魔法先生ネギま 雨と葱   作:朝来終夜

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第29話 後悔は先に立たないが、安全策は先に立てられる

 魔界に戻ったブラゴは、その足でゾフィスを城の地下にある牢獄に放り込んでから、ガッシュ達がいる玉座の間に来ていた。

「……以上が報告だ。詳細は文書で後日提出する」

「うぬぅ……ご苦労だったの、ブラゴ」

「フン……」

 ゾフィスを追跡した時の出来事を簡潔に説明し、そのまま懐からあるものを取り出す。

「ついでに手紙を預かってきた。適当に配っておいてくれ」

「清麿からも来ておるかの!?」

「……知らん、勝手に探せ」

 手紙を傍に控えていたアースに渡し、ブラゴはそのまま手をポケットに入れて背を向けた。そのまま玉座の間を出ようとするが、道半ばでその足を止めてしまう。

「ああ、そうだ……デュフォーを覚えているか?」

「デュフォー?」

「あいつがどうした?」

 先程迄部屋の隅で黙って話を聞き、ガッシュから手紙の一つを受け取っていたゼオンが返事をした。当然だろう、彼の魔本の使い手(パートナー)の話なのだから。

 

 

 

「…………あいつ、結婚したらしいぞ」

『ウソォ(メルメルメェ)~!?』

 

 

 

 ブラゴとゼオン怖さに隠れて話を聞いていた面々で、デュフォーを知る者達が揃って驚きの声を上げていた。

(そうか……あいつも生きているんだな)

 しかしゼオンは構わず、近くの窓縁に静かに腰掛けた。そしてデュフォーからの手紙を、いずれ人間界を訪れた時に結婚式をするから出席してくれという、仮の招待状を眺めだした。

(……次に会うのが楽しみだ)

 その口が綻んでいたことに、気付く者はいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、頭痛ぇ……」

「昨日は飲み過ぎだって、千雨ちゃん」

「……お前も煽ってたよな、おい」

 送別会の翌日、ネギは飛行場へと向かった。

 しかし千雨は見送りに混ざらず、見晴らしのいい高台に愛車のプレオを停めて空を眺めていた。運転席側のドアに凭れている反対側で、ボンネットに身体を預けている和美がいる。

「……なんで見送りに行かなかったの?」

「必要ねえよ。言いたいことは全部言った」

「とか言いつつ、こっそりキスしてたりして?」

「ああ……冗談半分でやろうとしたが日寄った」

 音と愛車から受ける衝撃だけで、千雨には和美の行動が手に取る様に分かった。

「ウソッ!?」

「ウソだよ馬鹿」

「……どっち?」

 今の話が嘘なのか、それとも日寄ったのが嘘で本当はキスしていたのか。

「さあな……」

 しかし千雨はそうすっとぼけた。

 だが実は、お礼と称してネギの頬にキスの一つでも落とそうとしたのだが、途中で心変わりしたので何もしていない。

(いやだって、未だに好きかどうかも分からないのに……)

 等と内心で人差し指同士を突き付け合う千雨だが、顔に一切出すことなく、空を眺めている。

(まあ、やっぱり、好き寄りなんだろうな……)

 少なくとも、今のところネギ以上にいい男には出会ったことはない。

 年下なことさえ除けば、実際千雨にとってはかなりの優良物件、いや非の打ち所が一切ないのだ。それでも好きだとはっきり言えないのは何故か。

 それは千雨自身にも分かっていなかったが……

「……で、本当は?」

「仕事「見送りじゃなくてキスだって」――しつこいな」

「いやだって気になるじゃん。千雨ちゃんの気持ちが、さ」

 下らねえ、とばかりに煙草を咥えた。

「ゴホッ……」

 火を点けて煙を吸った途端、軽く咽る千雨。

「ああ、そういえば……暫く煙草吸ってなかったな」

「無理して吸うことないじゃん」

「うるせぇ、吸わねえとやってらんねえんだよ」

 実際、煙草を吸わなかった期間は散々だった。

 ゾフィスに操られてネギ達と戦い、その後二日間眠り込んだ。そしてネギを拉致る為に悪友三人を雇って散財し、挙句の果てには出席できた3-A関係者全員に送別会が始まる前に事情を説明した後、土下座して感謝と謝罪をする羽目に。おまけに美砂達チア部三人娘をはじめとした同級生(アホ)共に一気飲みを半ば強制的にやらされたので、仕返しとばかりにバーボンウィスキー(基本度数40度)をロックグラスでストレート一気飲みをして周囲を引かしたのだ。

 

 注意:お酒の一気飲み、及び強要は危険なので、絶対にマネしないで下さい。

 

(良かった。バーボン飲み慣れてて本当に良かった……)

