一週間空けといてなんですけど、タイトルと千雨に対するネギの台詞に若干の不満があります。もうちょいいいネタないかな、とも思いますがこれが精一杯でした。
それでも楽しんでいただければ幸いです。
「あいつら……勝手なことほざいてんじゃねえぞこら」
「あ、あの、く、くび、にはいって……ぐえっ」
八つ当たり気味に首を絞められたゾフィスを無視し、絞めた張本人である千雨は肩を振るわせながら魔本に視線を落とす。
「呪文が少ない……たった8つしかないのかよ」
「そ、それが精一杯です……」
仕方ないとばかりに、千雨はゾフィスを掴んでいた手を解いた。
「まあいい、突っ込んで攪乱しろ。接近している内は速度重視で術を選ぶ」
「いいでしょう……あのクソ共がぁ!!」
ゾフィスが牙を剥く。
今迄とは桁違いの速度で接近し、ネギ達に向けて腕を挙げている。
「テオラドム!!」
「
ネギが前に出てゾフィスの放った術を防ぐ。
「うらあっ!!」
そして、掛け声と共に爆風を突っ切った明日菜が
「危「ギガラド・シルド!!」――って、このタイミングで防御呪文!?」
ゾフィスは予想していた。例え防御呪文を唱えても明日菜の持つ、術を切り裂く剣の前では意味がないだろうと。そして予想通りというか、ガリガリとプラスチックを削り切るかの如く、爆発の壁を切り裂いた。
「やっぱり無駄か……次からは回避しろ」
「勝手に実験しな「
ネギの手から放たれた
「くっそ早すぎるっ!!」
しかし、ネギ達の方が上手だった。
瞬動術と咸卦法を用いた二人の背後を取ることは難しく、距離を置けば間髪入れずにネギの
「いいかげんにしろよ、魔法使い共……そんなに私を傷付けたいのか!?」
「ええ傷付けたいですね……千雨さんを縛っている呪縛を!!」
ラドムの連射に今度は明日菜が飛びつき、
「……
その間隙を縫う様に、ネギが詠唱しながらゾフィスに迫り来る。
「ギガノ・ラドム!!」
「――
大型の爆発球と雷の斬撃がぶつかり合う。
その衝撃に二人は距離を開けてしまうが、ゾフィスはこれ幸いとばかりに千雨の傍まで下がった。
「おいおい何言ってんだよ、魔法使い……私が縛られてる? お前達への憎しみに捕らわれているの間違いだろ?」
「それこそありえませんよ。大体よく考えたら……」
ネギは語る。
「……千雨さんが本気出したらBlueMars計画乗っ取った上で魔法世界を人質に取って、関係者全員拘束して一纏めにしてからそこに核弾頭ぶち込む様な人なのに、なんで僕一人にこんなに手間かけてるんですか!? アーティファクトで核弾頭の起爆コードを奪ったとか
「お前ら
ゾフィスが叫ぶ程語りすぎてしまった。
「まあそれ以上に……そこまで頭の回る千雨ちゃんが、なんで私に対してだけ
「そっ、そんなの……は?」
ゾフィスが思わず、千雨を見る。彼女の持つ魔本の輝きが、徐々にだか落ちてきていた。
「千雨ちゃんってね、本当に優しいのよ……」
今度は明日菜が語り出す。
「『映画の台詞とはいえ、何もないのに馬鹿にされてるけどいいのか?』って態々聞いてくれるような
静かに
「『じゃあ何かで助けて欲しい時はそう言って。少なくとも私は『助けて』って意味で受け取るから』って。千雨ちゃんは軽く手を振っただけで返事してくれなかったし、私も適当に言っただけなんだけど……覚えててくれたのね」
ネギも杖を構えだした。ゾフィスが狼狽えだしたからだ。
「まさか、洗脳が……」
「本当はネギにも何か言ってたかもしれないけど……ごめんね、弟が不甲斐無いばかりに待たせちゃって」
洗脳が弱まり出したのか、魔本の輝きが徐々に落ちると共に、千雨の瞳から雫が零れ落ちてきた。
「千雨さんの心は強いんだ。僕よりも……お前の力なんかよりもっ!!」
「くそっ!!」
慌てて手を伸ばす。千雨の心を再び操る為に。
ダァン!!
