魔法先生ネギま 雨と葱   作:朝来終夜

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第20話 届けられずとも押し潰して……

 ゾフィスは千雨を連れたまま、北へ向けて浮遊していた。ある程度大地を掛けた後、ふと何かが近づく気配を感じ取り、近くの岩場に着地した。

「まっすぐこちらに来るとは、一体……なっ!?」

 千雨を地面に降ろした直後、突如魔法陣が地面を描き、千雨を包み込んでしまう。その魔法陣の光が消え去ると、同時に千雨も姿を消していた。

「この現象……そう言えば」

 顎に手をあて、事前にジェイル・スカリエッティ(あの男)から説明されていた内容を反芻し、必要な記憶を引き出す。

「確か仮契約すると、従者を召喚できるんでしたね。となると……」

 ゾフィスは再び浮き上がり、周囲を見渡して近づいてきた存在を確認した。

「……まあいいでしょう。私が近づくまでは彼女(・・)が相手をしてくれる筈ですしね」

 ゾフィスは千雨()がいるであろう方角を把握し、そのまま浮遊して向かっていった。

 

 

 

「漸く召喚できた。……千雨さんっ!!」

 特に外傷はなかった。

 部屋着であろう、ブラウスとスラックスの簡素な恰好で気を失っていた。右手に濃い赤紫色の本を抱えているが、ネギは気にせず千雨の上半身を抱え上げる。

「千雨さんっ、しっかりして下さい千雨さんっ!!」

「……ぅ」

 重くなる瞼を抉じ開ける様に、千雨が目を覚まそうとしている。

「良かった……」

 その様子を見て、ネギは安堵の息を漏らす。

 ――カチャッ

 が、千雨の空いた左手が動くのに気付くことはなかった。

 

 

 

「……なあ、ちょっと聞いていいか?」

 携帯を仕舞いつつ、上条が問いかけてくる。

「なぁにぃ、今人生の残酷さと初恋の虚しさについて考えてるんだけど」

「悪いがそろそろギャグパートは終わりだ。シリアスに切り替えてくれ」

 未だに切り替えきれてない明日菜を置いて、代わりに運転中の和美が対応した。

「どうしたの、上条さん」

「ネギ先生って、車より足が速いのか?」

 その言葉を聞き、和美が現在の速度を確認する。

「例え杖で飛んでも、確か自動車と同程度。ゾフィスと接触すればその場で停まる筈……方角がずれてる?」

「可能性がある。アーティファクトで偵察……する必要もなさそうだな」

 和美も前方にいる者達を見つけ、ハンドルを切ってからブレーキを掛けて車を停車させる。

「ネギはいないみたいね。別の方角かしら?」

「シリアスに切り替わってくれて助かったよ。……場所を探せるか?」

「探すまでもないわよ。さっきまで見てた方で、微かに発光しているのが見えた。真っすぐ前にいないなら多分……」

 前方の人物達が近づいてくる。相手の戦力が前方に集中していればいいが、もしここで戦闘になると、別の場所にいるネギは一人で敵に立ち向かう羽目になってしまう。

「車は止められたら終わり。そうなると……俺が囮になる」

 上条は車から降り、軽く肩を回した。

「お前達は先に……降りろっ!!」

 その叫びを聞く前に、明日菜達は車から飛び出していた。

 キィン、という音を立てて飛んできたレーザーが、車を縦に切り裂いていく。

「無事かっ!!」

「何とかっ!! 朝倉はっ!?」

 降り立つと同時にハマノツルギ(エンシス・エクソルキザンス)を構えた明日菜は、刀身を盾にしながらしゃがみ込みつつ、反対側の和美の方を向く。

「こっちもどうにか……」

 すると今度は、和美の方から指示が飛んできた。

「明日菜行ってっ!! 明日菜だけ走った方が早いっ!!」

 明日菜は上条の方を向き、頷いて来たのを見て頷きを返し、ハマノツルギ(エンシス・エクソルキザンス)を再び仮契約(パクティオー)カードに戻す。

「ごめんっ!!」

 咸卦法を用いて駆け出した明日菜を見送り、上条は和美よりも前に出た。運転席側とは反対に駆けだした明日菜は気付かなかったが、和美は地面にしゃがんだまま動こうとしていない。

「……逃げてもいいぞ。後続を呼んでくれるだけでもこっちは助かる」

「それも有りなんだけどね。……ごめん、さっきので足痛めた」

「マジかよ……」

 ただ囮になるだけでは駄目だ。まともに動けない和美も庇わなければならない。

 軽く首を鳴らしてから、上条は両の拳を握り込む。

「この身体に転生してから貧乏籤ばっかりだな……ハア、不幸だ」

「ちょっと~こんな美人相手に騎士(ナイト)気取れるんだから、不幸はないでしょう?」

「残念、もう惚れてる女がいるんだよ。他はセクシーショット以外お呼びじゃねぇな」

 握った拳を構えた頃には、向こうも近づいてきていた。

 

