「そろそろか……」
ブラゴは巨大ロボットの手をもぎ取り、
「そうね……下がりなさい!!」
「ちょっと待って!!」
最後のガジェット・ドローンを破壊したシェリーに一喝された上条は、浴衣を着た男が振り被った鉄棍棒を殴り返してから慌てて駆け下がった。
「いいぞ、やれ!!」
「ブラゴっ!!」
シェリーの持つ黒い魔本が輝きだす。
その輝きに応じて、ブラゴの手が魔力に汚染されていく。
「――バベルガ・グラビドン!!」
そしてブラゴの術が放たれた。
巨大な壁が複製された能力者達を押し潰していく。
ガジェット・ドローンが存在しない為、AMFで術を防ぐことは適わず潰されていった。
『俺が死んでも、第二第三のヒデヨシが……』
「……似顔絵?」
レーザーで真っ二つにされた車の陰に隠れていた上条の横で、猿に似た顔の男の似顔絵が消えていき、何故か一緒に漏れ出た声と共に消えて行った。
「そう言えばいたな、最後にいいとこ持ってった奴。……あれ、二人は?」
「バイクもないし、怪我の程度を見て一度帰ったんじゃないの?」
「いや……」
本を閉じて一度上条の元へと下がってきたシェリーが応えてきたが、一緒についてきたブラゴがそれを否定した。
「……どうやら違うみたいだ」
指差された先に残された轍は、上条達が来た方角から丁度垂直に伸びていた。
「や、やばい。やばすぎでしょう……」
複製ゾフィスは恐怖のあまり、気持ちが沈み始めていた。
頼みの綱のガジェット・ドローンはない。というか、まともに試す前に物理的に破壊されてしまった。複製された能力者達も先程の術で一掃されてしまい、もう残っているのは隣にいる複製千雨だけである。
(こうなったら逃げるしかない)
「そう、逃げるしかない……」
心の声に従い、複製ゾフィスは脳内で逃げる算段を弾きだそうとする。
(しかしこれでいいのか? また逃げ出すのか?)
「し、しかし……私ではブラゴには……っ!?」
歯噛みするも、心の声は止まらない。
(だがもう逃げられない。手強い魔物もいない。心を揺さぶる材料もない。こうなったら、もう死ぬしかない)
「そう、死ぬしか……ってあれ? 何故私はそんなことを?」
疑問に思うも、心の声は止まらない。
(いやいや、生きていてもブラゴから逃げ続ける運命だって。魔界に帰っても、この世界に残っても結果は変わらないよ。そもそも、この世界で魔法を覚えても、どうせ全部重力であっさり押し潰され――)
複製ゾフィスは勢いよく後ろを向く。そこには手をメガホン代わりに狭めて声を送り込むこなたがいた。
「……どうして、ここにいるのですか?」
「ふっふっふ~、こっちには安全ルートを探れる鎖があるのさ、っと!!」
その言葉と同時に、こなたの右手に鎖が具現化され、複製ゾフィスへと伸びた。咄嗟に浮遊して避けようとするも
「ぎゃふっ!?」
「それで私は
時間稼ぎ、と聞いた複製ゾフィスは慌てて複製千雨の方を向く。しかし、彼女の存在は既に希薄なものと化していた。
「全く、肖像権の侵害だよね。……そう思わない、千雨ちゃん」
複製ゾフィスの視界に映っていたのは、複製千雨を後ろから抱きしめた和美が、右手に握っていた何かを首筋に当て、そこから存在を破壊している景色だった。
「な、何故……何故消えているっ!?」
「それが異能の力なら……」
和美は自慢げに手に握っていた一発の
「確かに『
「まさかっ、さっきの男の……!?」
上条の戦闘を思い出し、その能力がすぐ近くに来ていることに複製ゾフィスが驚愕する。しかし間髪入れずに、和美は弾丸を指で弾いた。
「という訳で人のセリフは私のものっ!」
受け止めた弾丸を握り込み、辛うじて上半身を起こした複製ゾフィスに向けて、指の間に挟んだ
「――千雨ちゃんを泣かせる幻想は、この和美お姉さんが全部ぶち殺すっ!!」
「ごはっ!?」
殴り飛ばされながら、複製されたゾフィスという幻想は粉々に砕き殺された。
同時に、複製千雨が持っていた本が背後で燃え出していたが、和美は構うことなく弾丸を懐に仕舞い込む。
「……でも二人共、実質一ヶ月位しか差がないよね。誕生日」
「生まれたのは私が先だからOK!!」
複製ゾフィスが消えたと見るや、向こうの方でシェリーと上条を両肩にそれぞれ抱え上げたブラゴが、明日菜が駆け出した方へと走り出した。もうここに用がないと見て、本物の方に向かったのだろう。若干恨めし気な苦情が響いてきているが。
「じゃあ私達も急ごうか。……にしても、この弾丸どうやって作ったの?」
