魔法先生ネギま 雨と葱   作:朝来終夜

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第23話 その一線を越えられるか

「はっ、はははっ! はは「うるさい」――はぶっ!?」

 業火球が炸裂したのを見て、ゾフィスが高笑いを挙げようとするも、千雨に地面に再び叩きつけられてしまい、断念してしまう。

「さっさと立て。構えろ」

「なっ、何を言っているのですか?」

 ゾフィスは立ち上がりながら、千雨の言葉を(いぶか)しんだ。

「もっと厄介な奴(・・・・)が来やがったんだよ……ところで」

 しかし我関せずと千雨は魔本のページを(めく)りつつ、ゾフィスに問いかけた。

「……さっき言ってた防御呪文って、どれだ?」

「第5の術ですできれば最初に聞いて欲しかった!!」

 

 

 

「え……?」

 気が付けば、ネギの目の前には一人の女性が立っていた。

 迫り来る業火球を切り裂き、一振りで火炎を薙ぎ払ったのは、彼自身良く知る相手だった。鈴鳴りのツインテールをした彼女は、右手に握ったハマノツルギ(エンシス・エクソルキザンス)を肩に担ぎ、ゆっくりと首だけを振り返らせる。

「明日菜、さん……」

 そこにいたのは、ネギの姉貴分にして最初の従者(パートナー)、神楽坂明日菜だった。そして彼女はネギを一瞥すると、再びハマノツルギ(エンシス・エクソルキザンス)を構えつつ振り返る。

「あ――」

 ザシュッ!!

 ネギが何かを発する前に、明日菜は地面に向けてハマノツルギ(エンシス・エクソルキザンス)を振るい、一本の線を引いた。まるで、ネギと明日菜を隔てる境界の様に。

「……その線から出ないで、じっとしていなさい。すぐに片付けてくるから」

「え、な……」

 何も言えなかった。明日菜の真顔に、千雨の言葉が心に突き刺さっていたネギには、何も言うことができなかった。

「やっぱりおこちゃまには……」

 

 

 

「……恋愛なんて早すぎたみたいね」

 ネギは、何も言えなかった。

 

 

 

「私を運べ、あそこがいい」

「あ、はいただいま!!」

 ゾフィスによって千雨は切り立った岩山の上に立ち、再びネギに背を向けた明日菜を見下ろした。

「明日菜さん、駄目「黙ってなさい、馬鹿ネギ」――で、す……」

「私は今から、友達を助けるのに忙しいんだから」

 明日菜から真っすぐな言葉を受けながらも、千雨は軽く鼻で笑うだけだった。

「何が友達だよ。そっちにつく時点でてめえは敵だ……バカレッド」

バカレッド(・・・・・)、ねぇ……」

 直接的な拒絶と言葉の暴力を受けるも、明日菜は顔を歪めて笑うだけだった。

 そして明日菜が駆け出すのを合図に、千雨は呪文を唱えた。

「ラドム!!」

 放たれた爆発球を明日菜はハマノツルギ(エンシス・エクソルキザンス)の一振りで薙ぎ払う。

「ロンド・ラドム!!」

 しかし、薙ぎ払った直後に爆発の鞭が明日菜を襲う。

「左手に「魔力」、右手に「気」っ!!」

 咸卦法。魔力と気を掛け合わせて身体を覆い、強化する究極技法(アルテマ・アート)

 明日菜は咸卦法の物理防御だけでゾフィスの攻撃を耐えきり、構わず駆け出した。

「テオラドム!! ラドム!!」

 術が連続して放たれる。飛び道具のない明日菜にとっては不利な状況だが、それでも彼女の足は止まらない。

「――くっ!!」

 刀身で一発目を弾くも、緩急をつけられた為にタイミングが狂い、咸卦法越しに一発喰らってしまう。

「……っのおおおお!!」

 だが明日菜は耐えきった。

 一番軽い術ということもあるが、今迄受けてきた過去の攻撃の方がきつかったのもあるが、それ以上に、明日菜には譲れないものがあった。

(これ以上……)

「オルガ・ラドム!!」

 螺旋状になって迫り来る爆発の槍を、明日菜はハマノツルギ(エンシス・エクソルキザンス)を盾にして防ぐ。余波を完全魔法無効化(マジックキャンセル)で打ち消せてはいるが、威力が強いのかはたまた相性の問題か、完全には消しきれていなかった。

「ギガノ・ラドム!!」

 次いで放たれた大型の爆発球を切り裂き、咸卦法の出力を上げて防ぎ切った後も、明日菜の歩みは止まらない。

(これ以上っ!!)

