魔法先生ネギま 雨と葱   作:朝来終夜

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第21話 昔重力をテーマにオリジナルの小説を書いたことが……え、聞いてない? そうですか……

 押し潰されていく。

「な、な……」

 複製ゾフィスは驚愕で目を見開いた。いや、むしろ飛び出していた。決してあり得ない光景が眼前に広がっているからだ。

 口笛のレーザーが、BB弾の隕石が、綿の杭が、土の鉄球が。手拭いでできた鉄のブーメランからビーズの爆弾に至るまで。複製された能力者達の攻撃が次々と押し潰されていく。

 押し潰されていく脅威を目の当たりにしていた和美の横を、一台の原付が通り過ぎた。

「イェイ、助っ人参上!!」

 千雨の原付に乗ったこなたがハンドルを切ると同時に、後部から飛び降りたドレスの女性が、一緒に走ってきた毛皮のような服を着た黒い少年と共に、上条を挟むように立ち止まる。

 そして首を左右に振り、誰かを理解した途端に上条はこなたの方を向いた。それも勢いよく。

「い、泉、さん……」

 微妙にドヤ顔しているこなたに向けて、上条が叫んだ。

「お前……どっから連れてきたんだよこの最強コンビ(ジョーカー)!?」

「ナンパしました!!」

『フザケルナッ!!』

 原付に乗ったまま片目ウィンクのピースサインを決める泉にツッコミが入った。上条と複製ゾフィスが同時に叫んだ気がしたが、気にすることなく話は進む。

 横で喚いている上条に構うことなく、黒い少年の魔物、ブラゴが前に出る。

「ゾフィス、俺は言ったよな……」

 ポケットに手を入れたまま歩き、重力で抉られた地面の前で立ち止まった。

「魔界に帰ってからも、俺から逃げ続ける生活を送りたいか、と。まさか別の世界にまで逃げ出すとはな。少しは根性があったということか?」

「ふ、ふふっ、ふはははは……!!」

 複製ゾフィスは笑い出す。

 目の前にブラゴがいる。

 かつて、自分を追いつめた魔物の子。魔界の王を決める戦いの優勝候補。戦いに出た者の八割が恐れた存在。偶然とはいえ、魔界からこの世界へと転移した自分を追ってきた、最強の狩人(ハンター)

 それを前にしても尚、複製ゾフィスは笑った。

 今の自分には戦力がある。千年前の魔物を率いた時とは違うが、それでも絶対の切り札がある。今の自分には勝算しかない。しかも……

「知っていますよ!! 魔界とは違う環境のせいで、私と同様に魔本を使わなければ術が使えないことも。おまけに……」

 複製ゾフィスはブラゴの次に、彼の魔本を持った女性の方を向いた。

 見た目こそブラゴのかつてのパートナー、シェリー=ベルモンドにそっくりだが、ここは以前戦った人間界とは別の世界。どうやって見つけたのかは知らないが、それでも本人とは別の人生を歩んでいるだけの、よく似たただの女の筈だ。術は使えても、まともに戦える保証なんてありはしない。

「私達でさえ『ココ』を用意できないので近しい人間を強引に仕立てたのですよ。何処から連れてきた馬の骨かは知りませんが、あの女と違って戦えないでしょう。

 やってしまいなさい!!」

 その言葉を引き金に、数人の複製された能力者達がブラゴ達に接近した。

「……BB弾を隕石に変える能力」

「……トマトをマグマに変える能力」

 隕石とマグマが接近してくる。距離も近く、先程の様に『アイアン・グラビレイ』で捌く暇はない。

「このやろっ!!」

「ちぃっ!!」

「グラビレイ!!」

 上条が前に出て右手を振るって隕石を消し飛ばし、ブラゴから放たれた術がマグマを押さえこんだ。

 しかしその隙間を縫って、術を唱えた女性に複製された能力者達が押し寄せる。

「これで術が使えないあなたの負けです。そのまま魔界に帰れ!!」

 複製ゾフィスの声に呼応するかの様に、彼らは女性に襲い掛かる。

「……土を大鎌に変える能力」

「……竹みつを大鋏に変える能力」

「……指輪をロケットに変える能力」

 大鎌が、大鋏が、ロケットと化した拳が女性に襲い掛かる。

「そいつら全員作り物だから遠慮はいらないよっ!!」

「馬鹿めっ!! そいつに何ができるっていうんですかっ!!」

 ……しかし、複製ゾフィスは気づかなかった。

「あら……」

 その女性は左手で本を持ち、右手で鉄球のついたフレイル(・・・・・・・・・・)を握っていたことに。

 

 

 