 ありがとう麦野、と(バーボン)を教えてくれた悪友に千雨は心の中で感謝(するだけで本人には言わない)した。

「ネギ君と二人きりで居れただけ良かったじゃん。……てか、何してたの二人で?」

休んでた(・・・・)だけだよ。何もしてねえわ」

 嘘は言ってない。

 実際二人で休日を過ごしただけなのだ。遊んでても休んだ割合の方が大きく、おまけにえちぃことは一切していない。ネギのラッキースケベ展開も珍しくなかった。

(実は偶然着替えを覗きかけていたのだが、電子精霊(はんぺ)が気を遣ってネギを押し留めていたりするのを千雨は知らない)

「というか、お前は行かなくて良かったのか?」

「追いかけたいんだけどね、さよちゃんまだ帰って来てないから待たないと」

「……行先はイギリス経由で魔法世界(ムンドゥス・マギクス)のメガロメセンブリアだ。それ以外は仕事内容どころか立ち寄る施設も知らん。総督殿に聞け」

「何それ、サービス?」

 和美が把握していたのはイギリス経由で魔法世界(ムンドゥス・マギクス)に向かうことだけだった。それ以上はフェイトも話すことなく、聞こうにもさっさと立ち去ったので聞けずにいた。千雨の件もあるので情報収集は後にしようとしたのだが、次の仕事は『メガロメセンブリア』で『総督』も関わる案件だと、彼女はあっさりばらしたのだ。

 驚きで若干眉を上げる和美の方を向き、千雨は口を開いた。

「いや、迷惑料。プラス……」

 ジャキッ!

 

 

 

「……慰謝料、かな」

 

 

 

 千雨の右手が動く。

 抜かれたSIGP230の銃口は迷わず和美の額に突き付けられた。

「……驚かないんだな」

「まあ、なんとなくそんな気がしてね」

 しかし和美は気にすることなく、ボンネットの上に腕を敷いて顎を乗せている。

「で、何考えてんだ?」

 今回の和美の行動は、あまりにもらしく(・・・)なかった。

 嘗ては魔法のことを知った途端、世界の裏側まで暴露しようと暗躍した麻帆良のパパラッチが、今回に限って後手に回っていたのだ。昔なら千雨に危険が及ぶ時点でクラス全員にばらしていてもおかしくなかった。実際、ネギ達が喫茶店に向かった時なんてあっさりと呼んでいたのに。

 にも拘らず、当事者以外がこのことを知ったのは事が済んでから、しかも話したのはエヴァンジェリンだ。和美ではない。

 ということを滔々(とうとう)と話す千雨の言葉に耳を傾けている和美。しかし、SIGP230の銃口はぶれることがなかった。

「……それで、千雨ちゃんはどう考えたの?」

「私に敵意がある、とかだったらマンションにいる時点でとっくに()ってる。だが隙だらけだったのは(むし)ろお前の方だ。てことはそれ以外の理由かとも考えたが、私とお前の関係からしてそこまで感情的になる、ってのがどうも引っかかる」

「いやいや……友達じゃん。助けるのに感情的になるって」

「アホか……だったらそれこそ、冷徹に情報収集するのがお前だろうが」

 千雨と和美の関係とは?

 確かに元クラスメイトで命懸けの冒険をした仲。しかし……それだけなのだ。

 それだけなら、和美は千雨の指摘通り、感情を凍らせて情報を収集し必要な戦力を選択、そして確実に目標を救い出す。

 幾らでも周囲に知らせる手段はあった。それどころか、態々他人に任せなくても自ら動くだけで情報を拡散させること等訳はない。

 冷徹になれない理由がない限り、そんなことはあり得ない。

 それが、千雨が和美に対して付けた評価なのだ。

「……私に対して、何を隠している?」

「いや、言ったら千雨ちゃん、絶対引き金引くって」

「言わなきゃ今引くぞ」

 突き付ける前に、銃身をスライドして銃弾を薬室に放り込んだ。後は引き金を引くだけで、銃弾は無慈悲に相手を殺すだろう。

「いつか話すよ。……嫌なら別に撃ってもいいけどね」

「お前、一人で抱え込むなとか言っときながら……人のこと言えねえだろ」

「まあ、そういう事情があるってことで勘弁してよ」

 ハア、と溜息を一つ吐いてから、千雨は対応を決めた。

「あのな、朝倉。それ以前に……」

 

 

 

 ――カシュッ

 

 

 

