魔法先生ネギま 雨と葱   作:朝来終夜

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第25話 ああ、ようやくゾフィス編が終わった……ギャグ混ぜても展開分かりやすすぎんだよもうこれヤダ

「無一物、という言葉を知っているか?」

「……無一物?」

「そうだ」

 一人寝そべっていた少女は、顔だけを男の方へと向ける。

 不思議な人間だった。

 金髪の僧侶というだけでも珍しいのに、肩に掛けた長い巻物のようなものが数奇さを際立たせていた。

「俺が師に教わった、唯一の言葉だ」

 男は傘を巻物越しに肩に乗せながら、器用に煙草を抜いて咥える。

「仏に逢えば仏を殺せ、祖に逢えば祖を殺せ、何事にも囚われず、縛られず、ただあるがままに己を生きること……」

 煙草に火を点け、紫煙を燻らせながら、男は少女を見下ろした。

「……なんだ、それ。物騒だな」

「ああ、物騒だな……だからどうした?」

 開き直るなよ、と少女は内心で思いはしたが、口にはしなかった。また、馬鹿にされると――

「そもそもの話……周りに合わせてやる必要が何処にある?」

「え……だって…………」

 少女は顔を逸らした。その視線は男が空いている手にぶら提げる様に持った煙草のソフトパックに意味もなく向けられている。

「一人ぼっちは……寂しくないか?」

「くだらねぇ……」

 少女の嘆きを、男は一言で切り捨てた。

「周りの顔を窺って生きるなんざ、一人で生きるのとなんら変わりないだろうが」

 雨が止んでいく。それでも男は傘を差したまま、煙草を燻らせていた。

「だったら勝手に生きた方がまだいい。……それに」

 雨が止んだ。雲が裂けて見えた青空に、少女は目を向けた。

 

 

 

「人付き合いなんざ、生きてりゃ勝手にやってるもんだ……」

 意外なことにな、と小さくつぶやいた気がしたかと思った瞬間に、景色が遠ざかっていく……

 

 

 

 

 

「…………」

 意識が晴れ、別の景色が眼に映った。

「……夢、か」

 見慣れない白の天井をぼんやりと眺めていると、誰かが顔を覗き込んできた。

「……?」

 ただ黙って見下ろされていると、その顔が徐々に降りてきている。というか、唇が少し尖って――

「うわぁぁああああ!?!?」

「ぎゃばっ!?」

 無我夢中で放った拳が近づいてきた顔に突き刺さる。相手は殴られ、床の上に転がっていった。

「ハァ、ハァ、ハア……」

 肩で息をしつつ、どうにか呼吸を沈める千雨。ぼやけていた視界が晴れるにつれ、近付いてきた者の正体がはっきりしてきた。

「……朝倉?」

「ちさめちゃん、ヒドイン……」

 どうやら千雨の顔を覗き込んでいたのが和美だと知り、千雨はシーツを頭からすっぽりと覆う様に被る。そして手だけを出し、指を突き付けて叫んだ。

「お前そんな趣味があったのかよっ!?」

「ええ……いいじゃん、女の子同士なんだし」

「よくねぇよ気持ち悪いわっ!!」

「元カノ居たくせにっ!?」

「うるせぇ関係あるかっ!!」

 がたがた身体を震わせながら、近くに武器がないかと探すが、千雨が見つけたのはベッドの横にある台座の上に鎮座している、彼女愛用の伊達眼鏡だけだった。

「まあ冗談はさておき「いやもう信じてねえよ。二度と泊めねぇ」――いやホントだから信じてお願いっ!!」

 とはいえ話を進めようと、和美は千雨のジト目を受けながらも強引に話題を押し進めた。

「……どこまで覚えてる?」

「どこまで、って――」

 その言葉を引金に、千雨の記憶が蘇ってきた。

 

 操られている間にネギにぶつけた暴言の数々。無理矢理引き出された憎悪が籠った攻撃。どうにか明日菜に伝えたヘルプ・コール(バカレッド)

