、この世界に英雄(ヒーロー)ならいるじゃん。『ネギ=スプリングフィールド』っていう英雄が』

 

 

 

「……それだ」

 エルメスの言葉を無視した上条の脳裏に、一つの答えが浮かぶ。

「この世界が何処か知っているのなら、魔法使い達に必ず接触する筈だ。一方通行(あいつ)の言う通り、善だろうと悪だろうとこの世界を知っている時点で……相手より優位に立てる」

『もしもし?』

 上条は穴から這い出て、次々と死体を丁重に穴の底へと並べ直した。朝から続けていた作業だが、日暮れまでかけて穴を埋め、墓標代わりの木材の十字架を建ててから、店の中へと入っていく。

「あ、兄さんお疲れ。ご飯出来てるよ」

「ああ……泉は?」

「あそこ」

 店の厨房に立っていたキノはフライパンを振りながら食材を炒めていた。その様子を離れた席から、毛布を被った泉が眺めていた。いや、ただ目を向けていただけかもしれない。

 その目には、おおよそ生気が感じられないのだから。

「……お前の不味い飯も久しぶりだな」

「兄さんの貧乏臭い料理よりかは量があるよ」

「舐めるな。それでも味は上条さんの方が上だ」

 厨房スペースに入った上条は、冷蔵庫から飲み物を漁りながらキノにだけ聞こえる声量で話しかけた。

「……俺、麻帆良に行ってくるよ」

「理由は?」

 心なしか、調理音が騒々しくなった気がする。

「あいつ等をけしかけた奴、いや奴らかもな。とにかく、どのタイミングかは分からないけど、必ず主人公達と接触する筈だ。いや、もう接触しているかもしれない」

「……敵討ち?」

「それ以前だよ」

 上条はペットボトルを取り出してから、冷蔵庫を閉める。しかし蓋を開けないまま、指の間に挟んでぶら下げていた。

「またあいつ等が来るのを怯えて待たなきゃいけないのか。そしてまた何も守れずに悔やむのか? ……俺はもうごめんだ」

「今度こそ死ぬかもしれないよ。実際、兄さん死にかけてたし」

「かもな。……だが、何もしないよりはましだ」

 上条はふと、一丁の自動拳銃が置かれているのを見つけた。一方通行(アクセラレータ)が使っていた自動拳銃である。

「なあ、これ何て言う銃だ?」

「んー、確かVP70だったかな。多分エルメスの方が詳しいと思うけど」

 どのような心境かは分からないが、上条はその銃、VP70を持ち上げてベルトの後ろ腰部分に挟んだ。

「それ持って囮なら無理だよ。発信機の類はなかったし」

「けど普通に使えるんだろ? ならそのまま使うさ」

 今度こそペットボトルの蓋を開け、上条は一息に飲み干した。

「明日の朝、行ってくる。……泉のこと、頼むな」

「……気を付けて」

 こうして上条は、翌朝麻帆良へと向かうことを決意した。

 

 

 

 そして更に翌朝。

「私を置いていくとは何事かっ!?」

「とらはっ!?」

 決意たっぷりに歩き出そうとした上条の背中を、泉が毛布を被ったまま蹴り飛ばしたのであった。

 

 

 

 




 未だに感想が増えない……どうも、作者です。以下は活動報告の内容と同一のものです。



 以前初めて『魔法反徒ネギま』シリーズを投稿した某サイトが潰れて早数年、いやもう五年以上が経っているんだっけ。
 まあいい。私にとっては昨日の出来事だが、君達にとっては明日の出来事だ!!
 ……失礼、厨二に走りすぎました。

 とにかく、試験が終わり、有効期限が近い売却不可の年次有給も消化しようと計画している今、溜まっている小説を読むか、溜まっているネタを書きまくろうと画策しています。

 ただ、これだけはハッキリ言えます。
 色々言ってますけど、意外と感想とかコメントとか貰えると結構嬉しいんですよ。まあ、かつての某サイトの時みたいに大量に来るのもどうかと思いますが……あれはあれで嬉しかったのですが。
 しかし、当時の某サイトは本当にひどいものでしたよ。人が書いている小説に対して、自分で書く気もない批評家気取りの馬鹿が平気で『気持ち悪い』とか感想に書いちゃうのが多くて、あっさり消えちゃう人が多かったですから。
(でも消えた人の書いたらしき話が書籍化しているのを見つけたのですが……見る目も馬鹿だったのでしょうね。その批評家気取りは)
 それで、まあ……当時は若かったのでしょうね。その人に対して以下のセリフを茶々丸に言わせてみたんですよね。

茶々丸より
「皆様。いつも『ネギ、ま? え、これ二次創作でいいの!?(仮)』を拝見頂き、ありがとうございます。好評、酷評は全て拝見させて頂きましたが、その上で、皆様に諸注意があります。
 そもそも皆様は気付いておられますでしょうか? 小説情報のキーワードに記載されているものの一つ、『原作アンチ以前の問題』というものを。これはこの作品の根幹を示しているものです。ぶっちゃけてしまうと、この作品は原作全般を一切無視しています。いい意味で。
 この作品は『そういうもの』だという感じで読んで貰えればいいと思います。いい意味で。というわけで第05話、一つ的を射た感想に驚愕している作者を無視して、どうぞご覧下さい」

 ……そう言えば、タイトル決まってない内は『ネギ、ま? え、これ二次創作でいいの!?(仮)』で書いてましたね。いや実に楽しかったです。
 少なくとも、小説なんて読む方も書く方も、面白ければそれでいいと思うんですよね。創作活動なんてエゴのぶつかり合いなんだよ。オリジナルだろうと二次創作だろうと、楽しければそれでいいんです。

 つまり何が言いたいかというと……これからも好き放題書いていきますので、面白かったら感想、コメント頂けたら幸いです。活動報告もコメントを頂けた時は嬉しかったです。

 というわけで、今後ともよろしくお願いします。事故には気を付けてください。それではまた。



(……どちらかというと、UA数が増えることが一番嬉しいんですがね)
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