「ああ……前に上条君の右手が切り落とされた時に、捨てるのももったいないからって指切り落として磨り潰しても効果があるか調べたんだよ。それで効果があったから、弾丸の先端に
「……ちょっと待って。じゃあなんでその右腕が普通にあるの!?」
「再び生える仕様です」
原付を起こしながら、右手でサムズアップをかますこなた。その様子に呆れながら、和美は後部座席に腰掛けた。
「じゃあ私達も急ごうか」
「うん。……でも、大丈夫じゃないかな?」
「なんで?」
「いや、よく考えたらさ……ネギ君は
振り返るこなたに、和美は明日菜がいるだろう方角を指差した。
「……だったらもう解決しているんじゃないの?」
――その方角の空に、稲光が瞬くのが見えた。
「……うわ、本当に当たった」
「こんな時に当てずっぽう!?」
時は戻る。
「ち、さめ、さん……?」
目を覚ましたと思い、ネギが顔を近づけたのだが、目が合ったのは、
「どうして……?」
千雨の持つSIGP230の銃口だった。
「……ッ!?」
千雨の指が動くのを察し、ネギは銃口を捌くも、放たれた銃弾は彼の顔を掠ってしまう。そして彼女は転がりつつネギから距離を取り、再び銃口を向けてきた。
「一体どうしたんですか、千雨さんっ!?」
「……れ」
ネギは叫ぶも、千雨からの返事は銃声だった。
「
無詠唱呪文で魔法障壁を形成し、放たれた銃弾を弾く。幸か不幸か、千雨の腕が良くて狙いが正確な為に、咄嗟に急所を覆う様に守ったネギの判断がその命を救った。
「……っ!」
しかし、それは裏を返せば、千雨がネギを殺そうとしたことになる。
「……も」
「千雨さん……」
ネギは身構えるが、千雨の言葉には意味をなさなかった。
「よくも……よくも私の人生を壊してくれたな!!
「千雨さ……っ!?」
突き刺さった言葉に迷ったせいで、ネギの反応は遅れた。
千雨が投げつけてきた小型の閃光弾で、ネギは目を晦ませてしまう。陽光に照らされて元から明るくなければ、視界が暫く使い物にならなかっただろう。しかし、千雨にとってはそれだけで十分だった。
「ひゅっ!!」
「っと!?」
千雨の掌底を捌くが、返しで抑え込むことができない。ネギが手を出すのを躊躇ったのもあるが、SIGP230が未だに彼女の手の中で狙ってくるので、意識が分散してしまっているのだ。
「お前達さえ、お前達さえいなければっ!!」
「待って下さい、落ち着いてっ!?」
どうすればいいのか、ネギ自身にも分からない。けれども、千雨の攻撃が止むことはなかった。仕方なく、銃を持つ手を抑えつつ、絞め技の応用で拘束する。
「千雨さんっ!?」
「なんで、だよ……」
ネギの声は、千雨には届いていなかった。
「なんで……なんで誰もっ、
「あ……」
それでネギは思い出した。思い出してしまった。
ISSDA特別顧問に任命された彼女が最初に取り掛かった案件は『麻帆良学園に展開されている学園結界の調整』だった。
結界自体に異常はない。しかし、麻帆良学園にはあの世界樹の木、『
この学園都市に最初から住んでいるような人間ならば『環境の適応』でそうだと思い込んでいる場合が多いが、実際は学園都市に住む全員、半強制的に『環境の適応』が行われているのだ。
しかし、それが必ずしも全員にしっかりと掛かっている訳ではない。千雨の様に、学園自体がおかしいと懐疑的になっている人間は少なからずいるのだ。魔法の存在を理解する下地はあっても、魔法のあるなしを信じるかはまた別問題である。
だから千雨はまずその認識変換を調整しつつ、懐疑的な人間に対して魔法使い達に精神的保護を求めた。
本来ならばありえないと傲慢に締めくくるかもしれない。もしかしたら一部の魔法使い等は一笑に付すかもしれない。半ば懐疑的な案件だが、幸か不幸か
「明日菜さん……ある意味ファインプレ「放しやがれッ!!」――ぶっ!?」
足を踏み抜かれた後に肘打ちを喰らい、ネギが千雨の手を放してしまう。そして振り向き様に放たれる銃弾が足を掠る。
「ちっ!」
SIGP230の弾が尽きたらしい、スライドが下がったまま元に戻っていない。手動で戻してから銃を仕舞ったところを見ると、どうやら予備の弾倉はないらしい。他の武器があるかは分からないが、少なくとも目に見えるものは存在していない。が、
「フゥ……ハァ……漸く追いつきました。どんだけ離れた所から転移できるんですか、もう…………」
そこにゾフィスが駆け付けてしまった。
ゾフィスはゆっくりと浮遊し、千雨の横に並んで立つ。
「まあいいでしょう。さて、あなたはびゅるっ!?」
そして千雨に殴られた。魔本で。
「黙れ。いいから
