そして俺は太った。
あとタブレットが打ちづらい。
……おのれディケイド!!
「魔物、って……
「ううん、魔界っていう世界の魔物の子。というか思いっきり『金色のガッシュ!!』の世界だね」
「また知らない単語が……」
こめかみを押さえながらも、和美は泉に問いかけた。
「それで、どんな話なの?」
「うん。主人公のパートナー、高峰清麿が怒った時の表情、通称『鬼麿』が結構好きで――」
『だからストーリー!!』
泉の発言をぶった切って、全員が突っ込んだ。
「なあ、泉。確かにトミーとマートンの掛け合いは最高だったよ。でもいい加減にしようぜ。それでこの前も長谷川怒らせてたじゃないか」
「本当、いい加減にしてくださいね……次はないですよ」
「おおう……」
ギロリ、とネギから放たれた鋭い殺気にビビりつつも、泉はどうにか説明を続けようと口を開いた。
(今の、絶対千雨ちゃんを怒らせたことへの怒りだよね)
(後、ネギなりにイラついているのかもね。こうしている間にも、千雨ちゃんがどうなるか分からないし)
「そこ、うるさいですよ」
ネギのツッコミに、こっそりと話し込んでいた二人は口を噤んだ。
「大分端折るけど、千年に一度行われる魔界の王を決める戦いの為に、人間界に百人の魔物の子、王様候補が送られてきたんだよ。そしてゾフィスは、その魔物の子の一人なんだよ」
「傍迷惑な話ね……そんなの魔界でやればいいでしょ」
「いやいや。そこで重要なのが、魔物の『パートナー』と呼ばれる人間の存在だよ」
説明は続く。
「魔物の子はそれぞれ本を持っていてね。理屈は説明されてないけれど、その本を燃やされると魔界に強制送還されちゃうんだよ。そして、これが重要なんだけどね……
魔物の子が本来持つ特殊な力を除いて、自分や自分の本と心の波長が合う人間じゃないと術、この世界で言うところの魔法だね、それが使えないんだよ」
「つまり、千雨さんはそのゾフィスとかいう魔物と心の波長が合うから、連れ去られたんですか?」
「より正確には、その本が読める人だね。他の人には読めないみたいだし」
「……でも、おかしくない?」
ネギの質問に泉が応えていると、和美が口を挟んできた。
「確かに千雨ちゃんは捻くれているけど、さっきこなちゃんが言ってた卑劣で残虐には当てはまらないと思うんだよね。心の波長って、性格とかじゃないの?」
「ううん、性格は関係ない。さっき言った『ココ』って
「そこか一番、酷いところなんだよ」
上条も原作は知っていたのか、泉の代わりに説明を続けた。
「人の心を操る、って言ったろ。相手のことなんて関係ない、波長さえ合っちまえばいい。……後は無理矢理性格を攻撃的に変えて、強引に巻き込んだんだよ」
「ちょっと待って下さい。それって……」
……状況は最悪だった。
「おまけに波長が似ていれば強引に調整できるらしい。つまり、長谷川が未だ生きているってことは……」
「千雨ちゃんを、無理矢理パートナーにして
その言葉を最後に、ネギは千雨の
「千雨さんを召喚します!!」
しかし、反応はなかった。効力圏から既に連れ去られてしまったらしい。
「ネギ先生、それ貸してっ!!」
泉がネギから
「
すると、泉の右手に鎖が具現化し、先端に球の付いたそれが伸びて垂れ下がった。地面に
「……あれ、そう言えばこれって別の「はいそこまで」――もがっ!!」
何かを話そうとする明日菜の口を上条は片手で塞ぎ、和美にも向けてこそっと話す。
「(あいつは
無言で返す二人を見て上条が頷く。すると丁度、鎖に繋がった球が浮き、一方を指した。
「北の方へ向かって「千雨さんっ!!」――る、ね……」
方位だけ聞いたネギが千雨の
「……普通、日を跨いで色々と準備していくのがセオリーだよな。
「上条さんもいい加減理解しているんでしょう。……これが現実だよ」
和美がツッコミながら、泉達が乗ってきたステラカスタムの運転席に乗り込んだ。
「ごめん、こなちゃん。ちょっと借りるよ」
「……ま、そうだよな」
上条が頭をガシガシと掻いていると、明日菜も助手席に乗り込んでいく。それに合わせて、後部座席へと潜り込んだ。
「泉は武器持ってきてないだろ? 先に行くから、武器持って追いかけてきてくれ」
「エヴァちゃんは援軍をお願い。私も何人かに電話してみるから」