「……好き勝手やってんじゃないわよっ!!」

 

 

 

「明日菜、さん……」

 連続して放たれる小型の爆発球に構わず、時折来る大型や高速の火球を切り、槍状の爆発や炸裂する鞭を刀身で防ぐ明日菜を見つめるネギ。しかし、彼の足に力が入っていなかった。

「なんで、なんで僕は……立てないんだ」

 今迄にも、つらいことはあった。今迄の方が、強い敵が多かった。

 しかし今回は違う。直接的な憎悪を向けられているのだ。しかも、その憎悪は魔法使い達に向けられている。それはネギとて例外ではない。

「いったい、どうすればいいんだ……」

 もう、まともに見ることは適わなかった。

 憎悪を振りかざす千雨(想い人)も、傷付きながらも進む明日菜(姉貴分)も。

 何もできない、そう感じたネギは下を向いてしまう。

「僕は――」

 カラン、と何かが落ちる音がした。

「あ……」

 それは、千雨と一緒に行ったイベントで購入したリストチェーンだった。彼女と映画に行った日に、その後で立ち寄ったのだ。

(そう、千雨さんに(・・・・・)、誘われ、て……)

 ネギは過去の出来事を反芻する。

『……ホント賭博している時のラザルスさん凄過ぎますぅ』

『死ねよ。リーラ傷つけた奴全員死ねよ。頼むからさぁ……』

 一緒に映画を見た。

『でもあの盗聴器は何だったんでしょうね?』

『お前のファンか敵だろ? もしくは過保護な姉貴分』

 フードコートでお茶をした。

『おらおらおらっ!!』

『先行しすぎですよ~!!』

 イベントのKMF操縦体験ブースで一緒に遊んだ。

『悪い、ネギ先生。病人の看病頼まれたからこれからそっち行くわ』

『だったら僕も行きますよ。流石にそれ聞いて帰れませんって』

 ネギの知らない、千雨の生活を垣間見た。

『上条当麻だ、よろしく。前に聞いたんだが、長谷川の担任だったんだってな』

『はい、ネギ=スプリングフィールドと言います。よろしくお願いします』

『じゃあ様子見てくるから、少し待っててくれ。ネギ先生』

 ネギ達以外の友人と親しい千雨を見た。

『……まるで、星の海だな』

 喫茶店の二階で、一緒に星を見た。

 展望用の窓からの景色や、携帯の写真を共に見て、約束したのだ。

『いつか……見に行きませんか、星の海を』

『ああ……』

 その時、千雨がどんな顔をしていたのかは分からない。どんな気持ちだったのかも。

 けれども、しかし、それでも……約束したのだ。

 

 

 

『いいな。いつか、見に行こうぜ。……絶対に』

 

 

 

「そうだ、僕は千雨さんと、でも……」

 約束はしても、千雨が抱く憎しみは本当だった。だからネギは、どちらの過去を信じればいいのかが分からなかった。

 年相応に笑い、はしゃぎ、誰かの為に動ける彼女か。

 それとも憎悪を持って、魔法使いを傷付ける彼女か。

 どうすればいいか分からない。千雨が自分から、ネギに近付く理由が分からない。

 親しくなろうとしたのか、傷付けてやろうとしたのか……彼女の気持ちが分からない。

「ははっ、やっぱり、僕に黒なんて似合わない(・・・・・)……あれ?」

 自分で言った言葉に、ネギは疑問を持った。千雨を召喚した時に、彼女の手首がチラと見えたからだ。

「あれ、なんで……」

 ネギは顔を挙げる。未だに術を唱え続ける千雨を見つめ、その手首に巻かれているリストチェーンを見つめた。先程はブラウスの袖に隠れてあまり見えなかったが、今では魔本を両手で構えている為に捲れて、はっきりと見えている。

(魔法使いの僕と御揃いなんて嫌な筈だ。記憶がない? いや、千雨さんは無駄なものが嫌いな人だ。似合わないアクセサリーなんて……)

 ネギは、四肢に力を入れた。

(……そうだ。何か理由がない限り、似合わないアクセサリーなんて……絶対に付けないっ!!)

 ゆっくりと、だが確実に立ち上がった。

(確かに、千雨さんは魔法使いに憎しみを抱いている。……でも、千雨さんは)

「…………ラス・テル」

 右手に魔力を込めて、ネギは呪文を唱える。

「……マ・スキル」

(それでも千雨さんは……その魔法使い(・・・・)と一緒に居てくれたっ!!)