「……久しぶりに(・・・・・)会ったのにつれないわね」

「は?」

 

 

 

 複製ゾフィスは一瞬、ポカンとする。

 しかし、そんな言葉をかけてきたブラゴのパートナーから気を逸らすことはなかった。

 彼女がフレイルをロケットにぶつけて軌道を逸らし、大鋏と相打ちにさせてから大鎌を跳躍のみで躱してブラゴの隣に立った瞬間も。

「……少し鈍ったんじゃないのか。シェリー(・・・・)

「あら、ごめんなさい。あまり運動する機会がなかったのよね――」

 ブラゴの黒い魔本が異常なまでに輝きだすことも、ブラゴが呼んだ名前まで同じであることも。

「――まあリハビリには丁度いいでしょう。アイアン・グラビレイ!!」

 ブラゴの手から放たれた重力の塊が複製された能力者達を押し潰した。その威力が凄まじかったのか、圧迫された途端に粒子となって消えていく。

「ま、まさか、まさか……!!」

「……術の方はもう少し、ってところかしら。それで、あなたは戦えると考えていいの?」

 驚愕する複製ゾフィスに構うことなく、女性、シェリー=ベルモンドは上条の方を向いた。先程右手で相手の攻撃を消し飛ばしたのを見た為に、戦えると見て問いかけたのだろう。

 それに上条は軽く手を振って答えた。

「あいつら相手に接近戦なら相性抜群。その代わり武器も飛び道具も使えない。遠距離戦だと盾になるのが精一杯、ってところか」

「なら十分ね。前に進むか、下がって彼女達を守るのかは任せるわ。但し合図をしたら必ず下がりなさい」

 フレイルを握り直し、軽く肩を回しながら、シェリーは眼前の敵を見据えた。

「最近無駄な見合いが立て込んでて、丁度ストレスが溜まってたのよね……」

 ……淑女に似合わぬ、獰猛な笑みを浮かべながら。

 

 

 

「ま、まさか……あの人間界から使い手(シェリー)を連れてきたというのですか!?」

 複製ゾフィスは戦慄していた。それこそあり得ない話だからだ。

 この世界に来たのだって、偶然の産物にすぎない。

 元々は何かの実験だったのだろう。ジェイル・スカリエッティ(あの男)に呼び出されたからこそ、この世界に来ることとなったのだ。しかも、相手は魔界の住人そのものを呼び出すことが目的だったのか、誰が来ようと関係なかったらしい。

 しかしそれはゾフィスにとっても同じことだった。今までブラゴの目に怯えながら過ごす日々だったが、世界そのものから抜け出してしまえば恐るるに足らない。術に関しては仕方ないと思うが、世界を移る時に何故か手に入った魔本を使えば術が使えるかもしれないと、本の使い手を探し出したのだ。魔本を用いて術を使えること自体は先程確認した。その事実と彼らから得た戦力、そしてこの世界に関する情報を用いて、この世界で力をつけることを決意したのだ。

 複製である自分自身は試しに作られたスペアプランみたいなものだが、やること自体は本物と大して差はない。必要なのは戦力だ。その為に偶々残っていた、かつての使い手であるココの髪の毛から得たDNA情報を元に使い手を検索した。譲り受けた戦力に関しても、前回の戦いで用いた千年前の魔物達とは勝手が違うが、一部の使いどころか難しいものを除けば、ある意味で優秀とも言える。

 その使い手自身も、本物曰く『以前のココよりも使える』らしいので、後で確認してみるのもいいだろう。

 複製である自分に本来本物が受け取った筈の戦力を全て渡されたのもそれが理由だ。複製であるからこそ、時間制限がある自分が囮役を買って出たのだ。とはいえ、昨日の情報検索の為の囮作戦を外側から眺めていただけでも大まかには把握できた。

 AMFを用いるだけでこの世界の敵、魔法使いの連中は簡単に無力化できる。さすがにあの男と同じ存在である者達や魔法に頼らない人間に関しては対応外だが、それは他の戦力で十分対処できる。

 ……筈だった。

 けれども、そもそもの計算外は魔界にいる筈のブラゴが、以前魔界の王を決める戦いの為に訪れた人間界に一度寄り、かつての使い手であるシェリーを連れてこの世界に乗り込んできたことだ。最初こそ驚きはした複製ゾフィスだが、一度冷静になればそれこそ頭が冴えてきている。

「ふ、ふふふ……ならば見せてあげましょう。私の切り札を!!」

 そう、自分も術を使えなくなるが、それは相手も同じことだ。

 複製ゾフィスが指を鳴らすと同時に、ガジェット・ドローンの群れが複製された能力者達の間から出てきた。昨夜の倉庫で大半を失いはしたが、元々自らの術も封じられるという諸刃の剣、いざという時の防御手段に残した数台は保険にと残しておいたのだ。

 展開される『Anti Magi-link Field』により、この周辺で魔法を使うことは困難となる。それは魔物の術とて例外ではない。

(……調べ間違えてないですよね? その辺りは信用していいんですよね!? ……というか、先に試しておけばよかった)

 しかし、その根拠となるのはジェイル・スカリエッティがゾフィス自身を調べた上で、体内に潜む術の源にも対応できると聞いただけに過ぎない。

(まあいい……そうなったらそうなったで、最後ははったりで誤魔化す!!)