それだけ言い残して、和美達を乗せたステラカスタムは発進した。見えなくなってから、エヴァンジェリンは行動を開始しようとする。
「……大丈夫か?」
「ううん、ちょっとごめん」
が、泉に腕を掴まれてしまい、その動きを止めた。
「やっぱり駄目だ。誰かと一緒ならいいけど……一人で戦場にいると思うと、ちょっと震えちゃう」
「それでも戦えてるんだ。まだいい方だろう」
エヴァンジェリンは、ゆっくりと振り向いて掴んできた泉の手を逆に引いた。近くにある和美が乗り捨てて行った原付に凭れさせ、静かに見守る。
「今は私がいる。それに……」
少し酷かもしれないが、それでもエヴァンジェリンは、泉の右手を指差す。
「……お前の身体は、お前
「厳しいな……エヴァンジェリンさんは」
「もうエヴァでいいさ……こなた」
今迄は漫画の登場人物だと思っていた。その後は怖いけどどこか
「もう無理に距離を置かなくていい。いや、お前ももう
「うん……行こうエヴァにゃん」
「……にゃんはよせ」
照れるエヴァンジェリン。それだけで泉の、こなたの心は決まった。
「
「分かった。すぐに助けてくれそうな人を探してみるから、ちょっと待ってて」
こなたは立ち上がって、再び鎖を具現がさせた。
(かがみ、つかさ、みゆきさん……皆お願い、力を貸して!!)
「……
こなたは求めた。助けてくれる人、手を差し伸べてくれる人、希望を紡いでくれる人を。
「えっ……なんで?」
答えはあっさりと出た。
鎖に繋がれた球は勢いをつけ、ある一点へと伸びている。
その方角を見て、答えを理解したこなたは思わず駆けだした。
(そうか……そうだ。魔物なんてこの世界にはいない。
「…………?」
「…………ぞ」
野次馬から離れた所にいた二人、こなたは迷わず駆けて行った。助けを、力を貸してもらう為に。
(そうだよ。動け、これ以上のバッドエンドは要らない。いるのはハッピーエンドだけだ!!)
こなたは手を伸ばした。なけなしの力で、二人の内、一人の女性の方を。
(もう誰も、傷つけちゃいけないんだっ!!)
「お願いっ!!」
「えっ?」
当てが外れたので、別の場所へと向かおうとした時だった。腕を掴まれたのは。
彼女から見て、その女の子は今にも泣きだしそうだった。しかし、突然握られた手は力強く、またその眼も我慢強さだけで抑え込まれていた。
何事かと戸惑ったが、
「手を貸してっ!!
次の一言で、戸惑いが決意に変わった。
「大丈夫、よく頑張ったわね……」
そして彼女は、女の子を抱きしめた。
「……任せて。その為に
ステラカスタム内。
「繋がった……ナギッ!! 今大変なことに『悪いがこっちもだ……ぐぁっ!!』――ちょっと、どうしたのナギ!?」
和美が走らせる中、助手席の明日菜が助けを呼ぼうとナギに電話を入れたのだが、帰ってきたのは相手の呻き声だけだった。
『……すまねぇ、やっぱり鈍ってたみてぇだ。ラカンと敵を撃退しようとしたんだが、相打ちで手一杯だった』
「そんな……大丈夫なの、ねえ!?」
「おいどうしたんだよ!!」
「ちょっと、ナギさんっ!!」
和美や上条も思わず声を出すが、電話越しの声は一向に好調にならない。
『ちっとまずいな。敵さんもさっさと逃げ出しちまったから追撃の心配はないが、俺やラカンはもう――』
「そんな……しっかりしなさいよ!! あなたネギの父親でしょう!!」
『だよな。でも、くそ……何が
「ナギ……」
泣きそうになる明日菜だが、それでも、電話から手を放さなかった。
「大丈夫、エヴァちゃんにそっちに行ってもらうよう頼むから。だから頑張って!!」
『いや、それは別の意味で死ぬからやめてくれ。……絶対腹抱えて笑い出す』
「そう、絶対にお腹を抱えて……え、お腹?」
話がおかしくなり、明日菜は慌てて聞き返した。
「ちょっと、一体どういうことよ」
『……タカミチだ』
その言葉に、全員が首を傾げた。
『あの野郎。冤罪で暫く家追い出されたからって、腹いせに俺とラカン、後敵の二人に纏めて世界珍味麺の
説明しよう。世界珍味麺の初期型とは、アニメ『ネギま!?』に出てきたタカミチ特製ラーメンにして、
『それで今、俺達二人共近くの公園の公衆便所に居て――』
『くそっ、もう紙がないっ!!』
『馬鹿、だから出し切ってから使えって何度も――』
ブチッ!!