「がぁっ!?」
しかし、突如走った痛みに、思わず伸ばしていた腕を抱え込む。よく見てみると、二の腕から血液が激しく漏れ出ていた。丸型の傷跡を反対の手で押さえ、どうにか出血を抑える。
「なっ、何が……?」
先程の衝撃で千雨の身体が傾くも、ゾフィスは音のした方を向いた。
視線の先では、ネギが左手で杖をぶら提げる様に持ち、
「だから触れるな……」
右手でグロック17を構えていた。それは銃口から硝煙を漂わせ、スライドが下がり切って弾切れを示している。倉庫での戦いで残っていた銃弾を、ゾフィスに向けて放ったのだ。
「これ以上……千雨さんの心を穢すな!!」
右手のグロック17を手放し、左手に握っていた杖を右手に構え直しながら、銃声に呆けていた明日菜に向けて声を飛ばす。
「明日菜さん、千雨さんを!! 」
正気に戻った明日菜が千雨の方を見ると、ゾフィスが受けた銃撃の余波でバランスを崩したのだろう。足を踏み外してゆっくりと、元の体勢に戻れないまま地面に向けて落下しようとしている。
「……任せて!!」
それは信頼か、明日菜が駆け出すのも見ないまま、ネギはただゾフィスに狙いを定めていた。
「ラス・テル・マ・スキル・マギステル!!」
「まだだぁ!!」
それでもゾフィスは諦めなかった。
微かにだが千雨の心を操ることには成功しているのだ。最後に術を唱えさせることくらい訳はない。何よりも、先程の暴風ならばディオガ級と同等、いや僅かにだがゾフィス側の方が上だと確信していた。
先程と同じ呪文ならば。
「
しかしゾフィスは知らない。ネギが唱えている呪文を、放とうとしている魔法を。
「最後の勝負だ、人間!!」
「
千雨の持つ魔本が輝く。
明日菜が千雨の元へと向かう。
ゾフィスが抑えていた手を放して構える。
そして……ネギが全ての詠唱を終えた――!!
「ディオガ・テオラドム!!」
「――
放たれる業火球を、ネギの繰り出した雷が包み込む。
「な……な…………」
対軍勢用の雷光にゾフィスの放った業火球は引き裂かれ、巻き起こる爆発は無残にも焼き消されていく。
「ばかな……ディオガ級を…………」
ディオガ・テオラドムの次は、ゾフィスを喰い殺さんと雷が迫り来る。
「これはまさか、シン――――ぎゃぁああああアアアア……!!!!」
雷に焼かれたゾフィスの絶叫が、荒野に響いた。
ゾフィスを含めた周囲を駆け抜けた雷が止むと同時に、ネギは肩で息をする。そしてふと、その威力が大きすぎたことに気付いた。
「明日菜さん、千雨さんは「やり過ぎよネギっ!!」――すみません!! つい調子に乗って……ってそれより二人共無事ですかっ!?」
「はいはい……大丈夫よ、ネギ」
「千雨ちゃんも私も無事だから……」
雷が止み、巻き上がる砂埃が収まると同時に、ネギは二人の元へと駆けて行った。
その日、麻帆良に魔王が降り立った。
街道を彷徨う男は指先一つで四人の強者を屠ったと思い、盛大に高笑いを上げている。
「そうだ、僕は最強だ。僕はなんにでもなれるんだ……!!」
彼は凶器を両手に携え、麻帆良学園都市の中を徘徊する。次の獲物を探す為に。
「さあ、次は誰だ。もう失うもののない僕を止められる奴はいるのか……!?」
タカミチ・T・高畑。巷ではデスメガネ、トリプルTの異名を持つ男。彼こそ麻帆良に降り立つ魔王――
「止めなさいっ!!」
「あばっ!?」
――高畑しずなの夫である。
しずなの拳を受けたタカミチは両手に持っていたラーメンのどんぶりを手放す。夫の顔面に強烈な右フックを放った彼女は、周囲に飛び散る初期型世界珍味麺の残骸(後程ゾフィスがおいしくいただきました)を見下ろしながら、隣に控えていた金髪の少女に話しかけた。