 内心で若干情けないことを考えながらも、複製ゾフィスは声高らかに叫んだ。

「さあ、これであなたも術が――」

 バキンッ!!

「――つか、え……え?」

 ……筈が、シェリーが放ったフレイルのスパイクにより、うちの一台が破壊されてしまう。

「物理的には壊せるのね……」

 試しに、と放ったのだろう。シェリーは呆れながらスパイクをフレイルの先端に巻き戻していた。

「ついでに言えば、範囲外から一定以上の威力で撃てば消される前に破壊できる。多分ギガノ級以上ならいけるんじゃないかな?」

「あら、そうなの?」

 とはいえ、それでも直接ぶん殴る気満々なのか、シェリーはフレイルを軽く振っていた。その横で上条も指を鳴らしてから、拳を軽く打ち合わせている。

「そんじゃま、行きますか」

「フン」

 軽く鼻を鳴らしたブラゴと共に、複製された能力者達へと駆けだしていく。

 

 

 

「うわぁ~すごいことになってるな。あっ、上条さんがナルシストっぽい髪の長い男の子をぶん殴った」

「はいはい、怪我人は大人しくしててね……癒す親指の鎖(ホーリーチェーン)

 原付から降りたこなたは和美を一度地面に座らせると、十字架のついた鎖を具現化させて怪我をした足に巻き付けさせた。

「とはいっても、自然治癒能力を一時的に強化しているだけだから、応急処置にしかならないよ。後使い過ぎると、多分寿命削れる」

「……怖くなること言わないでよ。ところであの眼鏡の女の子が掲げているフリップ何?」

「あ、やばい。それ全部従ったら洗脳されるから気を付けて!! 後ウンコもないし、手首を擦り合わせても別にいい匂いしないから!!」

『誰が引っかかるかっ!!』

 何故か複製ゾフィスも含めてのツッコミが飛んだ気がしたが、ブラゴは一人我関せずとばかりにガジェット・ドローンを殴り壊していた。

「弱いな……」

「なら、あっちはどうお兄さん。軍隊仕込みに武器豊富、おまけにあの男は確か六本腕」

 そう言って上条は銃器を構える五人組を指差し、ブラゴに教えてからカラオケマイクを持った男に右手を打ち込んだ。

「シェリー、あの鉄屑共を片付けてろ。術は使わなくていい」

「ブラゴ、遊んでないでさっさと片付けなさい」

 そういうシェリーも中華服を着た男をフレイルで殴ってから腹を蹴り飛ばし、その勢いでスパイクを飛ばした。スパイクは寸分違わずガジェット・ドローンに当たり、機械片をあちこちにばら撒かせている。

「さてと、あっちは大丈夫そうだし……朝倉さん動ける?」

「うん……大丈夫そう」

 足に巻かれた鎖が解けると、和美は立ち上がって軽く踏み込んだ。特に痛みはなく、和美は一つ頷くとこなたの方を向く。

「ところでちょっとお願いがあるんだけど……聞いてくれる?」

「どうするの?」

「ふっふ~ん」

 和美は、懐から取り出したあるものをこなたに見せる。それは、今朝千雨から受け取った、彼女曰くの切り札であり、

「……なんで持ってるの、それ(・・)

「これ用意したの、やっぱりこなちゃん達だったんだね。上条さんの話を聞いてから薄々勘付いてたけど」

 こなた達が用意したそれを強く握り込む。そして和美は振り返り、複製ゾフィスを睨み付けた。

「接近するしかないけど、『HUNTERxHUNTER』の通りなら大丈夫かな、って」

「まあねぇ・・・・・」

 こなたは再び原付に跨り、エンジンを掛ける。

「ほいじゃま、乗ってよお客さん」

「ほいほい」

 和美は後部座席に跨り、こなたの肩に手を回す。

「ではでは、安全ルート(・・・・・)でしゅっぱーつ!!」

 少し遠回りする感覚で、二人を乗せた原付が走り去っていく。

 

 

 

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