力強く切られた携帯電話を一度ダッシュボード上に置き、明日菜は頭を抱えながら、ゆっくりと息を吐く。
「フゥ……」
そして頭を上げ、ドアに肘を付けて頬杖をしながら、遠くを見つめ始める。
「……私さ」
そして明日菜は口を開く。
「小さい頃ガトウさんに『パートナーになるか?』って誘われたことがあったのよ。でもその時、『ナギでいい』って答えちゃったのよね……」
「虚しくなるからやめないか、もう……」
「明日菜、飲もう。今度飲もう……飲んで忘れよう……」
明らかに戦う前の空気じゃなくなった中、ステラカスタムはとうとう麻帆良学園都市を後にした。
「後、高畑先生も麻帆良に来てからの私の初恋の相手で……そりゃあ高畑先生を通してガトウさんを見てた、って言われたらそれまでだけど――」
「もうやめろ。無駄に傷付くな!!」
「明日菜しっかりして、お願いだから目をアスナちゃんにしないでっ!!」
微妙なネタバレを残しながら、彼女達の車は人気のない広野を駆けていく。
尚、仕様の為『麻帆良の北側にそんな場所ねえよ』という
「やれやれ、もう動き出してしまいましたか……いや早すぎでしょうどんだけ暇なんですかこの世界の連中は!!」
「それは夏休みだからね~仕事休める人は大抵暇だよ」
人気のない広野の筈が、数十人規模の人影が集まっていた。その中心にいる大きな帽子を被った小柄な者が、夏休みの概念を無視して叫んでいた。単に知らないだけであるが。
「まったく、前回なんて数ヶ月規模で準備できたというのに……」
「まあまあゾフィス君。さっさとやっちゃうから」
そう小柄な者、ゾフィスに語り掛ける者がいた。黒髪の長髪と長身をした、スーツの女性である。彼女は縛られ地面に寝転がされたまま気絶した千雨に向けて左手を伸ばして触れ、右手を何もない方の地面に向けた。
「
女性の呟きと共に、右手の先にあるものが具現化した。身体だけ複製された千雨である。
「そんで
向けていた手を平から甲に裏返して、千雨の複製に触れさせる。その触れた部分には、右手の甲に浮かんだ月の刻印が鏡写しにして残されていた。
本来、
「ほい完成。こんなものだね」
「ええ、ありがとうございます。……後は簡易的に心を複写して操るだけですね」
そして今度はゾフィスが、複製千雨の頭に掌を向けて心を操り始めた。
(……ありゃ、もう限界だったみたい)
女性の中で、
(まあ、無理矢理奪ったやつの借り物だから、強引に使ってたら長くは持たないか。スカにも後で言っとかないと)
「じゃあ、もう帰るから頑張ってね」
「ええ、ありがとうございました。……ところで」
洗脳を終えたのか、立ち上がったゾフィスは女性の方を向いた。
「一体あなた方は、何が目的なんですかね?」
「……ああ、今回はちょっとしたテストだよ。それももう終わったけどね」
そう言って彼女は、ゾフィスに背を向けて歩きだした。
「というわけでもう助けないけど、別に大丈夫だよね?」
「まあいいですけど……裏切って後から攻撃、なんてのはなしですよ」
「もっちろん~そっちもピンチになっても泣きつかないでね~」
地面に浮かび上がる魔法陣。
その上に乗った黒髪の女性は、魔法陣の光と共に姿を消した。
「……うぇっ」
転移した先で吐き気を催しながら。
(けど、食べる振りだけでもここまで気分が悪くなるなんて……恐るべし、世界珍味麺)
「……では、私ももう行きます」
気絶した、本物の方の千雨を抱えたゾフィスは、後ろにいる
「彼らから提供された戦力の残りは置いていきますので、仕事を終えた後はどうぞこの世界でご自由に。『私』」
「フフフ……ええ、あなたも頑張って下さい。『私』」
複製ゾフィスと複製千雨、そして周囲の複製人間に見送られながら、ゾフィスはこの場を離れていった。
(さて、この世界の魔法とやらを学びつつ戦力を整えて……魔界へと凱旋しましょうか)
悪意は着実に広がっていく。誰かが止めない限り……
基本的に一話4500字を目安にしていますが、最近何故か6000字まで行ってしまいました。取りあえず展開力が欲しい。