 そして、再び見た過去の情景。

 

「ネギ先生と神楽坂があの魔物を動揺させた隙に、どうにか洗脳から抜け出そうとして……その後記憶が飛んでる。夢を見ていたんだが……私はどれだけ寝ていた?」

「大体二日。疲れもあってか、結構爆睡してたよ」

「はあ……それはまた」

 意外と長く寝ていたことに、千雨は内心、自分自身に呆れてしまった。

 和美が少し席を外している間に、千雨は眼鏡を掛けてからベッドの上で上半身だけを起こしながら、周囲を見渡す。どうやら病室らしく、無駄に広い個室であることが窺えた。

「誰が払うんだよ、ここの入院費……いいんちょか?」

 ベッドの向こうにある応接スペースの卓上に、千雨の手荷物が置いてあるのが見えた。

 カード状態に戻っている仮契約(パクティオー)カード、弾切れの筈のSIGP230、そして……腕に巻いていたリストチェーン。

「なんで、巻いてたんだろうな……私」

 そもそも、いつ巻いたのかも不確かだった。

 何かのきっかけで巻いたと思うのだが……

「……あ」

 ふと思い出してしまった。

 ネギに目の前で泣かれてしまい、帰ってからも気持ちが沈んだまま、何故か目についたそれを手に巻いたままずっと……

「千雨ちゃ「ぎゃああああああああ……!?!?!?!?」――ちょっとどうしたの!? 私ぶん殴った時よりもすごい声出してるよ!?」

 頭を掻き毟りながらベッドの上でのたうち回る千雨をどうにか宥めようと、病室に戻ってきた和美が覆い被さるが一向に収まる気配がない。

「落ち着いて千雨ちゃん!! 一体何があったの!?」

「あれは違うあれは違うあれは違うあれは違う……全て朝倉のせいだっ!!」

「もうそれでいいから冷静になってよっ!!」

 そんな時だった。病室の戸が開いたのは。

 ガラッ!

「長谷川さん!! 気がつい、た、の……」

『……あ』

 病室内が騒がしいと手に荷物を携えた赤みがかった茶髪の女性、灰原哀は見た。ベッドの上で千雨が和美に襲われているのを。

 しかし、それを見た彼女は顔を赤らめるどころか、呆れた眼差しを向けながら、空いた手を腰に当てていた。

「人が心配して来てみれば……また?」

「違う!! ってか『また』って何だ!?」

 朝倉を押し退けながら、千雨は否定する為に叫ぶが無駄に終わる。

 呆れた様子で灰原が荷物を置き、そのまま千雨達に背を向けてしまった。

「大丈夫よ。私は泉さんに頼まれて、荷物持ってきただけだから……じゃあごゆっくり」

「だから誤解だって!! というか、明らかにこっちが被害者だろうが!!」

「……あなたがヘタレ攻めが誘い受けかで、麦野さんと賭けてるんだけど「お前等まとめて締めるぞゴラァ!!」――……それだけ叫べれば大丈夫そうね」

 振り返って一度微笑んでから、灰原は病室の戸に手を掛けた。

「早く元気になりなさいよね。皆心配していたんだから」

「おう……さっきの賭けは冗談だよな「あ、そうだ。今日特売だったわ」――おい答えろよ、答えて下さい灰原さぁん!!」

 そそくさと病室を辞した灰原の背に手を伸ばすも、彼女は意に介することなく視界から消える。手を伸ばした千雨の肩に手を置き、和美はぽつりと呟いた。

「……愉快な友達だね、千雨ちゃん」

「どっちかっつうと悪友だけどな……」

 煙草吸いたい、と千雨は思えども彼女の手元にはない。

「……それで、私が気を失った後、どうなったんだ?」

「ああ、それなんだけどね……」

 どこか歯切れ悪く呟きながら、和美は応接スペースにあるソファに腰掛けた。

「……まあ、それは後でいいや。待ってる間に(・・・・・・)簡単に話すよ」

 そして、ベッドの縁に腰掛けた千雨に、和美は千雨が倒れた後のことを話し始めた。

 