 千雨は引き金を引いたが、弾は出ない。代わりに銃身がスライドしたきり、戻ることはなかった。拳銃が弾切れを示しているのだ。

「……弾抜いた状態で言うな。格好付かねえだろうが」

「いや、まだ目的果たしてないから死ぬ気ないし」

 和美が右手を上げて、千雨の方に突き出した。その掌の上にはSIGP230の銃弾が装弾数分乗っている。

「というか、いつ抜いたんだよ……さっき銃身引くまで、全然気づかなかったぞ」

「運転中にちょろっと、ね」

「手癖の悪いこって……」

 呆れてものも言えない。千雨は弾倉を抜いてから銃を仕舞い、和美から受け取った銃弾を再度込めていった。

「まあ、私を殺す気がないのは分かったから、いつかは話せよ……実は転移者でした、とかいうオチはないよな?」

「ないない。こなちゃんに確認取ってもいいくらい、この世界産の人間です」

 込め直した弾倉を再度取り出したSIGP230に差し込んでから、千雨は愛車のドアを開ける。

「……ところでその泉がいきなり『ちうちう』とか呼び出したんだが、お前の仕業か?」

「ああ、あれエヴァちゃんらしいよ。なんか諭されたら急に吹っ切れた、ってさ」

「あのロリ吸血鬼……まあいっか。あいつには『どっち呼びでもいいからさん付けはやめろ』って前から言ってたしな。灰原と違ってキャラじゃねえんだよ」

 運転席に座り込む千雨に続いて、助手席に乗り込む和美。

「で、どこいくのちうち「撃つぞ」――……どちらへ伺う予定でしょうか、千雨様?」

「その泉から詫び代わりにもぎ取ってきた仕事だ」

 千雨は携帯を操作してからスタンドに固定した。

「最初からこうすりゃ良かった……こんにゃ、行先は分かるな?」

『ハッ、ちうたま。ナビゲーションはお任せあれ』

「それで、どこ行くの?」

「ん~……学園都市のすぐ近くに新しくできた定食屋があるんだが、そこの若夫婦がどうも転移者臭くてな」

 煙草を車の灰皿に押し付けてから、千雨はエンジンを点ける。ハンドルを握り、こんにゃのナビを確認した。

「これから行って転移者云々に関わらず、敵意がないか確認する。一応高音先輩達とも合流するけど、ついてくるか?」

「もちろん」

 アクセルに足を掛けるが、千雨はすぐに踏み込まない。それどころか、一度足を降ろしてしまう。

 和美が不思議そうに見守る中、千雨は横の窓から空を眺め、ハンドルから放した右手を持ち上げて、ある形に指を動かした。

 

 

 

 

 

 空港に着いたネギは、その入り口で足を止めた。それを(いぶか)しんだ明日菜が、スーツケースのハンドル片手に振り返る。

「どうしたの、ネギ?」

「いえ……なんとなくですけど」

 一度荷物から手を放し、ネギは右手を静かに上げた。

「千雨さんも……同じ空を見上げているんだろうな、と思いまして」

「そうね……多分、いいえきっと見てるんじゃないかしら。見送りに来ない代わりに」

「だと、いいですね……」

 ネギは空に掌を翳したかと思えば、今度は別の形を取ろうと指を動かしていく。

「……何それ?」

「決意表明ですよ」

 偶然かもしれないが、ネギが指で(かたど)った形は、千雨と同じものだった。

 

 

 

 

 

(仕事頑張れよ……またな、ネギ先生)

(次は口説いて見せますよ、千雨さん)

 

 

 

 

 

 二人の指鉄砲は、全く同じタイミングで引き金が引かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次元と次元の狭間の中、大きな船が浮かんでいた。

 その中にいる白衣の男は、いくつものモニターを宙に映して、その映像を確認している。そんな中、近づいてくる黒髪で長身の女性がいた。

「スカ、目的は済んだ?」

「やあ、君か。……どうにかね」

 スカと呼ばれた白衣の男、ジェイル=スカリエッティはモニターを消してから白衣のポケットに手を入れ、女性の方を向いた。

「相棒の調子は?」

「漸く薬が効いて、今は落ち着いて寝ているよ。すぐに次の仕事は無理だけどね」

「ああ、別にいいよ」

 スカリエッティは気にすることなく、一つの装置を指差した。

「実はあれ動かすのに、かなり時間が掛かってね。暫く何もできないんだ」

「ふぅん……と、いうことは?」

「そう、いうこと」

 二人の脳内で、思考が一致する。

 

 

 

「夏休みだぁ!!」

「そうだ夏休みだ。転移しても夏休みは大事だ!!」

 

 

 

 自分の罪どころか悪だくみも無視して、スカリエッティは旅行鞄を片手に女性に背を向けた。

「じゃあハワイで二ヶ月程遊んでくるから、君達もそれまで好きにしたまえ」

「おっけえ。こっちもドバイに遊びに行くから、まったね~」

 人殺しだろうと人騒がせな連中だろうと、こんな姿を見たら泉達はどう思うだろう?

 しかし疑問に答える者はおらず、彼らは夏休みを満喫しに行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次週 重大発表の為更新休止、今後の予定も公表します。ご了承下さい。

お見逃しなく。
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