「ごめんなさいね。私がガセネタに引っかかったばかりに、うちの人が暴走してしまって」
「別に構わん。そっちの被害は敵と馬鹿二人だけだしな」
荷物を持ったまま腕を組んだエヴァンジェリンが、しずなにそう返す。
「自分の息子達が必死になっている頃に暢気にラーメン食ってたんだ。完全に自業自得だろうが」
「それでも、よ。
それでも、自分が選んだ人間だとしずなはタカミチを抱え上げる。何気なく地面に零れたラーメンを避けながら。
「それで、ネギ先生達は大丈夫かしら?」
「もう3-A全員に連絡してある。手の空いている奴ら全員で行ったから大丈夫な筈だ。だから私は、私のできることをする」
エヴァンジェリンが向いた方を、しずなも自然と目を向けていた。そこは公園で、視線の先には公衆便所が存在している。現在は怨嗟の声が上がっている為か、誰も近づこうとしていない。
「あの馬鹿共何とかして、ぼーや達の方に向かわせれば、後はどうとでもなるだろう」
「……あなたも意外と鬼ね」
「悪い魔法使いだからな」
悪びれもせず、しれっと答えた。
エヴァンジェリンが荷物を持ったまま公衆便所に向かうのを、しずなは
「そう言えば今日、アスナはどうした? 最近パールを始めたんだが、化石掘りで『化物を倒すのはいつだって――』――……っと、すまん電話だ」
着信音が鳴った為、エヴァンジェリンは一度荷物を地面に置いてから、懐に手を突っ込んで携帯電話を取り出した。スマートフォン、Xperiaの最新機種である。
片手で器用にスワイプし、通話状態にしてそのまま耳に当てた。
「ああ、朝倉和美か……何、もう終わっただと?」
その会話に、二人の足が止まる。
「千雨は保護、犯人も確保した上で恐喝中。ふむふむ……ああ、分かった。気をつけて帰ってこい。こっちは用事を片付けてから様子を見に行くさ」
通話を切ってから、エヴァンジェリンは携帯を懐に仕舞った。
「どうやら無事に済んだようだ。正直多少はてこずると思ったが……成長しているようだな」
「そう、皆が無事で良かったわ……」
それを聞いて、しずなはタカミチを背負い直した。
「それじゃあ私達も帰るわね。心配でアスナちゃんだけ留守番させているから急がないと」
「そうか、今度ポケモンスタジアム持って遊びに行くと伝えておいてくれ。この前中古屋で見つけたんだ」
「ええ、これからもあの子と遊んであげてね」
帰っていく高畑夫妻を見送り、エヴァンジェリンは荷物を抱え直してから再び公衆便所の入り口に立つ。
「コホン……貴様ら生きてるか~?」
「薬を、薬をくれ~!!」
「俺は紙だ!! 早く~」
未だに個室で呻いているナギとラカンの声を聞き、ドラッグストアの買い物袋を男子便所の中へと投げ入れる。
「薬と紙は置いといたから、勝手に持っていけ」
「ちょっと待てエヴァ!! せめて直接差し入れてくれ」
「紙を、紙を~!!」
野郎二人の情けない様を拝聴したエヴァンジェリンは、
「……ハッ」
一度鼻で笑ってから便所に背を向けた。
「何が哀しくて男子便所に入らんといかんのだ。もうぼーや達も大丈夫みたいだし、お前達は用済みだ。後は勝手にやってろ」
『おいこらぁ……』
力弱い抗議を聞き流し、エヴァンジェリンは帰路についた。
後日、怨霊蠢く公衆便所として一時期心霊スポットと化したらしいが、彼らがここを訪れることは二度となかった……らしい。
いやだって、近く歩いてて催したら普通にそこ行くじゃん。その可能性が無きにしも非ずなわけで。