 

 

 

 

「なんとか助けましたけど……洗脳を解くには時間が掛かりそうですね」

「解けないの?」

「解けなくはないでしょうが、規格というか術式が違うので、先に解析しないと後遺症が残る可能性が……」

 ネギは映画でエヴァンジェリンに用いていた解析魔法で千雨の様態を探っていた。しかし予想以上に複雑な為、下手に干渉することができないでいる。

「場合によってはゾフィスを恐喝するしかないですけど、素直に聞くかどうか……」

「いっそのこと……逆にゾフィス(あいつ)を洗脳するのは?」

「無理ですね。大抵の洗脳魔法って相手の頭をパーにするから、精密作業をさせるのはかえって危険なんですよ」

 展開していた魔法陣を閉じてからネギは立ち上がり、寝たままの千雨と膝枕をしている明日菜を見下ろした。

「他に何か手は……」

 悩むネギ達から少し離れた場所で、ゾフィスは呻いていた。戒めの風矢(アエール・カプトゥーラエ)束縛する中指の鎖(チェーン・ジェイル)のコンボを受けてしまい、まともに身動きがとれないからだ。

(最悪だこいつら……この私の頭脳をパーにするだなんて!!)

 自分のことを棚に上げながらも、ゾフィスは脳内で逃げ出す算段を企てていく。

(こうなったら、もう魔界に帰るしかない。こんなところに二度と居られるかっ!!)

 魔本を燃やしても魔界に帰れるという保証はない。しかし身動きの取れないゾフィスにとっては、魔本を燃やすという選択肢しかなかった。

(人間界での戦いの時の様に、自分で燃やせない可能性が高い。ならば奴らに燃やさせるよう、口で誘導するしかない)

 魔界の王を決める戦いにおいて、自らの魔本を燃やすことは許されていなかった。今回も同じかは不明だが、少なくとも身動きが取れない以上は同じことだ。

(まずは魔本が力の源だと錯覚させる。そして火を極端に恐れる演技を多少繰り返した後に、あのアホそうな女を挑発「おりゃあ!!」――ぎゃふっ!?」

 そしてゾフィスは、明日菜から投げつけられた石によって、身体を勢いよく転がさせられてしまった。

「どうしたんですか、明日菜さん?」

「いや、内心馬鹿にされたような気がしてつい……」

 とてつもない勘を見せられ、ゾフィスは焦燥に駆られた。一歩選択を間違えば、それこそ後がなくなってしまう。もしかしたら実験動物(モルモット)として一生を終える可能性も……

(やばい、やばすぎる。早く逃げなければ!!)

 こうなったら四の五の言っている場合ではない。速やかに行動しなければ、明日を迎えることもままならないのではないか。

 だからこそ、ゾフィスは口を開いた。

「あぶしゅっ!?」

 そして、頭の上から踏み潰された。

「ボンジュール、ゾフィス。ようやく本物に会えたわね……」

 その声を聞いたゾフィスの心臓が、これでもかと言う位に鼓動を早めだしてしまった。それこそ、今まで聞いたことがない位に。

「な、は……」

「なんだ、もう終わっていたのか……つまらん」

「いやいやブラゴさん。あなたさっきまで散々暴れていたでしょうが」

 仰向けに蹴り転がされて、ゾフィスの視界に新たな登場人物が増えた。

 ツンツン頭が特徴の男に、魔界で自身が最も恐れていた魔物ことブラゴ。

 そして、そのブラゴのパートナーだった女。

「しぇ、しぇりぃ……?」

「あら、覚えていてくれたのね。うれしいわ……」

 恐ろしい、その笑顔。

 ゾフィスは身が震える思いで、足蹴にしてくるシェリーを見上げていた。

「な、何故ここに……!?」

「いきなりブラゴが家に来て、『ゾフィスが逃げた。追いかけるから手伝え』と言われたからよ」

 そして振り上げられるフレイル。

「挨拶はそこそこだったけど、別にいいのよ。ブラゴには借りがあるし、無駄なお見合いに辟易してたし……なにより」

 ガッ!?