「いや、あの、だからって、それで殴る必要は「眼球抉られて、手足の爪を剥がされたくなかったらさっさとしろ」――本を読めばいいだけです。感情を込めてっ!! そうすれば私が術を行使できますっ!!」
「それでいいんだよ……じゃあ、あの
千雨が魔本を開く。その本の輝きは凄まじく、同時に禍々しさが際立っていた。
「千雨さん……なんで…………」
「どうでもいいんだよ……私を苦しめた魔法使いさえ殺せれば、それだけで満足なんだよ!!」
ネギが
「……ちょっと待ちなさい、私のことを無視して話を「第一の術、ラドム!!」――うえぃっ!?」
主導権を握ろうとゾフィスが振り向くが、千雨は我関せずと術を唱えていた、どうにか腕を出したものの、術である爆発球はネギの手前の地面に衝突して土埃を立てている。
「ちょっと、私の話を「むこう向けって言ってんだろうが!!」――あぶっ!?」
顔面に蹴りを入れられてしまい、ゾフィスは仕方なく言う通りにする。
「くそう……ちょっと!! あなた達、この人に何したんですかっ!? 憎しみを少し増やしただけでこんなに攻撃的になるなんて信じられないんですけどっ!?」
「洗脳した元凶が何言ってんですかーっ!!」
ネギとゾフィスが互いに指差して叫んでいる中、千雨は一通り魔本のページを捲っていた。どうやらどんな術があるか把握しているらしい。
「……ラドム」
ゾフィスから再び爆発球が放たれる。今度こそネギに向かってきた術を、彼は再び
「術を読み上げるだけでいいのか……よし、私の指示通りに構え続けろ」
「だからなんで「あ?」――どちくしょぉおおおお!!??」
先程からの暴行で若干恐怖心が芽生えたのか、千雨の一睨みでゾフィスは反射的に従ってしまった。そして再び、魔本が輝きだす。
「ロンド・ラドム!!」
鞭状の火炎放射、爆発の鞭がネギに迫りくる。
「……
ネギは拳を構え、魔法の矢を顕現させる。数は三。
「
爆発の鞭は自在に
「テオラドム!!」
「千雨さんっ!!」
ネギの叫びは届かない。先程よりも高速で一回り大きい爆発球が迫りくる中、どうにか瞬動術で回避する。
「ロンド・ラドム!!」
「しまっ――!?」
しかし、回避する場所を予想したかのように、爆発の鞭がネギに襲い掛かってきた。どうにか手だけを伸ばし、手早く呪文を唱える。
「
攻撃を防いでから素早く虚空瞬動を繰り返して移動する。千雨の性格から、間髪入れずに次の攻撃が来ると予想したからだ。
「ラス・テル・マ・スキル・マギステル!!
千雨には攻撃できない。だからネギはゾフィスに狙いを定める。
「
ネギの手から放たれた稲妻が、ゾフィスを襲う。
「防御呪文です!! 早ぐぎゃばばばっ!?」
容赦なく降りかかった稲妻に感電し、ゾフィスが倒れこむ。
「どいつもこいつも、勝手だよな……」
「千雨さん……」
「あのぉ……私は無視ですか?」
ゾフィスが地面に横たわったまま、ネギと千雨は二人、向かい合っていた。
「昔の私がどんな気持ちだったか分かるか? 誰にも信じて貰えず、嘘吐き呼ばわりされて、一人ぼっちでっ! ひどい時にはものを投げられたっ!! その気持ちが分かるか魔法使いっ!!」
「千雨さんっ!!」
ネギの声は届かない。千雨の手は既に、地面に落ちていた
「もっと高火力の呪文はどれだっ!?」
「だからぐっ!?」
そして千雨の手は、ゾフィスの首を的確に掴んでいる。なので首を絞めるのも訳がなかった。
「さっ、最大呪文はっ……だい、よん、の…………」
「これで終わりだ、魔法使い……くたばりやがれっ!!」
千雨の持つ魔本がさらに輝く。
ただ、ネギは動けなかった。千雨の憎しみに、心からの嘆きに気持ちが竦んでしまっていたからだ。
(話には聞いていたけれど……本当に憎んでいたんだ)
もしかしたら、今でも心の底で憎んでいたのかもしれない。7年前に告白した時も、本当はその時の憎しみで内心憤っていたのかもしれない。
そう考えると、ネギの意識は暗闇に閉じ込められてしまう。
「第4の術っ、ディオガ・テオラドムっ!!」
その大きさは、植木耕助の放った『
(僕は……どうすればいい?)
そして業火球は、ネギのいる一帯に火炎の爆発を撒き散らした。
再掲載中はないと思いますが、現状少し忙しくなる可能性がある為、もしかしたら更新を休むことがあるかもしれません。その際は活動報告なりで事前に連絡するようにいたします。
これからも宜しくお願いいたしますというか長すぎんだよ馬鹿野郎!!
最初に想定した三部作の一部すら漸く佳境とか、どんだけ続くんだよこれ!!
『魔法反徒ネギま』もあるのに!!
……完結する頃には三十路になってたりしないよな、俺(泣)