 

 

「フム……」

 複製ゾフィスが軍勢を引き連れていこうとすると、前方に車があるのを見かけた。こちらを見たからかは知らないが、向こうが急停車したのでとりあえずと、車を破壊するように命じたのだ。

 関係があろうとなかろうと、これから行うことの為には、目撃者はいない方がいい。そう考えて、複製ゾフィスは進軍方向を微調整した。

「一人駆けて行きましたか。……まあいいでしょう。どうやら『私』の方に向かっているようですし、そちらでなんとかしてもらいましょう」

 その言葉の後で、複製千雨が本を構えた。開かれた濃い赤紫色の本は鈍く輝きだす。

「複製した魔本のテストには丁度いいですしね……」

「……ラドム」

 複製千雨の言葉を引き金に、複製ゾフィスの右手から放たれた火球は、真っすぐに車に乗っていた人物へと向かっていく。

 

 

 

「先手必勝かよっ!!」

 まだ少し距離があるが、姿が見えてきたと思えば向こうから火球が飛んできた。上条は右手を構え、火球にぶつけて打ち消す。

 バキン!!

「よしっ、幻想殺し(イマジンブレイカー)が効く!! これも異能の力か!!」

 そう叫んでいる上条に向けて、和美が疑問を投げかけた。

「ふと思ったんだけど、上条さん、昔話よりも度胸ついてない?」

「……いや、どっちかというと半分自棄(やけ)だな。後催眠学習で『ビビると人が死ぬ~ビビると人が死ぬ~』って泉の奴に半年位寝耳に囁かれてみろ。あっという間に鉄砲玉の完成……不幸だ」

「しかもそれが惚れた相手だと、猶更辛いよね~」

 上条は鋭い視線を後ろにいる和美に投げた。

「言うなよ。全部片付くまで言うつもりはないんだからな」

「大丈夫だって、ちゃんとばらす相手は選ぶからさ」

 

 

 

 複製ゾフィス達が車付近に到着すると、何故かこちらを無視して、向こうは何やら言い争っていた。

「いや、誰にも言うなよ!! てかその辺りは(ぼか)してたんだけど、そんなに分かりやすかった!?」

「多分おっぱいがなかったら本人に筒抜けだったと思うよ。というか、内心こなちゃんも上条さんのことを想ってるんじゃないかな? エロに対して過敏に嫉妬していたし」

「マジでっ!? 上条さんにも漸く春がっ!?」

 さて、どうしたものかと複製ゾフィスは思うも、向こうは頓着せずに未だに言い争っている。

「いやでも愛想尽かされるんじゃないかな~上条さんおっぱいに目移りしてばっかりだし」

「そんなことはないぞ!! 上条さんはこれでも結構一途「チラリ」――ブッ!?」

 和美は胸元を広げた。上条には効果抜群だった。

「フゥ、フゥ、フウ……大丈夫、フェチは別腹」

「……だからモテないんだよ上条さん」

 しかも、一切意識を向けることなく話し込んでいて、まるきり眼中にないかの様に振る舞われていて、どうしたものかと考え込んでしまう。

「いや巨乳の谷間チラ見せされたら誰だってそうだからね!! 大体お前だって昔京都でネギ先生相手に生乳使ってたじゃねえか!!」

「独占取材の為ならいくらでも使ってやろうじゃん!! でも皆には内緒ねじゃないと即ハリセンリンチだから!!」

 段々話がずれてきているのを感じ、複製ゾフィスは徐に右手を挙げた。

「じゃあこのことはお互いの秘密ってことで!!」

「よし取引成立!!」

「……もういいですか?」

 複製千雨に合図を送る。その瞬間、彼女の持つ本が輝きだした。

「……ラドム」

 そして複製ゾフィスの掌から、再び火球が放たれる。その一撃は和美と上条の間に炸裂し、二人の間に土埃を生み出した。

「それで……時間稼ぎして何とかなると思ってるんですか?」

「ああ、やっぱりばれるか……」

 和美の姿を確認できないが、着弾点から離れた場所にいるのは知っていたので、上条は頭に手を当てながら複製ゾフィスの方を向く。

「もしかしてあなた方も彼らと同じ存在ですか?」

「転移者の類とかなら正解……そうか、やっぱりお前は違うのか(・・・・)

「ふむ。確かに、彼女達(・・・)の仲間ではありませんね」

(そういう意味じゃないんだけどな……てか彼女?)