 ただの憶測かもしれない。

 それでも、ネギは内心で、それが事実だと信じ込んでいた。

(千雨さんも、戦っているんだ……心の中で)

「マギステル!!」

 ネギはただ一点を、睨み付ける。

 

 

 

「ああもう、きりがないわね……」

 細かい爆発球を連射され、足止めされた明日菜は焦っていた。

(剣と咸卦法で爆発は防げても、飛び道具がないこっちが圧倒的に不利、か……)

 一気に駆けよれば今度は大技で仕留められる。大技自体を捌くことは可能だが、もし広範囲のものであれば、後ろにいるネギにも攻撃の余波が行ってしまう。

「攻撃は一点じゃなくて広範囲に狙いをつけろ。奴は勘がいい、下手に狙いがいいと簡単に避けられる。ついでにそこらの岩にも撃ちこめ。細かくすれば飛び道具として使われる心配はない」

「って!! 容赦なさすぎでしょう!!」

「うるさいテオラドム」

 返事と術が同時に来た。

 元々状況に対しての適応力というか、物事への応用力が高い千雨だ。おまけに戦闘に関しては、映画の撮影中に真名という強力な指導者がいたのだ。打ち合わせと称してのどか、夕映、和美等と共に話し込む度に彼女の戦略性は無駄に仕上がってしまっている。今回の発端でもある倉庫での単独戦闘も、その知識があったからこそ実行を決意したのかもしれない。

「あっちゃあ、ちょっと失敗したかな~あの映画撮ったの」

「こっちにとっちゃあ人生最大の屈辱だ!! 頭痛薬代返せバカレッド!!」

「そこまで言う!?」

 あの攻撃の中でも聞こえてきたのか、千雨のツッコミが明日菜の耳と心に突き刺さる。

 その隙に千雨は魔本のページを捲り、後ろのページを開いた。

「今こそバカレッドを駆逐する時……そろそろいっとくか、第8の術」

「正直低級呪文連発するよりかは「何か言ったか?」――いえ何もっ!?」

 そして魔本が輝きだす。明日菜は剣を構えて、静かに相手の出方を窺った。

「くたばれバカレッド!! ディガン・テオラドム!!」

 ゾフィスの手が上に向けられる。そして、その上空に無数の爆発球が生まれる。大きさはテオラドム以上、ギガノ・ラドムに近いが、数が違う。

「うっそ……」

 流石の明日菜も、これには唖然とするしかなかった。

 相手が威力だけで攻めてくれれば、先程みたいに叩き切ることも可能なのだが、逆に数が多いと、手数の少ない自分では対応が間に合わない。

(無効化フィールドの展開、剣でも消しきれなかったから駄目。天空にあるからハマノツルギ(エンシス・エクソルキザンス)を投げても、今からじゃまとめて消す前に広がっちゃう。……あ、詰んだ)

 それでも攻撃を防ごうとハマノツルギ(エンシス・エクソルキザンス)の刀身を盾にし、咸卦法の出力を更に上げる。

「こうなったら剣を盾にして突っ込むしか「明日菜さん伏せてっ!!」――わりゃっ!?」

 攻撃範囲から抜け出ようと駆け出す直前だった。

 突如聞こえた声に従う形になってしまったが、明日菜は足を滑らせて地面の上に俯せに倒れ込む。

 

 

 

「――解放(エーミッタム)!! 雷の暴風(ヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス)!!」

 

 

 

 そして倒れた明日菜の頭上を、雷を纏った暴風が過ぎ去っていく。その嵐はゾフィスの放った無数の爆発を全て吹き散らしてしまう。

「チッ……来やがったか」

「えっ……」

 暴風が来た方角を見ていた千雨が、その正体に気づき舌打ちする。

 明日菜が振り返ると、そこには魔法を放った術者がいた。

「ハァ……漸く来たのね、ネギ」

「はい……ご迷惑をおかけしました。でもさっきの言葉は撤回して下さい」

「どれ? 『お子ちゃま』?」

 ネギはゆっくりと近寄り、明日菜の横で立ち止まった。

「『恋愛は早すぎる』ですよ……まあ流石に今回は、自分でも情けないと思いますけどね」

「自覚できたら十分よ。それじゃあ、本番と行きましょうか」

 互いの外側の手に得物を担く。

 

 

 

 

 

「手伝ってあげるから……助けてきなさい。自分の想い人を」

「はいっ!!」

 内側の手で拳を作り、軽くぶつけあった。

 

 

 

 

 

「……まあ、男なら自分一人の力で助けないと格好付かないんだけどね」

「舌の根も乾かぬ内に!?」

 それが神楽坂明日菜という女である。

 

 

 

 




 すみません、来週休みます。
 今回の話もどうにか仕上げたのですが、結構ギリギリでした。もし余裕ができれば掲載したいと思いますが、少なくとも来週だけは可能なら休ませてください。お願いします。
 その代わり質は可能な限り(自分基準で)持たせるようにしますで、ではまた再来週に。



シャーリー「……ちゃっかり更新してそうな気がする」



 時間があればね。
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