「ぎゃはっ!?」

「あなたみたいな下種野郎が好き勝手動き回るのが一番我慢ならないのよ……!!」

 日頃の鬱憤が溜まり溜まっていたのであろう、フレイルの一撃一撃が重くゾフィスの頭をガンガンと――

「待って下さい!!」

「……ん?」

 殴る前に、ネギが声を張り上げてシェリーを制止した。

「そいつを殴るのは待って下さい!! 千雨さんがこいつに洗脳されたんです。だから……!!」

 思わぬところから助けが、そう感じたゾフィスが自分の立場を棚上げして、感謝の目をネギに向けようとした。

 

 

 

「だから……このかさんを呼んでリンチと治癒魔法の無限ループを作ってからにして下さい。じゃないとこいつの心が折れない!!」

 

 

 

 それを聞いたシェリーはポン、と手を叩き、ネギを指差して答える。

「つまり回復と暴力の無限ループよね……採用」

「お前らやっぱり悪魔だっ!!」

 そして、盛大に裏切られてしまった。というかゾフィス、お前に魔物の矜持はないのか?

 

 

 

 

 

「……で、私とこなちゃんが到着して、その後いいんちょ達がエヴァちゃんの連絡を受けて来てくれたの。後は『千雨ちゃんを運ぶ班』と『ゾフィスをリンチにする班』の二手に分かれて今日に至る、ってね」

「お前ら……まさか今日迄ずっと暴行してたとか言わないよな?」

「いや流石にそれはないって。でも班の割合的には「いや、止めろ言うな!!」――そう?」

 聞いたら後悔する。千雨の勘がそう囁いていた。

「まあ、それはどうでもいいとして……これからがちょっとシリアスな話」

「……?」

 いつもと雰囲気が変わる。思わず居住まいを正す千雨に、和美は膝の上で指を組んだ。

「千雨ちゃんさ……過去の記憶、消したくない?」

「……は?」

 突然の提案に、千雨は思わず呆けてしまった。

「ネギ君がね、千雨ちゃんの洗脳を解く為にゾフィスの力を解析したんだよ。それで、うまく使えば明日菜の時に掛けられていた記憶消去よりも強力なやつが掛けられるんだって。下手したら一生解けないレベルで」

「それで、どうしてそうなる?」

「逆に聞くけどさ。千雨ちゃんは……過去の記憶、消したくないの?」

 千雨の胸にズキン、と痛みが走った。

「嫌だったんでしょ? 辛かったんでしょ? それを洗脳中に、ネギ君にぶつけてたでしょ」

「……だから、か」

「今なら一般の家庭に戻れる。人間関係はなくなるけど、それでも魔法から、辛い過去から離れることができる」

 後は自分で選んで欲しい、と和美は話を締めくくった。そして、千雨は静かに口を開いた。

「答える前に、聞いていいか?」

「何?」

「……なんで、寝ている間に勝手にやらなかった?」

「『勝手に決めたら、今度こそ千雨さんに嫌われるから』だってさ」

 ハア、と溜息が零れ出る。千雨は思わず天を仰ぐが、あるのは白い天井だけだった。

「……で、それほざいた身勝手なくそガキはどうした?」

「あれ、言った相手が誰だか分かっちゃったの? 愛だね「頼むからもうちょいシリアスを続けてくれ」――……まあ、ちょっと面倒なことになってさ」

 ソファの背もたれにもたれかかり、同じく天を仰ぎながら、和美は話を続けた。

 

 

 

「……ネギ君、夏休みなくなっちゃった」

「……は?」

 

 

 

 

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