 ふと気になる発言が聞こえたが、上条は一度流して複製ゾフィスに向き合う。

「転移者、ですか。少し詳しく聞いてみたいですね」

「そんなにいいものじゃねえさ。……目的は何だ?」

「おや、私の正体は知りたくないので?」

「魔界出身の魔物、ゾフィスさんだろ? 本物か複製かは知らないけどさ」

 その間にも、上条は視線を巡らせて周囲の状況を探る。

(分かっちゃいたが……やっぱり『うえきの法則』の登場人物達か)

 上条自身も、前世でその漫画を読んだことがあったが、如何せん昔の話なので記憶が曖昧となっている。唯一そうだと理解できたのは、主人公の仲間という準主役級も混じっていたからだ。

「よくご存じで、因みに私も彼女も複製ですよ。まあ、この世界(・・・・)で生きていく分には問題ないですがね」

「複製ね……てことは、放っておけば消えるのか?」

「まあ、一時的なものですからね。……なのでどいていただけませんか?」

 周囲の空気が変わる。全員が能力を行使しようと身構えたからだ。

「じっくりとリハビリする予定の本物と違って、時間がないのですよ。これから麻帆良学園に行って、魔法使い達から魔法を学ばない(盗まない)と」

(条件は違うが、やり口は一方通行(アクセラレータ)達の時と一緒か……)

 この時点で既に(・・)、ゾフィスは転移者の類ではなく、純粋な魔物であることは分かっていた。魔本を使う理由は術を使う為であり、その本を読ませるのに、千雨が必要だったのだと。

(問題は、どうして、どうやってこの世界に来たかだが……一体何を考えているんだ?)

 魔本を含め、敵対者達の背景が見えない。流石にそこまでは把握できていない上条だが、やることは見えていた。

(そんじゃま、複製相手に時間稼ぎしますかね)

 右手で複製ゾフィスの術は消せた。周囲さえ気にしなければ、恐らくはディオガ級も対応できるだろう。おまけに複製ならば、右手で触れるだけで簡単に倒せる。

「しかし、あなた方は一体何者なのですか? 見た所、魔法使いとか言う連中ではなさそうですが」

「ただの通りすがりだ。覚えなくていいぞ」

 と、格好つけてはみた上条だが、内心では相手の戦力を冷静に分析した。

 人数は30人程、しかし準主役級や主人公を最低一度は追い詰めたレベルの敵で占められており、単純な質より量という訳ではないらしい。

 対して、こちらは右手の幻想殺し(イマジンブレイカー)と左手の時計屋(ウォッチメイカー)のみ。接近戦なら相性の関係もあり最強だが、遠距離だと衝撃以外を殺す盾にしかならない。

 泉から『最強ノ援軍キタ――(゚∀゚)――!!』との電話はあったが、運転中なのかすぐに切れてしまった。正直やってくる時間どころか、向こうが場所すら把握しているのか怪しい。辛うじてゾフィスが転移者の類じゃなく本物の魔物であることや、諸事情で本物の魔本は燃やすな(・・・・)とは言われたが――

「――ああっ!! 神楽坂に伝えるの忘れてた!!」

「ちょっと上条さん!! 何伝え忘れたの!?」

「……マホンモヤスナ」

「声が小さいっ!!」

 むしろ複製ゾフィスに聞こえなかったのは良かったと思うが、それくらいの弱点は向こうも把握しているだろう。おまけに目の前にあるのは複製なので、燃やそうが右手で触れようが消滅するのに変わりはない。

 いや、複製ゾフィスの場合、本を燃やしたら消滅するのか魔界に帰還するのかは分からないが。

 けれども、今は複製ゾフィス達だ。

「さて、いいかげん始めますか……やりなさい」

 距離を置いて、複製された能力者達が各々の能力を放ってくる。

「……そういえばさ」

「何?」

 レーザーが、隕石が、杭が、鉄球が。鉄のブーメランから爆弾と化したビーズに至るまで。あらゆる飛び道具が上条達へと向かってくる。

「漫画じゃそこまで詳しく描かれてなかったから分からないんだけどよ……お前、長谷川とそんなに仲良かったっけ?」

「いや普通、ちょっと色々あってさ……でも」

 いつの間にか、煙は晴れていた。

 攻撃を迎え撃とうと右手を翳す上条の後ろで、和美は痛む足を堪えながら立ち上がる。

「これだけはハッキリ言えるかな……」

 レーザーで真っ二つになった車に凭れながら、

これ以上(・・・・)、あの娘を泣かせはしない。千雨ちゃん泣かせる奴は……全員ぶっ飛ばす!!」

 空いた手で複製ゾフィス目掛けて中指を突き立てた。しかし、勢いに乗った啖呵が切られたからといって、攻撃が止まるという訳ではない。

 恐らく上条を越えていくつか攻撃が降り注ぐかもしれない。それでも和美は、攻撃から目を逸らすことはしない。

「いや啖呵切ってないで動ける限り逃げろって!! 流石に捌ききれない!!」

「ごめん上条さん。けど私は……もう逃げないって決めたからさ」

 攻撃が迫る。

(やれやれ……)

 中指を立てていた手を背中に回す。もう他に手はなかったから。

 

 

 

また(・・)届けられないのかな……)

 

 

 

 内心でぼやく和美。

 その絶望を――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――アイアン・グラビレイ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――重力の塊が押し潰した

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